魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第7話:話し合い そして新たに現わる少女

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「……う、ん?」

 

「起きたか、シグナム?」

 

「ヴィータ? 我々はどうしたのだ?」

 

「自分で見て現状を確認しろよ」

 

 紅い少女──ヴィータの言葉に、ピンク侍──シグナムが辺りを見回す。

 

 其処には先程まで闘っていた少女達と、指示を与えていた少年……更に主である少女が居た。

 

「あ、主?」

 

 驚くシグナムを見遣り、主と呼ばれたはやてがスルスルと車椅子で近付くと、ポカリと頭を叩く。

 

 物理的には小さな少女の拳など全く痛くはないが、主に叩かれたという事実が精神的に痛い。

 

「あ、主?」

 

「アホウ! 私の友達に何をしてくれてんのや!」

 

「と、友達?」

 

 目を覚ましたはやては、いの一番にユートから事情の説明を受けた。

 

 八神はやては時空管理局と呼ばれる組織に於いて、【第一級捜索指定古代遺失物】とされる【闇の書】に選ばれた主であり、誕生日の午前0時に顕れたのが、【闇の書】に宿る主を護る【守護騎士プログラム】である事。

 

 守護騎士達はユート達を主の敵と判断し、攻撃を仕掛けてきたので無力化したのだと云う事。

 

 そして、はやてが闇の書の主だと確認された為に、話さなければならない事があるのだと……

 

「話はみんなユート君から聞かせて貰うた。アンタらが闇の書の主、つまりは私を護る守護騎士や云う事、管理局とやらと勘違いして友達を襲ったんもや」

 

「か、勘違い?」

 

 呆然となるシグナムに、ユートが話す。

 

「管理局風に言えば此処は第97管理外世界となる。敢えて敵対しようとも思わないけど、管理局の法に従う義理も無い世界だ」

 

「む、う……」

 

「当然、この場に居るのは管理局と直接的には関わりの無い者達ばかり。地球の守護組織の聖域が擁している聖闘士と、ある理由から魔導師も何人か居る」

 

「聖域? 聞かないな」

 

「管理局対策で創ったばかりの組織だしね」

 

「敵対しないのでは?」

 

「地球にサーチャーを勝手に飛ばすは、勝手に武装して入り込むは、認識阻害の結界は張るは碌な事をしないからね。法整備や組織の創設なんかは必須だよ」

 

「……成程」

 

 説明を聞いて、一応納得したのかシグナムは頷く。

 

「まあ、拘束は暴れない様に用心しての事。暴れないなら解いても構わない」

 

 ユートが言うと……

 

「暴れんよな?」

 

 主たるはやてが確認をしてきた。

 

 主に言われては……

 

「是非も無し! この身は既に主のモノ。主の御命令とあらば従いましょう」

 

 そう言い放った。

 

 ユートは溜息を吐くと、指を鳴らして拘束を解く。

 

 そして改めてピンク侍達がはやてに跪き、自己紹介を行う。

 

「私はヴォルケンリッターが将、剣の騎士シグナム」

 

 ピンク侍改め、シグナムが名を名乗った。

 

 ヴォルケンリッターの纏め役、烈火の将の二つ名を持ったベルカの騎士としてオーソドックスな戦闘スタイルな女性だ。

 

「同じく、湖の騎士シャマルです」

 

 金髪ボブで碧眼の女性、リング型アームドデバイスのクラールヴィントを持っており、癒しと補助が専門の参謀役で、風の癒し手という二つ名を持つ。

 

「盾の守護獣ザフィーラ」

 

 狼の耳と尻尾を持つ褐色の肌で筋肉質な男、守護獣というミッドチルダに於ける使い魔と似た役割を与えられて、蒼き狼の二つ名を持っている。

 

「鉄槌の騎士ヴィータ」

 

 紅い髪の毛をお下げに結った少女、見た目は兎も角として突撃隊長的な立場だと云え、ハンマーを片手にどんな敵にも臆する事無く闘う。二つ名は紅の鉄騎。

 

「私の名前は八神はやて、一応はヴォルケンリッターの主……云う事になるんかな?」

 

 はやては何だか照れ臭そうにはにかみ、頭を掻きながら言うのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さてと、現状とこの先の説明をしようか」

 

 一頻り家族の触れ合いを楽しませた後、ユートによる説明会というか暴露会を始める事となる。

 

「先ず、この世界は管理局基準で第九七管理外世界・当該惑星名は地球、某県・海鳴市となる。この地球には最近になって守護組織として【聖域(サンクチュアリ)】が創設されて、次元世界に対するカウンターとなっている。特に時空管理局が割と好きに潜り込んだりサーチャーをバラ撒いたりしていて、国際連合からの受けは最悪でね、犯罪を犯した異次元人には厳しい沙汰が為されるだろうな」

 

「ああ、聞いた事あるわ。何や、ギリシアの何処かに本拠地が在って、自治体みたくなっとるんやろ?」

 

 一般人がまるで知らないのも具合が悪く、聖域に関しては概要のみだが地球中に伝わっている。

 

 それに伴って、財団法人【OGATA】とそれが擁する超技術(チャオ・テクノス)の発表もされた。

 

「ヴォルケンリッターは、八神はやてが主だとはいえ異次元人に相当するから、下手に武装して暴れるのは地球人を刺激する。今回は突発的な事として処理するけど、そこら辺弁えて行動しないとはやてに迷惑が掛かると思ってくれ」

 

「う、了解した」

 

 シグナム達とて主はやてに迷惑を掛ける気は無く、素直に従ってくれる様だ。

 

「で、問題なのはこの次。管理局基準で【第一級捜索指定古代遺失物】にされているのが、【闇の書】……はやてが持つ本なんだよ」

 

「はぁ、せやけどこれ……闇の書やったか? これが何やあるんか?」

 

「一番最近で一一年前……前回の【闇の書事件】でも多くの犠牲が出た。たったの一一年だ、被害者遺族も可成り生きているだろう。はやてに罪は無いけれど、闇の書の主というだけで、理性的にはなれない人間も多く居る。有り体に言えば復讐したい奴らが居るって事だね。場合によっては、何の解決にもならないのにはやてを殺して、溜飲を下げたい莫迦も出かねない」

 

「そ、それは怖いな……」

 

 若干、引きながらはやては呟くが、瞳は真剣そのものと云えた。

 

「既にその第一陣とも言える連中が入り込んでてね、先日捕まえたばかりだよ」

 

 それは当然リーゼアリアとリーゼロッテの事だったが、その事実に対してはやては愕然となってしまう。

 

 やはり実際にそんな人間が居るのだと聞いてしまっては、ショックも大きいという事だろうか。

 

「まあ、理由が何であれ、地球に入り込んで武装を振るえば単なる犯罪者だし、すぐに捕まえて拘置所送りにしてやったよ」

 

「私の所為なん?」

 

「違うな。ヴォルケンリッターの所為でもないだろ。悪いのは復讐に取り憑かれて罪無きはやてを狙っていた莫迦と、前までの闇の書の主だから」

 

 はやてはそもそも、真の意味で魔法や守護騎士達を知ったのは今日の事だし、守護騎士達も未だに蒐集を行っていない以上、前回までの主の罪などはやてが被る理由は一片たりとも存在していない。

 

 第一、ギル・グレアムに関してはそもそも闇の書を恨む事も、ある意味で筋違いと云える。

 

 どの様にして闇の書の主を降し、闇の書を確保したのかは窺い知れない。

 

 然し、何にせよ暴走させてナハトヴァールの侵食を許したのは、管理局の不手際だからだ。

 

 ギル・グレアムが管理局に勤め始めてから、何度めの闇の書事件なのかは知らないが、何度もあった事件 なのに対策一つ練らずに、事件に向かったのだ。

 

 古代ベルカ時代から存在した【夜天の魔導書】は、幾度か主を変えていた頃に改悪を受け、【闇の書】に変貌を遂げた。

 

 管理局の前身となる組織が在り、管理局が成立して凡そ一四〇年──STSで一五〇年──も経つ。

 

 何の準備もされていなかったのか、益体もない対策しか為されなかったのか、いずれにせよ自分達の失態まで押し付けられても此方とて困るのだ。

 

「大前提から話すと、実は闇の書は壊れている」

 

「「「「は?」」」」

 

 意味が解らないと言わんばかりに、ヴォルケンリッターが間抜けた声を出す。

 

「待て、壊れているというのはどういう意味だ?」

 

「簡単だ。闇の書はデータが破損していて、正常には動いていない」

 

 シグナムの問いにユートが答えると……

 

「莫迦な!? 我々はある意味で云えば闇の書そのものだ!」

 

「だから当たり前だ、アタシらが一番闇の書の事を知ってるんだ!」

 

 シグナムとヴィータが、激昂してきた。

 

「なら、どうしてお前達は【闇の書】と呼ぶ?」

 

「なにぃ?」

 

「闇の書と呼ばれる以前、本当の名前が有った筈だ」

 

「闇の書の本当の名前?」

 

 ヴィータは違和感を感じたのだろう、激昂していた感情を鎮めると考え込む。

 

「解らないなら、思い出させてやろう。今からはやての前に顕れた際の口上を、もう一度再現して貰おう」

 

「「「「?」」」」

 

 やはり解らない四人であったが、取り敢えず言われた通りにやってみる。

 

 はやてがベッドの上に、ヴォルケンリッターが目前で跪いた。

 

 先ずはシグナムから。

 

「闇の書の起動を確認しました」

 

 次にシャマル。

 

「我らは、闇の書の蒐集を行い主を護る守護騎士にて御座います」

 

 その次がザフィーラ。

 

「我らは夜天の主の許に集いし雲……」

 

 最後にヴィータだ。

 

「ヴォルケンリッター……なんなりと御命令を」

 

 市乃がふと訊ねた。

 

「夜天の主? 闇の主ではなくてですか?」

 

「「「「え?」」」」」

 

 元より市乃は頭が良い故、違和感があれば必ず気が付く。

 

 指摘を受けたヴォルケンリッターはお互いに顔を見合わせていた。

 

「ど、どういう事?」

 

「おい、ザフィーラ。どうなってんだよ?」

 

「わ、我にも解らん」

 

「これはいったい……」

 

 シャマルが戸惑いの表情を浮かべ、ヴィータが詳細をザフィーラへと訪ねてみるが、本人もよく解っていないと答えて、シグナムも顎に手を添えて悩む。

 

「結局は、自分の事を一番理解してないのは自分自身って訳だよね」

 

「む、う……」

 

 痛烈な返しにシグナムが唸り、ヴィータも顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「闇の書の壊れてバグる前の名前は【夜天の魔導書】といい、機能も絶大な力を得るなんてモノではなく、世界を旅して各地の魔導を研究する為の資料本だ」

 

「資料本……だと?」

 

「そう、本来の機能が歪んでしまった結果、無限転生だの主を蝕むだの、おかしな機能に変わったんだよ」

 

「そんな、莫迦な……」

 

 膝を付いて項垂れてしまうシグナム、ヴィータ達ももう何も言えない。

 

「万が一、蒐集をして完成させてしまうと此方で知る限り、主と管制人格による強制ユニゾン、それによって主を呑み込んでの暴走、そして破滅。だが、蒐集をしないと今度は主に侵食を始めてしまう。結局、どちらにしても主は死ぬ」

 

「ならば、どうしろと言うのだ!?」

 

「それらを踏まえた上で、君らが協力をしてくれるのなら、闇の書を夜天の魔導書に作り直す事が出来る」

 

 守護騎士に否はない。

 

 はやてにだって反対する理由がないのだ。

 

 こうして、聖域と最後の夜天の王とその配下による協力体制は出来上がった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 学校が再開されて、市乃も天乃杜神社へと戻ったある日……

 

「は〜い、今日は転校生を紹介します」

 

 担任の先生が言う。

 

 ガラリと扉が開いて入ってきたのは……

 

 長い黒髪に、ターコイズブルーの瞳、顔立ちは然し日本人離れしている少女。

 

 黒板にチョークで自分の名前を書く。

 

 【パルティータ・セルシウス】

 

「イタリアから留学してきました、パルティータ・セルシウスです。皆さん宜しくお願いしますね」

 

 柔らかい雰囲気、それに子供と思えぬ知性を感じさせる。

 

 そしてユートは彼女の顔を知っていた。

 

 実際に出逢って、そして〝彼〟との闘いも見た事があるのだから当然だ。

 

「それじゃあ、席は緒方君の後ろですよ」

 

「はい、判りました先生」

 

 ツカツカと近付いてくる少女は、ユートのすぐ傍まで歩いて来ると、ユートにだけ判る様に小宇宙による念話を飛ばしてきた。

 

〔お久し振りね、麒麟星座(カメロパルダリス)。いえ……双子座(ジェミニ)と呼んだ方が宜しいかしら?〕

 

 その内容は間違いない、嘗てはアテナへと仕えた(オウル)のパルティータであった。

 

 

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