魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第19話:終わりの始まり 黄金十二宮制覇

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「なあ、蛇夫宮は?」

 

「無いよ、そんな験の悪い宮なんか」

 

「……そりゃそうだ」

 

 納得したのか、呂守は頷きながら表情を緩ませる。

 

 蛇夫宮──それは蛇遣座(オピュクス)の黄金聖闘士の宮であり、十三宮の一つに当たる天蝎宮と人馬宮の間に存在していたモノで、伝説の魔宮とまで呼ばれていた不吉の象徴。

 

 現代では既に打ち砕かれており、蛇遣座の聖闘士も階級を落とした白銀聖闘士のみとなっている。

 

 最も神に近い男が乙女座の黄金聖闘士なら、聖域で唯一人『神と呼ばれた男』こそが蛇遣座(オピュクス)の黄金聖闘士。

 

 前聖戦の時代、その存在を教皇すら恐れた蛇遣座の黄金聖闘士だった。

 

 白い蛇を使い魔として寄越し、牡羊座のシオンへと話し掛けたりして色々混乱を呼んだら存在でもある。

 

 聖域で最も高貴なる存在とも云われ、アテナでさえ弑逆せんとした。

 

 そんな黄金聖闘士の宮は仮令、そんな者がユートの使徒には居なくても験が余りにも悪かろう。

 

「んー、じゃあ蛇夫宮が無いんなら蛇遣座の黄金聖闘士も居ないのか?」

 

「いや、蛇遣座は居る」

 

 言うと同時にユートが指差した方を視ると、其処には中高生くらいの少女。

 

「ア、アリサ・バニングス……だと?」

 

 それは明らかにアリサ・バニングスと同じ顔だが、呂守の洩らした呟きに璃亜は眉根を顰めた。

 

「違うよ、兄さん」

 

「違う?」

 

「うん、アリサちゃんって金髪碧眼な一般的な欧米人って容姿じゃない。だけどあの子は亜麻色の髪の毛」

 

「そういや……」

 

 目の前の少女は碧眼ではあったが、金髪ではなくて亜麻色の髪の毛である。

 

 着ているのは女性用へと調整が為された黄金聖衣、二次的な形でシャイナが纏っていたゲームの蛇遣座(オピュクス)聖衣とはまた別物の様だ。

 

「初めましてね、私の名前はシャロン。蛇遣座、オピュクスのシャロンよ」

 

 初めて会う四人に話し掛ける少女──シャロン。

 

「シャロン? アリサじゃなくてか?」

 

「それは昔の名前ね。今は余り思い出したくない忌々しい過去の名前……唯一、あの頃の事で楽しかったのはなのはと久遠と出会った事かしら?」

 

「久遠って、とらハ3!」

 

「流石に理解したか」

 

 シャロンは苦笑する。

 

 とらいあんぐるハート3というPCゲームが在り、その中のおまけシナリオに高町なのはと久遠が、幽霊のアリサ・ローウェルと出逢うというものがあった。

 

 死んだ理由は屑共に廃棄ビルに拉致られた挙げ句、代わる代わる輪姦された後に警察らしき者が現れた事への焦りから、口封じと称して殺害された事。

 

 エロゲらしい最後と云えなくもないが、余りに余りな過去だと云える。

 

「本来なら成仏していた筈だが、ハルケギニアに転生をしてきたんだ。シャロンという別人としてね」

 

 ユートみたいに名前まで生前と同じでなかったが、顔形は生前の通りだったが故に、シャロンがアリサ・ローウェルだと気付いた。

 

「普段は白銀聖騎士(シルバーセイント)として活動してる。いざという時にはこうして黄金聖衣を纏うって訳だね」

 

「な、成程……」

 

 ユートの説明に呂守は頷いて、璃亜もシャロンの方を仰視している。

 

「じゃあ、シャロン。僕らは先に進むから」

 

「うん、じゃあね」

 

 駆け足で──ロラーザ・ロードを使っているが──進む為に挨拶もそこそこに次の宮へと行く。

 

 ある程度の時間は掛けたものの、本来なら蛇夫宮が在った場所からはそれなりに近いからか、人馬宮が割とすぐに見えてきた。

 

「人馬宮。俺の射手座(サジタリアス)は基本的には此処なんだよな」

 

「確かにそうだな。射手座の相生呂守(アイオロス)

 

「ブフッ!」

 

 ユーキが吹き出す。

 

 呂守、それに同じ立場な璃亜は憮然となった。

 

「此処はどの原作から? ゼロ魔? D×D? 或いはカンピオーネ? それともネギまか?」

 

「逢ったのはハルケギニアだったけど、元々は僕らと同じ世界の出身だよ」

 

「それって、転生者か?」

 

 【転生者】の部分は両親に聞こえない様に呟くと、ユートはコクリと首肯。

 

 人馬宮の守護をしているのは、嘗てユートの本来の世界で交通事故から救おうとして……諸共に死ぬ羽目になった少女。

 

「まあ、気になるか。位置的に自分の場所だしね」

 

 人馬宮に入ると、金髪の少女が射手座(サジタリアス)を纏って立っていた。

 

「耳が……長い?」

 

「エルフ?」

 

 呂守も璃亜も驚愕する。

 

 金髪碧眼は良いとして、黄金聖衣も良い、肌の白さも白色人種っぽいだけだから問題は無い、ただ一ヶ所だけ……耳が横に長いという事実が無ければ普通だと断定出来たろう。

 

 ハルケギニアに転生した長い耳の少女、それは即ちエルフという亜人種であるという事。

 

「彼女はエルフだからね、ハルケギニアではまだ生きているんだ。出来ればそちらに専念させたい。呂守が射手座としていざって時に人馬宮を守護するのもアリって訳だ」

 

「ユート、この子達?」

 

「ああ。特に男の方は君の代わりになれる……かも」

 

「かも……なんだね」

 

 クスリと笑う。

 

「初めまして、私の名前はシーナ。射手座・サジタリアスのシーナだよ。那由多椎名だったんだけどね」

 

「初めまして、一応は射手座・サジタリアスの呂守……になるのかな?」

 

「私は獅子座・レオの璃亜です」

 

 一応は持っている聖衣で名乗った二人だったけど、セブンセンシズに目覚めていない状況で、聖衣だけを持つ身としては……しかも双子座のユートに敗れたばかりで名乗り辛そうだ。

 

「だから、相生呂守(アイオロス)相生璃亜(アイオリア)って名乗れば?」

 

「「名乗れるかーっ!」」

 

 ユートのからかい半分な言葉に、呂守と璃亜は二人揃って叫んでいた。

 

 仁・智・勇に秀で、何事も無ければ海皇や冥王との聖戦前に教皇の座に就いていたであろう偉大な聖闘士であったアイオロス。

 

 そんなアイオロスの実弟にして、勇猛果敢な雄獅子の化身の如く強さと分け隔てない優しさを合わせ持つ黄金の獅子アイオリア。

 

 各々、人間であるからには欠点だって有ったのだろうが、それを補って余りあるモノがあると感じた。

 

 その名前を名乗るには、自らが余りにも弱く不甲斐ないと知っている二人は、そっちの意味で恥ずかしくて名乗れない。

 

 まあ、ユートにもそんな気持ちは解らないでもないと思ってはいる。

 

 仮面ライダー。

 

 年齢的にユートが生で観たのは平成仮面ライダーの仮面ライダークウガから。

 

 完全シリーズ化しているクウガからを平成として、同じく平成に作られた筈の真・仮面ライダーやZOやJは括りとして昭和ライダーの一角となり、BLACKやRXはギリギリで昭和ライダーとなる。

 

 何しろRXの放映の時期が昭和六三年だから。

 

 ユートの嘗ての誕生日は平成五年の五月二一日で、死亡したのが平成二五年。

 

 とはいえ、仮面ライダーBLACKやRXは十作目の仮面ライダーディケイドに登場して以来、割と気に入っているライダーだ。

 

 仮に転生した後の姿形が南 光太郎だったとして、そうだからといってユートが果たして『南 光太郎』を名乗るか? といえば、名乗る筈もない。

 

 理由は呂守と璃亜の思いと似ているだろう。

 

 因みに、ユート的に気に入っているのはBLACKへの変身シーン、光太郎がギリギリギリと拳を握り締めた際の音を鳴らす所。

 

 変な部分が好きなものではあるが、ディケイドを観て以来は偶にBLACKの変身シーンを真似たりもしたものだった。

 

 更に云うと、南 光太郎を名乗りはしないのだが、仮面ライダーBLACKやRXに変身はする。

 

 【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】により創造した聖魔獣を着込む形だが、確りベルトを出して指貫手袋をギリギリギリといわせながらポーズを決めて、仮面ライダーBLACKに成るのだ。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 一頻りシーナと会話をした呂守は、どうやら色々と触発をされたらしい。

 

 悪くはない。

 

 シーナは死亡時期が幼年期だったから、前世の知識など在って無きが如しだった訳だが、ハルケギニアに於ける戦闘の経験は間違いなく呂守や璃亜には貴重な財産となろう。

 

「じゃあ、そろそろ次の宮に向かおうか」

 

「十番目、魔羯宮か。其処は誰が守護してるんだ?」

 

「誰も? 山羊座・カプリコーンには候補が居るだけだからね」

 

「無人の宮か。候補ってのは誰が?」

 

「アリシア・テスタロッサだよ。妹が原作で【全てを断ち斬る閃光の刃】を目指す資質を持っていたから、正しく全て斬り裂く聖剣がピッタリだろうね」

 

 リニスが曰くフェイトの資質らしく、それに合わせる形でバルディッシュを造ったのだと云う。

 

 確かユートの記憶にそういったエピソードがある。

 

 故に、アリシアが小宇宙に覚醒した上にセブンセンシズに駆け上がった時に、ユートは山羊座を考えた。

 

 一度は死んでしまって、然し小宇宙に目覚めた関係で二十数年を地上に在り、甦ったアリシア第八感覚の阿頼耶識を体験した。

 

 老師……天秤座が黄金聖闘士の童虎が曰く、人間は死の間際たるその刹那にてエイトセンシズに至る。

 

 その侭では普通に死に、目覚めたという自覚も持たないが、アリシアは甦る事で一段階下のセブンセンシズに覚醒をしたのだ。

 

「となると、魔羯宮は素通りするのか?」

 

「無人の宮でゆっくりしたいなら止めないけど?」

 

「いや、宝瓶宮に行こう」

 

 何が悲しくて古めかしい外装内装の無人な建物へと長々と居なければならないのか、それに他人のモノだとはいえ美少女を見れた方がまだ目の保養だろう。

 

 話し合いにもならなかった会話も終わり、第十の宮魔羯宮は素通りをした。

 

 其処にはオブジェ形態の山羊座聖衣(カプリコーン・クロス)が寂しく佇み、何だかとっても哀愁を誘ったのだけど気のせいか?

 

 ロラーザ・ロードによる快走は続き、第十一番目の宮たる宝瓶宮が見える。

 

 入口には白に水色で裏打ちされたマントを棚引かせつつ、何処か丸みを帯びた女性的な形状の黄金聖衣を身に纏う──青色なショートヘアに眼鏡を掛けた小柄な少女が立っていた。

 

 見覚えがある容姿。

 

 ユーキである。

 

 だが然しユーキは表情がコロコロ変わるのに対し、無表情とは云わないまでもクールビューティなもの、更にユーキはロングヘアーをポニーテールに結わい付けていた。

 

 何よりユーキは自分達のすぐ傍に居る。

 

「タバサ……か?」

 

 即ちそれが答え。

 

「そう、水瓶座・アクエリアスのタバサ。若しくは、シャルロットだね」

 

「確かにタバサは氷系魔法を得意としてる。だけど、確か基本的に十二宮に居るのってアンタの女だろ?」

 

「……言い方はアレだが、間違いじゃないな」

 

 シエスタ、エルザ、朱乃やシャロン、エヴァンジェリン、木乃香にケティ達、シーナに目の前のタバサ。

 

 ユートの寵を受けた者達ばかりなのは確かだ。

 

 中にはその世界に生きる最中に子を成し、母となった者だって居る訳だし。

 

 呂守は『あんなロリっ娘とあんな事やこんな事を』……とか呟くが、ユートは全力全開手加減抜きに無視をした。

 

「……ユート、この子達? 聖域を任せるのは」

 

「場合によりけり……な」

 

「……そう」

 

 タバサは相生一家へ向き直ると……

 

「……私の名前はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。水瓶座・アクエリアスのタバサとも云う」

 

 軽く名乗る。

 

「あ、ああ。宜しくな」

 

「宜しくお願いします」

 

 基本的に代表をして挨拶を交わすのは相生兄妹。

 

 とはいえ、新也とアイラも後から普通に挨拶くらいはしていた。

 

 タバサは二人きりの時、シャルロットという名前の愛称として『シャロ』と呼ばれるのを好む。

 

 従姉であるイザベラが、愛称で『ベル』と呼ばれる様になった可愛らしい対抗意識というものだろう。

 

 嘗ては、ユートから父親の形見の杖が折られた後に貰った【偽・瞬撃槍(ラグドメゼギス・レプリカ)】を手にしていたが、現在はそれを返還している。

 

 実質、黄金聖衣さえ纏えば魔法は普通に使えたし、技の出し方の問題から無い方が良かったのだ。

 

 ユートが再転生をして、記憶が戻った時に【偽・瞬撃槍】を使えたのは、既に返還をされていた為。

 

 挨拶とお話も終わったらしく、満足気な二人を見たユートは次に往くべく促して魔法を使う。

 

 ロラーザ・ロードにより再び駆ける。

 

 暫くして視界に入ってくる建物。

 

「あそこが最後の宮となる双魚宮だ。守護するのは、魚座・ピスケスのモンモランシー。二人は知っているだろうが、ハルケギニアではモンモランシ伯爵家に生まれた【香水】のモンモランシーだ」

 

「またゼロ魔からかよ? ゼロ魔率がたけーな」

 

 シエスタにケティにタバサにエルザにモンモランシーだし、確かにゼロ魔率が非常に高いのはユートにも決して否定出来ない。

 

「元々、ハルケギニアの方で結成して現在も大半を残して存続してる十二宮騎士団(ゾディアック)が聖域の抜本的な骨子だ。その分、ゼロ魔率は高いよ」

 

 そんな会話をしている内に双魚宮に入る。

 

 其処には金髪ドリル娘、優雅に佇みながら紅い薔薇を指先で弄ぶ。

 

「初めまして。私の名前はモンモランシー・マルガリータ・ラフェール・ド・モンモランシ。魚座・ピスケスのモンモランシーよ」

 

 ゼロ魔を識る二人は何と無く思った。

 

『ギーシュっぽい』

 

 女の子? だし、黄金聖衣を纏うから胸元をはだけたりはしていないのだが、見た感じ自己陶酔っぽいのがアレだし、薔薇を指先でクルクルと回しているのが何ともはや。

 

 だけどタバサ……だけではなく、今までに見てきた十二宮の守護者に共通している点として、ユートを見つめる瞳に熱が籠っていると呂守は感じていた。

 

 それはきっと家族と違う意味で愛しい者を見る瞳、モンモランシーも下の宮に居た黄金聖騎士(ゴールドセイント)と同じ、ユートに不断の愛を誓っている。

 

「あ、あのさ……」

 

「何かしら?」

 

「何であいつなんだ?」

 

「?」

 

 モンモランシーは意味が判らないと小首を傾げた。

 

「ほら、あいつってメイドや他の貴族……処か吸血鬼にだって手を出してるぞ。あんたは何と云うかさ……浮気とか嫌って感じがするって思ったんだ」

 

「ああ、そりゃ……ねぇ。トリステイン貴族は基本的に女に貞淑さを求めるわ。代わりに女も恋人や夫には自分だけをって思うもの。けど、私の場合はちょっとアレだったのよ」

 

「アレ?」

 

「出逢いの最初は最低最悪な印象ね。借金の形に私を求められたんだもの」

 

 そう言いながらも懐かしい想い出だと、モンモランシーの表情が語っている。

 

「十万エキューもの借金。ユートのド・オルニエール家にお父様がそれを申し込んで、受ける代わりに私をな〜んて言われたのよね。後から考えれば十万エキューの価値って言われた様なものだけどね、借金の形にナニをされるのかって当時は憤ったわ」

 

 クスクスと愉しげに笑うモンモランシーに陰りなど無く、寧ろ誇らしい事の様に嘗てのハルケギニア時代を語っていた。

 

「ま、結局は御家存続の為の人身御供? ユートの下に身を寄せたわ。修業修業の毎日に新しい香水作り、実際には苦しくも楽しかった毎日、ユートには好きな女の子が居たし、そういう関係にはならないと思っていたけど、何時しか私は彼に惹かれていったわ」

 

「えっと、ギーシュは?」

 

「ギーシュ? 顔くらいしか取り柄が無かったのに、惹かれると思う? 胸元は変にはだけていたしね? 薔薇の扱いは参考になったのかしら?」

 

 ギーシュに対して余りにも辛辣で驚く。

 

「そういえば、一年の初めに告白されたわね。ユートを引き合いに断ったけど」

 

「うわ……」

 

 完全な原作ブレイクだ。

 

「借金に関してはアルビオン戦役の後、私がユートに抱かれて帳消し。それに、水の精霊との交渉の御役目への復帰をユートにして貰ったし、全部が終わったら私がユートの子を生んで、モンモランシ伯爵家の後継ぎにしたからね」

 

 話には出さなかったが、子を成す為には毎晩毎晩の情事を一夜で二十回以上を熟し、それを一年以上も頑張って漸くだったりする。

 

 それだけに懐妊をして、徐々にだが確実に大きくなっていくお腹、それを優しく撫でるのが好きだった、ユートが愛しそうに撫でてくれるのが嬉しかった。

 

「そ、そっか……」

 

 納得したのか? 呂守もこれ以上は訊こうとしなかったが、何だか甘ったるい話になったからか『ブラック珈琲が欲しい』と呟く。

 

「それじゃ、教皇の間に行こうか」

 

 モンモランシーとの会話も終わり、遂に一行は教皇の間へと向かう。

 

 尤も、そこを治めているのはユートなのだが……

 

 

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