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芳賀真人という名の鬼──鬼神の欠片に全てを奪われた木島 卓だからこそ、あの最悪の存在と同じ者と聴いて怒りを露わとする。
人を喰った性格の人食い鬼など、要らないトンチを利かせた存在。
トリックスター。
道化師という厄介極まりない存在、芳賀真人という鬼を一言で表すのであればこの言葉が一番だ。
人喰い鬼としての衝動、女喰いとしての性衝動など満たす欲を見境無く満たす鬼人・芳賀真人、木島 卓からすればそれにより歩や両親を喪った訳で、正しく怒髪天を衝く勢いだろう。
「あれは物理的な恐怖だ。鬼は本来だと精神的な恐怖を司るが、奴は暴力性のみが突出していた。喰らう……この一点に愉悦を足した物理的な恐怖。そして何よりの暴力性――バトル・ジャンキーだって事だ」
芳賀真人は食欲と性欲を除けば最大の欲――戦闘欲を持っている。
あの性格を思い出すと、芳賀真人を知る全員が苦い表情となった。
強者と戦いたい。
生命を懸けてしのぎを削りたい。
勝って殺すのが愉しい、負けて殺されるのも良い。
だから芳賀は、わざわざ天乃杜神社から御神鏡を奪ったりしたのだ。
あの御神鏡はイチ様だった頃の市乃の力の象徴で、その能力は写した存在そのものの性格を正反対にしたコピーを生み出す事。
遂に芳賀はそれに成功をしたが、性格が正反対となるが故に博愛主義というか無抵抗主義みたいな権化、芳賀と互角の力を有しながら戦えはしなかった。
その後、芳賀は木島コピーやかんなコピーやうづきコピーを送り込む。
このコピートリオに対してはユートが相手取でて、木島達には御神鏡を持った芳賀を追わせた訳だが……
苦戦はしたが木島コピーを殺したユート、残り二人――かんなコピーとうづきコピーは遠距離攻撃が可能なうづきコピーを
イっちゃんとナっちゃんから力の一部を譲渡され、闘えたから苦戦こそ免れなかったがかんなコピーを斃したユートは、彼女を犯して内部の霊力を吸収した。
純粋な力に還元されて、消滅したかんなコピー。
次いで暴れるうづきコピーもシバき斃し、同じく犯して吸収をしてやる。
こんな能力がある事にはユートも驚くが、何故だかそれが可能な気がしたし、これは本来だと別の存在に行う行為だと気付く。
ユートが斃した神々から神氣を喰らえたり、イっちゃんとナっちゃんから力を譲渡されたりと、こんな事が可能なのはこの不可思議な力故だと理解をした。
まあ、無理えっちに近かったが幸い? コピー二人はコピー元の正反対だったから可成り淫蕩だったし、敵と同じ事をヤったに過ぎないと認識をしていた。
お陰で抱いた事も無かったうづきの感じる部分を、ユートは図らずも知り得てしまったり。
閑話休題
「肝心の【這い寄る混沌】――ナイアルラトホテップだけど、奴というより奴ら邪神はその名の通り邪悪。取り分けナイアルラトホテップは醜悪ですらあるな」
「そんな風には見えませんでしたが……」
史伽が言うが……
「邪悪が解り易く邪悪に見えるとでも? 一流を越える邪悪は見た目じゃ計れないものなんだよ」
そう断言をするユート。
「実際、ニャル子の場合は普通のナイアルラトホテップとはちょっと違うんだ。邪悪さはあるが……」
ユートへの愛情もある。
本来、ニャル子から愛情を受けるべきは別人。
八坂真尋だったろう。
騒がしくも愉しい毎日を過ごし、偶にはフォークが飛んではニャル子のド頭に刺さったり、クー子からのラブコールを受けてみたりと色々ある筈だった。
然しながら枠組みからは外れて、ナイアルラトホテップとしての邪悪を内包しながらも真尋に向けられる予定だった愛をユートに向けて動いている。
これは彼女が真にナイアルラトホテップとして顕現した為と、ナイアの記憶を知識として持ち得たが故にユートを識り、尚且つ最初の戦いで忌々しいクトゥグアを喚んだとはいえ自分に打ち勝てた。
まあ、混沌の種を仕込まれたから百五十余歳程度しか生きられず、この現在の自分に転生をしたが……
ナイアルラトホテップは敗けた際、自らが成るべき姿を喚び込んだ。
勿論、斃されたナイアルラトホテップ自体は消え去るが定めだが、喚び込んだのも
その時から、ニャル子とユートの永遠にも近い戦いは始まった。
「アイツはどうも、僕個人に妄執にも似た執着を持っているんだ。本人が曰く、僕への迸る愛だとか」
「……それはまた」
木島的にはヤンデレか何かに好かれた感じに思え、ユートに対する哀愁すらも覚えてしまう。
「敵ですね」
市乃は市乃でプクッと、膨れっ面となっていた。
神様をやっていた頃からユートとのスキンシップに溺れ、遂にはナツと一緒に処女まで捧げたのだから、敵にかっ浚われては納得が出来ないだろう。
皐月はまだ解ってないが歩は市乃と似た感覚だし、かんなも十数年も操を立てた相手を、敵の神に盗られるのは業腹でしかない。
妖怪に犯されて泣いて、最初の警告を聞けば良かったと後悔しつつ、ユートに散らされた処女を診て貰って浄化をされた。
序盤から暫くは大丈夫だったが、大量の餓鬼が墓場のあちこちから襲撃してきてすぐにも手札を失って、何も出来なくなったかんなは無防備な状態で餓鬼から攻撃を受け、堪らず転げた処へ一匹や二匹じゃなく、十にも及ぶ数が巫女装束を引き千切ると、汚ならしいモノを口へ菊へそして大事な部位へ押し込み、呆気なく中で抵抗する部分もズタズタにされ、あの穢らわしいモノが胎内を蹂躙する。
情け容赦など全く無く、凄く痛くて堪らなく悔しくて酷く哀しくなり、奴らは熱い汚濁にも似たナニかを身体の中へ発射。
突っ込まれた以上の屈辱がかんなの脳を焼き、涙と汗と涎を撒き散らしながら『早く終わって』と半ば心が折れ掛けていた。
これが【鬼神楽】というゲームなら、浄化をしてから翌日にまた昨夜を忘れたみたいに頑張るだろうが、現実にこんな事になったらこんなもんだ。
覚悟なんて初めから無いに等しく、『鬼なんて』と認めてなかった木島にさえ救いを求めたいと思って、更に自分の不甲斐なさに悲しみを覚えたもの。
結局、木島はうづきの方を優先して助けていた。
普段の言動からかんななら大丈夫だと思われたし、うづきの弱々しい雰囲気は率先して助けた方が良いと考えたらしい。
自業自得だ。
結局、かんなは二度目を放たれる前にユートに助けられていた。
餓鬼は残らず駆逐され、自分はマントへと包まれた状態でお姫様抱っこ。
余りに紳士的な行為に、かんなは真っ赤になっていたが、すぐに我へと返ると――『見ないでよ……』と涙と共に小さく溢した。
その後の治療だったが、木島がうづきを引き受けていたから、自動的にユートがかんなの担当に。
この時の担当が後の仲に影響を与え、木島とうづきが芳賀との決戦前に本当のいみで結ばれた。
ユートはイチ様とナツ様を相手に力を取り戻さんとしていたから、かんな無残というべきなのか?
まあ、最終決戦後に結ばれたからセーフだろう。
だからか、かんなにとっても市乃にとってもユートをニャル子に奪われるのは単純な敗けより屈辱的だ。
「ニャル子は通常が史伽も知る姿だ。だから大丈夫なんだけど、邪神っていうのはその眷属すら直視すると正気を喪う」
「正気をですか?」
うづきが訊ねる。
「そう。SAN値と呼ばれる正気度で表されれ数値、これがゼロになると終わりだね。一気にゼロになる事をSAN値直葬なんて云われている」
ユート自身はその知識が余り無いが、ネットなどを巡るとクトゥルフ系でよく聞かれる言葉だ。
邪神は肉体や精神より、寧ろ魂を汚してくる。
無論、肉体的にも壊されはするがSAN値を削るのが即ち、魂へのダイレクトアタックな訳だ。
嘗て、ユートが夢幻心母へデモンベインと共に突入した際、クトゥルーの触手により散々犯されたけど、これがユートだったから良かったが、そうでなければそれこそSAN値直葬されていたであろう。
クトゥルー内部に入り込むだけでSAN値などガリガリと削られていくのに、クトゥルーの体液や神氣をタバダバと流し込まれたりしたら普通に死ぬ。
ユートは体液も神氣も、全てを取り込んでその逆に搾り尽くしてやった。
クトゥルーが弱体化してしまうレベルで。
そもそも、星神ガイナスティア――原典の場合だと星神アーシェリエル――がユートを転生者に選んで、協力者の【朱翼の天陽神】に転生を行わせた理由とはこの力にあった。
まあ、彼の五源将自身は妻の一人にして部下的存在たる【純白の天魔王】へと役割を託し、自らは暫くの間を会わないでいたが……
天陰魂と呼ばれる至極、珍しい魂を持つ存在。
その役割は吸収。
その限界は無限。
その性質は模倣。
それはブラックホールにも似ており、故に【合わせ鏡の黒穴】と揶揄される。
だから緒方優斗は選ばれたのだ。
スィルォ・エルトラムの――否、緒方 白の子孫にして〝真逆〟の魂を象るであろう存在として。
閑話休題
「正気度が一気にゼロか、正に狂気に堕ちる訳だな」
木島の言葉に頷く。
「まあ、邪神がこの世界に干渉はしないだろうさね」
「どうしてそう思う?」
「太平洋、南緯四七度九分 西経一二六度四三分……その海底にルルイエは存在しなかった。つまりはこの世界にクトゥルーが顕れていない証左。クトゥルーが居ないならハスターやクトゥグアなども存在しない。這い寄る混沌は銀の鍵によるゲート解放で世界を渡れから、史伽みたいな転生者を送ったりしているけど、他の邪神までは来ない――人間が招喚しない限りは」
「そ、そうか」
招喚にしても、人間側に知識が無ければ事実上として招喚は不可能である。
ユートが調べた限りで、この世界は基本的に様々な怪奇は存在してはいるが、クトゥルフ神話系は物語に至るまで存在しない。
つまり、あの長ったらしい招喚呪文も無かった。
誰かが教えれば或いはとも云えるが、邪神が此方側の世界に居ないなら次元を越えた招喚となり、難易度は数百倍にも跳ね上がる。
星辰も変わるだろうし、生贄も増やさねばならないとなれば、無理しても招喚する莫迦も居ないだろう。
実質的に這い寄る混沌の干渉以外、注意をする必要は特に無い訳だ。
「まあ、這い寄る混沌からの干渉は止められないし、果たして他に何人の転生者を送り込んだやら」
全員が難しい表情だ。
「闘神都市では結構な人数を送り込んでいたからな」
同士討ちみたいなぶつかり合い、他にも闘神都市に干渉しなかったり、勝手に消えていたりなど会わなかった転生者も居たのだが、闘神大会に出場をした者も何人か居た。
中には現実世界以外――岳画 殺という【大悪司】世界から転生をした少女まで居たから驚きだ。
「さて、取り敢えず史珈は未だしも木島達には恐らく関係の無い邪神云々は扨置くとして、史伽の事も考えないといけないな」
「ボク……ですか?」
「そう。トラウマが酷いのは理解したよ。そいつを何とかしないと」
「それは……はい」
「神楽巫女をやる心算ならトラウマなんて無い方が良いだろうし、やる心算が無くても結婚とか考えたなら要らないデバフだろう」
木島は頷く。
「確かに、史伽のトラウマを刺激するからな。巫女として戦い……敗けたら」
その言葉に神楽巫女たるかんなとうづき、巫女見習いの歩と皐月は微妙な表情となってしまう。
勿論、嘗ては送り出していた立場の市乃もだ。
妖怪と戦って勝てば良いのだが、敗北は即ち妖怪に犯されて新たな妖怪を産む苗床とされる。
たがらこそ、【なの神楽事件】でユートは真っ先に調査をしたのだ。
万が一、犯されていたら妖気を男の陽の氣を以て、速やかに浄化をしなければ三つの結末の一つを辿る。
妖化、産卵、受胎。
本人が妖怪化する妖化。
卵型の誕生をする妖怪の卵を産卵。
人間と同じく受胎する。
大まかにはこの三つに分けられていた。
いずれにせよ、妖怪によって犯されるのはトラウマを刺激し、下手をしたなら精神が壊れてしまう。
それに耐えても陽の氣で浄化――男の精液を受け容れる行為に及ぶ訳だから、二重に苦痛の筈。
「何とか出来るのか?」
「トラウマならね」
全員が息を呑む。
「そもそも、トラウマとはいったい何なのか? それは生物の持つ防衛本能ってやつが過剰反応を示している謂わば暴走に近いんだ。『それは恐ろしい事だ』と無意識に刻まれて、同じか似た現象や事象を『避けなければ』と脳の無意識領域が過剰な命令を下す。だからトラウマは起きる」
「ふむ、確かにそうだな」
木島も心当たりがあるのだろう、すぐにも理解を示してくれた。
「ならば、史伽のトラウマを――過剰反応をしている無意識領域からブロックをすれは、過剰な反応をしなくなるだろう」
「それって可能なのか?」
「それ自体は割と簡単に」
ユートと木島は史伽の方を見遣る。
「するかどうかを決めるのは史伽だ」
「どうするんだ史伽?」
ユートと木島に訊ねられた史伽は、すぐには答えられずに悩んでいた。
「記憶を消したりするんでしょうか?」
「いや、そんな事はしないけど……何でだ?」
「いえ、以前に読んだ漫画に記憶を消去する魔法というのが在りまして、それを使われると思考力が阻害をされてパーになるから」
「……」
スッゴく覚えのある魔法の内容である。
「だ、大丈夫。記憶を消去する魔法なんて使わない。必要なのは無意識領域からくる過剰な防衛本能の抑制だからね」
「そうですか……それならお願いします」
深々と頭を下げた。
「任された。それなら早速始めようか」
「え? 準備とかは?」
「要らない。この身が一つ在れば事足りる」
「は、はぁ……」
ユートは立ち上がると、史伽に向けて人差し指を立てて……
「幻朧拳!」
「ちょっ!?」
幻朧拳を放った。
「これで終了」
「――へ?」
茫然となる史伽。
「な、何で幻朧拳? それに幻を見ないけど……若しかして今が幻の真っ最中って事?」
「いや、幻朧拳とはいったけどあれは通常のものじゃないんだよ。まあ、論より証拠ってね……木島!」
「な、なにぃ!?」
あろう事かユートは木島を史伽に向けて投げる。
ヒシッ! 史伽を怪我させぬ様に木島は彼女を抱き締める様に……だが勢いもあってか見た目にオッサン――鬼の力の影響から若々しいが――が幼女を押し倒す形だったり。
「ヒッ!」
青褪めて息を呑む史伽であったが、何故か嫌悪感で叫んだり暴力を振るったりを無意識にやらかさない。
「こ、れ……は……?」
「トラウマを克服した訳じゃないが、ブロックをしたから発動もしない。但し、注意をしろ。さっきも言ったがトラウマは防衛本能、それをブロックしたからにはそれが少し鈍る筈だし、意識的にそこら辺を考えないとまたぞろパクッとヤられてしまう。それに余りに過剰な恐怖を得たら再発もしかねないから」
「わ、判りました」
神妙に頷く史伽。
「と・こ・ろ・で、卓さんはいつまで史伽ちゃんを抱き締めているんですか?」
笑顔だが、瞳がまるで笑ってないうづきという名の鬼が降臨していた。
「ま、待てうづき! これって別に俺が悪い訳じゃあ無いだろう!?」
鬼人が鬼女に恐怖する。
「優斗さん!」
「何だ?」
「私を十歳くらいにして貰えませんか?」
「ブフッ! 待てうづき! 俺はロリコンじゃないんだから、流石に無理だ! うづきは愛しているけど、十歳にまで幼くなってしまったら抱けん!」
「……卓さん」
愛していると言われて、うづきがポーッと頬を朱に染め、年甲斐もなくラブ臭の溢れる空間が構築され、娘からジト目で視られる。
「とはいえ、木島って鬼人な所為で寿命も鬼並だろ。そうなるとうづきだけが年老いていく訳で……」
「うっ! 確かにそろそろお肌が曲がり角に」
まだ三十路の前半だが、女性だから気になった。
「という訳で――嘗ての栄光は今此処に――【
うづきの背後に時計……反時計回りでうづきの刻が戻っていく。
「本来なら胎児……以前の前世にまで戻せるけど」
時計が停まると懐かしい十六歳くらいの、若々しく美しい当時の姿に成った。
ガシッ!
木島が凄い形相でうづきの肩を掴むと……
「うづき、今夜は寝かせないからな!」
「卓さん……」
お姫様抱っこで掻っ浚って寝室へ走る。
「木島の奴……」
頭を抱えるかんな。
「お母さん、嬉しそう」
皐月は先程の乙女な母を見て複雑な顔。
「さて、歩の言っていた事も尤もだけど……今は取り敢えずかんなかな?」
「へ? ――あ!?」
リワインドバイオを受けたかんなは、ソッコーで連れ去られてしまい若い啼き声を部屋に響かせた。
現在のかんなを抱くのもアリだったが、若いうづきを見たら若いかんなを啼かせたくなったのだ。
尚、うづきと同じ年齢まで若返らせたから処女膜が復活しており、ユート相手に破爪の痛みを感じて悦んだと云う。
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過ぎた莫迦はウザい……かんなの場合はおば可愛いレベル――かなぁ?