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広い場所に結界を展開、周囲に影響を及ばさない様にして、ヴォルケンリッターと対峙するユート。
「本当に四対一でだと?」
予め言われてはいたが、本気だとは思わない。
「そうだよ」
「我らヴォルケンリッターを舐めているのか?」
シグナムが怒りを露わに言い、短気なヴィータも苛立った表情になる。
普段はおっとりして笑顔を振り撒くシャマルとて、流石にカチンときたらしく睨んでいた。
狼モードのザフィーラは表情が読めないが、やはり舐められたと考えているのかも知れない。
「舐めてなどいない。純然たる実力差を考慮したら、これでも足りないくらいな訳だしね。だから僕は聖衣も纏わないし、クリーンヒットを受けたらその時点で負けで良い」
つまり、ユートは一発も受けてはならないという、ハードモードで闘うのだ。
「てめえ、舐めやがって! だったらアイゼンの頑固な汚れにしてやる!」
「どうぞご自由に。出来るものなら……ね?」
激昂するヴィータだが、せれをアッサリと流してしまうユート。
ヴォルケンリッターは、武器の形のペンダントを外して、天高く掲げ叫ぶ。
「レヴァンティン!」
《Sieg》
レヴァンティンが待機状態から片刃の剣となって、シグナムは薄いピンク色を基調とした騎士甲冑の姿に変化する。
「導いて、クラールヴィント!」
《Anfang》
風のリングという意味のシャマルのアームドデバイスたるクラールヴィント、指輪形態(リンゲフォルム)となってシャマルの指に嵌まる。
シャマル自身は薄い碧の騎士甲冑姿になった。
「やるよ、グラーフアイゼン!」
《Bewegung》
ハンマーの形に変化したグラーフアイゼンを手に、ヴィータは紅い騎士甲冑を身に纏う。
最後にザフィーラも狼の姿から、褐色の肌で筋肉質な大男へと姿を変えた。
頭には狼の耳、後ろの腰辺りに尻尾が生えている。
「さあ、それでは闘いを始めようか」
プカプカと浮きながら、ユートは右腰に手を添えて言った。
更には左掌を上に向けて腕を前に突き出すと、クイクイとまるで掛かって来いと言わんばかりに動かす。
「我らを余り舐めるな! 喰らえ鋼の軛、デヤァァァァァァァァァアアッ!」
ザフィーラの前方に三角の魔方陣が顕れ、その瞬間にユートの周囲から三角錐の槍が突き出た。
パキィン!
軽快な音を響かせると、【鋼の軛】が粉々に砕け散ってしまう。
「っ!?」
驚いたのも束の間でしかなく、直ぐにも次の行動に出ようとしたが……
「守護騎士防御型ユニット・ザフィーラ! この縛鎖は僕には意味を為さない」
いつの間にか背後に廻られていた。
「天馬・回転激突(ペガサス・ローリングクラァァァァァァッシュ)!」
ザフィーラを羽交い締めにして、空中だというのに更に跳んで天頂まで至り、激しく螺旋を描いて地面に激突する。
「ゴハ!」
防御力に優れているとはいっても、無防備に頭から激突しては堪らない。
碧の魔力光を放つ鎖が、ユートを縛るべく囲む。
パキィン!
「そ、そんな!?」
未だに理解していない。
エピメテウスの落とし子にこの程度の魔力で編んだ縛鎖など、意識をせずとも消し去れる。
「守護騎士補助型ユニット・シャマル、癒しと補助を本領とするその力では魔法が効かない僕に対し、何の脅威にもならない!」
「はっ!?」
直接的な戦闘を不得手とする補助型のシャマルは、一気に懐に入られた挙げ句に顎を打ち抜かれ……
「キャァァァァッ!」
気絶して墜ちてしまう。
フォローに入る暇さえも与えられず、呆然と仲間が二人も墜とされるのを見せられたヴィータが……
「てんめー! アイゼン、カートリッジロードだ!」
《Explosion》
ヘッド部が上下に動き、薬莢を排出する。
《Raketen form》
その場でハンマーの片方に穿角、もう片方に何故かブースターが顕れて、名前の通りロケットの如く魔力を噴き出す。
その勢いを利用した強烈な攻撃がユートを襲う。
「喰らえ、ラケーテン……ハンマァァァァァァァァァァァァーーッ!」
クルクルと回転しながらユートに近付く姿は、少し間抜けにも見えるのだが、まともに喰らえばなのはも危ない。
だが、ユートは危なげ無くヘッドを掴む。
「なっ、にぃ!?」
「守護騎士強襲型ユニット・ヴィータ。魔力によった攻撃が効かない以上、物理的な攻撃しかない訳だが、個人で来るのは言語道断! 一対一でベルカの騎士に敗けは無いか? 巫山戯た幻想だな」
バキン!
「アイゼンが?」
掴んでいたグラーフアイゼンのヘッド、ハンマーの部位に力を籠めて破壊してやった。
この程度の破壊ならば、リカバリーを掛ければ直るだろうが、そんな暇を与えてやる程にユートは優しくはない。
「終わりだ、金牛のパワーを見るが良い……威風激穿(グレートホーン)!」
腕組みからの居合い拳とも云うべき技で、凄まじいばかりの衝撃を生む。
それはトラックとの激突の方がまだしもマシだと、ヴィータをしてそう思える程であったと云う。
撥ねられた事は無いが、きっとそんな感じだと後に語ったのである。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
威風激穿に吹き飛ばされたヴィータは、地面に打ち据えられてクレーターを作りながら跳ねる。
「そもそも、折角の四対一なのに何でわざわざ一人で向かってくるかねぇ?」
ユートを侮っていた……正にそれが原因だろう。
因みに、何だかモニターで観ていたはやてが絶叫を上げている。
『イヤァァァァァァッ! 私の守護騎士(ガンダム)がぁぁぁぁぁぁっ!』
みたいな感じで……
「強いな。我らは自惚れている貴様を叩き潰して鼻っ柱をへし折る心算だった。だが、自惚れていたのは寧ろ我らの方か」
「そもそも、格上を相手に一対一とか正気の沙汰じゃないね。個人でならせめて無限連還システム・U−Dを連れてくるんだな」
「何だ、それは?」
「闇の書の奥深くに沈められた闇の書の闇よりも尚、暗き闇。【砕け得ぬ闇(アンブレイカブル・ダークネス)】の事だ。あれなら、僕と互角に近い闘いも出来るだろう」
守護騎士相手みないに、問答無用で叩き伏せられないという意味でだが……
「待て、我らはそんなモノは知らないぞ?」
「? 『我らはある意味で闇の書の一部だ。だから当たり前だ、私達が一番闇の書について知っているんだ……』とか言っておいて、何で【砕け得ぬ闇】を知らないんだろうね?」
「うぐっ!」
どや顔で言った科白を、淡々と……しかも反証付きで言われては、何も言い返せない処か恥ずかしいだけであった。
まあ、ユートもGODを識らなければ指摘も出来なかったし、ある意味で反則的な情報源(ソース)に頼っている訳だが……
「闇の書より尚、暗き底、夜天より尚、深き場所……然れどそれは全き虚の狭間の内で、いつの日にか夜の闇が明ける紫天を夢見続ける存在。隠された存在だから知らなくても無理は無いけど、あの時は笑いを堪えるのに必死だったよ。何しろ【闇の書】の事は何でも知っている……とかドヤ顔で言うしさ」
「ガハッ!」
吐血する。
シグナムの精神に五〇のダメージを与えた。
「さて、もう勝敗なんて見えているけどね、守護騎士闘将型ユニット・シグナム……実際に敗北を喫しなければ納得もしないか?」
「当然だ!」
真面目な顔に戻り、自らのデバイスのレヴァンティンを構える。
ガコン! レヴァンティンの柄の部位がスライド、薬筴を排出した。
その瞬間に刀身が赤紫色の焔で燃え上がる。
「紫電……一閃っっ!」
「緒方逸真流【飛来芯】」
迫り来る燃える白刃の腹を軽く叩いて軌道をずらしてやると、その勢いの侭に盛大な空振りになった。
「なっ!?」
驚愕するが、そんな暇など無いと言わんばかりに、ユートの拳が迫る。
《Panzer schild》
勢いを殺せず防ぐ術を持たない主に代わり、レヴァンティンが防御魔法を用いて防いだ。
パリン!
「ぐわっ!?」
だが然し、パンツァーシルトは敢えなく破壊され、脇腹に拳が突き刺さる。
防御魔法で何とか打点をずらせたが、まともに受けたら終わっていたかも知れないと、改めて脅威を感じたシグナム。
「レヴァンティン、シュランゲフォルム!」
《Ja.SchlangeS form》
柄から薬筴を排出して、形状を連結刃へと変える。
予測の付き難い空間攻撃が可能な蛇蝎剣は、元の長さからは有り得ない伸び方をしていた。
「シュランゲヴァイセン・アングリフ!」
縦横無尽に空間を奔る刃だったが、ユートはそれも躱してしまう。
「くっ、これも避けるか」
「僕の知り合いに、もっとえげつない空間攻撃を仕掛ける娘が居てね!」
シエスタの必殺技、空間星雲(ディメンシス・ネビュラ)……空間を飛び越える星雲鎖(ネビュラチェーン)の特性を応用する事によって、音速を越える鎖を時間差により周囲の空間から一斉に襲撃する。
あれに比べれば温い。
あの技は何処ぞの慢心王の宝具、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を敵となる個人の周囲に展開し、一斉掃射をするのに等しい空間爆撃だった。
その経験値は決して無駄とはならず、シグナムの技を避けさせてくれる。
まあ、ユートが黄金聖闘士の力で向かえば普通に避ける事も可能。
「それでは無理だね」
ほんの僅かな、刹那でしかない隙を見出だして真っ直ぐにシグナムの懐に飛び込んだ。
「この技は僅かコンマ一秒の刹那、全くの無防備になる隙が出来るみたいだよ」
「なにぃ!?」
「廬山龍飛翔!」
小宇宙を纏い、龍飛翔とか言いながら中国の瑞獣である麒麟のオーラを放ち、シグナムに突進……
「チィッ!」
しようとしたが、行き成り黄金に輝く矢が無数に飛んできた。
シグナムは避けるまでもなく狙われてはおらずに、向かう先はユートのみ。
躱すのは無理。
ユートは已むを得ず腕を十字に組んでガードをし、攻撃に耐える事にした。
「これは無限破砕(インフィニティブレイク)か?」
しかもシーナが使う紛い物ではなくて、間違いなく小宇宙を使った本物。
ユートは無限破砕らしき技に圧され、抉られていく地面にぶつかる。
一連の動きに茫然自失となるシグナム。
先の技の発射地点であろう場所を向くと、翼をはためかせる黄金の鎧兜に身を包む少年が、腕を伸ばした状態で立っていた。
「だ、誰だ?」
「俺の名前は射手座(サジタリアス)のアイオロス。相生呂守だぜ!」
ドヤ顔でサムズアップした親指を自分に向けると、そう名乗る。
日本人の様だが何故だか赤毛で、一二歳前後っぽい身長に少し日本人離れした顔立ちだけど、名前が取って付けた様な日本名。
モニタリングをしていたユーキは、アイオロスと名乗る少年に唖然となって、大口を開けていた。
更に結界の隅に待機をしていたなのは達の傍には、もう一人の黄金の鎧兜を着た少年が立っている。
「もう、恥ずかしいな兄さんは……」
「うわ、此方にも?」
突然の登場に、なのはもフェイトも驚愕した。
「はーい、ボクは獅子座(レオ)の相生璃亜。宜しくお願いね、なのはちゃん、フェイトちゃん♪」
愉しそうに右手を振って笑顔を向けてくる少年は? 全く無邪気に振る舞う。
それを見たユーキは汗を流しながら……
「アイオロスにアイオリアって、それに黄金聖衣? パルティータが言っていた転生者って、彼らの事? でも兄妹って言ってた筈、という事はアイオリアとか名乗ったのは女の子ぉ?」
確かに獅子座の黄金聖闘士アイオリアを名乗るが、見た目には寧ろ……
「あれって、ひょっとしてリトス?」
エピソードGに出てきたアイオリアの義妹にして、専属の従者であるリトスにしか見えない。
因みに、ユートの心配はしていなかったりする。
ユーキから見て〝ユートの〟無限破砕に比べても、未熟以外の何物でもない様な一撃など……
「不意討ち上等ってか?」
碌なダメージになろう筈もないのだから。
「チッ、まだ動けんのか。まあ、どうせアイツはどっかのオレ主様──俺が主人公様の略──だろう。俺の相手じゃねーぜ!」
アイオロスと名乗る少年は太々しい表情で見遣り、ニヤリと口角を吊り上げて構えを執る。
カオスな現場が更に混沌としてきたものだった。
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