魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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 今回は謂わばおさらい回になり、細かな会話に関してはカットしています。





第18話:紹介 ユートの聖騎士達

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 ギリシアはアテネの山奥の更に向こう側、其処には一般人の誰も気付けず入れない様に、ちょっと特殊な結界を張ってある。

 

 結界の基点は山の頂上、アテナ神殿と呼ばれる場所の巨大な女性の像。

 

 然し、像そのものが基点なのではなく、その台座にこそ基点を設けてあった。

 

 また、この結界は転移を妨げる仕掛けが施されている為に、アテナ神殿の在る頂上まで行くには十二宮と呼ばれている宮殿を、一つ一つクリアしていかなければならない。

 

 この地を人は聖域(サンクチュアリ)と呼んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「初めまして、私は牡羊座・アリエスのシエスタ」

 

 開いた口が塞がらないといった体な相生呂守。

 

 目の前に【ゼロの使い魔】のヒロインの一人にしてメイドさんな筈の少女が、牡羊座の黄金聖衣を纏って白羊宮の入口に立っているのだから無理もない。

 

 黄金聖衣とは云ったが、実は色が黄金聖衣の耀きではなく、寧ろ海将軍の鱗衣みたいな彩りだ。

 

 黄金聖衣はまるで太陽の耀きの如く燦々とした彩りをしているが、鱗衣は少しくすんだ感じの……黄金ではなく金色と呼び分けたくなる程に違いがある。

 

 同じ色なのにきらびやかさに差があると云うのか、兎にも角にもシエスタが纏う牡羊座は、本物の牡羊座と耀きが違った。

 

 青銅聖衣や白銀聖衣こそ彩りは同じだが、やっぱり太陽の光を永年吸収してきた聖衣と、最近になって造られた聖衣とでは差が付いたのかも知れない。

 

 だけど、相生呂守と相生璃亜が驚いたのは黄金聖衣がどうのではなく、目の前のシエスタ本人に対しての驚愕であった。

 

「ど、どうして【ゼロ魔】のシエスタが此処に?」

 

「そりゃ、ハルケギニアから連れ出したからな」

 

「「ハァ?」」

 

 意味不明だと謂わんばかりに二人は驚きの声を揃えて上げ、説明をしたユートと今も微笑みを浮かべているシエスタを交互に見る。

 

「そもそもだ、僕が本当に転生をした世界は【ゼロの使い魔】……ハルケギニアなんだよ。其処で生きて、そして死んだ後でまた新たに【ネギま!】の世界観に再誕をしたんだ」

 

「うわ、何つーか……って事は何か? ゼロの使い魔や魔法先生ネギま! なんかのヒロイン喰いまくりって事なのか!?」

 

「人聞きの悪い事を言う。間違いじゃないが、介入をしていたら自然と増えたんだから仕方ないだろ?」

 

 【ゼロの使い魔】など、原作介入をしなければ仮に這い寄る混沌の事が無かったにせよ、間違いなく自分にも波及するのだ。

 

 ならば介入した方が御得と云うもの。

 

「さて、それじゃあ十二宮を登るぞ」

 

「うっ! 〝これ〟を登るのかよ?」

 

 嫌そうに黄金十二宮(ゴールド・ゾディアック)の全体を見上げ、溜息を吐きながら両親や妹を見た。

 

 三人もタラリと汗を流している辺り、十二宮の踏破に難色を示している様だ。

 

「僕の仲間に紹介するのと同時に、君らの働き口を見せる為でもあるんだが?」

 

「判ってるけどよ……」

 

「まあ、金牛宮は無人だ。スルーしても構わないだろうし、魔法で一気に突き進むのも良いか。全員、近くに寄るように」

 

「え? 金牛宮って無人なんだ?」

 

 璃亜は首を傾げた。

 

「まだ決まっていないし、聖衣をオブジェ形態で置いてあるだけだよ」

 

 因みに、アリシアが未だに聖衣を受け取っていないが故に、魔羯宮の山羊座聖衣(カプリコーン・クロス)も同じくである。

 

「現在、黄金聖騎士は十人までが揃っている。それは君ら二人の獅子座や射手座もそうだ」

 

「へ? マジか?」

 

「とはいえ、獅子座はそれなりに忙しいから別に任命をするのも有りだと思う。それがこの世界の人間なら言う事無しだろう」

 

 獅子宮の守護をしている獅子座(レオ)聖騎士(セイント)は、立場的に忙しい身の上。

 

 いつもこの世界に詰める訳にはいかなかった。

 

「さて、行くぞ……ロラーザロード!」

 

「な、んだと!?」

 

 ユートが唱えたのは明らかに人語ではなく、効果を発する為の【力在る言葉】を呂守は識っている。

 

 果たして、呂守の識る通りの魔法の効果。

 

 不動の筈の地面が突如として動き出し、進行方向に併せて空気が動く為に可成りのスピードがあるにも拘わらず風を感じない。

 

「これ、【スレイヤーズ】でミルガズィアが使っていた便利魔法……」

 

「まあね、竜言語で唱えた呪文で効果を成す魔法だ」

 

 【スレイヤーズ】世界、カタート山脈に住んでいる黄金竜(ゴールデンドラゴン)の長のミルガズィア。

 

 駄洒落で周囲を凍結させる特技? を持っていると云う通称【オヤジギャグ・ドラゴン】とか。

 

 竜族は神々が竜の姿をしている事から神族として数えられており、降魔戦争で水竜王ラグラディアによってカタート山脈の山頂へと氷付けで括られ、動けない【レイ・マグナス=シャブラニグドゥ】の監視を行っている。

 

 そんな黄金竜の長老格なミルガズィアが、人間である主人公──リナ・インバースに何度か接触をしたのも魔族絡み。

 

 その中でミルガズィアが披露した魔法の一つこそ、ユートが先程に唱えたモノ……ロラーザロードだ。

 

 不動の地面を他との歪みを生む事なく動かし、しかも風も同時に操っていたのか進行方向から風の抵抗を一切感じない、人間であるリナ・インバースからすれば高度な魔法も、だが然しミルガズィアからしたならちょっとした便利な生活魔法でしかなかった。

 

 スピード感も風が感じられないから余り無く、何と無く車の中から外を観ている感覚に近い。

 

 ほんの僅かな時間で次の金牛宮に着き、そしてあっという間に通り越す。

 

 金牛宮内には牛を象った金色のオブジェが鎮座し、まるで入口を睨み付けているかの様だったと云う。

 

 第三の双児宮──

 

「双児宮は僕が教皇と兼任をしている。つまり此処に僕が居る以上は無人だから通り抜けるよ」

 

 内部にオブジェは無い。

 

 不用心にも見えようが、実は十二宮には特殊な結界が張られた場所が有る。

 

 教皇の間には神々すらも迷わせる迷宮、処女宮には【四門】という四つの門を強制的に選ばせる結界。

 

 そして双児宮にはやはり迷いの結界があり、守護者の小宇宙によって迷宮と化すのである。

 

 勿論、今は通り抜けるのが目的だから迷宮など展開されておらず、アッサリと双児宮を抜けてしまう。

 

 第四の宮は巨蟹宮。

 

 本来は死臭の漂う宮な訳だが、此処を守護している蟹座の黄金聖騎士は本物のキャンサー、デスマスクやデストールみたいな悪趣味は無く、彼らが守護してた時みたいな死の顔も無く、死臭もしない。

 

 ロラーザロードを解除して中に入った呂守と璃亜は拍子抜けし、それと同時に胸を撫で下ろしていた。

 

「あら、お帰りユート」

 

 迎えたのは蟹座の黄金聖衣を纏い、マントを背中に羽織る金髪ボブカットに碧い瞳を持つ十四歳くらいの美少女だ。

 

「彼女が蟹座・キャンサーのエルザ。二人にも解り易く言えば【ゼロの使い魔】のサビエラ村で悪さをしていた吸血鬼……だな」

 

 茫然自失となる二人。

 

 相生新也とアイラの方は事情を知らないから特には変わらないが、ゼロの使い魔を識る呂守と璃亜はそうもいかない。

 

 見た目は成長したからだと考えるとして、此処に居ると云う事はつまりエルザもユートが性的に喰ったという証左であり、サビエラ村から連れ出したという事でもある。

 

 それは事情だ。

 

 ハルケギニアの吸血鬼は人間の血液でしか腹は満たせはせぬと云われてたが、然し【烈風の騎士姫】に於いて血液に近い成分を含む体液ならある程度は腹も満たされると明言された。

 

 故にユートはエルザを村から出し、自分の許で飼う様な形と相成る。

 

 血液と汗、更には唾液や汗と同じ成分の小水、全ての要素を含む筈の精液などを提供するのと引き換えにして、彼女の協力を取り付けるべく。

 

 吸血鬼というのは基本的に個人主義らしく、エルザの様な子供──人間の暦的には数十年を生きている──すら独りで過ごす。

 

 少し例外的にダルシニとアミアスの双子の吸血鬼、この二人は姉妹で行動をしており、姉妹仲も可成りの良好さを見せている。

 

 それは兎も角、エルザは本来だとタバサにより討たれる筈の謂わばその場限りの一発キャラだと、呂守はそう考えていた。

 

 確かに二次ではエルザが救われる噺も無くはない、だが然し現実とは非情なるものだとも知っている。

 

 エルザは吸血鬼であり、軽い食人鬼に近い。

 

 人間こそが食料なのだ。

 

 原作──【タバサの冒険】でもエルザは、吸血鬼が人間の血液を吸うというのは人間が牛や豚、植物などを食べるのと同じ事であると主張をし、タバサは自分が人間であるが故に相容れない吸血鬼のエルザを討った訳である。

 

「さて、次に行こうか」

 

「なあ……」

 

「何だ?」

 

「宮の入口まであの魔法を使うのは駄目なのか?」

 

「……まあ、時間の短縮は必要か」

 

 呂守の主張は受け容れられて、ホッと安心をしたのは体力が並の相生新也。

 

 男として親として、妻や娘に負けているのは悔しいものがあったが、意地を張る場面でもないのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ロラーザロードで次の宮……獅子宮に着く。

 

「あらあら、御待ちしておりましたわ」

 

 再びがっくんと顎が外れんばかりに口を開け放ち、目の前の人物を見つめた。

 

 女性用の調整こそ施されていたが、明らかに獅子座の黄金聖衣の意匠を持った聖衣を纏い、ほんわかとした雰囲気で出迎えてくれたのは、長く艶やかな黒髪を橙色のリボンでポニーテールに結わい付けた紫の瞳の女性で、聖衣の胸部が可成りの自己主張をしているのに呂守の目が逝く。

 

「わたくしは、ユウ君から獅子宮を預からせて頂いている獅子座の朱乃ですわ」

 

 名乗られたからには他人の空似では有り得ないし、間違いなく【ハイスクールD×D】に於けるヒロインの一人、リアス・グレモリーの【女王】の姫島朱乃。

 

 取り敢えずは、呂守達も礼儀に則り名乗っておく。

 

「朱乃の聖衣は人工神器に組み込んである。こいつは禁手状態な訳だね」

 

「人工神器って、アザゼルが研究をしていた?」

 

「ああ、アザゼル〝も〟確かに研究していたな」

 

 ユートの場合はマジックアイテム感覚で造っていた訳で、アザゼルとも意見の交換などをしている。

 

「因みに、朱乃は上級悪魔としてレーティングゲームに出たり、領地開発なんかで元の世界に帰る事も多いからね。獅子宮は基本的に無人だったりする」

 

 極稀に居る程度だ。

 

「んじゃ、次の処女宮だ」

 

「なあ、乙女座(バルゴ)は誰なんだよ?」

 

「着いてからのお楽しみ」

 

 そんな遣り取りをしながら第六の処女宮に向かう。

 

 処女宮……

 

 本物の聖域なら神に近いとか云われる者がその任に就くが、此方ではある意味で最も神に遠い。

 

「やっと来たか」

 

 腕組みをしてふんぞり返るのは、見た目には二十代後半くらいの女性。

 

 乙女座の聖衣を纏って、金糸の如くサラサラな髪の毛を棚引かせている。

 

「雪姫!?」

 

「ほう? 我が仮の名を知るという事はユートと同じという訳か?」

 

 それは【UQ HOLDER】の雪姫……というよりは、特殊な年齢詐称薬を飲んで大人の姿を執っているエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 ユートの再誕世界に於ける世界線に、彼の組織なぞ存在してはいはいし、当然ながらネギの孫に近衛刀太も存在しない。

 

 後者の理由は次の天秤宮にある。

 

「【ゼロ魔】に【ハイスクールD×D】に……今度は【ネギま!】かよ!?」

 

 ツッコミを入れる呂守。

 

「アンタ、幾つの世界を巡ったんだ!?」

 

「さあ? 少なくとも十の世界じゃ利かないな」

 

 とんでもない話だった。

 

 何処ぞのマゼンダカラーも大概だろうが、ユートはそれに輪を掛けている。

 

 第七の宮の天秤宮……

 

 聖闘士なら善悪を計る要の者だが、其処には聖衣を着た大和撫子が居た。

 

「おお、ユウ君や!」

 

 事前に来る事を話していたからか、その女性は嬉しそうな表情で抱き着く。

 

 スリスリと頬擦りをしてきて、柔らかな頬の感触が実に気持ち好い。

 

 何しろ、閃姫の肉体年齢は基本的に一六歳くらいで止まる為、年輪をどれだけ重ねてもそれを感じさせたりはしないのだ。

 

 でも今は取り敢えず……

 

「まずは自己紹介だろ?」

 

「はいな。ウチは近衛木乃香云います。天秤宮を護っとるんよ?」

 

 【UQ HOLDER】が存在しない理由、つまり近衛木乃香はユートの制御下に在ったという事だ。

 

 仮に近衛刀太が木乃香とネギの孫だとして、ネギが木乃香と結婚出来る状況でなければ生まれない。

 

 木乃香が別の誰かと結ばれて、ネギも別の誰かと結ばれての孫だったにせよ、木乃香の子供とてユートの許に居たなら、当然ながらその可能性も無くなる。

 

 ユートは別にネギを嫌っていないし、微妙ではあっても兄弟仲が殊更に悪かった訳でもない。

 

 まあ、先生をやっていた最中は色々と有ったが……

 

 とはいえ、ネギは基本的に火星の新生ウェスペルタティア王国の王子をやっていたし、ユートと木乃香の子供がネギの子供と接触をする機会は無かった。

 

 故に、近衛刀太がどんな形で誕生をしたにしても、この世界線で生まれてくる可能性は皆無。

 

 当然だけど、そうなれば超 鈴音の誕生も有り得なくなる訳だが、だからといって今現在に存在をしている彼女が忽然と姿を消してしまう事も無いだろう。

 

 何故か? それは彼女が一巡目の世界線上に生まれた存在であり、元より二巡目の世界線とは無縁であったからに他ならない。

 

 何しろ、原典世界に於いては当の本人が【渡界機】なる平行世界を渡る機械を造り、その存在を肯定してしまっているのだし。

 

 【航時機】と【渡界機】で無敵と化した超 鈴音、『もう何も怖くない!』と言い放てよう。

 

 言い放ったらきっと……マミられるだろうけど。

 

 一通りの説明と一通りのイチャイチャが終わって、一行は再び十二宮を進む。

 

 飽く迄もロラーザロードによって。

 

 第八の宮・天蝎宮。

 

 其処には地味目な茶髪をロングにした少女が、蠍座の黄金聖衣を纏って立っており、両横には呂守も璃亜も知らない顔が居る。

 

 だけど、クールホワイトの聖衣と輝翠の聖衣には見覚えがあった。

 

 キグナスとドラゴン。

 

「えっと、誰だっけ?」

 

「酷っ!」

 

 呂守から申し訳なさそうに訊ねられた少女は、涙目でガーン! とショックを受けてしまう。

 

「……蠍座・スコーピオンのケティ。本名はケティ・ド・ラ・ロッタだよ」

 

 ユートが言う。

 

「おお!」

 

 どうやら思い出したらしい呂守は、ポン! と左掌を右拳の横手で打った。

 

 まあ、思い出せなくても無理はあるまい。

 

 原作での出番は僅かで、アニメでも第一期の第一話以降で出番は無かった。

 

 謂わば、二つ名とフルネームが明かされた中途半端なモブ娘なのである。

 

 両横の二人も口を開く。

 

「私はドラゴンのシエラ」

 

 シエラ……栗色の長い髪の毛をポニーテールに結った碧い瞳の少女。

 

「私がキグナスのミイナ」

 

 ミイナ……緑色の髪の毛を短く切り揃えている茶色の瞳の少女。

 

 二人は長年をケティ個人に仕えるメイドだ。

 

 昔はもう一人の仲間が居たのだが、とある事件にてケティを含む四人が浚われた際に、ストーカー気質な変態によって犯された挙げ句の果てに殺さた。

 

 あの誘拐された日の変態野郎の無情、彼女の無念、そして自分達の無力は決して忘れはしない。

 

 罪悪感はある。

 

 自分達だけが好きになった人に抱かれ、力を与えて貰ったのだから。

 

 だからこそ忘れはしないというより、きっと忘れる事なんて出来ないというのが正解だろう。

 

 第九番目の人馬宮に向かう一行を見送りながらも、ケティとシエラとミイナはいつもの通り、忘れられない過去を追憶していた。

 

 

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 尚、験が悪いという理由で天蝎宮と人馬宮の間には蛇夫宮を造っていません。



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