魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第24話:双子座 神なる聖衣

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「はやて……否、闇の神だったか? アプス!」

 

 双子座の黄金聖衣を纏ったユートが叫ぶ。

 

 ニヤリと口角を吊り上げて笑う【闇はやて】だが、何かしらを喋ろうとは考えていないのか、ユートへと魔傷を与える心算らしく動き始めた。

 

「無駄だ」

 

「──?」

 

「僕にこの手の力は通用しない。呪い系は純粋なエネルギーに還元して吸収してしまえるからね」

 

 流石に小宇宙は無理ではあるが、魔法ならその気になったなら最初の人生から生まれ付き持っていた太陰体質で、やはり純粋なエネルギーに還元して吸収出来るくらいであり、小宇宙でも魔傷みたいなタイプならやはり吸収が可能。

 

「我は戦神、我が右手には勝利の天使。汝が我と共に在る時、常勝は我にあり」

 

 聖句を口ずさみながらもアプスの攻撃を躱す。

 

「【勝利を呼び込む天使(ニケ)】!」

 

 それは小さな少女の姿をした天使、城戸沙織はその右手に常に黄金に輝く杖を手にしていたが、それこそアテナ神殿に佇む巨大なるアテナ神像が右掌に乗せている勝利の天使ニケ。

 

 ユートが、【まつろわぬアテナ】との戦闘後に譲渡された神氣、それで発現をした権能がこれだった。

 

「ニケ、ユナイト!」

 

「ピッ!」

 

 ユニゾンデバイスの如くユートの胸より吸い込まれていくのは、アテナに似た容貌で羽根を持つ少女。

 

 然し、ユニゾンデバイスとは違ってユートの髪の毛や瞳の色などに変化無く、変わったのは黄金聖衣である双子座(ジェミニ)

 

 まるでクリスタルの如く燦然と煌めく黄金色。

 

 それは生命の輝きと太陽の耀きみたいな神々しさ、背中には本来だと双子座が持たない天使の如く翼を広げており、重厚感を増して鋭角的なデザインへと変わった姿──双子座の神聖衣(ゴッドクロス)だった。

 

 アースラに残っていて、神聖衣の知識を持つ三人の内のユーキは満足そうで、呂守と璃亜は双子座の神聖衣に驚愕を露わにした。

 

「あ、アレって……まさか……Ω聖衣じゃないよな? 翼を持つ双子座って……神聖衣なのか?」

 

「だけど、ボクらは流石に識らないよ。双子座の黄金聖衣が神聖衣化なんて?」

 

 二人はユーキを見た。

 

 その瞳には説明を求む、そんな色が宿っている。

 

「兄貴の纏う双子座聖衣(ジェミニ・クロス)はね、再誕世界の聖域に神代の頃から存在した本物なんだ」

 

「っ!?」

 

「ボクが纏う鳳凰星座聖衣(フェニックス・クロス)は兄貴の造った物だけどね、ちゃんとアテナの……城戸沙織お嬢さんの許可を得て持ち出したんだ。その際、兄貴が造った双子座聖衣を交換に渡している。まさか聖域の双子座の黄金聖闘士を無意味に不在には出来ないからね」

 

 射手座の星矢は疎か光牙すら引退する刻を越えて、ユートは聖域の守護者で在り続け、漸くのお役御免の時に沙織から双子座聖衣を渡されて、目の前で手首を切ると霊血(イーコール)を聖衣へと掛けた。

 

 最終青銅聖衣みたいな、形状の変化こそ見られはしなかったまのの、輝きやら強度やらは軒並み上がり、生命力に満ち充ちたのだ。

 

「元々、兄貴が使っていた麒麟星座(カメロパルダリス)も謂わば最終青銅聖衣として、神聖衣化が可能ではあったんだ。けどまあ、双子座聖衣も可能になったのなら、こうして神聖衣として使うなら黄金聖衣たる双子座だよ」

 

「ま、マジかよ?」

 

「勿論、マジなんだよね」

 

 その戦闘能力の高さは、今現在のモニターを見ればよく判り、【闇はやて】の攻撃を凌ぎ続けつつ何やら話し掛けているらしい。

 

『とっとと起きないか! こんの……チビ狸っ!』

 

 などと叫んでいる辺り、どうやら八神はやての覚醒を促している様だ。

 

 流石に肉体的にはやてだからか、まともには攻撃を仕掛けていなかったりするのだが、【闇はやて】からの攻撃を回避や防御をする為に技を放つ事はある。

 

 だが、如何な防衛の為だとはいえその威力は魔導師が喰らえばまず間違いなく一撃必討となり、屍山血河が築かれているだろう。

 

「はやては起きるのか?」

 

「原作では起きてたよね。だけどこれは、アニメじゃない……ホントの事だよ」

 

 アニメならハッピーエンドを前提、最悪でもバッドエンドではないレベル──作風次第だが──で描かれるから、八神はやてが制御を取り戻し【闇の書の闇】を討てたものの、飽く迄も現実の世界である此方側で上手くいく保証は無い。

 

 呂守も璃亜もそれが心配だった。

 

「……確かに、アニメじゃないからハッピーエンドを確定は出来ないね。例え話をすれば、本来なら物語ではメインヒロインであり、主人公と物語中にヤっちゃう筈の女の子を、間違って兄貴が堕としちゃったからさぁ大変。主人公と女の子が結ばれて初めて世界が救われるのに、兄貴にメロメロなヒロインが本来の主人公と結ばれるのを良しとはしないし、然りとて結ばれないと世界は崩壊する……本当、世界はこんな筈じゃなかった事ばっかりだね」

 

「「……」」

 

 ユーキの説明に唖然となってしまう二人。

 

「因みに、それって何の噺だったんだ?」

 

「アスラクライン。女の子の名前は嵩月 奏だね」

 

「ブッ! 確かに主人公と最終的に結ばれないと世界が非在化する!?」

 

「まぁ、正確には主人公がアスラクラインにならないといけないからだからね、苦労したらしいよ? ボクは見てないから知らないんだけど、ニアが主人公の兄に惹かれない様に手を回して何とかって感じらしい」

 

「ニア……ああ、アニア・フォルチュナ・ソメシェル・ミク・クラウゼンブルヒの事か?」

 

「おお、兄貴もフルネームは忘れていたのに、よくも覚えていたよね?」

 

「ま〜な。けどあの子って十歳じゃなかったか?」

 

「悪魔だから契約は可能だったし、一巡目の世界では五年を暮らしていたから、十五歳だったし問題ない。何より、六歳差なら理想的なくらいじゃないかな? 奏嬢との接触は向こうからの間違いだし、それが切っ掛けで主人公──夏目智春との仲が進展しなくなって焦ったらしいよ」

 

「うわ……」

 

 下手をすれば世界崩壊のお知らせだった。

 

「その例えだと兄貴が関わってるけどね、当然ながら世界はイレギュラーなんてざらにあるもんだ。世界によっては八神はやてが凍結封印された世界も在るかも知れないし、フェイトによる海上決戦で地球が崩壊した世界も在るかもねぇ?」

 

「た、確かにな……」

 

「だから決して予断は赦さない状況なんだけど、さ。兄貴だってある程度の想定はしていたよ」

 

 流石に神が相手になるのは想定していても、其処まで深刻に考えてはいなかったのだが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お眠り下さい我が主……この侭、闇に囚われてしまうならいっそ目覚めぬ夢の奥深く、最後のその時まで幸せな夢を」

 

「あかんな」

 

「──え?」

 

「そんなん、あかんよ」

 

「な、何故? 起きていらっしゃるのです!?」

 

「優斗君がこんな事もあろうかと、夢神の権能で私が自分の意志と無関係に眠ろうとしたら、叩き起こしてくれるゆーとったけどな、うん! お目々バッチリ」

 

 眠りの神(ヒュプノス)ではなかったのは、起きると眠るの狭間である夢こそが肝要だったから。

 

 万が一にも眠り続けられても困ると、ユートは夢神の権能ではやてが明晰夢に入り、自らの意志で彼女と接触を図れるようにした。

 

 当然、それを伝えるべくユートは神殺しの、カンピオーネの権能についても話をしている。

 

「にしても、優斗君は……誰がチビ狸やの? こないな可愛い娘に向かって!」

 

 外からの呼び掛けは聞こえており、はやてはムスッと頬を膨らませて拗ねた。

 

「とはいえ、早ようせんとまた狸呼ばわりされるな。まず貴女に名前を上げる」

 

「え、名前……?」

 

「せや、もう【闇の書】とか【呪いの魔導書】とか言わせへん。この私が呼ばせへん!」

 

「ですが、未だに管理者権限の無い貴女では……」

 

「そこら辺も大丈夫やよ、優斗君から預かったこれが有れば……と」

 

 それははやての魔力光、そしてベルカ式魔法陣。

 

「ハッキング開始……管理者権限を現マスターの八神はやてに正式登録」

 

「ま、まさか!?」

 

「優斗君曰く、マスターでもない人間がこれをやったらあかんけど、マスターの私なら弾かれんそうや」

 

 不正な侵入に違いはないのだが、元来だと【闇の書】はこの時点で八神はやてを真のマスターと認めているはずだから、はやてによるハッキングとシステムの掌握は受け容れるのだ。

 

 そもそも、ユートは余りにギャンブル性が高い作戦をやる心算は無かった。

 

 やるなら間違いなく成功する様に、ギャンブル性はあっても『分の悪い賭けは嫌いじゃない』と言わず、ある程度の保証が為されるくらいの手は入れている。

 

 それが夢神の権能によるはやての目覚めと、ハッキングプログラムによる管理者権限の奪取。

 

 ジュエルシード・レプリカによる比較的安全な魔力蒐集と併せ、後は防衛プログラムをどうにかする事で計画は終盤に持っていける──筈だった。

 

 可能性には入れてたが、何処かから引っ張ってきたアプスさえ無ければ。

 

 権能や聖衣も含めて万全を期していたが、仮にも神であるなら苦戦は必至。

 

 そして神が相手であるのなら、魔導師は元より呂守と璃亜も役に立たない。

 

 神聖衣に自由な覚醒が出来ないユーキも闘いに出せないし、こうなれば原作のフルボッコからアルカンシェルの流れは不可能。

 

 実際、NDで黄金聖闘士を相手に四苦八苦していた一輝や瞬を考えれば、ボロボロな聖衣である事を差し引いてもやられ過ぎだし、神聖衣処か黄金聖衣でさえ持たないユーキが、アプスとは闘えないだろう。

 

 故に、ユートは一人だけで決戦を行うしかない。

 

「さて、管理者権限取得。【闇の書】の名前を変更、【夜天の魔導書】に戻す。管制人格に命名──夜天の主の名に於いて私から貴女に新たな名を贈る。私を強く支える者。私の欲しかったものを運んでくれた幸運の追い風。いつだって私を──私達を応援してくれた祝福のエール……」

 

 この命名の儀式だけは、ユートも一切の関わりを断っている。

 

 だからこそ、これだけは八神はやての想いの丈。

 

「だから貴女は祝福の風、リインフォースや!」

 

「祝福の風……この血塗られた魔導書の私に、その様な綺麗な名を戴けるとは。私は……世界一幸福な魔導書です」

 

〔魔導書の名称を【夜天の魔導書】に変更。管制人格に新名称リインフォースを認識致しました〕

 

 機械的な声で応えるのは【夜天の魔導書】のシステム部分だろう、リインフォースは口を開いていない。

 

「おっしゃあ! 優斗君、オール・オッケーや!」

 

 外でずっと堪え忍んでいたユートは、はやてからの返答にニヤリと口角を吊り上げると……

 

「よくやった、後は此方の仕事だ!」

 

 一旦は距離を取る。

 

 現在、ユニゾンをしている八神はやてはとても複雑な状態となっていた。

 

 本体ははやての肉体で、操るのはアプス。

 

 然るにアプスは闇の書の闇たるナハトヴァールこそが依り代で、ならばそれを切り離せばどうなるか?

 

 そしてどうやってナハトヴァールを切り離す?

 

 八神はやては現時点ではリインフォースと融合し、肉体的にも精神的にも一つの状態、ナハトヴァールも本来はリインフォースとの一体化をしていたのだが、アプスが融合していて可成り箍が外れた状態。

 

 だからこそ可能な方法。

 

 八神はやてとリインフォースを本体、アプスとナハトヴァールを霊魂に見立てての──

 

「積尸気冥界波!」

 

 高次生命体の神とプログラムのナハトヴァールは、ある意味では霊魂みたいな存在である。

 

 本体側の八神はやてから抜き出す事も可能だ。

 

「っ、重いっっ!」

 

 

 問題はその重さ。

 

 大半の情報を肉体に依存する普通の生命体と違い、高次元知性体たる神というのは肉体より魂にこそ情報を多く持つ。

 

 よって、人間の魂を抜き取るのと神の魂を抜き取るのは似て非なる行為。

 

 蟹座・キャンサーのマニゴルドが、一人では冥界波を仕掛け切れなかったのがその証左と云えよう。

 

 だけど、今のユートにはマニゴルドに無かったモノが在り、故に重くても確かに引き出しつつあった。

 

 カンピオーネの肉体は、通常の人間より丈夫。

 

 ユートとマニゴルドでは異なるのが肉体的な強度、力ずくにでもアプス本体を引き摺り出す心算だ。

 

「く、ぐおおおおっっ!」

 

 片目を閉じて歯を食いしばった状態で、右腕を左手で持ちながら無理矢理にでも引っ張るユートは……

 

「ウオリャァァァァァァァァァァァァァッッ!」

 

 まるで一本釣りの如く、アプスと依り代たるナハトヴァールをはやて本体から引き出した。

 

 素っ裸なはやてはすぐに騎士甲冑の素体姿となり、シュヴェルト・クロイツを右手に持つと天高く掲げ、高らかに叫ぶ。

 

 まあ、正確にはシュべルト・クロイツの元となった杖……である。

 

「夜天の光よ我が手に集え……祝福の風リインフォース──ユニゾン・イン!」

 

 騎士甲冑のオーバージャケットが装備され、はやての髪の毛が茶髪から白雪、瞳の色も碧から水色に変化が起こり、完全なユニゾンを成功させた。

 

「おし、アースラに急いで戻るよ!」

 

《は、はい!》

 

 スレイプニール……背中の黒い翼をはためかせて、はやては大空を翔ぶとすぐに転移を行う。

 

 アースラのブリッジへと戻ったはやては、守護騎士やなのはにフェイトといった面々から祝福された。

 

 現場に残されたのは正にユートとナハトヴァールに寄生をしたアプスのみで、今度こそユートは全力全開手加減抜きの戦闘をする。

 

 アプスは【闇はやて】から本来の姿に戻って、些か不安定ではあるが神としての力を揮うだろう。

 

 神聖衣・双子座を装備したユートと本来の姿形となったアプス、ジリジリ──距離を詰めていった。

 

「さて、闇の神アプス? 始めようか二人だけの聖戦ってやつを」

 

『何故、我がこの場に在るのかは解らぬ。だが、貴様はアテナの聖闘士か?』

 

「ああ、アテナの聖闘士。双子座の優斗だ」

 

 成程、アプスはユートの知る【聖闘士星矢】と関わる神らしい。

 

 呂守の言ったアニメ……恐らくパラスより以前に現れたのだろうが、ユートの世界では邪神大戦だった。

 

 当然ながらアプスなんて出てこない。

 

 つまり、呂守の言っていた二〇一二年の闘いとは、ユートの知る聖戦と全く異なる事を意味する。

 

 一九九九年にマルスとの闘いがあったのは同じで、呂守が曰く二〇一二年でも基本的にはマルスと火星士が敵だったとか。

 

 そして、マルスとの最終決戦の直後に彼の銀河衣(ギャラクシーメイル)から引き出された闇、そいつを光牙が受け容れた状態。

 

 それがアプスの第一形態であり、光牙から抜け出た第二形態──

 

「(あれがそうか)」

 

 上半身は丸みを帯びて、胸の発達から女性の様ではあるが、声色や顔から鑑みてやはり男神か?

 

「(思い出した! 確かに魔女メディアは言っていた筈だ! 闇の神アプスと。リアルで七歳の頃だったからすっかり忘れていた)」

 

 ここにきて漸く思い出したユート、西暦一九九九年のマルス戦で過去に跳んだ双子座のユートと、七年を生きた麒麟星座のユートで同時に存在をしていた時、七歳のユートは闇の隕石を召喚した魔女メディアと、彼女を姉と呼ぶコーカサスのアモールと闘った。

 

 その戦闘の際、メディアはコーカサスのアモールを斃した時に、闇の神アプスの名を出していた筈。

 

『アモール!? 何という事! マルス様ではない、貴方こそが闇の神アプスの器と成り得る存在!』

 

 アプスの器、アニメではマルスよりも光牙がそれに抜擢された訳だ。

 

 まあ、もうどうでも良い話ではある。

 

「さあ、闇の神アプスよ。我が力以て……金色の御許へ還るが良い!」

 

 この二人だけの聖戦は、ユートとアプスによる闘いに他ならないのだから。

 

 

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 リリなの分が少ない……取り敢えず名付け終了。



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