魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第10話:覇者 まつろわぬ者への預言

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 ミッドチルダ極北地区・ベルカ自治領。

 

 この地は【最後の聖王】オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを奉じて、ベルカ騎士達が治めている聖王教会が存在している。

 

真正古代ベルカ式を継承するグラシア家の少女カリム・グラシアには、稀少技能(レアスキル)の【預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)】が備わっており、これを使って未来を垣間見る事が可能だ。

 

 とはいえ万能には程遠い能力で、双月の魔力が揃う年に一度しか使えない上、詩文形式が古代ベルカ語で表記されており、解読するのが至極難解であった。

 

 何しろ古代ベルカ語は、他国を併呑で言語が多様であり、地方によっては同じ言葉でも意味合いが多様に変化する。

 

 マリアージュも、婚姻や祝福という意味かと思えば他では、食べ合わせの事だったりするらしい。

 

 まあ、それは兎も角……

 

 カリム・グラシアは、新たに出ていた預言の結果に頭を抱えていた。

 

 幼い頃から発現し、慣れ親しんだ稀少技能(レアスキル)だったが、これ程に困った結果を出した事などありはしない。

 

──古より来る覇、その血と記憶を以て甦る。然れど王はまつろわぬ。愛しき死せる王を求めて移ろうであろう。羅刹の君と立ち会うその日まで──

 

 何を意味しているのか、カリムにも解らない。

 

 だが然し、恐らくは余り良い預言ではなさそうだ。

 

 13歳の小娘には重責が過ぎる内容だと、第六感が囁いている。

 

「本当にどうしましょう。死せる王とか古より来る覇とか、何だか厄介事の予感しかしませんね」

 

 カリム・グラシアはこの後に思い知る事となるであろう、【最後の夜天の王】の事件が第97管理外世界で終わる頃、預言が成就をしてミッドチルダに未曾有の危機が起きる事を。

 

 決してまつろう事無く、死せる王──最後のゆりかごの聖王を求めて移ろいし覇なる王が甦る事を……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どうだったのだ?」

 

「バッチリだよ。管理局に無駄な邪魔はさせない」

 

 烈火の将シグナムからの問いに対し、ユートは交渉が上手くいった事を伝え、サムズアップで応える。

 

「さて、君らの真実と未来の一端を……IFの世界を教えようか」

 

 ユートは闇の書の真実、起こり得る未来を伝えた。

 

「あ、主はやてが死ぬ?」

 

「ああ、放って置いたなら闇の書の呪いははやてを蝕んで殺す。下半身の麻痺が上半身に至り、重要臓器を麻痺させればそうなるのは必然だろう。胃、肝臓、膵臓、肺、心臓。どれも機能不全を起こせば……」

 

「だからといって闇の書で蒐集を行えば?」

 

「その時は、ナハトヴァールが暴走してはやてを呑み込んで……やはり死ぬ」

 

「何という事だ……」

 

 今はまだ守護騎士達も、はやてを他の主と同じ程度にしか思っておらず、主の死を許容出来ないのは守護騎士としてのプログラムに過ぎない。

 

 だが、はやてが以前までの主と違うと認識をして、本当の意味で死なせたくないと思えば、蒐集をしなければと考える筈。

 

 ユートにはナハトヴァールを切り離し、管制人格を救う作戦があるから、取り敢えず蒐集を勝手にやられても困る。

 

 だから釘を刺したのだ。

 

 さて、ユートは上司からアニメDVDなんかを特別報酬で貰う事がある。

 

 聖書の神の神話体系が、主に戦っていた世界に行く前に貰ったDVDに、面白いものが混じっていた。

 

 劇場版NANOHAで、2ndA&sという。

 

 それを見て、その時にはユートも面白いで済ませた訳だが、この世界に来てから今一度観直した。

 

 闇の書の闇(ナハトヴァール)……防衛プログラムが劇場版だったら、可成り厄介なものになるだろう。

 

 守護騎士達が相談を始めて少し経つと、烈火の将・シグナムが代表してユートに話し掛けてきた。

 

「話し合った結果だがな、やはりお前を全面的に信頼する事は難しい」

 

「だろうね。ぽっと出の僕の事を行き成り全面的に信じたら、寧ろその方が吃驚だからね。だけど、だとしたらどうするんだ?」

 

「私と戦え!」

 

 古いタイプの騎士だと、自らを揶揄するくらいには頭が固いシグナム、何と無く想像出来ていた訳だが、戦闘中毒者(バトルジャンキー)らしい答えだ。

 

「先の戦いで、お前は指示を出すだけで自らが戦う事がなかった。戦闘能力が全てだとはいわないが、私は古いタイプの騎士なのだ。他者を信じるのにもこいつを持ちいらねばならん」

 

 自分の佩刀のレヴァンティンを腰から外し、見せ付けるが如く右手に持って、真っ直ぐに突き出す。

 

「ハァー、僕は戦闘中毒者でも戦闘狂でもないんだけどなぁ……」

 

 コキコキと首を鳴らし、守護騎士を見回すとニヤリと口角を吊り上げた。

 

「先ず体調を整えてから、主から騎士甲冑を賜われ」

 

「む!」

 

 シグナムが痛い所を突かれた表情となり、苦々しい口調で口を開いた。

 

「気付いていたのか」

 

「? どういう事よ?」

 

 アリサの疑問はなのは達も同じらしく、皆が一様に首を傾げている。

 

「アリサ、君は……君らはよもや本当に守護騎士達に圧勝したなんて思っているのか?」

 

『『『『え?』』』』

 

 守護騎士戦に関わった者が声を上げる。

 

「守護騎士戦は言い方は悪いが、起動したばかりだったから本調子じゃなかっただけだし、騎士甲冑も纏ってはいなかった。君らが強くなってるのも勝てた要因の一つだけど、あの時だとそうだな……本来の実力の三割って処だろうね」

 

『『『『三割!?』』』』

 

「解り易く説明するなら、守護騎士達を一律して百の戦闘力だとして、経験値の分で百二十としようか?」

 

 アリサ達だけではなく、はやてと守護騎士達も聞き入りながら頷く。

 

「だけど起動したばかり、騎士甲冑も無いからあの時は実力の三割……四十くらいしか出せなかったんだ。アリサ達は経験値分の+は無しで純戦闘力のみしか出せないとして、実力的にはだいたい……六十〜八十も出せれば御の字だね」

 

「それじゃ、本当なら勝てないの?」

 

「まあ、一律百とは言ったけど実際には将のシグナムを百二十、ヴィータを百、シャマルを六十、ザフィーラを八十くらいに見て良いと思うよ、すずか」

 

 ユートの見立てで考えたものだし、経験値や作戦や相性など戦闘は様々に要素が加わり、まるで水の如く様変わりしていくもの。

 

 天秤が傾けば戦闘力の低い者が、高い者に勝利を収める事さえある。

 

 只人が神に勝利をして、カンピオーネとなる事こそがその象徴だろう。

 

 力無き人間が、神話に沿った行動しか出来なくなったとはいえ、神々を殺してしまえるのだから。

 

 それは一の力の人間が、千とも万とも云える神を弑奉るという矛盾。

 

 決してそれが不可能では無いのだから、百も離れていない者なら勝てても不思議ではあるまい。

 

 それにシャマルの戦闘力が六十というのも、飽く迄も純粋な戦闘力の数値がという意味で、それで絶対にシグナムには勝てないという訳で無い。

 

 勝利者とは……天の佑、地の利、人の和、時の運、武装、情報、あらゆるものを以て最後まで立っていた者を指す。

 

 だが、守護騎士に勝利の女神は微笑まなかった。

 

 唯それだけの事。

 

 まあ、それでも……

 

「僕を相手にするのなら、今の君らではどうしょうもないんだよね。先ずは最大限に能力を発揮出来る様に自己調律をして、主からは騎士甲冑を賜るのが最善だと思うな」

 

「んだと、さっきから聴いてりゃ好き放題に言いやがって!」

 

 到頭、ヴィータがキレて怒鳴り付けてくる。

 

「なのはに負けたヴィータが何を言っても、負け犬の遠吠えだよ」

 

「あんときゃ、目覚めたばっかで本調子じゃなかっただけだ!」

 

「だからその調子を整えろと言ってるんだが? 僕はなのはより強いのに、戦って負けたらまた本調子じゃなかったと言い訳でもするのか?」

 

「ぐっ!」

 

「一対一ならベルカの騎士に負けは無いだったかな? 負けたら調子が悪かったと言い訳して、認めないから負けは無いなんて言ってるんじゃないよね?」

 

「巫山戯ろよ、タコが!」

 

 ユートの安っぽい挑発にヒートアップするヴィータだったが、シグナムがそれを手で制する。

 

「んだよ、シグナム!」

 

「挑発に乗るな。騎士甲冑を賜り、自己調律をしなければ先程の二の舞だぞ」

 

「ぐっ!」

 

「それで、戦闘条件は?」

 

 流石は【烈火の将】等と呼ばれるだけの事はあり、冷静に事を進めていく。

 

「バトルフィールドに関しては、廃棄されてるビル群で空戦も陸戦も自由だね。人数はヴォルケンズ四名と僕が一人の変則団体戦」

 

「なっ!」

 

「本気か?」

 

 ヴィータがまたキレて、シグナムも少しカチンときたらしく、ユートを睨み付けてきた。

 

「本気だよ。というより、その程度の事すら出来ない奴に、僕の言ったプランが実行出来るとでも?」

 

「……判った。それなら、いつにする?」

 

「一ヶ月後、学校が夏休みに入ってからで良いだろ。七月二十五日にしよう」

 

「了解した」

 

 話し合いも一時的に終了して、八神はやてと守護騎士達は家に帰る。

 

 その後は、守護騎士の服を買いに行ったり、食事を一緒に食べたり風呂に入ったりと、凡そ人間らしい生活をする事になるだろう。

 

 原作的にもはやての性格的にも……

 

 一ヶ月とはいえ、守護騎士達が八神はやての人柄を知るには充分な時間だ。

 

「何であんなやっすい挑発なんてしたのよ?」

 

 アリサが近付いて来るとユートに訊ね……

 

「ん? 怒りは力になる。だけど怒りのボルテージは一ヶ月も保たないからね、いい具合に冷静にもなれると思うんだ」

 

 それに用意していた答えを教えた。

 

「成程ね……」

 

 答えに納得をしたのか、アリサがウンウンと頷く。

 

「シグナムは古いタイプの騎士だからさ、どうしても考え方があんな感じになるみたいだね」

 

 真正古代ベルカの騎士、古代ベルカの諸王群雄割拠の時代をも駆け抜けたであろう闇の書だ、どうしたって考え方が殺伐とする。

 

 結局、この世界の話し合いとはOHANASHIが主となるのだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 自宅に戻ったはやては、守護騎士達の服を買いに行く事になった。

 

 メジャーで三サイズなどの寸法を計り、それに併せたサイズの服を買う。

 

 それに食材も多く買ってきて、美味しい食事を作って皆で食べた。

 

 散歩の最中、シグナムははやてに相談をする。

 

「騎士甲冑?」

 

「はい。彼も言っていましたが、我らは武器は持っていますが甲冑は主より賜わらねばなりません」

 

「イメージさえ創って頂ければ、後は私達が魔力にて構築致します」

 

 車椅子を押すシャマルがシグナムに次いで言う。

 

「ああ、戦うんやったね。私は余りみんなを戦わせとうないけどなぁ、ほんなら服でエエ?」

 

「はい、構いません」

 

「ほなら格好エエのを考えんとな。騎士らしい服を」

 

 愉しそうに言うはやて。

 

 トイザらスへ入り、騎士甲冑のヒントを捜す事にするはやて、そんな中でキラキラした瞳で頬を赤らめながらヴィータが見つめているモノが……

 

 それのどこらがヴィータの琴線に触れたのか、ジッと見ている辺りまるで子供みたいで、はやてはホンワカとなった。

 

 店を出た時にはヴィータは紙袋を手にしている。

 

「もう開けたってもエエよヴィータ」

 

 パーっと笑顔になって、紙袋からそれを取り出す。

 

 それは一般的な可愛い気は皆無だったが、ヴィータはどうしてか気に入ってしまった【のろいうさぎ】。

 

 通称【のろうさ】……

 

 家に居る時はベッドにまで持ち込んで、起きたなら寝惚け眼で片手に持っている入れ込みよう。

 

 デバイスの調子は良く、守護騎士達の自己調律の方も上手くやり、騎士甲冑も主はやてから賜った。

 

 戦闘準備は万端だ。

 

 新しき主のはやてには、闇の書で仮に大きな力が手に入るにせよ、望む事は何も無いという。

 

 はやてが望むのは家族、だからある意味で守護騎士達は、はやての望みを既に叶えたとも云える。

 

 穏やかな日々を送って、そして凡そ一ヶ月後……

 

 

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