魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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 宣伝通り空白期とStSは基本的にStSを進め、少しずつ空白期も埋めていく形になります。





空白期
第1話:進化論 その美しい翼に魅せられて


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 闇の書の終焉と無限結晶に関わる彼是が終結して、ユートは一〇年後に起きる【JS事件】に考えを向けていた。

 

 勿論、【JS事件】とは原典に於ける事件の名称に過ぎず、実際にはどうなるか全くの未知数。

 

 とはいえ、【JS事件】の首謀者たるジェイル・スカリエッティは確かに存在すると、クロノ・ハラオウンからも聞いていた。

 

 広域次元犯罪者であり、手配もされてるとか。

 

 彼がいつ誕生したか判らないが、少なくとも今現在に於いて四十路は越えていないだろう。

 

 何故って?

 

 管理局の成立は新暦からの筈だから、現在は六五年が経過している訳だ。

 

 然しながら管理局の前身となる組織は存在していたろうし、諸説はあるにせよ旧暦と新暦を含めて最低でも一〇〇年は経っている。

 

 最高評議会の三人とは、即ち旧暦の頃から管理局の黎明期に組織を立ち上げ、管理局システムを構築した偉大なる存在である……とされていたり。

 

 ユートからすれば彼らは偉大なる(笑)存在だが……

 

 そんな彼らが自由に研究を出来た時期はいつか?

 

 少なくとも管理局黎明期の頃ではない。

 

 忙し過ぎてそんな事をしている暇が無いから。

 

 安定期だろうか?

 

 黎明期に比べて主要世界――管理云々などが付かない世界――も増えており、管理世界も順調に増えつつあって、今現在の伝説と謳われる三提督が現役で活躍をしていた時期である。

 

 暇は出来たろう。

 

 然し技術が追い付かないと思われる。

 

 伝説の都アルハザードからの流出物、それを秘匿してヒト・クローンを造り出すとなれば、相応の技術力が必須となるのだから。

 

 だから完成にはそれだけの時が経過していた筈で、更にはすぐに使える様にするべく、成長促進も行われたであろう。

 

 だからこの時期だったら二十歳前半か其処ら。

 

 それがユートの推測。

 

「まぁ、ミッドチルダには以前とは比べ物にならないくらい情報を得た今なら、凄まじいまでに僕の手が入っていたのが判るけどね」

 

 【OGATA】ミッドチルダ支部、真皇ユートにより創られた複合企業(コングロマリット)だ。

 

 地球に本部を置いているのは周知の事実。

 

 コングロマリットとは、基本的に様々な業種が合併したりして成立をするが、【OGATA】は初めから複合企業として創立されている企業である。

 

 技術に関してはやはり、【超技術(チャオ・テクノス)】が一番だった。

 

 様々な世界から集めてきた技術者、超 鈴音を資金集めも出来る支社長として扱い、技術顧問にユーキを据えて技術開発局の局長に葉加瀬聡美を置いた。

 

 他にも放浪期に集めてきた閃姫や、再誕世界を出てから集めた閃姫まで居る。

 

 今やプレシア・テスタロッサもその一員であるし、管理局から貰ったマリエル・アテンザも就職した。

 

 勿論、錬金術士も在籍。

 

 最早、怖いもの無しとか豪語しても良いレベルだ。

 

 そういう意味で云えば、ジェイル・スカリエッティが何するものぞ! と声を大にして言いたい。

 

 特に技術者としてみれば錬金術士はヤバいレベル、と言いますかユート本人が正に錬金術士。

 

 放浪期に不思議世界――とユートは呼んでいる――や黄昏世界、アーランド、そしてザールブルグやグラムナートの在る世界を跳んで回り、錬金術士の女の子と仲好くなって閃姫にした数は一桁ではない。

 

 何しろ、別に堕としても世界が滅びる訳ではなく、仲好く錬金術をやっていれば良かった。

 

 まあ、可哀想な思春期君とか騎士とか居たが……

 

 そして錬金術士とは得てして危険人物である。

 

 ユートも含めて。

 

 人格はまだしも造り出したフラムを投げまくるし。

 

 尚、錬金術士は戦闘なども出来るから聖域では一種の技術職で参戦する。

 

 バトったら取り敢えずはフラム、フラム、フラム!

 

 ミッドチルダでフラム……爆弾は良いのか?

 

 フラムは魔力爆弾。

 

 火薬式ではないのだし、管理局から文句を言われる筋合いは無い。

 

 ユートの閃姫となっている錬金術士は、イリス関連やマナケミア関連を除いた各ヒロイン達。

 

 何故にイリスとマナケミアが除かれたか?

 

 理由は行かなかった為。

 

 ユートが選んで跳んだのなら、恐らくは行って友誼の一つも育んだろうけど、行かなかったというよりは行けなかったからどうしようも無い。

 

 出逢いは有ったのだが、其処(ネルケ)ではまた趣旨が違うという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 予定通りなのはとはやてとフェイト、本来の世界線なら時空管理局のエースを地球で仮就職させ、管理局には入らない様にした。

 

 恐らくは一〇年後には、可成り人手不足だろう。

 

 将来的に、時空管理局のプロパガンタに使えるであろうエースが居なくなるのだから。

 

 事実としてスバル・ナカジマとギンガ・ナカジマ、この二人は事故の折り救ってくれたなのはとフェイトに感謝や憧れを持った。

 

 ならば似た様な出来事、或いは彼女らの活躍に胸を踊らせて入局した者も居ただろうし、正しくプロパガンタに持って来いである。

 

 然しそうなると逆説的に二人を救う人間が居らず、そこら辺はユートが対処に廻るしか無い。

 

 取り敢えずはエルトリアの事も終わり、ユートは兼ねてからの予定通り紫紋と蘭々を起こす事にした。

 

「先ずは蘭々かな」

 

 紫紋の側女であり友人、彼女は記憶を失ってからも側に在ったし、蘭々が居れば混乱も少なかろう。

 

 二基のポッドを月村家のユートに与えられた自室に運び込み、蘭々の眠る方のポッドの蘇生処置をした上で扉を開ける。

 

 プシューッ! ウィーンとか鳴りながら開く扉。

 

 中から目を開いた黒髪の少女が、ポッド内に横たわっていた上半身を起こす。

 

「お早う、蘭々」

 

「し……お……さま……」

 

 まだ上手く喋れないのか辿々しい口調。

 

「ゆっくりで良いから」

 

 コクリと頷く蘭々。

 

「ユート……様……」

 

「栄養点滴はしているが、やっぱり舌とお腹で味わうご飯も食べたいだろ?」

 

「……は……い」

 

「何しろ約六〇〇年の眠りから覚めたばかりだしね、流動食から始めてお粥を食べて、それからゆっくりと固形物に移ろうか。大丈夫だよ、ウチの流動食はそれなりに食える味だからさ」

 

「し、紋様……は?」

 

「まだ眠ってる。隣だ」

 

 言われた蘭々が振り向けばもう一基、彼女が眠っていたポッドと同じポッド。

 

「それと、いつまでも裸は無いだろう」

 

「……え? あ!」

 

 ずっと冬眠状態だったから生理年齢は一二歳程度、前世の記憶も曖昧だったから精神年齢も精々が高校生と変わらないが、それなら男に裸を視られて羞恥心は普通に沸く。

 

 とても恥ずかしそうに、大事な部位や胸を隠した。

 

「……ユート様なら」

 

 見たいですか? なんて視線を向けてきた。

 

「今は無理はしない」

 

「……はい」

 

 その後、ゆったり風呂に入ってから謂わば巫女装束に身を包んだ。

 

 食事も摂ったから血色も随分と良くなり、昔の活発な部分がまだ出てこないからちょっと心配となるも、健康には特に問題は無さそうでホッとするユート。

 

 一週間ばかり蘭々の回復に努め、いよいよ紫紋を目覚めさせる運びとなる。

 

「ユート様、紫紋様の傷はやっぱり……」

 

「ああ、深刻なものだ」

 

 古代ベルカの時代から見て約六〇〇年後、時空管理局が幅を利かせて新暦とか呼ばれて久しいなど蘭々も色々、今の時代に関しての知識を確りと得ていた。

 

「命に別状は無いんだが、古代ベルカの記憶を喪っていて、更に前世の記憶が戻ってしまっているのも相変わらずだろうね」

 

「……前世。雷様が宇宙を駆けていた頃ですね」

 

「ああ、何の因果か生まれ変わっても戦乱の地だし、再び廻り合った紫紋をまた護り切れなかった。しかも今回は真王たる僕に敗れたんだからね」

 

「私は余り覚えてはいませんけど、何と無くライ様と紫紋様が夫婦になった幸せな風景は有るんです」

 

 まあ、お邪魔虫とか色々と居た気もするけど。

 

 兎に角、紫紋のポッドの扉を開いてみた。

 

 プシューッ!

 

 蒸気を撒き散らしながらも扉が開くと、長い金髪を足元にまで伸ばしているだろう女性が目を開く。

 

「こ、こは……」

 

「久しいな竜王妃紫紋」

 

「……確かユート様……でしたか?」

 

「混乱する貴女を割と強引に眠らせたけど、あれから六〇〇年が経過している。頭の方は大丈夫か?」

 

「頭がおかしな娘扱いをしないで下さい……」

 

「蘭々よりは意識が確りとしているみたいだね」

 

「蘭々!?」

 

「紫紋様……」

 

 巫女装束に腰まで伸ばした黒髪の少女、それは前世と恐らく今生で世話をしてくれていた側女。

 

「……私にあるのは昔の、ライと結婚して彼が師である狼刃元帥や偽帝を討ち、竜王となったあの人と過ごした記憶だけだけど、貴女はその後に死んで生まれ変わった私の事も御世話してくれたのね」

 

「はい、はい!」

 

 泣いている蘭々の頭を優しく撫でる紫紋。

 

「ありがとう、蘭々」

 

「紫紋さまぁぁぁ!」

 

 何と無く寸劇でも見せられた気分だが、取り敢えずは話を進めねばならない。

 

「それで、紫紋はこれからどうするんだ?」

 

「……雷、はもう居ませんから。しかも私が生きていた時代より数百年も後……記憶に有りませんけど」

 

 一応、無くした記憶補完の為に眠る前に蘭々が色々と教えてある。

 

「夫が居た身ではしたないとは思いますが、今の私には一切の頼れる(よすが)もありませんし。真王様の御慈悲に縋る(はしため)と御思い下さいませ」

 

「一応は一国の王妃だったのに、それで良いのか? 紫紋は」

 

「はい。雷と私の国は既に亡びています。それでなくとも六〇〇年も経っていては居場所もありません」

 

「ま、そりゃあ……なぁ」

 

 行き場が無いなら生きる為にも、誰かしら縋らなければならなかった。

 

 況してや紫紋はお姫様から王妃様、一般的な生活をした事など無いに等しい。

 

 記憶が前世に跳んでいるとはいえ、やはりお姫様だった紫紋ではアルバイトも出来ないだろう。

 

 炊き出しくらいは出来るけど、この時代に必須項目とは云えないから。

 

「まあ、竜王から頼まれてもいるし……な」

 

「ありがとうございます」

 

 まるで主に対するかの様な最上礼をする紫紋。

 

「取り敢えず天竜領で暮らして貰う」

 

「天竜領?」

 

「嘗て、僕は真王国が激しい戦火に曝され始めた時、ベルカの地を捨てて民達を移民させた。嘗て無人世界と言われていた誰も住まない世界の幾つか、其処へと移民させてから国としての体裁も整えた。天竜領は嘗ての竜王国の民が多く暮らす領国で、今現在はその子孫達が生きる場所だよ」

 

 ゴジョウと呼ばれていた竜王国、竜王雷が倒れたからには路頭に迷ってしまう訳だが、ユートは竜王を討った責任として竜王国民を保護していた。

 

 そしてベルカからバックレた後、彼らには地球にも近い無人世界に領国を作って移民させている。

 

 それが天竜領国。

 

 真皇ユートが治めている二五の領国の一つだ。

 

 六〇〇年ですっかり落ち着いているし、領主が居ない領国も多かったりする。

 

 天竜領国は元より紫紋を領主にする予定も考えていたから、初めからそんなのは決めてすらいない。

 

 ベルカ諸王の群雄割拠をする時代に跳ばされる前は識らなかったが、現在でのユートはそれら全てを把握している状態だ。

 

 こうして紫紋は天竜領国へ蘭々と共に移住をして、真皇の妃の一人という形で領主をする事になる。

 

 尚、蘭々も妾みたいな形で紫紋のサポーターとして側女を継続、仕事も夜中にユートが渡って来た場合の性活もサポートする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 紫紋を天竜領国へ送り、民に嘗ての竜王の妃で今はユートの真皇妃の一人だと紹介、やっぱり竜王の民の子孫だけに受け容れられた紫紋は、領主として城住まいとなった。

 

 それから数日後、土曜日にユートは【さざなみ寮】に何故か御招待をされて、夕飯を御馳走になる。

 

「いや〜、君には前に愛がお世話になったからね」

 

 槙原耕介が白米を飲み込んでから言う。

 

 槙原耕介の妻の槙原 愛は槙原動物病院の院長で、【PT事件】となる筈だったジュエルシードの暴走、それで病院が被害を受けたのだが、ユートが直したから余計な出費をしなくても済んだらしい。

 

 只でさえ聖域の教皇で、恩を受けたなら御礼の一つはしておきたかったとか。

 

「まあ、御礼を言いたいというのは判ったよ。美味しいご飯も食べれたしね」

 

「良かったら御代わり幾らでもしてね」

 

 愛がにこやかに言う。

 

 メンバーは所謂、原典の頃から七年間を暮らしている者や、少し前に入った者など何人かという処。

 

 特にユートが持ち込んだ酒を旨そうに飲む女性は、耕介が管理人代行を頼まれた前から済む豪の者。

 

 漫画家らしいが、ユートの見立てでは剣士で通用しそうな筋肉の付き方。

 

 それは槙原耕介も同じ。

 

 神咲那美が【神咲一灯流】を修めた退魔巫女なのは【なの神楽事件】で知っていたし、リスティ・槙原は警察関係で銃の扱いくらいは心得ているみたいだ。

 

 食後の酒を飲む漫画家、仁村真雪と国際救助隊へと入隊していたが、帰ってきている妹の仁村知佳。

 

 二二歳と成人をしているのだが、七年前の槙原耕介が管理人代行を始めた頃からプロポーションに大した変化は無く、姉の真雪とは正反対な御子様な肢体。

 

 バストサイズも七〇にすらなっていない。

 

 陣内美緒は九九.九%の人間の遺伝子に、ほんの僅か〇.一%の猫的要素を持つ女性である。

 

 今は大学生らしい。

 

 ふとユートが視線を感じて見れば……

 

「あうっ!」

 

 真っ赤になりながら顔を逸らす神咲那美。

 

 無理も無い。

 

 【なの神楽事件】では、“診察”されてしまった訳であるし、何より行き成り指を膣□内に挿入()れられただけでも卑猥なのに、更に口内や菊門にまで挿入()れられたのだから。

 

 口内に挿入()れた指をしゃぶらされ、唾液塗れになったそれが菊門へ突っ込まれてしまい、グリグリと優しく掻き回されたのだ。

 

 勿論、嫌いな相手や興味の無い相手からヤられたら通報モノだが、“検査”であるのも手伝って嫌だとは思わなかったのも大きい。

 

 まあ、膣□を嬲られた時はひっぱたいだが……

 

 兎に角、女の子としてはもう『お嫁に行けない』と悩むくらいの出来事。

 

 そんな相手が目の前に居るのだから、恥ずかしくて顔を背けたくなるのは仕方がない事であろう。

 

「ご、御馳走様」

 

 取り敢えず逃げた。

 

 本当は気になって気になって仕方が無かったけど、今を以てまともに会話が出来ないのだから。

 

 宴も酣が過ぎた頃合い、ユートは耕介に訊ねる。

 

「それで?」

 

「それで……とは?」

 

「わざわざ僕をさざなみ寮の夕飯に誘った理由だよ。奥さんの病院の御礼とかだけじゃないよね」

 

「う〜ん、まぁね」

 

 バツが悪そうな耕介ではあるが、それでも意を決したのか口を開いた。

 

「君は色々な“力”について詳しいらしいね」

 

「力? 耕介が使う霊力みたいな?」

 

「そう」

 

「まあ、知識は有るね」

 

「それなら訊きたいんだ。HGSを知ってるかい?」

 

「HGS? 高機能性遺伝障害、中でも二〇人に一人の割合で所謂、超能力が扱える様になる病気……とか云われているね」

 

 ぶっちゃけ、今も座っているリスティや知佳がそうだし、英国のクリステラ・ソングスクールのフィアッセ・クリステラや海鳴大学病院のフィリス・矢沢など幾人かが存在する。

 

 尚、フィリスはリスティのクローンだったり。

 

 更に海外には同じ境遇の姉妹が居たりする。

 

「変異遺伝性なだけにこれは遺伝子そのものが変容した病とされ、故に先天性のものでしかも治療法は未だに確立されていない」

 

 勿論、変異遺伝性の中には後天性のものもある。

 

 だけどHGSは基本的に先天性変異高機能遺伝障害に当たり、知佳やフィアッセ・クリステラなどは生まれつきこうだった。

 

 そして遺伝性なだけに、子や孫や玄孫にと子々孫々に受け継がれていく。

 

 だからこそ、リスティの遺伝子情報から産み出されたクローン――フィリスとセルフィは同じタイプで、同じ力を持ったのだから。

 

(それは決して……)

 

 ユートは瞑目する。

 

「はっきり言おう。HGSは病の類いじゃない」

 

「……え?」

 

 そんなユートの言葉に呆ける知佳。

 

「病じゃ……ない……?」

 

「人によっては確かに病、だけどそれは未知を病とするからだ」

 

「未知……」

 

「HGSは進化の前兆」

 

「進化ですか?」

 

 愛が小首を傾げた。

 

 進化体そのものでなく、前兆が前面に出たもの。

 

 百年以上、五世代以上を以て完全な進化体が顕れる可能性を秘める。

 

 オルフェノク程に急速でもなければ、アギトみたいな大きな変化もしない。

 

 今の状態を突き詰めた、そんな形となるだろう。

 

「それにその手を病とするのは以前にも見たよ」

 

「と、言うと?」

 

 耕介が先を促す。

 

「超能力、その源となるはPSYON(サイオン)。それへ術式を使って一般化させた“魔法”を扱う。そんな中で瞳に力を持った人間に、【霊子放射光過敏症】という名前を付けた瞳。病であると定義をする事で秘密を暴いた気にでもなったか、だから彼女も自分の力には気付けなかった。視るという行為に特化した【魔眼】の力に……ね」

 

「魔眼……」

 

「知佳、進化の前兆は何処に顕れるか未知数なんだ。また因果関係も様々だな。オルフェノクみたいな情報を顕在化、急激にその肉体へと顕すタイプも居たし、神の光を受けてアギトとして進化した場合も有った。宇宙に上がる事で適応する為に頭脳、延いては直感力に進化を促すニュータイプなんてのも居たよ」

 

「オルフェノク、アギト、ニュータイプ……」

 

「HGSの場合は超能力、PSYONをエネルギーとした力を発現させた。とはいえ元々は扱えないエネルギーを扱う為に多少の変化をしなければならなかったか、リアーフィンという光の翼を瞬かせる。PSYONの翼だから直に触れられない光翼は余剰エネルギーで形成されているんだ」

 

 

「服薬や制御装置が無ければならない進化なんて……そんなのが進化と?」

 

「さっきも言ったろう? 人間には備わっていなかった力に行き成り目覚めた、だからこそ暴発するんだ。より上位の力を持ったり、制御装置を着けたり色々と抑える手段は必要だよ」

 

「より上位の力?」

 

「例えば小宇宙だよ。僕ら聖闘士が扱うエネルギー、そして魔力や霊力なんかの源流に位置する。因みに、最源流が神の力たる神氣となる訳だ」

 

 力を扱う素質が無いのに扱えてしまう、それが暴走を促したり寿命を縮めたりする要因となる。

 

「ユートが使う小宇宙ってのは?」

 

「これもさっき言った通り力の源流。神氣より薄められた人間が扱える中で原初のエネルギー。基本的には小宇宙を扱うに素質とかはきかない。テンマ……過去のペガサスの聖闘士も天然で使えたしね。処が源流から支流となる分かたれた筈のエネルギーは資質が要る場合もある。この世界ではリンカーコアが存在するから魔力資質は高いんだが、それだけにPSYONとの相性が“良い”んだ」

 

「良い事に聞こえるが?」

 

「耕介、そもそもが魔力、霊力、念力、氣力は大元が一つながら再び合成するには難しいよ。例えば魔力と氣力を合成する咸卦法による咸卦の氣。魔力と氣力は反発するから合成するのが大変なんだ。謂わば磁石の同極みたいにね」

 

「ならPSYONと魔力は?」

 

「磁石のSとN処の話じゃなく、ガソリンに火を付けるに等しい。暴発はそれが原因でもあるんだろうね」

 

「マジに?」

 

「前に関わった世界では、魔力とPSYON……魔術と超能力を合わせようとして、造られた術者は力を暴発させて全員が死亡した」

 

 ゾッ! 背筋が冷える。

 

「この世界の人間はリンカーコアを持たない乃至は、不活性だったとしても魔力が染み付いている。だからPSYONに適合し難いんだ。それを数世代掛けて慣らしていくのが普通だよ」

 

 そして更に進化をすれば或いは暴発させる事無く、魔力とPSYONの融合エネルギーを扱えるかもだ。

 

「なあ、あんたなら知らないか? 知佳やリスティが制御装置だ服薬だとしなくて済む方法」

 

「知らん」

 

「即答だな?」

 

「正確には効率の良い制御装置を造る事は出来るし、服薬なんかに頼らない方法も提示自体は可能だ」

 

「は?」

 

「知佳は彼氏とか?」

 

「え? 居ません」

 

 知佳がチラッと見て耕介が顔を背ける。

 

 要するに振られたのだ。

 

「言い難いだろうけど……性経験は?」

 

「あ、ありません!」

 

 知佳は羞恥か憤りなのか真っ赤になって答えた。

 

「お前……まさか知佳に言い寄る気か?」

 

 別に大人になった知佳を縛る気は無い真雪だけど、巫山戯た奴や生産性の無い奴やロリコンなど近付ける気にはならない。

 

 最後のは『誰がエターナルロリータよ!』と怒られそうだけど。

 

 まあ、エターナルではないにせよ二十歳を越えては最早、成長の余地なんかは無いだろう。

 

 背丈も胸も。

 

「若し服薬や制御装置無しで尚、力を制御したいのだと望むなら僕が提示出来るのは唯一、【閃姫契約】だけだからね」

 

「せんきけいやく?」

 

「閃姫の部分は、使徒とか聖僕とか従士とかに置き換えられる。主となる相手に身も心も捧げてある種の力を獲る手段だよ」

 

「身も心もって、つまりはさっきの質問の意味は?」

 

「捧げるべきは無垢な肢体……処女だよ」

 

「っ!」

 

「おまっ!?」

 

 更に紅くなる知佳と激昂しながら立ち上がる真雪。

 

「特典なんだよ。能力値の上昇や制御力の上昇や不老長寿、恒星数個分のエネルギータンク。そして願いを叶える権利とか……ね」

 

「はぁ?」

 

「僕としては知佳の白い、天使の様な翼を愛でる権利が得られるなら問題無い」

 

「うっ!?」

 

 TEー01【エンジェルブレス】と称される知佳の翼、その美しい翼をゲーム画面でなく実際に見てみたい、ユートもそんな思いが無いでもなかった。

 

 とはいえ契約が性行為とイコールであるからには、軽々しくも押し付けられるものではない。

 

 知佳は考える時間が欲しいと、真っ赤な顔で食堂を退室していった。

 

 尚、仁村真雪はジトっとした目で睨んでいたり。

 

 そして御風呂上がりで、寝間着姿にベッドの上へとダイブした知佳は、枕に顔を埋めながらゴロゴロと見悶えていたと云う。

 

 

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 わざとリーディングさせて契約でナニをするのか、具体的なヴィジョンを見せたのが原因で見悶えてしう仁村知佳でした。



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