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「ふむ、内部は特に問題も無さそうだね」
外装は凹みがあったりしたし、サイ・ブラスターの発射口が破壊されていたりもしたが、内部にまで破壊の余波は及んでいない。
「こりゃ、割と早い内から穴に落ちたんだな」
ラッキーだった。
正に幸運であるのだとしか云い様がないくらいに、ヴォルフィードが欲しくて急ぎ発掘現場まで来たが、下手したら完全破壊されている心配までしていた。
それが大した瑕疵の無い状態であり、人工知能にも全く問題は無さそうだ。
「此処が艦橋か。ヴォルフィード……僕がマスターになるのに問題は?」
『貴方の精神力は人間としては有り得ないレベルで、私のエネルギー供給者として見れば充分にマスターとして合格点』
「何か引っ掛かりが?」
『貴方の属性はどちらかと云えば、デュグラ・ディグドゥ達みたいな闇。それが心配の種と云えば種』
「フッ、別世界の君も同じ事を言っていたよ。流石は同位体というべきかな」
『別世界の私?』
「ああ。僕は色々と故あって様々な世界を渡るんだ。方法は主に三つでね、転生と転移と疑似転生だ」
『? 転生の概念は理解も出来る。然し疑似転生とはどう違うのか……』
「転生は僕が死ぬ事で行われるが、疑似転生は肉体を凍結した状態で魂だけとなってから、他の人間の腹に宿る事を云う。死んだ訳じゃないからその人生を終えたら本来の肉体に戻れる。デメリットは疑似転生中、僕の能力に可成りの制限が掛かってしまう」
『成程……』
実際、【DQⅢ】世界で勇者アレルの双子の弟としてルビスから疑似転生させられた際、肉体を鍛えなければ大した力は使えなかった上に、魔法もDQ由来のものしか扱えなかった。
だけど困りはしない。
何故ならユートの亜空間ポケットは、ステイタス・ウィンドウに形を変えて残されており、中に入っていた品物も普通に出せたし、錬金術士の技能も別に失った訳ではないから。
錬金術は魔力と精神力を持っていれば、後は技能を修得していれば普通に使えるものなのだ。
とはいえ、DQⅢ世界の父親は勇者オルテガだし、その父親が死んでから祖父の期待は当然ながら息子達に移り、四歳にもなったら厳しい訓練をさせた。
だが然し、技能が残るからにはユートの戦闘技術は【緒方逸真流】を中心に、既に完成をしていると云っても過言ではない。
つまり、彼の行わせていた訓練はアレルは兎も角、ユートからしたら的外れでしかなかったのである。
だからサボタージュしてきたし、だからこそ一〇歳になった日に勘当された。
その後はすぐ用意していた小舟を使い、アリアハンからその日の内に出ていってしまう。
小舟でアリアハンからとなると、普通は不可能でしかないのだろうがユートはモンスターの群れを呪文で叩き、食糧や水は亜空間ポケット内から幾らでも出せたたから、舟が転覆さえしなければ問題も無かった。
最終的には古代日本に似た文化を持つジパングを目指したが、アリアハン北から直にジパングへは行かないで、ランシールを経由してネクロゴンド地方へ向かった。
ランシールから出ていた船が目当てだし、当時まだ滅びていなかったテドンに行き、バラモス城の見学をしてからイシスへ行く。
その後は若きイシス王女との軽い逢瀬、原典に於いてアレルが一六歳の時には二〇代前半から中盤辺りだったイシス女王、ユートを一六歳くらいだと勘違いをしての逢瀬だったり。
飽く迄も一晩限りの火遊び感覚の王女だったのが、どうにも本気になるくらいハマり込み、ちょっとだけ大変だったのは良い想い出だろうか?
後に勇者の道程を逆回りにカザーブ村へ辿り着き、偶々出逢ったフォンという名前の武闘家の少女と決闘騒ぎとなり、容赦無く討ち勝ってやった。
そして理解する。
DQⅢはDQⅢでも実は【ドラゴンクエスト〜ロトの紋章〜】世界だったと。
フォンは後の世でアレルの仲間となり、バラモスを討ってからアレフガルドへ向かいゾーマをも討って、【拳王】と称えられる重要人物の一人なのだから。
ユートがネクロゴンドへ向かった理由、それは戦闘経験を積んでレベルアップする事にあり、それが成ったからには幾らフォンでも敵わなかった。
そして竜の女王の城から世界樹、ムオルからダーマへと向かって賢者になり、ジパングでヤマタノオロチを退治、ジパングのヒミコの娘のイヨ姫と結婚した。
尚、約百年後の未来にも同じ名前の王女が居るが、少なくともあの世界に於いてはユートの子孫である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、修復は大した手間でもない。ヴォルフィードのデータは有るからすぐにも直せるよ」
『私のデータ? 別世界の私から受け取ったと?』
「まぁね。あ、折角だからその時のデータをその侭、使ってくれたら嬉しい」
『構いませんが……では、インストールして下さい』
「オッケー」
ユートはヴォルフィードのメインコンピューターへデータをインストールし、ヴォルフィード本人もそれを元に最適化を始めた。
『マスター、私のグラフィックや人格などのデータも有りますが、この姿と人格をその侭使っても大丈夫なのですか?』
「同じヴォルフィードだ。問題は無いと思うけど?」
『……ホログラム化された姿は、確か私を造った研究者の一人だったと記録しています。キャナルというのは遥か古代の神話で魔王を討った天使の名ですか』
やはりそこら辺は変わらなかったらしい。
そうなるとこの次元世界の何処かは、所謂【ヴォルフィード世界】だったと考えて差し支え無さそうだ。
『インストール完了です。私のグラフィックをダウンロード、ホログラムで形成をします』
碧銀の長い髪の毛を御下げにした白い肌、紫水晶の様な瞳にメイドさんに近い服装はアニメ版か?
「データ上は巫女っぽい服じゃなかったか?」
「あれ? おかしいですね……どっかで混線でもしたんでしょうか?」
原典小説での服装は巫女っぽいものだが、アニメ版ではメイド服だった。
何故か今のキャナルは、そちら側になっている。
「まぁ、構わないか」
どうせ、キャナルの頭脳というかサブ・ブレインは特殊な人造体に移す。
そうしないと彼女自身が船外活動を出来ないから。
「さて、それじゃ早速だが出発しようか」
「マスター、目的はデュグラ・ディグドゥ達の封印、若しくは破壊ですね?」
「違う」
「……え?」
「どうしても不可能と判断したら破壊もするんだが、基本的には拿捕を目的にして戦う」
「拿捕……ですか?」
「ああ。勿論、必要なのは遺失宇宙船の本体だけだ。つまり人工知能はクラッシュしてしまう」
「遺失宇宙船の技術確保が目的ですか?」
「そういう事。ヴォルフィードの本体を分解とかされたくないだろ?」
「デュグラ・ディグドゥ達の拿捕に全力を尽します」
あっさりと封印や破壊から拿捕に切り替えた。
流石に自身の本体と云える船体を分解は、キャナルとしてもやっぱり嬉しくなかったらしい。
「なぁに、一度は戦っているんだ。所詮、奴らは僕にとっては再生怪人なのさ。聖闘士に一度視た技は通用しない、それは究極の見切りを持つが故だからな」
相手の戦い方なんてのは一度でも視れば見切れてしまう、それが聖闘士という神の闘士である。
勿論、強敵を相手取れば敗けたりもするであろう、それでも相手の技を完全に掛からない程度の事くらいはやって見せるのだ。
双子座のカインが放った銀河爆砕を、フェニックスの一輝が僅かながら外せた様に……である。
一二宮の闘いや海底神殿での闘いで、一輝は双子座のサガや海龍のカノンから銀河爆砕を喰らっていた。
だから過去の世界での、双児宮にて双子座のカインと闘えたのだ。
「あっちの艦は遺失宇宙船と戦えるのですか?」
「以前に関わった別世界の君ら、当然ながらデータだけはヴォルフィード内に有ったからね。ソイツをコピらせて貰ったよ。それに、曲がり形にもデュグラ・ディグドゥらとも実際に戦っているし、性能や機能なら視る機会が充分にあった。それらの能力をアウローラには与えてある」
「それはまさか!?」
「ゴルンノヴァからは空間レンズ、ボーディガーから照準チップ、ラグド・メゼギスから慣性中和チップ、デュグラ・ディグドゥからシステム・ダークスター。ネザードとガルヴェイラには特殊な物が無かったし、特に何かは入れてないな」
「シ、システム・ダークスターまでも!?」
「尚、エネルギーに関しては正と負の両方を吸収するシステムだ。何せ管制人格が魔族のシェーラだから」
「はぁ、もう何も言いませんよ。マスターに奴らを討つ気があるなら問題なんてありませんから」
究極的にヴォルフィードはデュグラ・ディグドゥ達を討てれば良し、そんな風に自分を納得させてユートと契約を結んだ。
「高いステルスに高性能なレーダー、
「そう、でしょうね」
サイ・バリアにしても、サイ・ブラスターにしてもヴォルフィード、というよりはキャナルから提供をされている。
プラズマブラストもだ。
それに魔法を撃ち出せるシステムも独自に積んである為に、なのはやフェイトやはやてを連れて来た。
そう……今回の彼女らは正しく砲台の役割だ。
魔砲システム。
人型機動兵器や戦艦へてユートが積む魔導兵装で、艦内や機体内で魔法を使ってそれを魔導砲として撃ち放つシステムである。
アウローラの砲台役で、操船はシェーラ任せにしておけば良いし、ユートとはラインで繋がっているから離れていても精神力の供給もきちんと可能。
心置無くヴォルフィードに乗っていられた。
「う〜ん、操船は僕がやるとしてガンナーにミリィ並の奴が居たらな……」
「誰ですか?」
「ミレニアム・フェリア・ノクターン、本名はミレニアム・フェリア・スターゲイザー。別世界のデュグラ・ディグドゥのマスターを務めたアルバート・ヴァン・スターゲイザーの孫娘。両親を始末されて復讐を考えていた元探偵見習いで、射撃の腕前はピカ一だよ。序でに厨房を破壊しながら美味しい料理を作る料理の達人でもある」
「射撃は兎も角としても、料理はいったいどんな理屈ですか?」
「さぁ? ヴォルフィードのマスター、ケインも鍋に穴を空けて作った料理なのに何故か美味いから首を傾げていたよ」
そういうのは理屈ではないのであろう。
世の中には普段はへロい絵を描きながら、自慰をしながらだと普通に漫画を描ける漫画家も居るくらいには不可思議に満ちている。
「処で、私達は何処に向かってるんですか? 言われるが侭に進んでますが」
「勿論、デュグラ・ディグドゥの居る宙域だ」
「判るのですか?」
「奴らは星々で犠牲を出しながら飛んでいる。どうもヴォルフィードを片付けたと思い込んで、油断をしてくれているらしいね」
「成程」
「フッ、実際にはヴォルフィードは健在で、同等以上の艦まで存在するがな」
デュグラ・ディグドゥらからすれば、これは完全な誤算だと云えよう。
「兎に角、連中は一蹴してやる! 所詮は再生怪人にも等しいからな。一日は掛からんだろうよ」
ケインとミリィとキャナルも、遺失宇宙船が直に現れ始めてから一年足らずで【ナイトメア】壊滅にまで追い込んでいる。
再生怪人如きは一日足らずで殺れないと嘘だろう。
「見付けた。やっぱりね、ヴォルフィードを破壊したと思い込んでるからバラけていない」
「舐められてますね」
キャナルの額に青筋が浮かぶが、芸の細かい事だと苦笑いしてしまう。
今現在のキャナルの姿はホログラムであり、表情の一つを取っても計算から成り立った結果である。
浮かぶ青筋も云ってみれば【怒り】の演出だ。
「なら、作戦通りにやる。アウローラ側も此方に合わせて攻撃だ!」
〔了〜解〜〕
アウローラはユーキの方に任せてある為、返ってきたのはユーキの声だった。
「さぁ、金色の御許へ還るが良い!」
とはいえ、今回の作戦で遺失宇宙船の本体は完全な破壊をする気はないが……
先ずは逃げられない様に結界の超々広域展開する、これに関しては八神一家が総出で行う。
《何だ?》
驚いた様子のデュグラ・ディグドゥ。
約一光年分の距離を結界で覆った為、戦闘には一切の支障が出ない筈だ。
「デュグラ・ディグドゥのシステム・ダークスターは此方で防ぐ! 奴は無力だから最初にボーディガーを潰せ!」
〔了解、先ずボーディガーを叩くよ!〕
アウローラは超長距離で砲撃が可能なボーディガーを叩き、ヴォルフィードはまた別の遺失宇宙船を叩くべく動いた。
「キャナル! 此方が叩くのはゴルンノヴァだ!」
「了解です、マスター!」
敵が体勢を整える前に、一気呵成に厄介な連中から叩いていく。
「サイ・ブラスター!」
「はい、サイ・ブラスターを発射します!」
放たれる二条の光。
《むう、ヴォルフィード! 生きていたのか!?》
「ええ……さっきは随分と世話になったわね? ゴルンノヴァ!」
《無駄だ!》
放たれたサイ・ブラスターは悉くが弾かれる。
「マスター、ゴルンノヴァの空間レンズです。あれが展開されていり限りサイ・ブラスターは効きませんがどうします?」
「此方の狙いさえ覚られなきゃ良い!」
「了解です!」
サイ・ブラスターを連写しつつ、ゴルンノヴァへと僅かずつ近付いていく。
《何の心算だ? ヴォルフィード!》
空間レンズに関しては、ヴォルフィード側にデータが有るのは判っている。
にも拘らず、無駄に攻撃をしてくる事に訝しんだ。
《ヴォルフィード!》
《前の封印の恨み!》
「ネザード、ラグド・メゼギス!」
高速機動艦の二隻が援護に現れた。
「今だ!」
ユートは短距離ジャンプでゴルンノヴァ内部へと跳び移り、AIが納められているメインコンピュータの区画へと向かう。
《なにぃ!? 貴様は……ヴォルフィードのマスターなのか!?》
「終わりだゴルンノヴァ、乗り移られた時点でな!」
手に握られているのは、ディーアークと呼ばれているデジタルデヴァイス。
デジヴァイス・タイプアークである。
「奴の頭脳を制圧しろ! デュークモン!」
「応っ!」
デジタルモンスター……通称はデジモン。
とはいっても、本物という訳でなく飽く迄もユートが神器――【
然し、想像をした通りに創造が出来る神器なだけあって、本物のデジモンと変わらない性能を持つ。
《が、がぁぁぁっ!?》
それなりに先史文明による技術が用いられていたのだろうが、内部に直接干渉されては然しもの遺失宇宙船といえど堪るまい。
《ゴルンノヴァ?》
《どうした!?》
ネザードとラグド・メゼギスが話し掛けるものの、ゴルンノヴァからしたなら返事の余裕は全く無い。
デジモン、しかも究極体でありウィルス種なロイヤルナイツ、敵のデータ破壊や掌握は御手の物だった。
ややあってゴルンノヴァは完全に沈黙する。
「掌握完了!」
どうせデータ取りの為の船体であり、ゴルンノヴァを運用する訳ではない。
だから、ゴルンノヴァの頭脳は完全に破壊した。
「次はラグド・メゼギス、ネザード、お前らの番だから覚悟しろ!」
《ヒッ!》
ゴルンノヴァの様子からそれがどれだけ、AIにとって悍ましいかを理解したらしく、AIの癖に息を呑んでしまうネザード。
《ボーディガー、奴を……ゴルンノヴァごと破壊を! ボーディガー? 返事をしろ、ボーディガーッ! まさか? まさかまさかまさかまさか!?》
それは最悪の予想。
〔兄貴、ボーディガー及びガルヴェイラの制圧完了〕
「流石に早いな」
同じ手法にて、ユーキが既にボーディガーだけでなくガルヴェイラも制圧。
〔此方はなのはとフェイトの二枚看板が、魔法をぶっ放してくれていたからね。虚無魔法のテレポート使ってさっと乗り込んで、頭ん中にロードナイトモンを入れてやるだけの簡単な仕事だもんさ〕
ロードナイトモンも同じくロイヤルナイツな究極体でウィルス種、速度に優れて所謂ナルシストな処があるデジモンだ。
そういう風に創られたというか、元々の設定からしてナルシストだったからこそそう創られた。
「残りはネザードとラグド・メゼギス、そしてデュグラ・ディグドゥ!」
〔ラグド・メゼギスは此方に任せて〕
「判ったユーキ、なら此方はネザードを狙う!」
狙いをネザードに絞り、ヴォルフィードが翔ぶ。
《く、来るな!》
「どうした? 人々の恐怖や絶望を糧にする遺失宇宙船が恐怖するのか?」
《うわぁぁぁっ!》
リープ・レールガン。
ヴォルフィードにも装備された武装で、レールガンでリープ弾を撃ち出す。
リープ弾はぶつかった際の衝撃で発動、周囲五〇mを別空間にLeapの文字通り跳ばしてしまう。
空間が抉り取られる為、当たれば防御に関係も無くダメージ必至の武装だ。
ヴォルフィードの方は、当時で最新鋭の技術により造られたもので、ネザードの方は旧式となっている。
威力は大して変わらないから、ヴォルフィードといえど当たる訳にはいかないのが現状である。
《死ね死ね死ねェェェッ! ヴォルフィィィィィィィィィィィードッッ!》
「恨まれてるな」
「ちょっと封印しただけじゃないですか。それなのに蛇蝎の如く嫌いますか?」
「キャナルもネザードなんて嫌いだろ?」
「勿論、台所のGくらいには好きくありませんよ」
どっちもどっちだった。
現状、リープ・レールガンを撃ち合う形で相殺しており、どちらも取り分け大きなダメージは負っていないのだが、これではお互いにリープ・レールガンを撃ち尽くすまで千日手だし、万が一にもヴォルフィードのリープ・レールガンの弾が少なかったら、その時点で詰みとなってしまう。
「キャナル、僕が奴を止めるからその隙にリープ・レールガンを翼に撃ち込め」
「翼に……破壊はしないという方向性ですか」
「勿体無いだろ?」
「まぁ、先史文明時代……それも万年の単位で遥かな昔の遺物。それも活動可能な機体ともなれば確かに」
「折角だから改造をして、ラグラディアやヴラバザードやバールウィンやランゴートの名前を与えようかと思って……ね」
「何ですか、それは?」
「赤の竜神スィーフィードが【赤眼の魔王】シャブラニグドゥと相討ちになった際に、自らの力を四分割にして遺した四竜王の名前」
「皮肉ですか? 【闇を撒くもの】デュグラ・ディグドゥの五つの武器の名前を冠する
「大いに皮肉さ」
とはいえ、そうなったら一つ余る上にデュグラ・ディグドゥは数に入ってない事になる。
「ゴルンノヴァは【光の剣】と呼ばれて人間側に長く在ったし、最後はキャナルにより創り手を滅ぼしたから名前は変えない。デュグラ・ディグドゥはシステム・ダークスターしか見るべき所も無いからな、適当に仕舞っておくだけさね」
人、それを死蔵と呼ぶ。
《ZIKU DRIVER!》
ユートがジクウドライバーを腰へと装着をすると、バックル部分が鈍い輝きの虹色に変化をした。
形も可成り大仰に変わっている。
「オーマジオウドライバーならぬ、テンマシンオウドライバーかな?」
「テンマシンオウドライバー? ですか……」
「仮面ライダージオウ……本来は逢魔時王として君臨する最低最悪の魔王となる未来、白夜が曰くそれ自体が欺瞞だったのかも知れないらしいが。オーマジオウ本人は自らこそ最高最善の王であるって言っていたみたいだし」
「は、はぁ……?」
よく解らないという風情で小首を傾げる仕草だが、余りにもあざとい可愛らしさを表現していた。
「僕が成るのは見た目だけはオーマジオウの色違い、だけど実際には平行世界の僕が、天魔王を滅ぼして成った【天魔真王】。真なる天魔王だから……ね」
実はユートはジクウドライバーこそ作製したけど、それにテンマシンオウドライバーに変化する機能なんて付けていない。
どうして変化したのか、造り主たるユートにさえも解らないが、明らかにそれはオーマジオウドライバーに準じた力を持っていた。
金色ではなく虹色とか、二次創作的な色か? なんて邪推してしまう。
二次色……
「変身っっ!」
ゴーン、ゴーンッ! と鐘の音が鳴り響きながら、足元にオーマジオウならぬテンマシンオウの紋様。
右側の装飾――テンマクリエイザー、左側の装飾――テンマデストリューザーはユートが視てきた王達や仮面ライダーやウルトラマンなどの創造と破壊の歴史が綴られていると云う。
《禍福の刻! 天よ! 魔よ! 仰ぎ見よ! 真なる王! テンマシンオウ!》
こんなの造った覚えなど無いが、使えるのなら問題も無いだろうという事。
オーマジオウの色違い、テンマシンオウとなる。
姿形はオーマジオウと殆んど変わらないが、細部と色だけはやはり別物。
瞬間移動でヴォルフィードの艦橋の上へ移動して、必殺技を放つ為の動作へと移るテンマシンオウ。
ぶっちゃけ、変身の時と同じくテンマクリエイザーとテンマデストリューザーを押し込む動作だ。
《超越の刻……天魔真王・超殺撃っっ!》
「はぁぁぁぁぁああっっ! どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
それは光をも超越して、ネザードの本体を貫いた。
《ギャァァァァッ!?》
「今です!」
キャナルがネザードに向けてリープ・レールガンを叩き込み、それにより翼の一枚が完全に破壊される。
「勇者王ジェネシックガオガイガーの力!」
《イギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!》
勇者王ジェネシックガオガイガー、それは破壊神と称される最強の勇者。
それを操る獅子王 凱のエヴォリュダーとしての力の一端とは、手を翳してやるだけでもコンピューターを操作してしまえる。
テンマシンオウは、機械の勇者達の力をも持ち合わせていた。
その実体が謂わばAI、コンピューターである処のネザードからしたならば、それは脳味噌を掻き回される様な超絶不快感。
嘗て、八神和麻が似た事をある霊具を用いて人間にやったが、ヤられた人間は完全に壊れてしまった。
ユートの目的は狂ってしまった連中のメインコンピューター、頭脳を破壊してしまう事にあるのだから、デジモンを頼る以外の方法も有ると云う訳だ。
「討伐完了!」
それからすぐラグド・メゼギスも斃されてしまい、完全な無防備になったデュグラ・ディグドゥは、呆気なく捕縛されてメインコンピューターも破砕されたのだと云う。
こうしてユートは管理局を出し抜き、遺失宇宙船の七隻共全てを手に入れた。
クロノにせよユーノにせよエイミィにせよ、文句を言える立場で無かった上、時空管理局の提督が起こした不祥事を黙っていて貰う為に、遺失宇宙船は破壊されたと報告を挙げるより他に無かった。
何しろ、管理局が管理しない管理外世界だけならば兎も角、幾つか管理世界も死滅させられている。
誰かが手に入れたとか、管理局が手に入れたなんて話は争乱の元、ハッキリと云えばクロノ・ハラオウンとしては要らないのだ。
一応、伝説の三提督にはユートから真実を話す。
ミゼット達はユートが手にしたなら……と、黙認の姿勢で往く事を決定した。
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