魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第20話:宴 一つの区切りと新たな展開

 黄金聖騎士(ゴールドセイント)の紹介を終えて、ユート一行は【教皇の間】と呼ばれる双魚宮の先へと向かった。

 

 漓亜は『そういえば』と思い出す。

 

 まだ兄には告げていなかったが、聖域の教皇というのは創設者たる緒方優斗の事ではなかったか?

 

 そう、ユートは漓亜に対してアイラと新也を迎えに行く際の話で、既に教皇である事を両親を交えて聞かせている。

 

 呂守は居なかったから、ある意味でハブられた形。

 

 とはいえ、すぐに知れる事だったし『まあ、良いか』で済ましてしまう。

 

 ユートを見つめる漓亜、【魔法少女リリカルなのは】の世界に降り立つ転生者にして、然し数多の世界にも干渉していた転移者(トリッパー)でもある。

 

 その年齢は本人ですら、トータルでは覚えていないと言わしめ、聖域はユートが独自に創った私設武装集団【十二宮騎士団(ゾディアック)】を基にしているのだと云う。

 

 何処のソレスタルビーイングだと訊きたい。

 

 その起源はハルケギニアに初めての転生をした際、トリステイン王国に創った組織らしく、幾つかの部隊に分かれているのだとか。

 

 余り詳しくは聞いていないが、聖騎士(セイント)は聖闘士を基にして独自開発した聖衣で武装しており、今は殆んど所属してないが男も居た様だ。

 

 聖衣を造る……修復師の存在は知っているのだが、造れる人間が居るとは?

 

 何でもユートは再誕世界で聖衣創成師で、聖域に在る聖衣は双子座以外の黄金聖衣を除くと、全てユートと牡羊座の貴鬼が造った物に変えているとか。

 

 双子座の黄金聖衣に関しては、アテナ──城戸沙織からユートに贈られた為、代わりの双子座聖衣を聖域に置いてきたらしい。

 

 形としては交換だ。

 

 それ故という訳でもなかったが、今の双子座聖衣にはこれまでには存在していなかった秘密が在る。

 

 そして、その秘密の所為で形状もそれなりに変化せしめていた。

 

 尤も、呂守や漓亜が見て双子座聖衣だと判る程度の変化でしかないが……

 

 あのバケツ……もとい、マスクも大きく形状を変えてはいない。

 

 とはいえ、強度や輝きはこれまで以上である。

 

 

 閑話休題

 

 

 ロラーザ・ロードによる移動も終わりに近付く。

 

 目の前には今までの宮に比べても荘厳な雰囲気で、重苦しい空気に包まれているみたいだ。

 

「教皇の間……か」

 

「そう、此処が聖域を統べる謂わば中枢部。教皇が住まうべき教皇の間」

 

 聖域に於いて、十二宮を守護する黄金聖闘士はそもそも何処に住むのか?

 

 答えは十二宮そのもの。

 

 牡羊座の貴鬼なら白羊宮だし、牡牛座のハービンジャーなら金牛宮といった感じで十二宮には個室が存在しており、其処にそれぞれが暮らしている。

 

 それは教皇も同じ事。

 

 教皇の間には謁見の間とも云える赤絨毯を敷かれた玉座も有るが、サガが入っていた様な広々とした風呂だって有るし、天蓋付きのベッドだって有るだろう。

 

 その割にはアテナの寝所は石のベッドだったが……

 

 そんな実際に見た本当の聖域をモデルとしてる為、教皇の間には暮らしの必需品も置かれていた。

 

 欠点が有るとするなら、ユートは滅多にこの教皇の間に来ない為、基本的には誰も住んでいない事か。

 

 折角、神々の迷宮も構築しているのに勿体無い気もしないではないが、困った事にユートの活動拠点となるのは日本。

 

 しかも、本物の聖域に居た時ですら一年以上を留まった事は稀だし。

 

 オリオン星座のエデンを鍛えた時くらいだろうか、ユートが聖域に一年も留まり続けたのは。

 

 オマケに処女神を奉った聖域で、星華を相手にヤっていたのだから頭を抱えたくなったであろう。

 

 宗教観念で云うならば、えらく罰当たりな行為だ。

 

 カツカツカツ……

 

 大理石っぽい床を踏み締める音を響かせながらも、ユート達は奥を目指して歩いて進んで行った。

 

 ギギギギギッ!

 

 重々しい音が鳴り響き、本物の聖域で星矢が殴り開いたのと同じ鉄扉が開く。

 

 その先の広間こそ教皇の間の本殿とも云うべき部屋であり、赤い絨毯が敷かれた向こうには玉座が置かれていて、それに座る誰かが確かに存在をしていた。

 

「あれが教皇か?」

 

「ぶふっ!」

 

「何だよ、漓亜?」

 

「な、何でもないよ」

 

 教皇が誰なのかを把握している漓亜は、未だに知らない呂守がてんで外れている事を大真面目に言ったものだから、思わず吹き出してしまったのである。

 

 まあ、言う気も無い。

 

 それに、あそこの玉座に座るのが誰か気になった。

 

 玉座に近付くと其処には女性──否、中学生くらいの少女が座っている。

 

 短い銀髪、闇色の瞳。

 

 来ているのは、古ギリシアで普段着にされていた物よりも上等な貫頭衣。

 

 小さい姿だがその顔はといえば美しい。

 

 人形の様な……それは確かに一つの美の形容だが、少女のそれはそんなもので形容をし切れなかった。

 

 女王の如く心は気高く、母の如く深い包容を持ち、少女の如く瑞々しい肢体は完成に近い女体。

 

 玉座に立て掛けた長物、それは少女の背より遥かに長い柄の鎌。

 

 それを見た呂守は目を見開いて……

 

「ア、アテナ!?」

 

 叫んでしまった。

 

「「アテナ?」」

 

 此処はギリシアはアテネであり、其処に居る少女がアテナと聞き新也とアイラは顔を見合わせる。

 

「しかも、聖闘士星矢じゃなくてカンピかよ!?」

 

「セイントせいや?」

 

「カンピ?」

 

 新也もアイラも意味が判らず首を傾げてしまう。

 

 城戸沙織でなく闇の女神たるアテナ、その本地とは決してギリシア神話に与する神々の一柱などでなく、地方で奉られるの土着神的な存在であり、冥府の闇を司る地母神とされる。

 

 女王メドゥサと母神たるメティス、そしてアテナという三相一体の源流である夜闇の女神アテナ。

 

 唯、原作とは違って白いチョーカーを首に填めているのが違いだが……

 

「フフフ、よくぞ我が神殿たる聖域に参った。我が名はアテナ。この地に祀られし女神也!」

 

 立ち上がって外連味たっぷりに言い放つアテナは、何処か愉しそうに笑みを浮かべながら大仰な動作で、鎌を持って右腕を内側から外側へと揮い、コツン! と石突きを床に突く。

 

 嘗てなら人間など塵芥の如くであり、視界にも入れていなかった女神様だが、今ではこんな小芝居までもを演じて魅せている訳で、えらい変わり様だ。

 

 そんなアテナの御前にて跪いて頭を下げると、まるっきり彼女に仕える騎士の様な態度を取るユート。

 

「新たなる聖域の守護者とその家族をお連れしました……我らが女神アテナよ」

 

「ふむ、使命を果たしての帰還……御苦労であった、双子座・ジェミニの聖騎士にして教皇ユートよ」

 

「へ? 教……皇……? 優斗がか?」

 

 ポカンと間抜けな顔を晒す呂守、漓亜は然も可笑しそうに軽く吹き出す。

 

「僕が聖域やグリニッジ賢人機関、日本にも正史編纂委員会なんかを設立したと話した筈だけど? 流石にグリニッジ賢人機関や正史編纂委員会まで纏めるのはキツいから、聖域だけに留めてはいるけどね。それでも他の組織にも僕の関係者がトップを張っているよ。で……だ、聖域のトップの教皇には僕が就いている」

 

 呂守は呆然。

 

 気付けるヒントは有ったのだが、それに気付けなかったという訳だ。

 

 他の主要国にもこの手の裏組織は設立をしていて、全てにユートのメスが入っている。

 

 少なくともG8には。

 

 つまり……

 

 フランス

 

 アメリカ合衆国

 

 イギリス

 

 ドイツ

 

 日本

 

 イタリア

 

 カナダ

 

 ロシア

 

 この八か国の事だ。

 

 これに加えて、【カンピオーネ!】主体な世界には羅濠水蓮が居た中国、更にユートの再誕世界では聖域が存在したギリシアという訳である。

 

 まあ、中国はあれやこれやが有ったりして困る事も多々なのだが……

 

 同じ廬山にユートの再誕世界で紫龍や春麗や老師が暮らしていたし、ユートも何度か足を運んでそれなりに愛着もあったしで、切り捨てるにはという状態。

 

 彼らとて裏側──様々に存在する悪鬼羅刹に魑魅魍魎を識るが故に、それに対してどの道であれ裏組織に頼らねばならぬと理解を示すが故に、更に国益に反さないと説明をされた上で、国防に関する物を受け取れるメリットを視て、ユートの提案を受け容れたのだ。

 

「さて、それじゃそろそろ降りようか」

 

「うむ、今宵は何を食せるのか楽しみだな」

 

「すっかり腹ペコ女神になったな」

 

「ふん、食の楽しみを妾に教えたのは貴方であろう」

 

「まぁ……ね」

 

 恥ずかしそうに白い顔を赤らめつつユートに言い、それを受けた張本人はといえば、頬を掻きながら苦笑いを浮かべて肯定した。

 

「へ? あ、降りる?」

 

「ああ、今頃は仲間が宴の準備をしているよ。新しい仲間を迎える……ね?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夜の帳が降りて月と星の光が煌めく聖域で、飲めや歌えやの宴会が開催をされている。

 

 ギリシア政府から雇用対策に派遣をされた現地人、雑兵の皆さん達も普段から粗末な食事を摂っている訳でもないが、それでも豪華絢爛な食事が出た事に喜びを露わにし、警備係を順繰りに代わる代わる行いながらも、全員が美味い食事に有り付いていた。

 

 そんな宴の中で、やはり驚愕している呂守と漓亜。

 

 改めて白銀聖衣を纏ったシャロンは良いとしても、他に紹介された青銅聖騎士や白銀聖騎士、それは確かに驚くであろう。

 

 明らかに【カンピオーネ!】世界の人物が数人と、更には【風の聖痕】世界の人物が何人か、何故か仲良くしているという不思議。

 

 混淆世界というのを知るユート達は兎も角、二人が驚くのは無理もなかった。

 

「ってか、あの娘らって……全員が優斗の嫁かよ?」

 

「いや、全員って訳じゃないんだが? 城島 晶とか鳳 蓮飛とかの現地雇用だとソコまでの仲にはなってないしね」

 

「ああ、そりゃ例外か」

 

 基本的に十歳そこらでの年齢を通していたからか、流石にこの二人がユートに靡いたりはしない。

 

 とも限らないが、現時点では間違いなく靡いたりはしていない筈だ。

 

「アリシア……だよな? 山羊座(カプリコーン)候補になってるって」

 

 フェイトに似ていながらちんまい、それは対外的には仮死状態で眠り続けていたから、新陳代謝が殆んど無かった所為だとされて、真実は死んでいたアリシアを復活させたから。

 

 精神が子供の侭なのに、身体だけ成長させても害にしかならないし、死からの復活で会得したセブンセンシズも、今は肉体の動きに使っている現状もある。

 

 フェイトとは仲良くしていて、プレシアがそんな娘の姿を微笑ましく見守っているのが印象的だ。

 

 二人は鋼鉄聖騎士としての参加で、プレシアは保護者としての参加だとユートは教える。

 

 道理でなのはやその家族も居る訳だと、呂守も漓亜も納得をしていた。

 

 仔獅子星座・ライオネットの聖衣を纏うアリサ・バニングスも、大空聖衣・キグナスを纏うすずかと共にジュースを飲みつつ、食事を摘まんでいる様だけど、其処へ白銀聖衣を纏い仮面を着けた少女が近付く。

 

「初めまして、アリサ・バニングスに月村すずか」

 

「誰よ、あんた?」

 

「アリサちゃん、この人は白銀聖騎士だよ? 上役に当たるんだから失礼だよ」

 

「そうかもだけど……」

 

 行き成り話し掛けられれば警戒もする。

 

「ふふ、私は白銀聖騎士で蛇遣座(オピュクス)よ」

 

 そう言って白銀色に隈取りが付いた仮面を取った。

 

「「っ!?」」

 

 その素顔に二人は驚愕をするしか出来ない。

 

「あ、私?」

 

「アリサちゃん!?」

 

 髪型と色こそ違ったが、其処には見慣れた顔の成長した姿が在ったのだ。

 

「改めて自己紹介するわ、白銀聖騎士・蛇遣座(オピュクス)のシャロン。ファミリーネームはローウェルと云うのよ」

 

「シャロン・ローウェル? 何で私と同じ顔を……」

 

「簡単ね。私が貴女とは魂の根源が同じだから」

 

「魂の根源?」

 

「つまり、私は平行世界のアリサ・バニングス……というかアリサ・ローウェルなのよ」

 

「──へ?」

 

「え?」

 

 突然の激白に二人は目が点となり……

 

「「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーッ!?」」

 

 そして揃って叫んだものだった。

 

「私は一度死んでいるわ。だけどとある理由から転生をした。生まれ変わったって事だけど、本来ならそれで魂がどうあれ顔形は変わるのよ。だけど私は転生体として、前世の記憶を持った侭で転生をしたねよね。その結果、私は前世に引き摺られて同じ顔を持ってしまったって訳」

 

「声の違いは?」

 

 仮面を着けていたとして気付けなかった理由は声が違ったからで、すずかがそれを訊ねるとシャロンは笑いながら言う。

 

「私はアリサ・バニングスのお父さんじゃなく、孤児だったから見た事も無かったけどローウェルという名の人と結婚したお母さんを持つの。つまりは母親は同じで父親が違う。顔は母親に似たけど髪の毛と声に関しては違ってしまった……というのがユートの弁よ」

 

 とはいっても、飽く迄も解り易く説明をしただけ、本当にそうかはユートにも判らない。

 

 納得はさせ易い話だが、結局は原作大元十八禁ゲームとそれを元に再構築したテレビアニメの差、それが本当の処であろうとユートは考えていた。

 

 実際、両親が同じな者も声は違うのだから。

 

「平行世界か、それが本当なら色々とこの世界と違いが有るの?」

 

 アリサがシャロンに訊いてみれば、当然だと謂わんばかりに頷いている。

 

「例えば、月村家にすずかは存在してない」

 

「え、私が?」

 

「私が説明を受けた際に、違いも話して貰ったのよ。月村家は今を基点に十年前になるわ、当主夫妻が亡くなっているのよ。現当主は月村 忍ね」

 

 十年前──確かにすずかの誕生以前に死んでいては生まれたりはしない。

 

「その結果かしら、ファリンというメイドも居ない」

 

「ファリンも!?」

 

 これにはショックだったのか、すずかは激しく狼狽をしている様子。

 

「所詮、平行世界の話よ。貴女がショックを受ける必要は無いわ」

 

「う、はい……」

 

 確かにその通り。

 

 行ける訳でもない世界、そんな世界に自分が存在しないからといって、すずかがショックを受けてみても詮無き事だろう。

 

 条件さえ揃えばゲートを通じてユートなら行けたりするが、そんな話まではしなくても良いのだし。

 

「そういえば、えっと」

 

「シャロンで良いわよ? 私はさっきも言った通り、アリサ・ローウェルとしては既に死んでるもの」

 

 死んでいる……アリサは表情を一瞬だけ顰めてしまうが、すぐにも取り繕って話を続けた。

 

「シャロンさんは優斗とはどんな関係なの?」

 

「私とユート? 恋人に近い関係……かしら?」

 

「「こ、恋人!?」」

 

「正確には愛人?」

 

「ちょ、ちょっと愛人って……だってアイツ、私達と同い年で!」

 

「本気でそう思う?」

 

「うっ!」

 

 アリサも莫迦でないし、ユートが同い年だと言われても違和感しかない。

 

「ユートは何らかの理由で今の姿だけど、本当だったら恭也さんレベルの背格好なのよ。身体は子供で頭脳は大人……って感じ?」

 

 行き成りの暴露に狼狽えてしまうアリサとすずか。

 

「とはいえ、見た目相応に接すれば良いわ。ユートもそう望むしね?」

 

「は、はぁ……」

 

 あちこちで様々な話し合いが為され、宴に関しては概ねが成功だと云える。

 

 そしていよいよ夏休み、ユートは時空管理局の提督であるリンディ・ハラオウンへと連絡をした。

 

 

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