そろそろ闇の書関連には決着を着けて、A’sでのメインヒロインを出したい今日この頃。
.
双子座の黄金聖衣は音を立てて分解され、ユートの肉体を鎧う。
「──な! て、てめえ、何で聖衣を!?」
「
「なっ! 聖域を!?」
「さて、それはどうでも良いとして……だ。邪魔をしてくれた理由を聞こうか」
「決まってんだろうが! お前がシグナム攻撃をしてるからだよ!」
「ハァ? 全く意味が解らないな。だいたいシグナムとの戦闘がお前に何の関係があるんだ?」
此方はシグナムの要望で闘っていたというのにだ、事情を知らない筈の人間が勝手に横入りしてきた。
意味不明だ。
「ふむ、どうでも良いか。お前を潰してあっちの
「なっ!? お前、玲於奈に手ぇ出す気かよ!」
「勘違いするなよ、射手座モドキ。先に手を出してきたのはそっちだ!」
ユートは言うが早いか、手刀を作ると右腕を揮う。
「
「んなっ!」
山羊座のシュラの技を放つ双子座に、射手座の少年の呂守は驚愕に目を見開きながら跳躍して躱す。
だが、ユートは既に跳躍した先……最大跳躍点で待ち構えていた。
「うっ!」
最大跳躍点というのは、要するにジャンプした際の上昇と、落ちる際の下降、この狭間の無重力地点の事を云う。
空を翔べない以上、この地点に来たら後は落ちるしかない為、攻撃をされたら踏ん張りが利かないから、自発的な攻撃をしても半端なものにしかならないし、防御してもやっぱり脆くも吹き飛ばされる。
虚空瞬動を使うか翔ぶかしなければ、射手座モドキは躱す事すら侭ならない。
「
腕組み状態からの抜刀術とも云える、高速……否、光速のぶちかまし。
「ガハァァァアアッ!」
地上へ真っ逆さまに吹き飛ばされ、崩れかけたビルへて激突した。
「に、兄さん!」
璃亜が右腕を伸ばしながら叫ぶ。
ユートは激突した場所に降り立つと、射手座モドキを捜してみた。
「ぐっ!」
ガラリと音を立てながら瓦礫から這い出てくる。
「へえ、流石に本物と同じ造りだけあって丈夫なモンだな。聖衣〝だけ〟は大したもんだ」
殊更に〝だけ〟と強調をしながら言う。
ユートの見立てでは初の転生、肉体的にはユートと異なりリアルに一〇歳前後でしかあるまい。
元の年齢は知らないが、ユートの様に古武術を習ったなんて事も無く、聖闘士の修業も独学といった処。
究極の小宇宙たる第七感──セブンセンシズに目覚めてもいない様だ。
速さも白銀聖闘士は越えているが、雷速──一五〇キロメートル毎秒にも達してはいなかった。
ならば速度も実際に生身でならもっと遅い。
「
総じて、黄金聖闘士と呼ぶには力不足が過ぎた。
「ぐっ、何だと?」
「黄金聖衣のお陰で力不足を誤魔化しているけれど、お前自身は大した実力じゃなさそうだ」
ユートはそう断じる。
「く、そっ!」
相生呂守は悔しげな表情になり、吐き捨てるかの様に悪態を吐いた。
呂守とて最早、実力差は理解が出来てはいるのだ。
目の前の
しかも双子座の聖闘士の技ばかりか、他の黄金聖闘士の技まで使えるなんて、有り得ない事までしてくる輩だ、下手をしたら自分の
基本的に聖闘士とはいえ中身は生身の人間であり、身体能力も実は鍛えている普通の人間──とも言い難いものはあれど、人間には違いが無かったりする。
魔導師が魔力で身体強化をする事で常人以上の能力を発揮し、例えばフラッシュムーヴやソニックムーヴなどで高速移動をしたり、明らかに自分より重たい岩を運んだりが出来るのや、光弾を放ったり魔力刃を発動させたりが出来る様に、聖闘士も亜音速から極超音速で動き、剰え光速なんて巫山戯た速度を出せたり、地面を穿って大きなクレーターを作ったり、絶対零度なんて極低温を発生したり出来るのだ。
中には手刀を一振りしただけで、鋼鉄すらバターの如く真っ二つにしてしまう黄金聖闘士だって居る。
その真髄は魔導師ならば魔力であり、聖闘士ならば
【リリカルなのは】系統の魔導師なら、
リンカーコアのリンカーとは
ユートが関わったSAOを主体としながら習合されていた【戦姫絶唱シンフォギア】に登場をした薬品──【LiNKER】というのも役割は、シンフォギアシステムと奏者を
名前の由来は生物と世界の魔力を結合する核器官、これはこれで便利なのだが今はどうでも良い。
元より魔力は体内に存在する生体エネルギーの一種であり、それが世界にも溢れていたというだけだ。
そしてそれは、他の生体エネルギーの霊力や気力や念力も同様、魔力と同じ事が可能となっている。
だけどこれらは全て支流に過ぎない。ならば在る筈のモノ──即ち源流というのも存在するだろう。
根っ子となる源流は同じだったが、用途などで分岐をしたのが魔力など。
その源流の事を
故に、聖闘士が小宇宙の更なる深淵に──
つまり、
これは先に覚醒する程、純化される事を意味する。
支流を纏めると源流へ、源流を更に辿れば最源流にまで至るという事を。
クロノではユートに勝てなかったのも当然、魔力は支流の力に過ぎないから。
より大きな源流、小宇宙を使うユートは同じ量でも純度の高い力を使っているのと同義。
例えるならば、一の魔力で発揮される能力は十で、一の小宇宙で発揮が出来る能力は百だという事。
そして同じ事がユートと呂守にも云えた。
呂守は
聖衣は同じ黄金聖衣で、装備的には互角だった。
それなのに圧倒的な差を以てユートが勝利を納めたのは、肉体的な差異も有るのだろうけど小宇宙の純度の差が大き過ぎる。
そう、普通の人間を超越している身体能力を持ち得る【カンピオーネ】だった事も無関係ではないのだろうが、一番の差は小宇宙の純度──末那識に目覚めていたユートと未覚醒だった呂守という処にあった。
黄金聖衣を纏えば、それだけで白銀聖闘士の数人を圧倒出来るが、それにしても本物の黄金聖闘士に敵う道理は無い。
嘗て、ペガサスの聖闘士である星矢も、絶対安静の身体で射手座《サジタリアス》を纏って白銀聖闘士の三人を軽く屠ったのだが、その後での
兄であるアイオロスの魂の説得で事無きを得た。
その結果を踏まえれば、末那識に未覚醒な相生呂守に勝ち目は無い。
因みに、仏教の宗派には八識論や九識論だけでなく十識論まで存在しており、十識を乾栗陀耶識と呼ぶ。
小宇宙の共振現象による【
ある意味で同一にして、全くの真逆なモノだ。
閑話休題……
自分だけなら闘いを続けても構わないが、妹の璃亜までも傷付けられるのは、呂守としても業腹だ。
「判ったよ、俺の敗けだ。だから玲於奈……否、璃亜には手を出さないでくれ」
血を吐く思いで言う。
其処へシグナム達が飛んで来た。
「緒方優斗、結局はどうなったのだ?」
「襲撃者が降参したよ」
「そうか……」
親しそうに話をしているシグナムとユートの姿に、呂守は驚愕をしてしまう。
シグナムを襲う【オレ主様】と思って介入したら、親しそうでおかしな気分となったのだ。
「シグナム、丁度良いから君らヴォルケンズにも来て貰おうか」
「何処へだ?」
「英国はグリニッジ」
「グリニッジ……とは?」
「其処にはこの地球に於ける神秘の記録などを行っている組織、グリニッジ賢人機関が存在している」
グリニッジ賢人機関は、【カンピオーネ!】を主体とする世界で、アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールを名誉顧問に据えて、実際に 存在していた組織だ。
ユートはそれをこの世界の英国に置いた。
トップにはとある方法を用いて無理矢理に味方へと引き込んで、此方側に連れて来た魔女王グィネヴィアを据えている。
その護衛兼副議長を務めるのがランスロット・デュ・ラックで、現在は嘗て纏っていた無骨な鎧兜を脱いでおり、金髪の美少女姿を晒していた。
最早、まつろわぬ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
相生兄妹とヴォルケンズを連れて、転移陣を使うとユートとユーキは英国へと一気に跳んだ。
転移陣は各国に設置されているが、使うには相応の理由を必要とする。
何しろ、この転移陣とは入国審査処か有りとあらゆる緒手続きを無視出来て、どの国にも跳べてしまう。
犯罪者が使っては余りにも危険極まりない代物で、だからこそ簡単に使わせる訳にはいかなかった。
ユート達の様にグリニッジ賢人議会に登録をしている【異能者】であるなら、カード一枚で簡単に転移陣も使えるのだが……
今回、相生兄妹とヴォルケンズはユート達の随行者として使う事になる。
グリニッジ賢人議会本部に着くと、すぐに議長室へ通されたユート達一同。
議長室は大きな部屋で、どう考えても部屋の規模と建物の外観が合わない。
空間湾曲技術を用いて、部屋の内部を拡大しているという訳だ。
「これはユート様、お久し振りというには少しばかり御早い再会ですね」
「まあね。グィネヴィア、用件はこの二人の……相生呂守と相生璃亜の尋問と、ヴォルケンズ四名のグリニッジ賢人議会への登録だ。それとこの場には来ていないが、八神はやても登録をしておきたい」
「了解致しました、それでは必要な書類をお渡ししますね? 伯父様、ユート様に書類を」
「判った、我が愛し子よ」
グィネヴィアはユートの要請を請け、ランスロットに書類を持ってきて貰う。
そんな遣り取りを見て、相生呂守は目を見開きながら驚愕していた。
当然であろう、呂守からすればライトノベルの人物が──しかも【リリカルなのは】と無関係な【カンピオーネ!】のキャラが堂々と公的機関に籍を置いて、ユートと仲好さげに会話をしていたのだから。
何故か魔女王グィネヴィアだったし……
ユートは緒手続きをさっさと終えると、相生兄妹の尋問へ移るべく二人をソファーに座らせた。
この二人は犯罪者とまではいかずとも、殆んどそれに近い立場にある。
ヴォルケンズとのアレは正規の模擬戦、それを全くの未登録者が攻撃を仕掛けての横入りだ。
「さて、今更名乗るというのもおかしな話だけどね、僕は緒方優斗だ。どうやらグィネヴィア達については説明するまでもなさそうだけど、此方の女性用フェニックスを纏っていたのが、緒方祐希。僕の義妹だ」
「俺の名前は
「私は
ユートの自己紹介に合わせて二人も名乗るが、本当に冗談みたいな名前だ。
「確認するけど、銀髪アホ毛な少女に『誤って殺してしまったから、
「あ、ああ……」
「それで間違いないよ」
二人はユートからの確認を受け、認識として間違いはないと肯定をした。
銀髪アホ毛──ユートの認識に在る【這い寄る混沌ナイアルラトホテップ】、若しくはニャルラトホテプと呼ばれる邪神。
無貌の神であるが故に、逆説的に千の貌を持つとされる彼の邪神は、様々な姿を以て顕現をする。
例えば【無限螺旋】で、黒の王と白の王を相手にした時は、黒髪赤眼で巨乳なパイナップルヘアの年増──ではなくお姉さんの姿でナイアと名乗った。
同じく【無限螺旋】で、オーガスタ・エイダ・ダーレスの前で褐色肌なメイドの姿ニアーラを演じる。
ユートの前では何故だかクトゥグア星人のクー子に合わせるかの如く、ニャルラトホテプ星人のニャル子の姿を執っていた。
それが翠目で銀髪アホ毛少女の姿である。
とはいえ、よもやユートがその姿を知らないとまでは思わなかったらしい。
それは兎も角として……一通りの事情を聞いた議長のグィネヴィアは、ユートの方を向き直り……
「成程、でしたらユート様はこの御二人に謝罪をすべきではありませんか?」
「何故?」
「早い話が、這い寄る混沌とユート様の戦いに御二人は巻き込まれた訳ですし」
「直に戦闘をしていて攻撃が当たったとかなら、確かにそうだろうね。けれど、そうじゃないな。這い寄る混沌は僕に二人を当てる為に殺したらしいが、それはつまり……銀行強盗が人質を取って、『俺を包囲して逃がさないから人質が死ぬんだ!』と喚き散らして、人質を殺害した様なもの。まあ、第三者なマスコミとかなら『警察の不手際』とか煽って記事を書くのだろうけど、僕はこの場合だと警察役ですらない」
「と、言いますと?」
「銀行強盗が強盗を働いた理由が僕から金を借りて、返済に困り切羽詰まったからだった……人質が殺された理由に『銀行強盗が僕への借金返済に困り強盗し、銀行員が人質となって最終的に殺害された』訳だね。果たして金を貸していた僕は被害者に謝罪をしなければならないのかな?」
「………………」
「『強盗をした奴に金を貸して御免なさい』って? それこそ愚かな話だろう。それに、それを突き詰めるのなら人質が銀行員として働いていた事、それこそが殺害された遠因とも云えるだろうしね」
例え話では人質が銀行員だから殺害され、この二人は呂守が聖闘士に成りたいと考える要素があったから殺害された。
責任は言い過ぎにせよ、縁は繋がっている。
か細い蜘蛛の糸程度でしかない縁ではあるが……
「それに何より、この二人は既に独自に這い寄る混沌から示談金を受け取っているんだ」
「示談金……ですか?」
「そうだよ。記憶を保持した侭で
示談とは、争い事を裁判など通さずに話し合いにて解決を図る事。
示談金というのはその際の条件に支払われる金で、受け取った以上はもう兎や角言う権利は無くなる。
「それでは責任云々と言ったのは? ユート様自身も彼らに責任があると思ってはいないのでしょう?」
呂守に責任があるとまで言ってないが……
「ああ、そりゃアレだよ。成り行きすら知らない無関係な人間に行き成り攻撃をされて、少しばかり苛立っていたからね」
流石のユートもムカついていたらしい。
「成程……」
苦笑いのグィネヴィア。
ユートとて別に聖人君子ではないから、感情に任せて行動もするであろうし、それで失敗だってする。
ユートもよく言っているだろう、『自分はどうしようもないくらい人間』──決して完璧な存在などではなくて、移ろい易く愚かで安易な行動をしがちな人間に過ぎないのだ……と。
「さて、その話はもう終わりだ。次の議題に移るぞ。相生呂守、相生璃亜、君らの両親に関してだ」
ギクリ……二人は両親という単語に肩を震わせた。
.