魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第4話:強者集結 突き付けられた事実

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 ユートは忍から離れて、此処へと来るまでに色々と考えてみた。

 

 先程は面倒は御免だと、忍とノエルから逃走してみたが、どうせすずかに接触してしまったのだし、別に忍が嫌いな訳でもない。

 

 苦手としているのは高町なのは、ただ1人。

 

 上司として接していたのもそうなのだが、どうしても苦手意識が先立った。

 

 だけどいつまでも逃げてはいられないし、だったら此方から接触してペースを握ろうと考えたのだ。

 

 それに時空管理局を相手にするなら、月村家と仲良くするのも悪くない。

 

 打算的だが、組織に個人で対抗するのは面倒臭い──ユートなら可能──話でもある。

 

 ユートは、この世界軸のギリシアに聖域を創ろうと考えていた。

 

 故にこそ、高町家である事柄の〝物証〟を掴むのと同時に、TAKAMACHIの誰か……理想を言えばなのは以外と接触を図りたいと思っていた処、恭也が現れたのは丁度良い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あー、すまないな。忍にはよく言って聞かせよう。だがそれはそれとしてだ、どうして俺が忍の恋人だと知っている? 君は何者なんだ?」

 

 恋人のストーカー疑惑を聞いて少しばかり引き攣りながらも、恭也が訊ねるとユートはニヤリと口角を吊り上げる。

 

「グッド! 言葉の端からよく気付けたね」

 

 ユートは軽く説明をするべく口を開いた。

 

「何者かについてや貴方と月村 忍嬢の関係を知っていた理由なんかは後で説明をさせて貰うよ。恭也さんには、この地に住まう達人や異能者を集めて欲しい。さざなみ寮や、八束神社、TAKAMACHIに海鳴総合病院に明心館に夜の一族と言えば、誰を連れて来るべきかは判るよね?」

 

「君は!」

 

「場所は月村家が広くて良いかもね? 貴方の妹にも関わる話になるし、直ぐにでも連絡をして貰いたい」

 

「なのはにだって?」

 

 大事な妹にも関わると言われては、恭也も黙ってはいられない。

 

 自らは認めずとも他が認めるシスコンとしては……

 

「今夜、6時までに月村家の邸に向かってくれる? 深夜には始まるから」

 

 そう言ってユートは姿を消してしまう。

 

 まるで狐か狸に化かされた気分だが、恭也は直ぐ父親である士郎と恋人の忍へと連絡し、その伝手でこの地の達人や異能者と思しき者を言われた通り、集める事にした。

 

 何より妹のなのはが絡むというなら恭也は元より、その父親である高町士郎にも否は無い。

 

 恋人に無理矢理持たされた携帯を操作し、月村 忍へ電話を掛ける。

 

 発信音が数秒聴こえて、向こうが出た音が鳴った。

 

「もしもし、忍」

 

〔恭也? どうしたの?〕

 

「お前がストーカーをしている少年が家に来た」

 

〔は? ストーカー?〕

 

「何でもその少年の宿泊していたホテルに陣取って、ノエルと2人して待ち構えていたらしいな?」

 

〔ブッ! ちょっ、違うからね? 別にストーカーって訳じゃないのよ!〕

 

 とんでもない誤解をされて忍は慌てて弁明する。

 

〔アリサちゃんと、ウチのすずかを誘拐から助けてくれたらしいんだけど、不可思議な力を使っていたらしくて、それに夜の一族の事もバレたかも知れないし〕

 

 誘拐の件については恭也も聞いており、それを救ったのがあのなのはと変わらない年齢の少年だったというのは驚きだが、足取りや仕種が一般人と掛け離れていたのを思い出す。

 

「それなんだが、主だった力の在る者を集めてくれと頼まれた。忍が彼に接触を図りたいなら、言う通りにするのも手だ。場所は忍の邸だと言っていたが、どうする?」

 

〔罠? 余裕? それとも他に何か?〕

 

「それは判らないが、忍に接触する気になったって事はだ、ストーカー行為が嫌になったんじゃないか?」

 

〔だから違うって……まあ良いわ。私も声を掛けてみるから、恭也もお願い〕

 

「判ったよ」

 

 電話を切り、恭也は直ぐにも行動を開始する。

 

 未だにこの行動が吉と出るか凶となるか恭也自信にも判らないが、それでも事態が動くなら自ら行動をせねばならないと考え、先ずは父である高町士朗に相談する事にした。

 

「それにしても、TAKAMACHI……どうしてかイントネーションに違和感を感じたな……」

 

 割とどうでも良い事を考えながら……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 午後の四時頃、高町恭也は思わずずっこけたいという気持ちを、ぐっと抑えて接客をしていた。

 

「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 高町士郎に事を伝えに来た場所は、彼の経営している喫茶店【翠屋】である。

 

 七年前、高町士朗が仕事で──一般やなのはには、事故と伝えてある──怪我負ってしまい、それを期に裏の仕事から足を洗って、喫茶店の店長として妻と共に働いていた。

 

 【喫茶翠屋】は、駅前という絶好の条件を持つ立地に存在しており、開店したばかりの頃は兎も角、今では多くのお客様にご来店頂ける人気店となっている。

 

 何しろ、売約済みとはいえ格好の良い店長に、見目の麗しいパティシエールが経営し、時々だがその子供と思われる三つ編みお下げに眼鏡の美少女と、目付きがやや鋭いが店長に似通った容姿の青年がフロントで接客をしてくれるし、最近では大学生くらいの美しい女性が店を手伝っていた。

 

 要は眺めているだけで目の保養になるのだ。

 

 しかも売っているお菓子やお茶や軽食など、本当に冗談やお世辞抜きで上手いとくれば、通わない理由なんて金欠くらいしか無い。

 

 勿論、その青年というのは高町恭也の事。

 

 報告の序でに店を手伝う事になったのは構わない、手伝えばバイト代くらい出るのだから。

 

 大学生の身には、少しでも稼げるなら稼ぎたいという気持ちもあるし、家族を手伝うのは当然でもある。

 

 だが、今日ばかりは頭を抱えたくなった。

 

「今日さ、何人くらい集まるのかな?」

 

「じゅ、10人以上は集まると思いますよ」

 

「う〜ん、じゃあねぇ……翠屋特製シュークリームを20個。それと此方で食べる分を2個と、紅茶をダージリンで」

 

「畏まりました」

 

 そう言って一旦、奥へ引っ込んだ恭也は両親に注文を伝える。

 

 その上で頭を抱えた。

 

「何で彼が此処に居る?」

 

 何しろ先程、別れたばかりの少年がしれっと店に現れたのだから、驚いてしまうのも無理はない。

 

 だけどお金を払って食べに来れば、誰であれお客様には違いない為、マニュアルに沿って歓待した。

 

 するしか無かったとも言うのだが……

 

 ややあって、母親であり翠屋のパティシエールたる高町桃子が、件の注文の品を寄越してきた。

 

「じゃ、お願いね恭也」

 

「うん、判ったよ母さん」

 

 トレイに載せた注文品を運ぶと、恭也はユートの座る席のテーブルの上に品物を置く。

 

「……ごゆっくり」

 

「ありがと」

 

 ユートは軽く礼を言い、翠屋特製のシュークリームにかぶり付く。

 

 その表情は疑うのがバカらしくなるくらい、とても良い笑顔であった。

 

 嘘偽り無く、心から美味しいと思って綻ばせた笑顔であるのだと、長年に亘って翠屋の手伝いをしてきた恭也には理解出来る。

 

「ホント、おかしな奴だ」

 

 苦笑いをしながら呟き、恭也は奥へと引っ込んだ、高町士朗に事のあらましを伝える為に……

 

「父さん」

 

「うん、どうした恭也?」

 

「実は……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 月村邸……

 

 【夜の一族】を構成している大家の一つ、月村の本家筋が住まう屋敷である。

 

 月村、綺堂、氷村の三家は【夜の一族】では絶大な発言力を持つ大家で、その内の月村と綺堂は海鳴市に居を構えていた。

 

 何しろ、月村の爺様……忍とすずかの祖父は長老格の一人である。

 

 月村邸はそれなりに大きい為、可成りの人数を収容しても充分に機能した。

 

 そして現在、この邸には力在る者達が集っている。

 

 高町家から高町士朗と、高町恭也と高町美由希という【永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術】の使い手達。

 

 流派の名の通り、小太刀を二振り使う古流剣術ではあるが、鋼糸や飛針などの暗器も使っており、要人の護衛が主の御神正統流と、要人の暗殺が主の御神裏・不破流が存在している。

 

 さざなみ寮からは、寮長である槙原耕介と付き添いで妻の槙原 愛が来た。

 

 他にも仁村真雪も強者ではあるが、本職が忙しくて来れなかったらしい。

 

 真雪の妹の仁村知佳も、HGSで力を持っているのだが、現在はカナダ在住で仕事をしている。

 

 槙原耕介は、元さざなみ寮の住人であった神咲 薫から【神咲一刀流】を習っていたが、並外れた霊力を持つ事から【破魔真道剣術・神咲一灯流】の修業に切り替えて、退魔師の力を持っていたりする。

 

 耕介の他のさざなみ寮の住人では、刑事をしているリスティ・槙原と、八束神社の管理を任されている、神咲那美が来ていた。

 

 リスティも知佳と同じくHGSで、那美は【破魔真道剣術・神咲一灯流】を使う退魔師、リスティはある特例で刑事となっており、司法関係にパイプを持つ。

 

 那美の腕の中には子狐が眠っているが、実は三百年前から存在する妖孤の類いで名前は久遠という。

 

 また、海鳴総合病院の女医であるフィリス・矢沢も来ていた。

 

 フィリスはリスティの妹という触れ込みだがクローンという関係上、実は娘とも云える。

 

 リスティと同様、HGSによる超能力を使う。

 

 巻島十蔵は明心館空手・本部道場の館長で、士朗とは友人の関係にある。

 

 忍とすずかの叔母であり【夜の一族】の一員たる、綺堂家の綺堂さくらもこの場に来ていた。

 

 獣人の血が混じる為に、獣耳や尻尾を出す事が出来て力も相当に強い。

 

 これにホストを務める忍とメイドのノエル、更に娘が関わったとしてデビット・バニングスも含んで全員となる。

 

 まあ、ノエルの妹であるファリンも居て、メイドとしてお茶や茶菓子を出すなどをしており、給仕を務めているのだが……

 

 これらを集めたのはたった1人の少年、緒方優斗。

 

「で、君がボクらを集めた理由はなんだい?」

 

 特に自己紹介もせずに、銀髪の女性が話し掛けた。

 

 リスティ・槙原だ。

 

 刑事という職業柄、こういう事には慣れている。

 

 まあ、自己紹介などされずともユートは全員を熟知しているし、リスティ達にしても恭也から名前くらいは伝わっていた。

 

「先ずはご挨拶を、この度は呼び掛けに応えて下さりまして、誠にありがとうございます。僕の名前は緒方優斗、異邦人(ストレンジャー)であり世界の管理人を自称しています」

 

「世界の管理人? それは随分と大きく出たわね? 誘拐犯からすずかを助けてくれたのは感謝するけど、ハッタリや法螺の類いって好きじゃないのよ」

 

 忍は苛立ちを隠す事無くキッパリと言う。

 

 どうやら逃げられたのが余程悔しかったらしい。

 

「僕もストーカーをされるのは好まないよ?」

 

「ストーカーじゃない!」

 

 真っ赤になって怒る忍だったが、ユートは何処吹く風といった感じで笑う。

 

「前置きはこれくらいにするとして、取り敢えず核心に入ろうと思う」

 

 一度言葉を区切り、周りを見回してから再び口を開いた。

 

「この海鳴市で、余り公にはならないだろうけど騒乱が起こる」

 

「騒乱?」

 

「古の遺物がこの海鳴市に降り注いだ、ソイツが騒乱の源となるんだよ。正確には今夜から始まる……否、既に始まっているんだ」

 

「何ですって!?」

 

 余りにも寝耳に水な話であり、それを全く把握してなかった忍が驚愕する。

 

 若しそれが本当だとして今日では、止めるにしても余りに時間が無い。

 

「槙原 愛さん」

 

「はい?」

 

 何故、名前を知っているのかという疑問と、名指しの理由が判らないという、二つの意味から愛は首を傾げてしまう。

 

「その始まりの場所となるのは、槙原動物病院だよ」

 

「へ?」

 

「今日の深夜、謎の怪物が現れて、槙原動物病院の壁や院内や周辺の道路を滅茶苦茶にしてくれる筈だよ」

 

 ユートは薄ら笑いを浮かべつつ、愛にその事実のみを淡々と突き付けた。

 

 

 

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