魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第15話:介入 転生する破界者

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 グリニッジ賢人議会本部へと戻って来たユートと、その他に相生ファミリーはグィネヴィアとランスロットの待つ執務室へ向かう。

 

「初めまして、アイラ・レオンフィードさんと相生新也さん」

 

 アイラは旧姓をミドルネームに使っており、普段はアイラ・L・相生と名乗っている。原作のフェイトが【フェイト・T・ハラオウン】と名乗っているみたいなものだろう。

 

「私はグィネヴィア・ディ・ラック。此方は私の秘書兼ボディーガードをしているランスロット・ディ・ラック。グリニッジ賢人議会の議長と副議長ですわ」

 

 にこやかに自己紹介するグィネヴィアだが、それを聞いて眉根を寄せて訝しい表情となる相生新也。

 

 グィネヴィアと云えば、アーサー王伝説などで有名なアーサーの妻で、更にはランスロットとの不義でも有名な王妃の名前だ。

 

 しかも、副議長の名前がランスロットとは狙い過ぎではなかろうか?

 

「アイラ・レオンフィードさん……ベルカの騎士で、聖王教会所属という事で宜しいですね?」

 

「ええ……」

 

 隠してもどうしようもないと考え、アイラは頷いてグィネヴィアの言葉に対して肯定の意を示す。

 

「ベルカの騎士とか聖王教会とか、いったいどういう事なんだ?」

 

 話に付いていけない新也が声を荒げて訊ねた。

 

「簡単に云えば彼女は……アイラ・レオンフィード女史は異世界人。次元の海を越えた先のミッドチルダと呼ばれる世界、その北部のベルカ自治区・聖王教会に所属する騎士だって事」

 

「い、異世界って……確か侵略者の!?」

 

「異世界人の全員が侵略者って訳じゃない。時空管理局と呼ばれる組織が、地球に魔法や魔導の類いが在ると知れば、自分達が管理をすべきだ……とか言って来るだろうけどね」

 

 アイラは何も言えない。

 

「現在、連中は地球の事を第九六管理外世界と呼び、基本的には時空管理法によって好き勝手出来ない様に決められている。とはいっても、よくSFなんかであるみたいな【未開惑星保護条約】みたいなもんだよ。文化レベルBとか言ってるみたいだし。連中の法に照らし合わせたなら、地球を管理世界とするにはレベルが低いって事なんだろう。恐らく最低限、異なる次元へ自力で飛び立てなければならないって感じか」

 

 未開の世界──そんな風に認識されているとなれば新也ならずとも鼻白む。

 

「聖王教会風に云うならば騎士アイラ、貴女に与えた選択肢はどれを選んだ? 短い時間とはいえそれなりに吟味は出来た筈。分割思考──マルチタスクで色々と考えたのだろう?」

 

「ちょっと待ってよっ! 貴方、何者なの? 幾ら何でも管理世界に対する知識が有り過ぎる! 貴方自身が管理世界の人間なのではないの? だとしたら重大な管理局法違反だわ!」

 

 確かにユートが管理世界の人間であれば【未開世界保護法】に反し、犯罪となるのであろうが……

 

「残念だが、僕は純粋な──異世界の──地球人だし──英国と火星の幻想世界人の混血だけど魂的に──日本人だよ」

 

 副音声が結構おかしい事になっているが、副音声も含めて嘘は言ってない。

 

 そう、嘘は……

 

 実際、ユートは再誕世界の日本に於いて緒方家に入っており、書類上では緒方優斗と緒方白亜は生きていた事になっている。

 

 白亜はあの世界の緒方家で暮らしており、取り敢えずは後継者として娘を置いておいた。

 

 但し、この世界には分家が存在しなかったが故に、闘神都市で再会した白夜達は居なかったが……

 

 それは兎も角、あらゆる

彼是を使っての力業だが、間違い無く日本人としての戸籍を持つのだし特に問題は無いだろう。

 

 血筋的には英国人(ブリティッシュ)でウェスペルタティア王国の人間だが、その魂はやはり前々世での国籍的に日本人を名乗りたいのが心情なのだ。

 

「なら、どうして!?」

 

「さて? 第三視点(ブリック・ヴィンケル)の賜物とかじゃないか?」

 

 そう言うユートに対して噴き出すグィネヴィア。

 

 グィネヴィアとランスロットはユートが転生者である事情を知り、故に隠語みたいに使ったBWの意味も理解をしている。

 

「ブリック・ヴィンケル? それは何?」

 

 当然、理解が出来なかったアイラは眉根を寄せながら首を傾げた。

 

「世界を俯瞰する一次元上に存在する視点。例えば、今の我々が漫画やアニメを観ているとして、アニメのキャラクターは我々を認知が出来ないが、確かに我々は〝彼ら〟を観ている……それを名付けてBW(ブリック・ヴィンケル)

 

 勿論、それはとある作品に於いて呼ばれた──喚ばれた存在の事。

 

【Ever17〜the out of infinity〜】

 

 二〇一七年と二〇三四年を駆ける物語で、主人公の視点を借りつつ現世界へと降臨したBWは、過去である二〇一七年のヒロインの一人──田中優美清春香菜にメッセージを伝える事により、二〇三四年での物語へと繋げる役回りを持ち、それが故に田中優美清春香菜は二〇一七年の出来事を二〇三四年で再現をして、BWを現世界へと召喚する必要があった。

 

 自分にメッセージを伝えて貰う為に。

 

 因みに、メッセージの伝え方がオリジナルとXBOX360版とで異なる。

 

 ユートはこの第三視点である処のBWを、転生者の隠語として用いていた。

 

「それと同じ、世界の様相をとある人物を中心に物語の如く見通す。第三視点、正に世界を俯瞰してね」

 

「そ、そんな莫迦な。信じられる訳が無い!」

 

「別に信じて貰う必要性は何処にも無いな。問題なのは其処じゃないんだしね。騎士アイラ、貴女の処遇こそが現在の問題なんだ」

 

「くっ!」

 

「それと今一つ……貴女の息子のアイオロスと娘であるアイオリア、その二人も同じ知識を持っている筈」

 

「……え?」

 

 何と無く名前のイントネーションがおかしかった気もしたが、今はそんな些事を考える余裕が無い。

 

 思わずアイラが振り返ってみれば、面白いくらいに動揺をする子供達の姿。

 

 それが、ユートの言葉の真実味を上げていた。

 

「呂守、璃亜……? ほ、本当なの?」

 

 目を逸らす二人、それが全て事実であると云う事を如実に語っている。

 

「まあ、稀に居るんだよ。第三視点の持ち主が。万能ではないけど、ある程度の情報は得られるから介入をして変える事すら可能だ。実際、僕は本来であるならジュエルシード事件と呼ばれていた筈の出来事に介入をして、大筋から〝物語〟を変えているからね」

 

 勿論、誇れる事でも況してや誉められる事でも無いのかも知れないし、ユートの都合でねじ曲げたのだ、この世界でそれに関わっていた人間の“一部“からすれば堪らない。

 

「こういう存在を僕は所謂……破界者と呼んでるね」

 

 ディケイドとかガイオウっぽくなるけど。

 

 因みに、ユートは○○○○○○と同質な訳だけど、ユートの識らないとある──禁書目録に非ず──ライトノベルの物語に複数顕れた中に、割と見知った姿が散見されていた中で、何故かシルエットで存在した。

 

 他にもケイン・ムラサメやらナイアやら上泉信綱やらっぽいのが……

 

 あれは良かったのか? とも思うが、良かったから出せたのだろう。

 

 というより、確かに沢山の仮面(かお)を持っているのだが、それはアレと同義と視られるのか?

 

「では、貴方の目的は世界の破壊だと云うの!?」

 

 ズレた発言をしてくれるアイラに、ユートは溜息を隠さずにやれやれとオーバーアクションを是見よがしに執ってやる。

 

「俯瞰された物語を世界、介入して変化せしめた事を破壊と、便宜上でそう呼んでいるに過ぎない」

 

 所謂、二次創作物に有りがちなというか、その為の二次創作な訳ではあるが、オリ主が原典平行世界へと介入し、知識に照らし合わせて内容を都合よく変える行為、ユートはそれを世界の破壊者ディケイドからの揶揄でディケイディアンと呼んでいる訳だ。

 

 無論、自分自身も含めての話である。

 

「それに其処の二人の目的だって、基本的には僕と変わらないぞ」

 

「っ!?」

 

「この時期にわざわざ海鳴市へ引っ越し、恐らく聖祥大学付属小学校への転入もするんだろう?」

 

「そ、それは……」

 

 璃亜の為に何故か引っ越しや転入を認め、時間こそ掛けたが海鳴市への引っ越しはアイラ的にも利が有ったが故に敢行をした。

 

 そう、引っ越しや転入は璃亜が言い出した事。

 

「まさか、貴方の言う通りなら海鳴市でまた某か起こると云うの? しかも二人はそれを知っていて関わろうとしている……と?」

 

 アイラがユートに向き直って問うと……

 

「イグザクトリィー!」

 

 満面の笑みと共にサムズアップし、ウザいくらいに強調しながら答えた。

 

「ベルカの騎士なら多少の因縁が有る管理局準拠で云う処の、第一級捜索指定・古代遺失物(ロストロギア)が稼働している」

 

「な、何ですってぇっ!? 第一級捜索指定のロストロギアって、相当な危険物という事じゃない!」

 

 相生新也は話に着いては往けず、困った表情で首を傾げると呂守に訊ねる。

 

「呂守、ロストロギアって何なんだ?」

 

「古代遺失物、つまり古代文明の遺産だよ父さん」

 

「危険物なのか?」

 

「物にもよるだろうけど、俺が関わる心算だったのは確かに危険物だな」

 

 アイラも耳にした呂守の説明、正しくユートの言った通りであったらしい。

 

「その名を【夜天の魔導書】と云う」

 

「夜天の魔導書? そんなロストロギア、私は聞いた事も無いわよ?」

 

「……確か、古代ベルカという扱いで一番新しいのが三百年くらい前だっけ? 聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトがロストロギア【聖王のゆりかご】を起動してから加速度的に亡びに向かったのがその時期だし……その程度の年月で本来の名がロストしたのか? とはいっても、実際の稼働からきっと千年は経ってるんだろうし、その間に真の名前は喪われたのか」

 

「真の名前?  それは、どういう意味? 聖王様の御名まで知ってるなんて、それも第三視点とやら?」

 

 本来なら此方が選択結果を訊きたいのだが、やはり気になるらしいアイラ。

 

「題して、無印、A’s、Strikers、Vivid、FORCE。第三視点(ブリック・ヴィンケル)による俯瞰知識だ。空白期というA’s〜Strilersを補完する部位も在るし、THE BATTLE OF ACESやTHE GEARS OF DESTINYとか有るけどね。現在の時期はA’sと呼んでいる。【夜天の魔導書】が歴代の主によって改悪をされた【闇の書】を巡った戦いだな」

 

「や、闇の書!?」

 

 流石はベルカの騎士か、【闇の書】という名前には凄く反応をした。

 

 まるで他の事は聞いていなかったくらいに。

 

「それにそんな沢山の事件が起きるとでも? 闇の書が改悪されたシステム?」

 

 聞いていたみたいだ。

 

 とはいえ、余りに情報が多くて混乱するアイラ。

 

 正に『識らないというのは罪だが、識り過ぎる事は罠』というべきだろう。

 

 原典でも【闇の書】についての基本的な知識が欠落していて、ユーノが無限書庫で拾い出すまで殆んど何も識らなかったくらいだ、無理もあるまい。

 

「お願いがあるわ」

 

「何かな?」

 

「上司に連絡をさせて欲しいのよ。此処までの大事、私個人で判断は出来ない」

 

 当然と云えば当然だが、どうしたものか? ユートは少し顔を伏せつつ黙考をして、おもむろにアイラへと視線を向ける。

 

「上司とは誰だ?」

 

「私が此処に初めて来た時から十二年、上司は代替わりして若きグラシア家次期当主の──騎士カリム・グラシアになっているわね。今年からなんだけど……」

 

 驚く呂守と璃亜。

 

「カリム・グラシアね……どんな符合だこれは?」

 

 顎に手を添えてユートは呟く。

 

 本来の道筋に於いては、将来的に【最後の夜天の王】たる八神はやてと、歳の少し離れている友人的な付き合いをする人物。

 

「……Strikersでは多分、二五歳か其処ら。なら今は一五歳? いや、クロノが一四歳でカリムの義弟のヴェロッサが同い年なら一六歳〜一八歳か?」

 

 詳しくは知らないけど、そんな処だろうとユートは当たりを付ける。

 

 ぶつぶつと呟いている姿は少し怖い。

 

 というより、女性の年齢を詮索するのはマナー違反だと、ユートは考えるのを止めた(笑)

 

「余計な報告を入れたら、問答無用で拘束してスパイの現行犯として当局に引き渡すぞ?」

 

「解ったわ……」

 

 恐らくは自らのアームドデバイスに仕込んだ通信機を作動させたのか、周囲に仮想キーボードが顕れる。

 

 リズミカルにキーボードを叩くと、次元通信が彼方に届いたらしく金髪碧眼の少女が空中モニターに出現をした。

 

 まだ少女と呼べるだろうStrikersから見て十年前──若き魔導騎士のカリム・グラシアである。

 

〔あら、定期連絡にはまだ早いわよ? 騎士アイラ〕

 

 呑気に言うカリムだが、周囲に居る人間に気が付いたのか、難しい表情となって口を開く。

 

〔騎士アイラ、彼らは?〕

 

「私の夫と子供、それから現地の魔導組織の方々……ですね」

 

〔それはいったいどういう事ですか? 夫と子供は判りますが、第九六管理外世界に確か魔導技術は無い筈ですよ? それが魔導組織が存在するなんて!?〕

 

 どうやらまだ報告が上がっていないのか、カリムは聖域(笑)の事や他にも土着の組織が存在している事実を知らないらしい。

 

 というか、どれだけ地球を未開世界だと思っているのだろうか?

 

「初めまして、聖王教会の騎士カリム・グラシア殿。僕が御宅の騎士から御紹介与った聖域(笑)の教皇を務める緒方優斗だ」

 

〔きょ、教皇!?〕

 

 異世界、それも管理世界ではないとはいえ、一組織のトップとして名乗り上げると、カリムは仰天したかの如く反応を返す。

 

 今の見た目は十歳前後、それは驚くであろう。

 

「そして私がグリニッジ賢人議会の議長、グィネヴィア・デュ・ラックですわ」

 

 見た目には、十二歳前後の不敵な顔付きでおでこが広い少女に挨拶される。

 

〔ハァ?〕

 

 幾ら管理世界では十歳児の就労が認められているとはいえ、流石にそんな年齢の少年少女が組織を統べるトップとは思えないのか、最早カリムは開いた口が塞がらなかった様だ。

 

「侮るなよ、グィネヴィアは見た目に幼いだろうが、その身は神祖。嘗ては女神であった存在が滅した後に転生した者だ。見た目相応とは思わない事だね」

 

〔め、女神……ですか?〕

 

 胡散臭げにグィネヴィアを見遣るカリム。

 

「アースラの艦長リンディ・ハラオウンから報告を受けてないのか?」

 

〔報告を? シャッハ!〕

 

〔はい、カリム。調べて参ります!〕

 

 髪の毛ショートカットな少女が、パタパタと部屋から出ていく。

 

 どうやらこの頃から既に護衛兼秘書らしい。

 

〔それで? いったいどの様な御用件でしょうか?〕

 

 居住まいを正してカリムが訊ねて来た。

 

「僕から用事は無いけど、騎士アイラの進退問題ってやつでね」

 

〔騎士アイラの?〕

 

 意を決したか、アイラがカリムを見つめながら結論を述べる。

 

「騎士カリム、私を聖王教会騎士の任から解任をして下さい!」

 

 それこそがアイラの出した答えだったと云う。

 

 

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