魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第21話:曼珠沙華 再会する夏の神ちゃま

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〔なっ! 君は、自分が言っている意味を理解しているのかっっ!?〕

 

 黒の子……ではなくて、クロノ・ハラオウンが映像の向こう側でがなる。

 

 勿論、リンディ・ハラオウンも良い顔はしない。

 

「理解しているさ。君らに無人世界の紹介と其処までの足代わりにアースラを使わせてくれるなら、夏休みに予定している【闇の書の終焉】ってのを見る権利を与えよう……と、そう言っているんだからね」

 

 本来なら時空管理局など御呼びでないが、何かしらを手伝わせる事で見学くらいはさせても構わないとは考えている。

 

 とはいえ、足代わりにされる方は堪ったものではなくて、それがクロノ・ハラオウンの叫びに繋がった。

 

「本来なら必要なんて無いけど、とある使い魔を捕縛して得た情報にハラオウンと闇の書の関係を知った。だから温情として此方側の条件を呑むなら、見学させると言ってやっている」

 

〔くっ!〕

 

「嫌なら構わない。さっきも言ったけど、別に必要な訳じゃないからね。断るなら火星にでも行って、勝手に決着を着けるまでだよ」

 

 それは困る。

 

 リンディにせよクロノにせよ、闇の書は夫を父を喪う原因となったモノ。

 

 知らなかったというなら未だしも、知ってしまっては関わらない選択肢なんてそもそも有り得ない。

 

〔何故、私達が関わってはいけないのですか? 手勢は必要となるでしょう? 私達、時空管理局からすれば第一級捜索指定古代遺失物(ロストロギア)闇の書は強大なる破壊を齎らすわ。ならばこそ、手勢で攻めて往かないと逃げられてしまうかも知れないし、何より闇の書には特殊な能力なども確認されているの〕

 

「無限転生機能とか?」

 

〔っ! 知っていたの?〕

 

「貴女達の言う闇の書──正式名称は【夜天の魔導書】と云い、幾代にも代替わりした主達の中の誰かによって改悪、それによる性質の変化は名前すら歪めた。本来の夜天の魔導書の役割とは、次元世界を旅して回り魔導の知識などを蒐集、後世に遺したり研究をする謂わば資料本だね」

 

〔〔え?〕〕

 

 何を言われたのか理解が及ばず、ユートの説明を呆けた口調で返す。

 

「何故にそんな口調?」

 

〔そ、それは……〕

 

 リンディもクロノも知らなかった、闇の書の来歴に関する情報の一切を。

 

 原作でもユーノ・スクライアが無限書庫で調べて、初めて【夜天の魔導書】の名前を知ったくらいだ。

 

 識っているのは飽く迄も闇の書となってからの性質やら、守護騎士が感情など持たないプログラムに過ぎないという誤った認識。

 

 とはいえ、闇の書の来歴を知ったとしてもリンディにとってアレが夫を殺したロストロギアに違いなく、クロノにとっても父親を奪った事に変わり無い。

 

 だからこそ闇の書に関われるのなら関わりたいし、出来得る事ならば自らの手で決着を着けたかった。

 

「大体にして、僕の勘だと一山幾らな武装局員が何人集まろうと、闇の書に対しては何も出来ない」

 

〔か、勘って! 僕らの事を莫迦にしてるのか!?〕

 

「君こそ、カンピオーネが勘を働かせる意味を知らないだろう?」

 

〔な、なにぃ!?〕

 

「予知とかじゃないけど、カンピオーネの勘……少なくとも戦闘に関しての勘は当たり易いんだ」

 

 それこそ、ニュータイプだサイコドライバーだのと云われる連中よりも。

 

 そう、勘だ。

 

 予感と言い換えても良いだろうが、ユートは闇の書との決戦で或いは全力全開手加減無しに闘わねばならないと感じている。

 

 〝なのはさん〟に掛けられた子供化を解除する為、神の精気を吸収しなければならないかも知れない。

 

 嘗て、力を喪ってしまったユートが一時的に力を取り戻すべく、ナツ様イチ様から口移しで精気を貰っていたが、恐らくそれでは足りないだろうから……

 

「(ナッちゃんに会いにいかないといけないか?)」

 

 イチ様は既に十六年くらい前に、ユートが関わった鬼神楽事件で人間の市乃に転生して神力を喪失しているが為、未だに健在しているナツ様に頼むしかない。

 

 鬼神と融合してとんでもなく強化された芳賀真人を倒すべく、真なる力の解放をする為にユートはイチ様とナツ様を抱いた。

 

 特にイチ様はどうせ芳賀が死ねば消える身だから、殆んど全ての神力を与えてくれたのだ。

 

 回復が不可能なレベルで神力を喪い、イチ様は鬼神の死を見た後で消滅する。

 

 その後、人間として転生していたのはユートも知らなかった訳で、この世界に来て良かったと思える数少ない出来事だったろう。

 

 ユートが〝ナッちゃん〟と呼んでいるナツ様だが、確かあの時にも協力者だった音羽葉子と共に水杜神社に居る事は知っている。

 

 相当な美人ではあるが、享楽的で基本的には自分が楽しめるのが一番みたいな感じであり、確か旦那さんが水杜神社に住んでいると聞いた事があった。

 

 九尾の狐たる葉子を抑える実力を持ち、水杜神社の巫女さん姉妹──天乃杜神社の姉妹みたいなもの──とも仲は良いらしい。

 

 ユートはそんな気は無かったとはいえど、端から見ればナツ様をヤり捨てたとされてもおかしくないし、殴られる覚悟はしておこうと心に決めた。

 

 そもそも、ナツ様は元が人間から神化した神様で、次第に置いていかれる寂しさもあり、人見知り全開で生きてきたらしい。

 

 それを葉子の旦那さんが色々と世話を焼き、ようやっと少しは向き合える様に改善がされたのだとか。

 

 謂わば保護者に近い。

 

 市乃は既にナツ様に会っており、どうやらユートの事に関しては納得をしているらしいが、葉子の旦那がそれを許容するかは別問題であろうし。

 

 因みに、ナツ様も市乃──というかイチ様だけど、この二柱は見た目が幼いが故に、抱き締めるとすっぽりと納まる感じで気に入っている。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 結局はリンディ・ハラオウンが折れ、クロノもそれには従わざるを得なかったという形となり、ユートは決戦の場となる無人世界と其処へ向かう足を得た。

 

 当たり前だが、聖王教会から来るであろう少女達も乗せて来る筈。

 

 とはいえ……

 

「どうなるかな? なあ、キューブ」

 

「……」

 

 傍に佇むのは不気味に輝く黒い鎧兜を身に付けて、静謐な雰囲気を出す男?

 

 兜には仮面が付いている所為で、この人物の正確な性別は判らない。

 

 まあ、身体の線が女とは思えないから男だろう。

 

 彼はキューブと呼ばれているが、それはハーデスの百八の魔星が一つ……地陰星デュラハンの冥衣を纏っていたのがキューブだったからであり、ユートの冥闘士としての彼は仮名で呼ばれているに過ぎない。

 

「君の進退は〝其処〟で決まる訳だからね」

 

「……」

 

 キューブ(仮)はただ静かに佇んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夏休みの始めの日……

 

 ユートは水杜神社へと足を運んでいた。

 

 子供化した身体を戻す為には、やっぱり神の精気が必須となる訳ではあるが、アテナとは初めて出逢ってからこっち、御触りなどしかしてない仲だし行き成り抱かせて欲しいと言ったとして、抱かせてくれないだろう事は想像に難くない。

 

 彼女は古のアテナだが、一応はギリシア神話に習合された処女神の相も間違いなく持つし、故にこそ中々に進展もしないのだ。

 

 市乃はそもそも人間で、はっきり言って論外。

 

 こうなるとユートが知る現人神は、水杜神社に住まうナツ様のみとなる。

 

 前に市乃に逢って以来、いずれは挨拶も込みで会いに行かねばと考えてたが、割と早い再会となりそうで何よりだ。

 

「こんにちは」

 

「おや、こんにちは」

 

 穏やかな笑みを浮かべて掃除をする男性、三十路も半ばの見た目から恐らくは件の滝峰幹也だろう。

 

 以前にナツ様から聞いた話からすると、滝峰幹也は何らかの仕事へと就くべく修業や勉強をしていたらしいが、この場に居るのなら諦めたか? 或いは夢は叶っているかのいずれかだ。

 

 どちらにせよ、音羽葉子の住処がこの水杜神社なのだし、旦那さんが同じ敷地に住むのはおかしくない。

 

「君は参拝に来たのかな? お父さんか、お母さんは一緒じゃないのかい?」

 

 見た目が十歳前後だからだろう、滝峰幹也は完全に子供に対する応対できた。

 

「参拝するのは吝かじゃないけど、水杜神社に来たのは神様に会いに……だよ」

 

「っ!」

 

 この言葉を聞き滝峰幹也は警戒心を上げた。

 

「神様? 何の事だい?」

 

「居るだろう? 犬の耳に尻尾、髪の毛は極めて白髪に近いアッシュブロンド、体型は幼めで物静かな夏の神様──ナッちゃんが」

 

「っ!? それは……」

 

 流石にそこまで容姿を言われては、滝峰幹也としても誤魔化すのは不可能だと感じたのだろう、言い淀みながらも社殿を見遣る。

 

「ハァ……桂香、悪いけどナツ様を呼んできて貰えないかな?」

 

「良いの? その子、あからさまに怪しいけど……」

 

「邪気は感じないからな」

 

「了解」

 

 桂香──水杜神社に於ける戦巫女、音羽姉妹の姉である音羽桂香に滝峰幹也はナツ様を呼ぶ様に言う。

 

 尚、音羽桂香は三十路の半ばくらいである。

 

 彼としても余りナツ様を前面に出したくはないが、少年──ユートからは邪気を感じなかった事もあり、仕方がないと考えた。

 

 暫くして幼い容貌に犬耳を付けた巫女装束姿の少女──ナツ様を連れ音羽桂香が歩いてくる。

 

 序でに音羽家の次女たる音羽初花も一緒だ。

 

 三十路の前半くらいで、然し元々が幼かった事から二十代半ばでも通じそうな見た目で、茶髪をポニーテールに結わい付けていた。

 

「桂香、何で初花まで来たんだ?」

 

「ナツ様と一緒に居たから着いてきたのよ」

 

「そうか……」

 

 そういえば初花にナツ様の御相手を任せていたと、滝峰幹也は思い出しながら首肯をする。

 

 因みに、この桂香と初花は正史ではどうなのか知らないが、この世界では滝峰幹也と結ばれていた。

 

 何度かの〝浄化〟をした事もあり、やはりある程度の情が沸いたらしい。

 

 正式に結ばれた御相手は音羽葉子だったが、謂わば愛人的な立ち居地に姉妹が納まっていた。

 

 この辺は天乃杜神社に於ける天神かんなとユート、この二人の関係が似ているのかも知れない。

 

 まあ最も、最終決戦後にユートは帰還を果たした──正確には別の世界に転移──から、天神かんなには子供も出来なかったが……

 

「久し振りというには長過ぎるか、それにこの姿じゃ解らないかな?」

 

「ん、ユート……十六年振り……」

 

「あ、解ったんだ」

 

「んー、けはい?」

 

「成程ね」

 

 流石は神様。

 

 単純な戦闘力は低いが、はっきりとユートの気配を読み取ったらしく、何処か得意気にも見えた。

 

「けど、泣いて抱き着いて来ても良かったのにな? 割と普通な反応なんだ」

 

「ん、居るのいちのから聞いてたから……」

 

 心の準備は出来ていたと言いたいのか、右手首へと填まる精霊聖衣の聖衣石を掲げて見せてくる。

 

 市乃からバッチリと受け取っていた様だ。

 

「そっか。今日、会いに来たのは他でもない……現在の姿だと全力を出し切れないんだが、どうにも全力を出さないといけない事態になりそうでさ。市乃は既に人間だから論外、もう一柱の神様に心当たりはあるんだが、気位が高いからね。まだ当分は無理なんだよ」

 

「ん、理解した。なら部屋に行く」

 

「助かる」

 

「問題無い」

 

  二人の会話に付いていけてない滝峰幹也と桂香と初花の三人、仕方がないと滝峰幹也が代表となって、ユートに話し掛ける。

 

「待ってくれないか?」

 

「何かな?」

 

「結局、どういう事なのかさっぱりなんだが……」

 

「ああ、そうだったね」

 

 ユートは説明をした。

 

 十六年前に天乃杜神社へ応援に行ったナツ様だが、その際にユートと出逢っている事、そして力を喪っていたユートに力を一時的に取り戻させるべく、精気を口移しで与えていた事。

 

 鬼神との最終決戦にて、真の力を完全に取り戻す為にイチ様とナツ様を抱き、相当な量の精気を吸収して闘いに勝利した事もだ。

 

「……だ、抱いてって」

 

 桂香はユートとナツ様を交互に見遣り、顔を真っ赤に染めてしまう。

 

「うわー、ナツ様があんな子供とえっちっち?」

 

「いや、子供なのは仮の姿であって本来の姿じゃないんだけど……」

 

 初花の中では十歳前後なユートとナツ様の情交で、とってもアブノーマルだったりする。

 

 目をキラキラと輝かせている辺り、本気でそう思っているのが見て取れた。

 

「つまり、君は……ナツ様をヤり捨てたと?」

 

「捨てた心算は無いけど、結果だけを視ればヤり捨てた上に、再びヤろうとか思って現れた不貞の輩だね」

 

 バキィッ!

 

 その瞬間、滝峰幹也の拳がユートの頬に突き刺さって吹き飛ばされた。

 

「ちょっ、幹也!?」

 

「幹也さん!?」

 

 行き成りの行為に桂香も初花も驚愕し、目を見開いて抗議の声を出す。

 

 まあ、見た目が十歳前後なだけに仕方がない。

 

「気は済んだ?」

 

「まだまだだ。とはいえ、ナツ様が気にしていないのに俺が気にし過ぎてもおかしいし、これ以上は何もする気は無いさ」

 

「そ、なら行かせて貰うけど構わない?」

 

「行く? 何処へだ?」

 

「ナッちゃんの寝室」

 

「「「ブフッ!」」」

 

 余りにも明け透け過ぎ、三人は噎せてしまった。

 

「十六年前の鬼神戦と同じだよ。僕は全力を出す為に神の精気を大量に必要としているけど、現人神で僕にある当てはナッちゃんと、ギリシア神話のアテナだ。市乃は論外だからね」

 

「アテナ……まあ、処女神は抱けないよな」

 

「いや、正確にはアテナの源流だから。処女神の相はアルテミス程に厳格じゃあないんだよ。単に其処までの仲じゃないだけだね」

 

 六と九的な事まではスるけど、流石に本番までヤるにはちょっとアテナ側には覚悟が足りない。

 

 かといって、今や人間の市乃では意味がなかった。

 

 つまり、現状で最有力の現人神でユートに抱かれても好いとまで言えるのは、ナツ様のみと云う事。

 

 唯でさえ神とは我が強いもの、ユートの再誕世界のアテナなんて子供の頃には同い年くらいの少年へと、『馬になりなさい』などとほざくくらいに。

 

 それは兎も角、だからこそナツ様や過去のイチ様は貴重な存在でもある。

 

 芳賀真人が本体の鬼神と合一し、木島 卓やかんなとうづきだけでは手が付けられなくなり、だからといって力を喪ったユートでは僅かばかり力を取り戻しても意味は無かった。

 

 イチ様とナツ様はユートの人となりを理解したし、好意もうづきがユートへと向けるより、寧ろかんながユートに向ける好意に近い想いを二人が懐いていた事も手伝って、自らが申し出た事である。

 

 イチ様は真っ赤になって吃りながら、ナツ様も白い肌の頬を薄く桃色付けて、神氣譲渡と称した情交をと言い出したのだ。

 

 芳賀真人を放ってはおけないし、美しい女神様からの申し出を断る筈もなく、ユートは木島 卓達に時間稼ぎをさせる中で、イチ様とナツ様を抱いた。

 

「ん、寝室……着いた」

 

 ナツ様が普段から使っている寝室で、布団が畳んで置いてあるのは今回の事を予見していなかったから。

 

 ナツ様は布団をいそいそと敷き、その上でちょこんと正座をするとユートの方を見上げ、何処か潤んだ瞳で待っていた。

 

 そんなナツ様を軽めに押し倒すと、巫女装束をはだけさせて双丘と呼ぶのには烏滸がましいレベルで小さな胸を晒させ、腕で首を浮かせて唇を重ねる。

 

 無抵抗なのを良い事に、舌を口内に侵入させて蹂躙していき、ナツ様の舌へと自分の舌を絡めていく。

 

 唇を離せば絡め合っていた舌と舌の間に、混ざっていた二人の唾液が糸を引いて淫靡な気分を弥増す。

 

「ナッちゃんにとってみれば十六年振り、僕の主観時間からなら二百年以上か。だから……愉しもうか」

 

「ん……」

 

 既に重なり合った人影、それでも二つだったものが完全に一つに溶け合う。

 

 衣擦れと水音が淫らに乱れて室内に響き、その日は全く二人が寝室から出て来る事は無かった。

 

 

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