魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

74 / 84
第2話:黒い可能性 辛い未来の回避は間違っているだろうか

.

 剣檄音が響き渡る。

 

 さざなみ寮の庭で二つの影が月夜の晩に交わって、時には離れて剣と剣がぶつかり合っていた。

 

「オラァァッ!」

 

 一人は女性だったけど、その掛け声は女性らしくない雄々しさに満ちる。

 

 片やユート。

 

 緒方優斗が刀と鉄扇を持って相対していた。

 

 刀と鉄扇の二刀流だが、問題無く扱えている。

 

 鉄扇でぬらりくらりと、相手の刀を往なしながらも自らの刀で攻撃。

 

「チィッ!」

 

 女性は舌打ちをしながら往なされた刀を戻す。

 

「まだヤる?」

 

「当然だ! 私に敵うと思うなよ!」

 

「それは此方の科白だね」

 

 緒方の技とは舞いが基本にあり、戦場(いくさば)を縦横無尽に駆け抜けるべく速度と体力を付ける。

 

 そして後の先を以て戦う胆力を必須としていた。

 

 敵の刃を紙一重で躱し、カウンター気味に当てる。

 

 その為の技術も多い。

 

 ぶっちゃけ体力を付けるには赤い筋肉が必須だが、瞬間的な速度には白い筋肉が必須となる。

 

 例えば魚。

 

 赤身の魚の鮪。

 

 白身の魚の鮃。

 

 それが即ち筋肉の色を示している。

 

 泳ぎ続けないと死んでしまう鮪は、全身が赤い筋肉で持続力を以て泳ぐ。

 

 片や鮃は天敵から瞬間的な疾さで、謂わば逃げる為の瞬発力を以て泳ぐ。

 

 必要な筋肉の質の違いが色の差違を生じさせた。

 

 だけど【緒方逸真流】に求められるのは、舞い続ける持続力と瞬間的に駆け抜ける瞬発力の双方、両立をさせる筋肉であった。

 

 戦国時代は医学的見地で現代と比べて遅れている訳だから、そうは云ってみてもどうすれば良いかなんて判らない。

 

 だけど【緒方逸真流】の始祖は、奇跡的な鍛え方をして手に入れたのだ。

 

 現代で云う【タイプⅡα繊維】――俗に云うピンク色筋肉というやつを。

 

 どっち付かずな事もあるから、心無い人間は中途半端な扱いをするのだけど、ちゃんと鍛えればユートの如くも可能となる。

 

 例えばプロボクサーという存在、それもヘビー級とされるチャンピオンの拳の威力はどんなものか?

 

 調子が良ければ1t弱を記録する威力を誇る。

 

 基本的には約1tでしかなく、950k辺りが妥当な数値……らしい。

 

 ユートのパンチ力は素の力で全力を出し約10t、小宇宙は疎か魔力や氣力や念力や霊力を使わずにだ。

 

 その最たる理由がタイプⅡα繊維、それを作り上げた上で最大限にまで鍛えたユートは、見た目には細身な優男っぽい。

 

 だけど抱かれた女性陣は識っている、その実は硬くてしなやかな凄まじい筋肉質な肉体だという事を。

 

 敢えてそれを例えるなら変身前の響鬼、じつはあの仮面ライダー響鬼のスペックは強化前でもパンチ力が20tだったりする。

 

 通常パンチが其処まで、そんな響鬼は鍛えに鍛えて変身をしているタイプで、生身でも今のユートと同じくらいだ。

 

 勿論、威吹鬼の様な腕力的に少し劣るタイプも居るけど、それでも相当に鍛えているのは間違いない。

 

「くっ!」

 

 実家の剣道場名取り予定だった程の剣才、素晴らしいまでに強い仁村真雪ではあるが、【緒方逸真流】を前々世で習っていた上に、前世では嘗ての妹の白亜をも上回って、今やスペックが凄まじい事になっているユートには勝てなかった。

 

 多彩な剣技と疾さが自慢の真雪の剣術、然しながら【緒方逸真流】の戦国時代を生き残った刀舞(ソードダンス)は決して引けを取らない。

 

「敗けたよ、コンチクショウめが!」

 

「やれやれ」

 

「くっそー! 魔法や霊力なんかを使わないでも強いとか反則じゃないか!」

 

「鍛えてますから、シュッ……何てね」

 

 敬礼に近い動きで手を動かし、口でシュッと言うのは響鬼のポーズだ。

 

「約束通りに知佳を口説くのに何も言わないけどな、ムリえちぃとかやらかしたら命に代えても殺すぞ!」

 

「ヤるなら合意の上だよ」

 

 ユートは真雪と約束していた、妹の仁村知佳を口説きに行くのを邪魔しないで欲しい……という話をし、ならばせめて剣で自分に勝てという話で。

 

 知佳の部屋の前。

 

 このさざなみ寮には専用の部屋が存在する。

 

 仁村真雪と仁村知佳……二人の部屋だった。

 

 昔、まだ力が不安定だった知佳がさざなみ寮を半壊させた事があり、寮を修復した際に真雪が責任を持って自分と知佳の部屋を買い取ったのだ。

 

 真雪がいつまでも此処にすんでいる理由でもある。

 

「知佳〜、居る?」

 

「へ? ユートさん?」

 

 夕飯後からずっと身悶えていた知佳も、流石に疲れたのかぬいぐるみを抱き締めながらベッドに横たわっていた。

 

 紅潮する頬を自覚して、ユートがわざと見せ付けたシーンに僅かな股間の潤いでまた恥ずかしく紅潮し、そろそろ堪らず手を股間に伸ばし掛けていた処、当のユートからの声に驚愕を禁じ得ない。

 

「入れて欲しいんだけど」

 

「え? 挿入()れて貰うのは私なんじゃ……」

 

「はぁ? いったい何の話をしてる? 部屋に入れて欲しいと言ったんだが?」

 

「へ? 部屋にって、ああ……うん、そうだよね! 鍵は閉まってないから入っても良いよ」

 

「また、無用心な……って言っても基本的にこの寮は女子寮で、耕介は既婚者だから安全と言えば安全か」

 

 勿論、全てを失う覚悟で槙原耕介が血迷わなければの話が前提で。

 

 とはいっても血迷ったら真雪に殺されそうだけど。

 

「それで、契約する?」

 

「はうっ!? それは……でも……」

 

 二二歳でそれなりな年齢ながら、反応がまるで高校生の小娘みたいだ。

 

「初恋の相手が忘れられないとかか?」

 

「お兄ち……耕介さんの事は吹っ切れてます。因みに処女なのは明かした訳だから判るとは思いますけど、彼氏も居ませんから」

 

「まあ、二二歳で彼氏持ちならとっくにヤってるか」

 

「それは偏見だと思いますけど、取り敢えずそういう存在は居ないです。一応はお付き合いをしてこなかった訳じゃありませんけど、真面目に結婚前提の付き合いはしたくないみたいで」

 

「それは遊びで突き合いをしたいだけだろ」

 

 知佳の頬が染まる辺り、意味を察した様だ。

 

「知佳は可愛いから遊びでヤる対象に見られたか?」

 

「嬉しくないですね……」

 

「だろうな」

 

 要するに、デザートの摘まみ食い程度にしか見られてはおらず、ちょっとした火遊びの相手としてナンパなどされたらしい。

 

 まだ焦る年齢ではないにせよ、嬉しくない事実には知佳も少し凹む。

 

「ユートさんも私と寝たいだけですか? こんな子供みたいな体型ですけど……言ってて哀しくなっちゃいました」

 

「寝たいか寝たくないか、それだけ切り取って訊かれたら答えは一つ、寝たいと言うしかないんだよな」

 

「そ、そうですか……」

 

「子供みたいな体型とか、それは別に僕が君を抱きたくなくなる要因にはならないしね」

 

「ロリコンなんですか?」

 

「君は二二歳だろ?」

 

「それは……まぁ……」

 

 結局、バストも六九とか七〇にも達さなかったし、身長も一五〇に届かない。

 

「それと、私って実は……重たいですよ?」

 

「想いがってやつ? 或いは体重が?」

 

「体重です」

 

「何キロ?」

 

「訊きますか、普通……」

 

 プクッと膨れっ面となりながらも……

 

「一四七キロです」

 

 体重を答えた。

 

「ちょっとした障害なんでしょうね。見た目は普通でも標準体重はさっきも言った通りです」

 

 恥ずかしそうなのは仕方がない、太っている訳でもないのに体重が相撲取り。

 

「普段はサイコキネシスで三六キロくらいに調節をしています」

 

「成程。まぁ、別に太っていて体重がある訳じゃないんだから問題無いだろ」

 

「そ、そうですか?」

 

「僕は気にしない」

 

 こう見えて力持ちな為、二百や三百キロでも軽々と片手で持ち上がる。

 

 況んや、二百キロ足らずなんて軽いものだ。

 

「何なら調節を解除してみると良い」

 

「え、はい」

 

 言われる侭に解除をした知佳に対し……

 

「ちょっとゴメンね」

 

「え? キャァァッ!」

 

 一言謝ってから片手で持ち上げてやる。

 

「す、凄い……」

 

 感嘆の声を上げる知佳。

 

「因みに……」

 

「はい?」

 

 クルッと回して自分の方を向かせ、両脚をM字開脚させると自身の腰の辺りに知佳の股間が触れそうな辺りで止めた。

 

「所謂、駅弁と呼ばれているえちぃの体位だ」

 

「ふぇぇぇぇぇっ!?」

 

「こういうのも君の体重で可能だから」

 

「お、降ろして下さい! 恥ずかしいです〜」

 

「そりゃそうだ」

 

 降ろしてやるが真っ赤な知佳は俯いてしまう。

 

「兎に角、体重云々も体型も僕にとっては問題無い。知佳は充分に可愛らしい、性の対象になる女の子だ」

 

「は、はい……」

 

 はっきり性の対象となるなどと言われて、羞恥心から更に知佳は頬を真っ赤に染めてしまう。

 

「さて、【閃姫】になれば特典が付くと言ったな?」

 

「あ、はい」

 

「前に言った通り、可成りの容量のエネルギータンクが得られる」

 

「エネルギータンク?」

 

「普段は解り易くも割かしポピュラーに、魔力タンクという呼び方をしている。実際にはもっとプリミティブなエネルギーで、欲する者の必要なエネルギーへと変換をするからね。例えばなのはなら魔力になるし、那美なら霊力、そして知佳ならPSYON(サイオン)って事になるな」

 

「そんな事が? 容量って確か……」

 

「恒星で四個分だね」

 

「恒星って……」

 

「それも可成り大きい恒星のエネルギーだし、容量は相当なものになる」

 

 何しろテラフォーミングを個人の魔力で支える程、しかもそれでさえ一個分にもならないエネルギー量で済む為、普通に個人で使う分には一日中でさえ使い続けても枯渇はしない。

 

「序でに云えば力の制御力も上がる筈だから、投薬や制御装置に頼る必要も無くなるだろうね」

 

「それは良いですね、というか良い事尽くめ?」

 

「その対価が処女の喪失、その後も謂わば愛人枠として奉仕を望まれたら応える義務が発生する。後は閃姫招喚で喚ばれる可能性もあるから」

 

「処女喪失……愛人……」

 

 瞬間湯沸し器みたいな早さで真っ赤になり、頭からはスチームが噴出した。

 

「お、奥さんじゃなく?」

 

「その世界世界で形ばかり結婚したりはするんだが、基本的に【閃姫】の地位に上下関係は無いからね」

 

「形ばかり?」

 

「結婚したという意味ならそれこそ複数回、別に死別離婚をした訳でも無いから重婚ってやつだからね」

 

「重婚……ですか?」

 

「最初は異世界ハルケギニアで。次は放浪先の世界で何度か。再誕世界でもね」

 

 写真を残していた分にはそれを見せる。

 

「うわ、綺麗な人……」

 

「カトレアとシエスタだ。それとシアに木乃香」

 

 飽く迄も写真に残っているだけであり、他にも当然ながら何人かが居た。

 

 カトレアとシエスタなど云うに及ばず、シアというのはシア・ドナースタークであり、アトリエの世界で出逢った商人の娘だ。

 

 本来なら貴族の某かとの結婚をする筈であったが、ユートとの出逢いから想い通じ合って政略的な婚姻をシアが忌避、ユートが錬金術の有用性を示しシアの病を治す事で許可を得た。

 

「うう、カトレアさん? シエスタさん? 胸が……胸がおっきいよ……」

 

 シアは控えめだろうが、それでも目に見えて脹らみがあるし、木乃香は本気で控えめであるけど日本人形を思わせる美女である。

 

「胸は気にするな」

 

「だってぇ……」

 

 七〇にすら達しなかった知佳が勝てるのは、見た目が一〇歳なエヴァンジェリンとかユーキやタバサみたいなタイプだろう。

 

「何なら今すぐに奪ってやろうか?」

 

「へ?」

 

「気にしなくて済む様に、僕が今から押し倒して知佳の貞操、処女を奪って見せようか……と言っている」

 

「さ、流石にちょっと」

 

 行き成りは勇気が出ないらしい。

 

「まあ、提案はしておく。後は知佳がどうしたいかを決めるだけ……だ」

 

「は、はい……」

 

 この日はそれで御開きとなった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さざなみ寮での彼是が終わり、ユートは月村家へと戻って来ていた。

 

 那美とも接触を持って、【閃姫契約】を促しているけど、知佳と同じく真っ赤になって保留にしている。

 

 尚、この世界の神咲那美は神咲 薫共々に退魔巫女を兼任しており、水杜神社や天乃杜神社や月杜神社や灘杜神社や龍杜神社や霞ノ杜神社といった、退魔巫女を預かっている神社と提携していた。

 

「それで?」

 

「ミッドチルダに行ったんですよね?」

 

「正確には跳ばされた先が古代ベルカ時代、六〇〇年は前の世界だったんだよ。其処で覇王国や聖王国といった国々と闘った」

 

 尤も、そう呼んでいたのは基本的にユートだけで、他はちゃんとした国号にて呼んでいたが……

 

「覇王国?」

 

「クラウスが治めていた国……シュトゥラの事だよ」

 

「ああ、変だと思ったよ。イングヴァルトが覇王となったのは、【最後の聖王】であるオリヴィエが居なくなった後だしね」

 

「オリヴィエとクラウス、クロにリッド。ある意味で愉しい日々だったさ」

 

「知り合い……になったんだっけ?」

 

「まぁね」

 

「リッドってヴィルフリッド・エレミア?」

 

「ああ、【黒のエレミア】の当代だった娘だよ」

 

 ヴィルフリッドとは男女の関係となり、その後には子を成した為にこの世界のジークリンデ・エレミアはユートの子孫に当たる。

 

「さて、僕はそんなだからミッドチルダには可成り関わったからね。【JS事件】やフッケバインなんかを何とかしなければ……とは思っているよ」

 

「関わらなかったら本気で何もしなかったんだ?」

 

「その場合は無関係だし、する義理立てが無いな」

 

 冷酷薄情と言うなかれ、無関係な世界を救うなんて押し付けはしない。

 

「で? ミッドチルダに行きたいのか?」

 

「それは……」

 

「相生璃亜」

 

「あの、フルネームで呼ばないで下さい。アイオリアって呼ばれてるみたいで……ちょっと困ります」

 

 アイオリアは聖闘士星矢で男の名前、そんな名前で呼ばれるのは女の子としては嫌なのだろう。

 

「そうか、なら相生?」

 

「皮肉ですか? 普通に、璃亜で良いですから」

 

「さよか」

 

 御許しも出たから早速、璃亜と呼ぶ事にした。

 

「ミッドチルダに行きたいなら行けば良い。だが……帰って来れなくなるぞ?」

 

「う、追放ですか?」

 

「……彼方には恐らくだが君らのお仲間が居る」

 

「お仲間? 私に仲間なんて兄さんくらいですよ」

 

「言い方が悪かったかな。君らと同じでニャル子から黄金聖衣を与えられた者、黄金聖衣の持ち主だよ」

 

「黄金聖闘士ではなく?」

 

「君らもそうだが、聖衣を持っていても聖闘士とは認められんよ。認められたきゃせめてセブンセンシズくらいには目覚めるんだね」

 

「うう……」

 

 目覚めろと言われて目覚められる天才ではない。

 

 これでも数年間は程々ながら修業をしてきた身で、だけどセブンセンシズには目覚める予兆もなかった。

 

「ひょっとして、帰れないっていうのは“お仲間”に攫われるから?」

 

「そうだ。特に双子座とか居たら最悪だろ?」

 

「双子座……幻朧魔皇拳」

 

「そういう事。なのは達が時空管理局入りしない上、僕はキャロ・ル・ルシエもスバル・ナカジマもティアナ・ランスターも連中へとプレゼントする気は無い。下手に可愛い女の子が彼方に行くと、誰彼構わず手出しするだろうね」

 

「かわ……っ! 兎に角、オススメはしない……と? そういう事?」

 

 

「まぁ、そうだね。どうしても行かなければならない用事があるなら未だしも、そうでないなら連中が破滅するまで待つんだね」

 

「破滅させるんだ?」

 

「前は何も情報が無かったからどうでも良かったよ。だけど知っての通り関わってしまったからね」

 

 ミッドチルダ支部なんて有るくらいだし、何よりもヴィヴィオやアインハルトが未来から顕れ、ユートを『兄』と呼んだ流れからして原典で云う【JS事件】やその先にも関わった筈。

 

 トーマもユートの事を識っていたし。

 

「……まぁ、絶対に行かなきゃいけない訳でもないんだけど」

 

「けど?」

 

「貴方がキャロやスバルをどうしたいのか、それが気になってしまったから……偽善だし未来を知るが故の傲慢とは思うし、救われないのは彼女らだけじゃないのも解るけど、でも!」

 

「理解はしたよ。キャロやスバルやギンガという面々に関しては、干渉する事にしているから問題は無い」

 

「本当に!?」

 

「ああ、本当だ」

 

「エリオ……は?」

 

「人造魔導師エリオは誕生しない」

 

「やっぱり……か」

 

 予想はしていたから。

 

「それともエリオ・モンディアルを見殺しにしろと? 原作の通りにする為に」

 

「そうは……言わない」

 

 二律背反。

 

 エリオ・モンディアルを選べば人造魔導師エリオが存在しなくなり、人造魔導師エリオを選ぶなら今現在を生きるエリオ・モンディアルを見殺しに。

 

 ならユートが選ぶのは、未だ存在しない人造魔導師であるエリオではない。

 

 未来に誕生した“かも”知れない違法人造魔導師、現在で確かに今を生きている少年、果たしてどちらを選ぶのか? モンディアル夫妻はどうしたいか?

 

 自ずと見えてくる。

 

 産まれてさえいないなら人造魔導師のエリオを選ぶ理由は無く、モンディアル夫妻にしても若し『今を生きるエリオを見捨てて違法に造ったクローンを選ぶか?』とか訊かれたならば、間違いなく腹を痛めて産んだエリオを選ぶ。

 

 原作云々でモンディアル夫妻の心、想いを無視するなど出来る訳も無いから、ユートはエリオ・モンディアルを救う。

 

「それは本当に正しいの? エリオ君の誕生をさせないなんて……」

 

「それはアニメを識るからこその思考だ。そもそもがあれだ、モンディアル夫妻に子供の死を見せ付けて、大金を違法研究に搾り出させた挙げ句、クローン体のエリオも奪われるのを体験させると? それが自分の識る歴史だから……と? それがどんだけ残酷な事か理解は出来ないか?」

 

「そ、それは……」

 

「エリオ・モンディアルを救えないなら仕方がない、だけど救うのが可能であれば救うべきだ。本来ならばモンディアル夫妻が賽子の1を引きまくる事をさせるべきじゃない。フェイトが人体実験されるエリオを助けにも行けないしな」

 

「うん……」

 

 少し俯き気味だ。

 

 璃亜が何を思って原典のエリオを誕生させたいのかは窺い知れないが、ユートとしてはそれは何としても防ぎたかった。

 

「前にも説明はしたけど、エリオに関しては間違いなく管理局が関わっている」

 

「待って、なら何で彼の事をスカリエッティは知らなかったの?」

 

「エリオがプロジェクトFの残滓だとは知っていた。それにプロジェクトFってのはそもそも、スカリエッティが基礎を構築したものを管理局経由でプレシアに伝え、彼女が完成をさせた技術はアースラを通しての接収が成され、管理局経由で違法研究所に回されて、モンディアル夫妻から資金を得つつエリオを完成し、ある程度育ってから管理局の権威で接収、別の研究所で人体実験をしながらも、プロジェクトFで造られたフェイトに救出させた」

 

「穿ち過ぎじゃない?」

 

「結果として、時空管理局はプロジェクトFの残滓という人造魔導師を新しく、懐も痛めず自らを汚さずに手に入れた訳だ」

 

「あ、りえない……」

 

「そう考えたら、戦闘機人のタイプ0ファーストやらセカンド、これも似た経緯で造られた可能性が高い」

 

「っ!?」

 

「技術的にスカリエッティのモノが使われていると、アニメで間違いなく言っていた。その上でクイントの遺伝子が使われているから彼女にソックリだ」

 

「だ、だから……?」

 

「その遺伝子を掠め取れた組織は何処だ? いつの間にかその遺伝子をクローニングして戦闘機人を造れる研究所を用意が出来たのは誰だ? スカリエッティすらも知らない侭に彼の研究を使えたのは?」

 

「最高評議会……」

 

「そうだ。プロジェクトFとスカリエッティが設計をした戦闘機人、同じ開発者が基礎理論を構築して同じ境遇、これは本当に偶然と切って捨てられる事か?」

 

「そう言われても……」

 

「最高評議会は正義を掲げながら、やっている事など自分達が犯罪だと決めた事を自らが犯す愚行。自分達は正義だから何をやっても許される、そう言う犯罪者の常套句な訳だが?」

 

「そんなの……」

 

「妄想かも知れないな? 管理局の局員は基本的には真っ当な人間だろうけど、中には真っ黒な闇も存在している。トップからして」

 

 遂にガクリと膝を付く。

 

「まぁ、もう遅いんだけど……な」

 

 忘れてはならないのが、人造魔導師エリオ・モンディアルは原典では一〇歳、つまりは一〇年前の今現在は既に誕生済み。

 

 何年か後に死亡をして、その年齢までに成長させた肉体に、エリオの記憶転写で知らない内に何歳だかのエリオとして暮らした。

 

 既にモンディアル家に関しては把握して、監視もさせているから死なせない事は可能となっている。

 

 エリオの死そのものが、既に怪しいのもあった。

 

 モンディアル家の寄付を得るべく、暗殺をしたという黒い可能性が……

 

 

.


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。