魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

51 / 84
第23話:闇 目醒める存在

.

 武装局員達は、ユートが居なくなってから透かさず【闇の書】の管制人格を取り囲むと、ストレージデバイスを向けて飛ぶ。

 

 相手は第一級捜索指定の古代遺失物(ロストロギア)である以上、決して油断を許されない状況であるのだと全員が理解をしていた。

 

《Start Up》

 

 そしてアースラから今回の裏切りの首謀者が出て、自らの持つデバイスを起動させて転移。

 

 このデバイスの名前は、聖騎士ローランが持っていたと云う不滅の聖剣と同じもの……

 

「征くぞ、デュランダル」

 

《OK.BOSS》

 

 即ちデュランダル。

 

「グレアム提督……」

 

 クロノは悔しくてならない気分で一杯となる。

 

 二重に悔しい。

 

 父親の仇の【闇の書】を前にして動けない悔しさ、そして交わした約束を反故にしたグレアム提督を止められなかった悔しさ。

 

 自分は時空管理局の一員として、執務官として何をしているのか……と。

 

 武装局員達が管制人格にバインドを一斉に掛けて、決して直接的には戦わない様にしている。

 

 まともにぶつかっても、武装局員のランクは高くてAランク程度に過ぎなく、低ければCランクがやっとの者も居るくらい。

 

 そもそも、Aランクを越える程の実力者であれば、クロノみたいな執務官を目指しても良いし、資質次第では教導官やエリート官僚にもなれるのだから、この一山幾らなガンダム的に云えばジムでしかない武装局員の能力が高くないのは、時空管理局の性質上は仕方がないのだろう。

 

 というか、一つのぶたいに対する保有ランク制限に引っ掛かるから、高ランク魔導師は謂わば部隊の切札(ジョーカー)な扱い。

 

 Aランクもあれば隊長、それが武装局員なのだ。

 

 だが然し、【闇の書】の管制人格はそんな武装局員を嘲笑うくらいの能力で、蒐集した魔力資質によって更に強くなってしまう。

 

 幸い、今回はジュエルシード・レプリカのみだし、その作り方や扱い方の資料としては兎も角、行き成り収束砲撃をかましたり出来ないのが救いか?

 

 場所は海にまで達した。

 

「暴走開始の数分間が勝負となる。その隙にデュランダルで凍結し、誰にも手の届かない虚数空間に落としてしまえば……」

 

 その為には元来、何の罪も無い八神はやてを偶さか【闇の書】の主になってしまったからと、犠牲にしてしまわねばならない。

 

「すまない、はやて君……私は愚かな大人だな」

 

 グレアムははやてを憎んでいる訳では決してなく、寧ろ知らない間に古代遺失物の主とされた哀れな子、くらいの認識はある。

 

 だからこそ、身内を喪ったはやてが誰からも知られない内に【闇の書】と共に封印する前に、生活に不自由しないくらいの手間を掛ける程度には良心が痛む。

 

 八神はやてに罪は無い。

 

 だけど【闇の書】はそのはやての意志など無関係に暴れ回り、周囲を破壊していくのだから永久封印してでも止めねばならない。

 

 嘗て、十一年前に殉職をした部下──クライド・ハラオウンの仇をこの最後の機会に討つ為にも。

 

「カンピオーネだか何だかは知らんが、あんな子供に何が出来るものか。あの子は世界を甘く見過ぎているのだ。この世界は……いつだってこんな筈じゃなかった事ばかりなのだよ!」

 

 【闇の書】の封印解放から凡そ三分、資料ではだいたい五分くらいが目処。

 

「そろそろだな。悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて永遠の眠りを与えよ……」

 

 グレアムの足元に顕れたミッドチルダ式の魔法陣、この詠唱の間にも凍結魔法の威力がデュランダルから既に漏れ出ていた。

 

 街から追い立て海にまで出たのも、この魔法を十全に使う為なのだ。

 

 だが異変はすぐに起き、グレアムは目を見張る。

 

「ああ、もう留め置けないのか……申し訳御座いません我が優しき主よ」

 

 まるで今まで留め置いた闇が溢れ出るかの様に一条二条、無数の闇が身体全体から噴き出していた。

 

「な、何だあの変化は?」

 

 それに伴い、【闇の書】の管制人格が縮んでいき、見た目には十歳にも満たない姿になり、その顔は明らかに管制人格などでなく、八神はやて本人のもの。

 

 とはいえショートボブが逆立った髪型に灰色の肌、極め付けが血の様にドロリとした紅い瞳は別人だとしか思えなかった。

 

 闇もユートやペガサスの光牙みたいな煌めく闇ではなく、凶悪な迄にドス黒い無明なる暗黒である。

 

 闇黒のオーラを全身から噴き出し、左腕には劇場版で管制人格が装備していたナハトヴァールを身に付けていて、服は脆過ぎたからか弾け飛んで全裸。

 

 闇黒が絶壁な胸や大事な部位を隠していなければ、九歳児にして見知らぬ国のストリッパーだった。

 

 まあ、そうだからといって欲情するにはどうか? というオーラも漂っていた上に、その表情ははやてとは思えないくらい凶暴で、ユートや呂守の識っている【王様】なんて可愛く見えてしまう程だ。

 

 そんな【闇はやて】を見た呂守と璃亜は、ガチガチと歯の根が合わないくらい震えている。

 

「そ、そんな……」

 

「嘘……でしょ?」

 

 明らかに【闇はやて】を識っている様子。

 

「これじゃあ、原作Ωとも変わらないじゃないか! 何処にアイツが現れるなんて情報が、伏線が在ったって云うんだよ!? コンチクショーがぁぁっっ!」

 

 呂守の前世で放映をした【聖闘士星矢Ω】だけど、余りにも余りな出来だった事もあり、非難の対象にしかなっていない作品。

 

 挙げればキリが無いが、最後の最後でまたもやらかしてくれた。

 

 ほんっとーに唐突に名前が出てきたラスボスの神、しかももうギリシア神話は疎か、マルスに関係しているローマ神話ですらない。

 

 それは【エヌマ・エリシュ】で最初に生じた淡水の神であり、海水の神の伴侶として描かれる。

 

 地底の淡水の海を擬神化したのだから、確かに闇の化身的な神として描かれても悪い訳ではないが……

 

 いずれにせよ神だ。

 

 未だに聖衣を纏わねば、白銀聖闘士すら越えられない二人には、余りにも強大な相手と云えよう。

 

「識っているのか雷電?」

 

「誰が雷電か!? って言うか、アンタは識らないのかよ!? 聖闘士星矢的な世界を識っているのに?」

 

「? あんなの見た覚えは無いけどな……」

 

「聖闘士星矢Ωだぞ?」

 

「Ω? 確か二〇一二年に放映したとか云う?」

 

「そうだよ! 【聖闘士星矢Ω】で出た敵!」

 

「パラスとの闘いであんな神は居たっけ?」

 

 二〇一二年、邪神大戦を闘い抜いた際にもユートは見掛けていない。

 

 ユート自身は邪神大戦で中核的な戦力であったし、光牙達……若き青銅聖闘士と共にクトゥルーとも闘ってはいるし、パラス戦でも普通に闘ってサターン戦でもほんの刹那、完全な神々の領域たるテンセンスへと目覚めて闘った。

 

 神化していないが故に、まだ人間と認識しているのだが、人間の精子を毒とする闘神都市の女の子モンスターが死なない処を見て、可成り微妙な一線に居るのは確からしいけど。

 

「で、奴の名前は?」

 

「アプス。闇の神アプス」

 

「アプス……ね。ティアマトーの伴侶だったか?」

 

 ユートも神話はそれなりに識っている。

 

 神々と闘うなら神話を識るのは必須だからだ。

 

「ちょっと待て、あれが神とはどういう意味なんだ? 多少、変わってはいてもあれは八神はやてでは?」

 

 クロノが叫ぶ。

 

 見遣ればクロノ以外も、聖王教会組やリンディ・ハラオウンなどアースラ組、果てはなのは達も驚きが勝っている様だ。

 

「あれは管制人格でも八神はやてでも無い。揺らめく闇色のオーラに対して魔力を感じない筈だ」

 

「あ! 確かに……」

 

 エイミィ・リミエッタが計器を見て呟く。

 

 示された魔力値は〇。

 

 先程から観測されていた管制人格なら、間違いなくオーバーSランクもの魔力を弾き出していたにも拘わらず、あの小型化している【闇はやて】からは一切の魔力が観測出来ない。

 

 であるのに、目に見える程に濃縮されたオーラという矛盾はおかしかった。

 

「神の放つ神力(デュナミス)というのは、最低限でも小宇宙を感じられないと関知は不可能だよ。一応は圧力くらいは感じるんだけど……ね。これが力の純度の差ってやつさ」

 

 純度の高い力を持つ者の力の気配を感じる為には、少しでもその領域へと足を踏み込まねばならない。

 

 何処ぞの怪奇警察さんも神の領域に無かった者は、ラスボスの力を感じ取る事が出来ていなかった。

 

 主人公が最低限、核エネルギーを吸収して力を得た事により座天使級とされるレベルとなっても、相手にすらならないのだからしょうがないのだろう。

 

 所詮、魔力は小宇宙より剥離した上澄みに過ぎず、純度は余りにも低い。

 

 それは兎も角、モニターの向こうの【闇はやて】は暴虐な力で武装局員を蹂躙しており、二十人を越える人数が一分と保たず地へと伏していた。

 

「そ、そんな!? あんな一瞬で武装局員が!」

 

 クロノの驚愕は更に続く事となる。

 

「凍てつけ!」

 

《Eternal Coffin》

 

 グレアムが武装局員を救うべく、氷結の杖デュランダルを揮ってエターナル・コフィンを発動。

 

 パキン!

 

「な、なにぃ!?」

 

 煩わしいと謂わんばかりに【闇はやて】が左腕で払うと、エターナル・コフィンの威力は霧散した。

 

「人間の魔法が神に通じるものか。せめて小宇宙を放てないとダメージなんて通りはしない」

 

 他人事の様なユート。

 

「くっ、早く助けないと」

 

「そうか、頑張れ」

 

「き、君は! 何もしない心算なのか!?」

 

「言った筈だが? 管理局が勝手をしたら僕は一切の行動を起こさない……と」

 

「そ、それは……っ!」

 

 仮に生命の危機に陥ろうとも助けない、それこそが管理局と交わした約束。

 

 それが嫌なら約束通りに手を出さねば良かったが、復讐に逸るグレアムは約束をあっさりと反故にした。

 

 勿論、グレアムとしても心苦しくはあったのだが、どちらにしても高が子供にロストロギアに関して全権委任など出来なかったし、何よりも魔導師ですらないユートを信じる余地が全く無かったのが災いした形。

 

 その気になれば真正古代(エンシェント)ベルカ式の魔法すら使い熟し、ランクもそれこそ測定不能レベルなユートも、普段から魔力ではなく小宇宙を使っていたから、クロノすらユートの魔導師としての能力を識らないのだから無理は無いのだろうが……

 

「だけど人道的見地から言ったら!」

 

「約束の反故は道徳的にはどうなんだ?」

 

「うっ!」

 

「それとも、時空管理局では一度交わした約束とはいえ口約束なんぞ、破っても問題は無いと教えているのかな? 或いは、管理外の蛮族との約束は塵より軽いとでも言う心算か?」

 

「そ、そんな事は……」

 

「だいたい、やる気の無い人間を使おうと時間を無駄にするより自分で行ってきたらどうだ? まあ尤も、二次遭難レベルでクロノが死ぬだろうが」

 

「っ! エイミィ! 僕を転移させてくれ!」

 

「む、無理よクロノ君」

 

「無理?」

 

「はやてちゃん……というかアプス? の周辺の空間が歪んでいて、転移は可成り離れた位置でないと出来ないみたい。さっきから、武装局員を回収しようとはしてるんだけど、一番離れていたグレアム提督だけしか回収は出来なかったの」

 

「そ、そんな!?」

 

 クロノが助けに行く事は疎か、回収するのさえ不可能となれば武装局員達は助けようが無い。

 

 これでは確かにクロノが行ってもアプスに殺られかねないし、転移回収が出来ないから見殺しになる。

 

「呂守」

 

「ん? 何だよ……」

 

「武装局員の身体に浮いた黒い斑点は何だ?」

 

「魔傷。アプスは敵を侵食する魔傷を与える事が出来るんだが、あれをやられたら魔力や小宇宙を使えなくなるだろうな。肉体が拒絶反応を起こすから」

 

「成程……」

 

 それを聞いて目を見開いたのは、アースラ組と聖王教会組が主だった。

 

「つまり仮令、生命が助かったとしても彼らは!?」

 

「魔導師としては、どうしようもなく終わってるな」

 

 世界は確かに、こんな筈じゃなかった事ばかりだ。

 

 【聖闘士星矢Ω】で魔傷に犯された瞬や紫龍や氷河や星矢、それにユナ達が癒されたのはアリアの小宇宙による浄化であり、此方でアプスを斃せたとしても、魔傷の治癒はしない。

 

 彼らは既に魔導師としては終わっていた。

 

「(まあ、あの娘なら癒せるかも知れないけどな)」

 

 唯一の希望は在るが……

 

「ま、僕は行かないけど。キューブはどうしたい? 今はまだ僕は君をそこまで拘束しない。行きたいなら行って構わないぞ?」

 

 全員が黒い冥界の鉱石で創られた鎧兜に身を包む男──地陰星デュラハンのキューブを見遣る。

 

 キューブは静かにエイミィに歩み寄った。

 

「え? あの……?」

 

 困惑するエイミィを他所にシステムを動かし、転移準備を行うキューブ。

 

「そ、そんな? アースラのシステムを操作して?」

 

 転移準備が完了したらしく再び歩くキューブへと、リーゼロッテがグレアムの持っていたデュランダルを投げ渡す。

 

「邪魔にはならないから、持って行って!」

 

 ゆっくり頷いて転移。

 

 驚いたのはグレアムだ。

 

「ロッテ、君は!」

 

「ごめんねぇ、父様。私も実はアリアと同じなんだ」

 

 苦笑いをしながら頭を掻いているリーゼロッテは、申し訳無さそうな顔ではあっても、決して悪びれてはいない様子だった。

 

「スパイ……か」

 

 リーゼロッテは〝脱出〟したのではなく、スパイとして送り返されたのだ──ユートによって。

 

 敗北者の女……それは、ユートの権能を行使する為の条件となる。

 

 嘗て、ペルセウスを斃した後に簒奪して掌握をした権能であり、最初に被害? に遭ったのが他ならないランスロット・デュ・ラックで、続いてグィネヴィアが毒牙に掛かった。

 

 その名を【降されし女王よ妃と成れ(プリンセス・アンドロメダ)】と云う。

 

 そもそも、あの世界に於いてのエチオピアの美しき王女アンドロメダというのは海獣そのもの。

 

 海獣──竜蛇たるティアマトーを降した鋼の英雄のペルセウスは、救い出した美姫アンドロメダ王女を、自らの妃として迎えたとされる訳だが、ペルセウスは即ち討ち斃したティアマトーをアンドロメダとして、妃にしたのである。

 

 それは闘った【まつろわぬペルセウス】本神から聞いた事だし、その影響からか彼から簒奪をした権能がこんなモノになっていた。

 

 問答無用で洗脳する権能ではないからか、洗脳解除を試みても失敗するというのは、以前にとある鬼姫が試して解っている。

 

 この権能の胆は、ユートと敵対する理由を打ち消してしまい、その結果として空いた部分を目の前の施術者の存在で埋めるのだ。

 

 そして、その埋める方法というのが親愛なり友愛なり恋愛なりの──愛情。

 

 恋人が居たり、そうでなくとも好きな相手が居たりした場合、優先順位が下がってしまう結果となる。

 

 好きな気持ちまで変わらないが、どちらを選ぶのか訊かれれば【ユート】だと答えるだろう。

 

「さて、キューブは無事に武装局員を救い出したか」

 

 今度はユートが進む。

 

「ユート!」

 

「私達の主を、はやてを」

 

「宜しくお願いね?」

 

「頼んだぞ!」

 

 守護騎士達は一緒に行きたいのを堪え、ユートへと主を託していた。

 

 そんなシグナム達に……

 

「任せろ!」

 

 確りと応える。

 

「我が身を鎧え、我が聖衣──双子座(ジェミニ)!」

 

 顕現する黄金の二面四臂なるオブジェ、顔にはアルカイックな二つの面。

 

「あ、あ……そんな!? 黄金星聖衣・双子座(ゴールドスタークロス・ジェミニ)? 聖王様が身に付けたとされ、戦船と共に喪われた筈の戦鎧が何故!?」

 

 カリム・グラシアの驚愕の声が響く中で、ユートは転移をすると【闇はやて】と真っ正面から対峙した。

 

 

.

 




 ユートの権能の名前は、仮に付けたモノです。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。