魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第17話:対話 ユートと相生呂守

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 呂守の知りたい事は幾つか判明したが、他にも知りたい事は有った。

 

「なあ、アンタ……」

 

「別に名前で構わないぞ。此方もお前とかじゃなく、呂守と呼ばせて貰うから」

 

「わ、判った」

 

 派手に敗けた所為もあってか、どうしても呂守的には構えてしまうのだ。

 

 とはいえ、ユート本人が良いなら是非も無し。

 

「えっと、確か?」

 

「改めて名乗ろう。僕の名は緒方優斗。十二宮騎士団が長であり、アテナの聖闘士・双子座の優斗だ」

 

「十二宮騎士団?」

 

「僕が昔に創設した私設武装組織。通称はゾディアック。僕の聖騎士(セイント)を始め、魔導隊や他にも幾つか部隊を持っている」

 

 アクティブドレスを纏う部隊や機動兵器を用いて戦う部隊、それらが十二宮騎士団(ゾディアック)の形成をしている。

 

 勿論、今は冥王軍をも含まれた組織。

 

 まだまだ人数は足りないものの、単純に地球を護るだけなら充分だろう。

 

 一騎当千なのだから。

 

「私設武装組織って、それ何処のソレスタルビーイングだよ……」

 

「必要なら武力介入も辞さないから、ある意味で間違いじゃないかも……ね?」

 

 ハルケギニア時代に於いてトリステイン王国の一軍だった筈だが、その軛から抜けた今となっては完全な私設武装組織となった。

 

 基本的には閃姫──使徒によって構成されており、それ以外なにも何名か使徒とは違う者も居る。

 

 

 例えば使徒には成れない存在、聖霊──精霊やまつろわぬ神──なども組織に居るし、夫が居る人妻だって所属をしていた。

 

 ユートは決して独りだけではない。

 

「現在のこの世界の聖域(サンクチュアリ)は基本的に僕の十二宮騎士団を中心に組織されてるし、とてもこの世界独自の組織とは言い難い。いずれはこの世界の人間を中心にしていくにしても、可成りの時間を掛けるだろう」

 

 まさか永遠にこの世界に留まる訳にもいかないし、此方の地球の人員を育て上げて組織に置く。

 

 呂守と璃亜もその為にこそ取り込むべく、アイラに選択肢を与えたのだから。

 

「それじゃ、優斗は時空管理局についてどう考えているんだ?」

 

「どう……とは?」

 

「アンタの言い種からさ、如何にも管理局を毛嫌いしてるって感じだから」

 

「別に殊更に嫌っている訳じゃない。というよりも、地球にさえ関わらないならどうでも良い。興味自体が無いかな」

 

「どうでもって……」

 

 呂守は呆れてしまうが、ユートからすればミッドチルダや管理世界や管理局がどうあれ、地球に関わってこないのなら関心など全く持ってはいない。

 

 それこそ、十年後に起きるJS事件で滅んだとしてもである。

 

 自分に厳しくて他人には無関心、身内には殊更に甘くて敵には等しく冷酷無情というのがユートの基本的なスタイルだ。

 

 勿論、他人に無関心だとは云っても本当に全く関心を持たない訳ではない。

 

 それなら、そもそもにしてユートが最初に転生する切っ掛け、那由多椎名を救わんとする……それ自体が起こり得ないのだから。

 

「だったら管理局にどんな印象を持ってる?」

 

「印象……ねぇ……」

 

 ユートは暫くの間瞑目をすると、考えを纏めたのか(おもむ)ろに口を開く。

 

「そうだな、例えば……」

 

「「例えば?」」

 

 呂守と璃亜がハモる。

 

「六歳か其処らの女の子の目の前で、力の制御が利かないから乱戦にでもぶち込むくらいしか使えない……なんて平然と口に出来る様な奴が発言力を持つ組織」

 

「「………………」」

 

 シンとなる二人。

 

 勿論、そんなエピソードがあったのは知っている。

 

 確か【第5話:星と雷】だった筈。

 

 白衣を着ていた事を鑑みれば研究者で、その一人が執務官のフェイト・T・ハラオウンに説明をしていたというもの。

 

 目の前に座るキャロ・ル・ルシエ、その本人を前に力の制御が出来ないから、乱戦に於ける殲滅戦に放り込むくらいにしか役に立たないと断じ、フェイトが引き取る事へ難色を示す。

 

 思う事は自由だろうが、それを本来なら学ぶ時期の子供に言い放つのは無神経が過ぎる。

 

 それが訓練で辛く当たるなら良いし、寧ろそんなのは当たり前の範疇だろう、だがあの場面でそれは必要が無いし、自信喪失に繋がる言動をするなぞ発言力を持つ人間としては失格だ。

 

 というより、訓練も施さずに実戦に投入を前提で話す辺り、無能の極み。

 

 訓練無しで戦闘を熟す、そんな事余程の戦闘センスがなければ不可能なレベルなのだから。

 

 ユートから視れば自分の無能をひけらかし、得意気に語るアホな大人でしかなかったと云う。

 

「序でに言えば……」

 

「「…………」」

 

 何を言いたいかはすぐに理解出来た二人。

 

「遺族、それも十歳そこそこの子供の前で殉職をした部下を平然と罵倒する莫迦が上に立てる組織かな?」

 

 まあ、そんなのは珍しくも何ともないだろうけど、少なくともそれは倫理観の無い会話。

 

 まともな神経を持ち合わせていれば、普通は絶対にしないであろう。

 

「通夜の席で殉職した部下の罵倒、そんな事を出来る器の小さな人間を上に立たせるんだ。管理局に問題が無いとは思えないけど?」

 

「それは……」

 

「確か、ティーダ・ランスターは一等空尉だった筈。それならば上官は最低でも三佐以上の身分だ。そんな身分に在りながら、やって良い事と悪い事の区別すらつかないんじゃあねぇ? 確かに任務に失敗したのなら無能の謗りは免れない。だけどそれを、唯一の肉親を喪ったばかりの民間人の子供の前で、それも通夜の席だろうけど言い放つか、普通?」

 

 実際にあった出来事なだけに否定も出来ない。

 

 当時の身分だと言っていたから、殉職して二階級特進とかで一等空尉だった訳でもないし間違ってはいない筈だ。

 

「それにそれで無能だって云うなら、陽動に引っ掛かった挙げ句の果てに護衛をすべき対象をまんまと連れ去られて、更には本拠地を破壊された原作なのは達はどれだけの無能者だよ? あれ、ヴァイスとか死んでいてもおかしくないぞ」

 

「そ、それは……」

 

 既に部隊を預かる立場になった以上、経験不足など言い訳にもならない。

 

 それを言い訳にするのであれば、やはり地上なり何なりから経験豊富な人間を隊長として迎え入れ、自分達は補佐役として副隊長にでも納まるべきだった。

 

 経験を積む為に。

 

「で、極め付けとなるのが自分達で定めた法すら守れない司法組織。それこそ、時空管理局という組織だ」

 

「ああ……」

 

「それはね」

 

 呂守も璃亜も目を逸らしながら肯定した。

 

 ギル・グレアムの場合、まだ情状酌量の余地もありそうだが……

 

「時空管理局を設立した……延いては管理局法を定めた筈の時空管理局最高評議会が自ら法を破った。これはちょっと戴けないな」

 

 ヒト・クローンの作製、人造魔導師や戦闘機人などの製作、いずれにせよ彼らが法律で禁止したもの。

 

 何より、ジェイル・スカリエッティという次元犯罪者を産み出し、スケープゴートとして自分達は関係がありませんといった態度を取り、その癖に『自分達が居なければ世界は滅ぶ』と嘯く厚顔無恥振り。

 

 ユートに言わせれば最高評議会なんぞ、最早単なる老害な犯罪者集団だ。

 

「自分達の定めた法律すら守れず、それで司法組織を自称するのだから笑える」

 

「けどあれだ、それは管理局が常に人手不足だから」

 

「それは基本的に管理局が個人の才能に頼り切りになる方策のみで対応していたにも拘わらず、あちこちに管理という名の触手を伸ばしていったから。法を破る言い訳としては最低だろ。況してや、足下を護る事すら覚束無いというのに」

 

 第一世界ミッドチルダ──その数字が示す通りで、ミッドチルダとは管理局の発祥の地であり、管理世界の一つでありながらそう呼ばれない唯一の世界。

 

 にも拘らず犯罪発生率の高さは異常な程で、そこを護る地上部隊は中々に苦労をしている。

 

 しかも、同じ管理局の括りにありながら海と陸では互いに仲違いをしていた。

 

 海は時空管理局の花形であり謂わばエリート、地上は泥臭い現場みたいなイメージが付き纏って、地上の戦力は海に一方的な吸収をされている。

 

 物語中、原作八神はやてが地上の動きの遅さを批判していたが、次々と優秀な魔導師を海が持っていき、更にはヘッドハンティングも行われてるであろう状態では、どれだけ訓練をしても命令系統に穴が空いたりして結果、動きも遅くなるのはどうしようもない。

 

 はっきり云うと、海の者が決して言ってはいけない科白であろう。

 

 原作はやての言葉も強ち間違いではないが、自分が部隊を持って活躍をすれば地上の人間も目を覚ますみたいな言い方をしていた辺りは、海の者らしいと云えるのかも知れないが……

 

 高がはやて一人が部隊を持って活躍したからとて、それで変わるなどと本気で思っていたのだろうか?

 

 時空管理局のトップからして、その実は犯罪の温床だったというのに。

 

 寧ろ、犯罪者でしかない最高評議会の面々からしたならば、はやての考えなど愚者の浅知恵でしかない。

 

 使える内は使い倒して、邪魔になればゼスト隊の時と同じく……くらいにしか思っていないだろう。

 

 まあ、結果としてトップが消えた事もあり、将来的には特務六課の設立なども可能となったが、そんなのは本当に結果論だ。

 

 何処か一つ、ピースが欠ければ終わっていた。

 

 因みにこの世界に於いては機動六課隊長陣が丸々、ミッドチルダには行かない可能性があり、そうなるとジェイル・スカリエッティの野望は完遂されてしまう可能性もあるが、そんなのはユート的にどうでも良い話でしかない。

 

 何故ならそれは、ジェイル・スカリエッティを造った管理局の自業自得だし、管理局を奉じる管理世界の人間の認識の甘さだから。

 

 ジェイル・スカリエッティの暴発は、ユートが何かをしたのでも這い寄る混沌の企みでも何でもなくて、世界の何処にでもある悲劇や喜劇の一幕でしかない。

 

 そんな事に頼まれもしないのに手を貸す程、ユートは暇ではないのだから。

 

 実質、最高評議会は二番(ドゥーエ)に壊された──最早、殺されたとは表現が出来ない存在──事で報いを受けている。

 

「それに、訓練や試験なんかでも使用されているみたいだが所謂、廃棄都市区画が放置されているとかね。犯罪の温床になりかねないだろうに。実際、悪名高きとらハ3でもそんな場所で拉致レ○プなんて云う犯罪が行われていたし……」

 

「え? そうなの?」

 

 流石に女の子である璃亜はプレイしてないらしく、驚いた表情で訊ねて来た。

 

「ああ、アリサ・ローウェルが数人の男に廃ビルへと連れ込まれて、代わる代わる輪姦(まわ)されていたんだよ。それでバレたらバレたでアリサを殺して逃げようとしたんだからな」

 

 ユートにとっては正しくトラウマを植え付けてくれたシーンで、しかも笑えない事にユートの閃姫(しと)の一人のシャロンこそが、死んだアリサ・ローウェルの転生体である。

 

 つまり、輪姦(まわ)されて殺されたアリサが怨念で連中を取り殺し、地縛霊となって〝なのはちゃん〟と久遠と出逢い、彼女に害を与えてしまう前に成仏した記憶を持ち合わせていると云う事だ。

 

 本来ならそれで成仏していたのだろうが、誰かさんによってハルケギニアへと記憶を持った侭で転生させられてしまった。

 

 それが今の──蛇遣座(オピュクス)の白銀聖騎士シャロンである。

 

「それじゃあ、時空管理局というより原作のなのは、ストライカーズでよく取り沙汰されてるティアナ撃墜事件に関しては?」

 

「随分と話が飛んだな?」

 

 呂守としては自分自身と最愛の妹、璃亜が所属をするであろう組織の長とも云えるユートの意識調査をしておきたいのだ。

 

 この世界がリリカル世界だと云うのなら、リリカルなのはに関する質問は当然の選択であろう。

 

 だからこそ特に有名だったり、或いは細かな事でも時空管理局に対する考え方を知りたかった。

 

 とはいえ、まさか漠然とした質問の一つで知りたかった事を幾つか纏めて答えられるとは、流石に呂守も予想外だったのだが……

 

 つまり、キャロのエピソードとティーダ&ティアナに関するエピソード。

 

 呂守もキャロへの扱いは論外だと思うが、果たしてティーダに関してはどの様な考えなのか?

 

 ユートはティーダは無能の謗りを受けても仕方無いと断じ、然しそれを平然と通夜の席にて幼い遺族の前で言い放つ無神経さを言及もしていた。

 

 組織全体での倫理観ではないにしても、一等空尉の上司──最低でも三佐という立場の人間がそんな程度の低い倫理観である事。

 

 スバルの話し振りから、どうやら直接的に死ねば良いなどとも口走っていたらしいから、人として最低の部類はのは間違いない。

 

 きっと大した功績も無い年功序列だけで上に昇った人間で、呂守の主観からすれば若くして一等空尉にまで駆け上がり、躍進をする部下を疎んでいたのだろうと考えている。

 

 故に、嘸や喝采を挙げた事であろうとも。

 

 飽く迄も呂守の主観でしかないが……

 

 ユートは客観的に見て、軍事組織乃至、警察組織で犯人を逃したというミスを犯したティーダがそんな風に思われる事そのものは、仕方がないと言う。

 

 現実に強盗犯を追い掛けていた警察官が、アッサリと犯人に逃げられたとしたら一般人はその警官を何と思うだろうか?

 

 それを鑑みて、ティーダが無能と言われたのは確かに仕方無い。

 

 そんな一度のミスが後にどんな被害を出すかを考えれば、この次を頑張れば良いなどと軽く云える職場でも立場でもないのだから。

 

 だが、ティアナの一件は話が別である。

 

 メタ的に云えばティアナが感情を暴走させる理由付けであり、それが故にこそ時空管理局の腐敗っ振りが浮き彫りになったエピソードとも云えた。

 

「ティアナ撃墜事件……、軍事組織や警察組織なんかに限らず、上司の命令に対する不服従は首を切られてもおかしくはないかな」

 

「ドライなんだな……」

 

「現実にはそうだろう? 『あれをやれ』という上司に部下が『やってられるかコンチクショー!』とか、そんな事を言って『なら仕方無いか』と済ますなんてあると思うか?」

 

「……無いな」

 

 場合によっては即クビ、良くて減給されるし昇進は絶望的だろう。

 

 というか、ユート本人が上司(なのは)様の命令で、この世界に来ているだけあって凄く実感的だ。

 

 それは兎も角……

 

 ティアナの場合、あの時の模擬戦は習った事を元に戦術を構築し、それで成果を見せるという意味合いがあった訳で、勝手に自主練をして習った事を活かしもしない戦術で挑んだというのがそもそもの間違い。

 

 あれは成果の確認をするのが目的であって、自分の力を誇示する場では決して無いのだから。

 

 だが、同時に現場の判断だけで勝手に粛清したのもまた正しいと云えない。

 

「だけどね、高町教導官も正しくは無かったよ。あの場合だと模擬戦を止めるまでは良かったけど、あの後に撃墜する必要は無いな。やるべきは上官、部隊長の八神はやてを交えて対応を決める事。その間ティアナは謹慎処分って処かな?」

 

 あれでは自分の言う事を聞かないティアナにキレ、私刑(リンチ)に掛けたと言われても文句は言えない。

 

「まあ、結局はその場その場で臨機応変。絶対の正解なんて普通は無いからね。ゲームみたくセーブ&ロードって訳にもいかないし」

 

「そりゃ……な」

 

「それにアニメを視聴してからの意見なんて、所詮はコロンブスの卵だよ」

 

 知った後なら幾らでも周りで『自分ならこうした』と言える。

 

 だけど若し、本当に現場で決断を求められたなら、そいつは正しく判断を出来るだろうか?

 

「ティアナの一件、視聴をした立場だからこそこうして言えるだけだね。後から訳知り顔で言ってもな? 意見を求められたから答えはしたけど、意味のある事でも無いだろうに」

 

 呂守にとってティアナのエピソード自体は確かに、意味のある事では無い。

 

 単に上司になるであろうユートが、その辺をどんな風に考えるのかを知りたかっただけである。

 

「取り敢えず最後に訊いておきたいんだが……」

 

「何だ?」

 

「闇の書事件に関しては、どうするんだ?」

 

「ジュエルシードの時と変わらない。時まで待つ気は一切無いんでね」

 

「っ!?」

 

 ユートは言い放つのだ、原作に沿う心算は無いと。

 

 未だに六月で、ユートは先の宣言通り八月になったら闇の書に関する事を終わらせる気であった。

 

 

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