魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第4話:なの神楽(中編) 妖怪の乱舞と曼珠沙華

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 悲鳴の聞こえた場所まで駆け抜けると、茶髪をボブカットにした少女が餓鬼に集(たか)られている。

 

「まだ間に合う、征って! 爆炎札!」

 

 壱が札を投げ付けると、炎が上がって餓鬼を火達磨にしてしまう。

 

『ギャァァァァァァッ!』

 

 那美と壱の来襲に餓鬼達は少女から離れて、一斉に二人へ飛び掛かってきた。

 

「神咲一灯流、閃の太刀・弧月!」

 

 燐光を纏う〝木刀〟を揮って、下段からの一刀は剣氣となって弧月状、つまり三日月の様な形に斬撃を飛ばすと、餓鬼を真っ二つに斬り裂く。

 

「くっ、やっぱり木刀だと威力が出せない……」

 

「此方もお札の数的にキツいですね」

 

 元々が、壱が持っていたお札は護身用にと、天乃杜神社の戦巫女の一人である天神かんなが持たせていた代物である。

 

 相手を脅かして逃げる為の囮に近い。

 

 〝今の〟壱は術などお札無しには使えず、在庫切れで無力化されてしまう。

 

 従って、戦闘は那美に任せて自分は少女の所へ駆け付ける程度だった。

 

 万が一にも餓鬼が近付いて来たなら、お札を使って撃退するしかない。

 

「何だか増えている?」

 

 一撃で斃すのに必殺級の技が必要では、元々の数に加えて更なる増援など相手にしていられなかった。

 

 かといって、逃げたくても車椅子の少女を連れてはまともな逃走は不可能。

 

 那美の霊力と壱のお札が尽きたその時こそ、押し切られて敗北するだろう。

 

 そうなればどういう事態に陥るか、戦巫女のかんなやうづきから壱も聞いているから知っていた。

 

 幸いな事に壱が巫女になった頃には、霞ノ杜神社と灘杜神社の様な、戦巫女を養成し各地に送り込む機関も完成しており、妖怪との戦闘は基本的にそちらへと任せる事が出来る為、壱が前線に出る事は無い。

 

「爆炎札!」

 

 壱の方もお札の数が心許なくなり、徐々に餓鬼達が近付いて来ている。

 

「せめて霊刀だったら!」

 

 無銘であるが那美も霊刀は持っており、あれならば木刀よりはマシに戦えた。

 

「この、神咲一灯流真威・桜月刃!」

 

 餓鬼だけでなく、不定形なモヤモヤしたナニかや、巨大な蜘蛛や大蛇、妖怪が種類まで増えている。

 

 先程の技は燐光を纏った剣で、霊体そのものを斬るものだった。

 

「だ、ダメ……本当に押し切られる!」

 

 数の暴力の前に、那美の力は及ばなかった様だ。

 

「あ、あ……キャァァァァァァッ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時間は少し戻って、場所は隆宮市に有る月村邸。

 

 ユートが言う海鳴の土地というのは、隆宮市や遠見市や矢後市など近隣の市街も含めており、中心となる海鳴市の名前を取ってそう呼んでいる。

 

 隆宮市には月村家、矢後市には綺堂家が居を置いていて、遠見市にはフェイトが住んでいた。

 

 フェイトというか、テスタロッサ家は海鳴市の方に住居を見付けるまでの間、この月村邸に御厄介になっている。

 

「お久し振りね、緒方優斗君だったしら」

 

「ええっと、二ヶ月振りになるのかな? 綺堂さくらさん」

 

「四月の始めに会って以来だからそうなるわ」

 

 七年前のとらハ1で風芽丘高校の一年生だったし、今は二十三歳か。

 

 ユートが覚えている限りでは、確か彼女は大学院生で西欧の古文化を専攻していた筈だ。

 

 どうでも良い情報だが。

 

「お姉さんの、エリザベート・ドロワーテ・フォン・エッシェンシュタインさんにもお世話になったみたいですね」

 

「ええ、結構ノリノリだったみたいよ」

 

 ユートは無遠慮にさくらの姿を見つめた。

 

「どうしたの? じろじろと見て……」

 

「ああ、いや。忍さんに比べて小さいなと思って……確か貴女の方が歳上だったと思うけど?」

 

「ええ、大した年齢差も無いけど一応、私は叔母に当たるもの。征二さんと結婚した義理の姉の、飛鳥義姉さんの子供が忍とすずかだから……」

 

 とらハでは月村の両親は他界していたが、すずかが生まれている訳だし、当然ながら生きている。

 

 だが忍の苦々しい表情を見るに、どうやら親子間の仲はやはり良好とはいかないらしい。

 

 まあ、生きているにも拘わらず忍とすずかを邸へと放ったらかし、海外で仕事をしているのだから無理もあるまいが……

 

「中学生くらいにしか見えないんだけど?」

 

「それは仕方ないわ。私は血を吸わないから、忍みたいに育たなかったの」

 

「あれ? 恋人は?」

 

 ピクリ……

 

 笑顔の侭、さくらの額に青筋が浮かんでいる辺り、地雷を踏んだらしい。

 

「好きだった先輩にはフラれたけど……なにか?」

 

 とらハ1の主人公である相川真一郎氏は、さくらを選ばなかった様だ。

 

 だとすれば、選ばれたのは幼馴染みの鷹城唯子か、若しくは野々村小鳥か。

 

 まあ、どちらでも構わないだろう。

 

 真一郎が恋人にならなかったから、定期的に血液を供給して貰ってない所為で育たなかったらしい。

 

 とらハ3で見たさくらと違うのはその為かと、悟った様に納得してしまう。

 

 月村家と同様、綺堂家も聖域の設立に骨を折って貰っており、ユートはさくらに挨拶をしたいと思っていたが、向こうから来てくれるとは思わなかった。

 

 何でも、忍やすずかの弾んだ声を聞いていたら興味を覚えたのだとか。

 

「うん?」

 

「どうかした?」

 

「いや、何だか知っている妖気が海鳴市の方に……」

 

「妖気?」

 

「霊力の妖怪版だけど……これ、百近いぞ!」

 

 雑魚妖怪の小さな妖気を感じる事はないが、流石に百にも及ぶ数が近場に揃えば【妖気溜まり】となり、中ボス級の妖気を形成するから、少しは感知する事が可能となる。

 

 遥か昔に軍人が集まり、軍氣を形成したのと同じという訳だ。

 

「ちょっと行ってくる」

 

「行くと言っても、隆宮市から海鳴市じゃそれなりに時間が掛かるわよ?」

 

 さくらが言う通り、それなりに近いが海鳴市に住むなのはが、バスで行かなければならない程度には離れている。

 

「問題は無いよ!」

 

 邸をすぐに出て、ユートは一気に駆け出した。

 

 ユートが居るのは隆宮市の月村邸で普通なら到底、間に合う筈もないがユートは瞬間移動呪文で転移をする事が出来る。

 

「瞬間移動呪文(ルーラ)」

 

 海鳴臨海公園に転移し、聖域に居る聖闘士の二人を招喚した。

 

「我求むるは斬り裂く者、神憑る者、言之葉に応えて来よ太刀の媛巫女! 使徒招喚……『清秋院恵那』、言祝ぐ者、視知るし者、言之葉に応えて来よ霊視の媛巫女! 使徒招喚……『万里谷祐理』!」

 

 ベースとしているのは、キャロやルーテシアの召喚呪文だ。

 

 別の世界からの招喚とは異なり、同一世界間の招喚であるが故に詠唱と魔力だけで簡単に喚べる。

 

 招喚魔方陣が顕れると、いつもの巫女装束姿の祐理と制服姿の恵那が飛び出して来た。

 

「お呼びですか優斗さん」

 

「来たよ、王様!」

 

 招喚を受け、祐理と恵那が優斗の走る速さに併せて駆ける……のは無理だから可成り前方に喚び、走れる恵那は兎も角として祐理を抱きかかえる。

 

「ゆ、優斗さん?」

 

「あ、祐理ってば良いな」

 

 慌てる祐理と羨む恵那。

 

「直ぐに聖衣を!」

 

「え? はい!」

 

「了解!」

 

 ユートの命令で聖衣石を掲げて叫ぶと……

 

「麒麟星座(カメロパルダリス)……フルセット!」

 

「杯座(クラテリス)、フルセット!」

 

「祭壇座(アルター)、フルセット!」

 

 闇翠色の麒麟を象っているオブジェがユートの身体を鎧い、白銀色の杯と祭壇を象ったオブジェが祐理と恵那を鎧った。

 

 暫くの間、駆け抜けると巨大な蜘蛛の巣に絡め取られて気絶する那美に、巨大な蜘蛛が迫っているのと、車椅子の少女を餓鬼から庇う黒髪の少女を見付ける。

 

「那美、それにはやてか? どういう状況だよ!」

 

 悪態を吐くが、そういう場合でもない。

 

「祐理は黒髪の少女と車椅子の少女を助けろ、序でに妖怪が暴れる原因を霊視してくれ!」

 

「判りました!」

 

 ユートから降りた祐理はすぐに駆けて……

 

「悲槍白蓮華!」

 

 水気を凝結させた氷の槍を放ち、餓鬼共を粉砕して少女達と妖怪の間に躍り込んだ。

 

「恵那は周囲の妖怪を叩き斬れ!」

 

「うん、解り易いよ!」

 

 大雑把で脳筋な恵那には細かい事をやらせるより、解り易い命令を出す。

 

 恵那が手にする獲物は、天叢雲剱ではない。

 

 ユートが使う村正の影打ちを打ち直した剱で、銘は【天雲燿剱】という。

 

「征くよ、相棒!」

 

《了》

 

 雷を纏う刀身を持つ剱、天雲耀剱を揮う恵那は次々と蛇やら蜘蛛やら餓鬼やらを斬り捨てていく。

 

 ユート本人は右腕を振り翳して、唐竹に那美の服を破り去っていざ触腕を秘所へと、挿入せんとしていた大蜘蛛を……

 

「村正抜刀(エクスカリバー)!」

 

 真っ二つに斬り裂いた。

 

 ユートのエクスカリバーはシュラとはイメージが異なっており、西洋剣でなく自身が使用する妙法村正を想像して放つ。

 

 故に名前こそ聖剣の銘を冠するが、宛てる字は村正という訳だ。

 

 昔はこのイメージの齟齬に苦しめられ、威力が上がらなかったものだが……

 

「那美!」

 

 普段は見た目を考慮してさん付けだが、慌てていたからか呼び捨てる。

 

 返事がない、どうも那美は気絶している様だと判断したユートは、股座を弄(まさぐ)ると秘所へと軽く指を突っ込んだ。

 

 やっている事は変態以外の何物でもないが、妖怪に襲われた場合は疾く検査をせねばならない。

 

「ん、あ……っ!」

 

 意図した事ではないが、那美の性感帯を刺激したらしく、甘い吐息を洩らす。

 

 だが、濡れてさえいない秘所に妖気は無く、それ処か那美はまだ何もされていなかったらしい。

 

 ホッと撫で下ろしたのも束の間、バッチリ目を開けた那美がワナワナと震えながら顔を真っ赤にしつつ、ユートを見つめていた。

 

「(あちゃー、拙ったな)」

 

 ユートは頭を抱えたくなったが此処は素直に……

 

 パシィン!

 

 叩かれておく。

 

 尤も、以前に桐ヶ谷直葉がやったのと同じで、大して鍛えてない掌の方が赤く腫れ上がっていた。

 

「り、理不尽……」

 

「説明したいけれど、今は我慢してくれる?」

 

「っ!」

 

 その言葉にはたと気付いた那美は、自分の今の格好──服がボロボロで、胸や下半身が露わ──を鑑みて咄嗟に大事な部位を隠す。

 

 ユートはそんな那美を、祐理の方へと連れていってマントを羽織らせてやる。

 

「恵那だけで大丈夫だろうけど、少しムカついたから奴らを潰してくる」

 

「存分に暴れ遊ばしませ、我が君」

 

 ユートは漆黒の鎌を何処からともなく出現させて、妖怪連中を狩り立てた。

 

 それはまつろわぬアテナが使う鎌、ユートは彼女の権能も扱える為、これを使う事も出来る。

 

 ユートが権能を獲るのに必ずしも殺す必要はなく、相手の神氣を喰らう事によって獲る事も可能だ。

 

 そもそもが、まつろわぬアテナの居た世界でアテナと闘った際にも権能は使っていたが、それらは別世界で神を殺したか、神氣を喰らったかで体内に存在していた力を顕在させたモノ。

 

 例えば、とある大騎士の態度に怒って、彼女の故国を全体的に眠らせたのは、聖戦で弑奉ったヒュプノスの権能で、永遠睡眠(エターナルドラウジネス)だったし、なのはとフェイトの所へ同時にユートとユーガが現れたのも、解釈と想像力でリョウメンスクナノカミの権能を使った結果だ。

 

 大して労力も使わずに、百匹近い妖怪を殲滅してしまったユートと恵那。

 

 先程の変態行為の意味を伝えると、那美は真っ青に青褪めてしまう。

 

「君らも大丈夫?」

 

「あ、はい。助けて頂き、ありがとうございます」

 

「ほんま、助かったわ」

 

 艶やかな黒髪の少女と、八神はやてがお礼を言う。

 

「え? イッちゃん?」

 

「は? 確かに私は神社でイッちゃんと呼ばれていますけど、貴方は?」

 

 小首を傾げる少女、壱。

 

「僕は緒方優斗」

 

「緒方優斗さんですか……私の名前は瑞葉 壱です」

 

「壱……」

 

 ユートは思い出していた……嘗て、天に還った水神であるイチ様を。

 

 

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