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「キリエ、やっと追い付きましたよ!」
「んもう、アミタってば。追っては来ないでって私があんなに言ったのにぃ……私のお姉ちゃんってば割と本気でおバカさんなの?」
赤毛を後ろで三つ編みに結わい付けた翠の瞳の少女――アミタと呼ばれた彼女はピンク髪を腰まで伸ばす色違いの服の妹――キリエを追い込んだ。
互いに持つは同じ武器、アミタは蒼を基調とした服であり、キリエは緋を基調としている服。
「莫迦はどっちよ? 妹が莫迦な事をしようとしてるのに、それを止めない姉は居ません!」
「ちょっとくらい早めに生まれたからって、それで妹の生き方を曲げる権利なんてあるのかな? 兎に角、私はこの時代のこの場所でやるべき事があるのよ! なるべく此方の世界の人に迷惑は掛けない様に頑張る心算だし、良いからアミタは私の邪魔をしないで!」
「させませんっ! 荒縄で亀甲縛りにしても、お尻をつねり上げてでも! 私達の世界……エルトリアに、博士が待ってるあの家に、連れて帰ります!」
話から二人は地球の人間ではないのが窺える。
「いや、亀甲縛りって……アミタってばおバカさんから変態さんにクラスチェンジしたの?」
キリエは銃と剣が一体となった武器で、肩をポンポンと叩きながら笑う。
「ま、力尽くは望む処よ。やってみたらアミタ、お姉ちゃんは妹に勝てないって事を教えてあげる!」
武器を構えながら言う。
そんなキリエに対して、アミタも武器を構えた。
二人のぶつかり合い。
ブレードモードとガンモードを互いに使い熟して、互角の実力による空中戦闘が繰り広げられる。
実弾ではないエネルギーの弾丸が飛び交い、剣と剣がぶつかり鍔迫り合いを演じていた。
その戦闘を制したのは、アミタと呼ばれた少女。
キリエは然し敗北したという訳でもなく、取り敢えず不利な状況に置かれたというだけである。
キリエは肩で息を吐きながら、眠たそうな目を姉のアミタへと向けていた。
「どう、反省した?」
「うう、やられたぁ……」
しおらしい態度……
「なーんてね。アミタってばやっぱ脳筋さん。まさか私が本気で戦っていたとでも思った? っていうか、気付く事さえ出来なかったでしょ」
「っ!? こ、これは……いったい……?」
急に動きが鈍るアミタ。
「あはは、効いてきた? 戦闘中に特製ウィルス弾を撃ち込んでいたの。ふふ、動けないでしょう?」
「な、ん……ですって?」
「ま、死ぬ事は無いから。其処は安心して? あーんなに止めたのに、私を追ってくる莫迦なお姉ちゃん。いっそこの場で本当にぶっ壊しちゃっても良いんだけどねぇ……」
不敵に言うキリエに辛そうな表情で睨む。
「や、殺れるもんなら!」
「クス、や・ら・な・い。私がアミタを傷付けたりしたら、きっと博士は悲しむものね」
「キリエ、待ちなさい!」
「バイバイ、アミタ。多分もう……会わないわ」
笑いながら、だけど悲しそうに複雑な表情で別れを告げると、キリエはアミタを於いて空の彼方へ。
「キ、キリエ……」
アミタはそれを見送るしか出来なかった。
だけど諦める訳にはいかなくて。
「追い掛けなくっちゃ……撃ち込まれたウィルスは、身体機能阻害弾。抗ウィルス剤か治癒術があればすぐにも治る筈。この世界の人に迷惑は掛けたくないけど……キリエを止めなきゃ、取り返しの付かない事になってしまう!」
アミタは決意を胸にしながらも、身動ぎが出来ない我が身を不甲斐なく思う。
「捜さなきゃ駄目かな……地元の人で治癒術の使い手か若しくは、AC93系の抗ウィルス剤を」
フラフラと飛行しながら呟くアミタだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「此処、何処でしょうか? アインハルトさん……」
「地球……海鳴市上空みたいです」
「え……? 本当ですか、それって?」
「はい、兄様に連れて来て貰った事がありますから」
「ユート兄ちゃんに?」
「はい、この街並みは間違いありません。恐らくは、この地に何らかの力が働いて跳ばされたのかと」
アインハルトと呼ばれた少女は、この状況を分析して金髪の少女に答える。
「ヴィヴィオさん、こうなれば兄様に保護を願い出るしかありません」
「待って下さい、ユート兄ちゃんってミッドチルダに居た筈ですよ?」
「あ……済みません、私も冷静ではないみたいです」
「仕方ありませんよ。けど今なら確か地球側にほむ姉ちゃんが居る筈です」
「ほむらさんが?」
「はい、今度の試合に皆が来るんでその調整に」
「だったら……」
《にゃーにゃー!》
「どうしました、ティオ」
猫っぽいぬいぐるみ……ティオと呼ばれたそれが、何故か暴れ出す。
「え? 時間軸が違う? アクセスをしたら今は西暦二〇〇四年だった?」
「二〇〇四年? それって新暦六六年の頃ですよ? アインハルトさん」
「まさか、兄様が言っていた時間移動?」
「私達の時代は西暦に直すと二〇一七年……一三年も前って事?」
どうやらアインハルトは兄様……会話の流れからしてヴィヴィオが言うユート兄ちゃんから、時間移動に関して聞いていたらしい。
「はっ! 魔力反応が……二つ?」
「アインハルトさん!」
「取り敢えずは武装しますよヴィヴィオさん!」
「はい!」
二人は小型のぬいぐるみ……デバイスを、天高く掲げながら叫ぶ。
「セイクリッドハート!」
「アスティオン!」
それが二人のデバイスの名前だろう。
「「セーットアップ!」」
それぞれ、虹色の魔力光と碧銀の魔力光に包まれながらにょきにょきと手足が伸びた。
ヴィヴィオの胸なんかは可成りグラマーで、服装は嘗て大暴れした時のアンダースーツ。
アインハルトもスレンダーな大人という感じだ。
白を基調に短いスカートは薄い碧、長袖は普通に緑なバリアジャケット。
そして二人に共通するはポニーテール。
「双子座!」
「獅子座!」
セットアップ終了後に、二人が掲げた右腕の手首には銀色の腕輪が、それには金色の宝玉が填まる。
「「フルセット!」」
言葉と同時にヴィヴィオの背後に双子座、アインハルトの背後に獅子座が浮かんで、其処から黄金に耀くオブジェが顕現した。
カシャーンッ!
オブジェはすぐに分解、細かなパーツに分かれると二人を鎧っていく。
脚に腰に胸に腕に肩に、そして頭にヘッドギア。
「双子座の黄金星闘士……ヴィヴィオ!」
「獅子座の黄金星闘士……アインハルト!」
軽くポージング。
「「推参!」」
戦隊モノならカラフルな爆発でも起きそうだけど、取り敢えずは自分の魔力光で輝く二人であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
副司令とも云える身分のシュテルから命令を受け、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやてはそれぞれに時空震動が起きた地を調査する。
また、アリサ・バニングスと月村すずかも召集を受けて任務に就いた。
目的は三つのお客様……エルトリアのギアーズ二人に新暦七九年と新暦八二年から来る来訪者。
「キリエ・フローリアンの目的は王です」
「王様?」
「【闇統べる王】ロード・ディアーチェ。我々、マテリアルの纏め役ですね」
「ほんなら、わざわざ私に言うんは……」
「王はハヤテ、貴女を雛型としていますから」
「ああ、やっぱりなぁ……シュテルがなのはちゃん、レヴィがフェイトちゃんを雛型にしとるんなら、私を雛型にしとるマテリアルも居るっちゅー事やね」
はやてもそんな気はしていたのである。
「どんな娘ぉか、判っとるんかな?」
「中二病真っ只中です」
「そ、そっか……」
自分と同じ顔で中二病、はやても何と無〜く想像がついたのか、どうにも何かを言う事が出来なかった。
「痛いなぁ」
「痛いですね」
シュテルも同情する。
「兎も角、
「戦闘になるんはしゃーないかなぁ」
「はい」
中二な病気なだけに聞く耳は持たない。
何故なら、彼らは取り敢えず自分の言いたい事を叫ばずにはいられないから。
会話も成立している様でずれている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
別れて捜索をしていたらなのはが当たりを引く。
「嘘、双子座と獅子座……ジェミニとレオなの?」
きらびやかな耀きを放つ黄金の鎧、その形は多少の差違こそあるが大きな変化は無いから解る。
女性用に調整を受けて、明らかにそのボディラインは女性のモノであったし、顔も知っているものではないにせよ、纏う鎧は確かな黄金聖衣だった。
「なのは……さん……」
「すずかさん」
シュテルがはやてを伴うのと同じく、なのはの方はすずかを伴っていた。
「私達を識ってる。なのはちゃん、やっぱり二人は」
「うん、みたいだね」
双子座らしき黄金聖衣を纏う金髪をポニーテールに結わい付けた女性、左の瞳が紅で右の瞳が翠のオッドアイな肢体のメリハリが眩しい美少女。
そして獅子座の黄金聖衣を纏うは、薄いグリーンが掛かった長い銀髪をやはりポニーテールに結わい付けており、左の瞳が青に右の瞳が紺色なオッドアイで、雪の様な白い肌とスレンダーな肢体な美少女だった。
(あれ、ポニーテール? 聞いた話だとヴィヴィオちゃんはサイドポニーだし、アインハルトちゃんはツインテールだったのに?)
髪型が聞いていたのとは違うので、黄金聖衣を纏っているのはまだ魔力反応が在ったからセットアップしたのだと理解をしたけど、髪型でちょっと驚く。
「あのぉ……異世界からの渡航者の方ですよね?」
なのはが問い掛けると、双子座の黄金聖衣を纏った女性が頷く。
「私達は地球連邦に所属する
「同じく月村すずかです。貴女達のお名前は?」
自己紹介後にすずかが問い掛けると……
「聖域ミッドチルダ支部、
「同じく獅子座のハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルトです」
ちゃんと答えてくれた。
尚、本来は鋼鉄聖衣を与えられて練習をしていたのだが、二人は過去から継承した“黄金星聖衣”を使う星闘士でもある。
「……え? ミッドチルダ支部って何かな?」
ユートがミッドチルダに支部を創った話は聞いていなかったし、セイントとも名乗る二人に戸惑いを隠せないなのはとすずか。
「恐らく御二方は理解しているかと思いますが、私達は未来からの来訪者です。不測の事態ですが過去へと跳ばされて、今現在は此処に居る次第です。なので、勝手に地球に入りました事につきましては御寛恕願えると幸いです」
「ああ、まぁ。事故なのは聞いていますから、咎め立てはしませんよ」
「武装を解除して、此方に同行して頂けますか?」
すずかが訊くと顔を見合わせた二人が頷き、聖衣と強化変身魔法を解除すると子供の……一〇歳と一二歳の姿へと戻った。
どちらも制服を着ているのだが、地球とは違うからなのはもすずかも見覚えはなかったり。
まあ、何はともあれ戦闘にもならず大人しく付いて来てくれるなら、なのは達としても文句は無い。
その一方で……
「
「くうっ!」
橙色な青銅聖衣の
切っ掛けは単純明快で、黒騎士が戦闘する気満々な格好をして『ツンデレなバーニングさん!』……と、素でバニングスとバーニングを間違った上に、誤ってツンデレと呼んだのが琴線に触れてしまったのだ。
『誰がツンデレでダ・レが バーニングよ!』
などとキレてしまって、フェイトが止める間もなく戦闘になったのだ。
黒騎士に戦闘の意志など無く、本来の実力が上なのかどうかは定かではないのだが、少なくとも今現在は劣勢に立たされている。
「
拳から次々と放たれる炎の塊に、黒騎士は翻弄されながらも何とか躱す。
「くっ、バニングスさん……謝りますから静まって下さい!」
「喧しい!」
「おわっ!?」
今度は蹴りだ。
「
「うわ、うわっ!?」
連続で放たれる蹴りを、どうにか避ける黒騎士。
「兎に角、一回くらいブッ飛ばされなさい!」
「じょ、冗談!」
ヒートアップする様は、正にバーニングだが……
「ア、アリサ……取り敢えず話を聞こう?」
「ふん、如何にも悪者っぽい格好だったし、バーニング呼びが気に入らない! けどまあ、フェイトの言う事も一理あるわね」
戦闘を中断するアリサに胸を撫で下ろす黒騎士。
「どうやら一応、い・ち・お・う・私の事は知ってるみたいだけど……」
見た目の上では年上ではあるが、未来から来たなら本来は年下と判断したか、或いはこれがデフォなのか話し方は変わらない。
「お、俺はトーマ。トーマ・アヴェニールって云います!」
《私はリリィ・シュトロゼック。浮かんでいるのは、銀十字の書です》
「ひょっとしたらユニゾンデバイス? 何だかはやてとリインフォースと夜天の魔導書みたいね」
二人の自己紹介にアリサは首を傾げた。
「あ、多分だけどそこら辺を真似たシステムかと」
実際に、ウイルス自体は兎も角としてリアクトするべきリアクター、シュトロゼックシリーズを製作したのはヴァンデイン・コーポレーションだ。
真似たというか参考にしたくらいだと思われる。
「だいたいの話はユートから聞かされてるわ。というより、アンタ……トーマはユートを識ってるの?」
「まあ、知り合いではあるんだけどね……」
言葉を濁すトーマ。
「若しかしてコテンパンにのされちゃった?」
「うぐっ!」
フェイトからの質問が槍の如く突き刺さる。
「ぼ、暴走した時に……」
周囲がまともに見えず、荒れ狂った状態だったのをぶちのめされ、無理矢理に鎮められた……といよりは沈められたのだ。
《あはは……》
リアクト・エンゲージをして、銀十字の書の管制をリリィがするまでフルボッコだったと云う。
「ユ、ユートらしいね」
「男には厳しい?」
「……それ否定出来ないよアリサ」
そんな会話にあれこそが平常運転だと知り、トーマはガックリと項垂れた。
「ト、トーマ……ファイトだよ!」
「うう、慰めてくれてありがとうリリィ」
トーマ・アヴェニール、ちょっとばかり情けない姿であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっと見付けた。やっぱり僕の冥界に引っ掛かっていたみたいだね」
その世界に来れば冥界も自動で展開される仕組み、それ故にユートは可成りの前にこの世界に、神殺しになる前とはいえ来ていたから冥界も存在している。
「リニス。ゲームのGoDで登場していたにしても、闇の欠片事件は潰れたから何らかの形で何処かに存在するとは思ったけど……」
闇の欠片よりはっきりとした意識を持ったリニスの記録再生体、プレシアは生き残ってしまったのだからリニスも見付かる筈だと、ユートは闇王捜しと平行してリニスも捜していた。
「さあ、目覚めの時だ……我は願う。それは深淵の底より来る者、忌むべきはその非道の行い。我が下僕となりて死界の穴より這い上がれその名を以て我は命じよう……【
神殺しとしての権能を使う際の聖句、冥王ハーデスが仮初めの命を聖闘士に与えたのと同じで、一二時間だけ生き返らせるモノだ。
「う……」
猫の姿から人型に。
何故か何も身に纏わない裸体を晒している。
「此処は……私はいったい……?」
「おはよう、リニス」
「……貴方が私のマスターですか?」
「まあ、そうだね」
リニスは確かな繋がりを感じていた。
「私の前のマスターは……どうなったか判りますか? 判るなら教えて貰いたいのですが」
「普通に暮らしているよ。プレシアもフェイトも……アリシアやアルフもね」
「アリシア? いえ、私をこうして甦らせたマスターならば、死んだアリシアを生き返らせる事も?」
「そういう事だよ」
「……会いたい、プレシアにもフェイトとアルフにも……そしてアリシアにも」
「会わせるのは吝かじやあないんだ。だけど今の君は仮初めの……一二時間だけの生命でしかない」
「一二時間だけ……」
「だから訊こう。リニス、君は僕のモノとなって従う意志はあるか?」
「私はマスターの使い魔、ならば強制すれば……」
「無理矢理は良くないだろうに? だから従うからには願いも叶えようってね」
飴と鞭みたいなものか。
「……私はプレシアと……フェイトとアルフみたいな関係を築きたかった。それを叶えてくれますか?」
「叶えよう。リニスを手に入れる為ならばその妄執を受け容れよう」
その言葉にリニスは跪いて宣誓する。
「我が名はリニス。新たなマスター、私は貴方に忠誠を誓いましょう」
「闇に蠢く冥府の住人達、暗く果てない大地の底より魔なる星は甦る。汝ら我が闘士となりて来たれ!」
リニスの宣誓に伴って、ユートは新たな聖句を口にして紡ぐ。
「【
冥界の鉱石にて造られた冥衣、地星七二の一つである地獣星ケットシーを招喚したユート。
正伝ではない【聖闘士星矢LC】に登場した冥闘士――地獣星ケットシーのチェシャが纏った冥衣だ。
リニスがソッと冥衣へと触れると……
カシャーンッ! 分解してリニスを鎧う。
「地獣星ケットシーのリニス……冥王たるマスターの下に」
こうしてリニスは新たなユートの冥闘士となった。
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