魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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 こっからA's篇です。





A's篇
第1話:訓練 聖闘士と魔導師の論舞曲


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「オオオオオオッ! 天馬流星拳!」

 

「キャァァァァッ!」

 

 ユートが放った一秒間に百発の拳がフェイトに叩き込まれ、その全てを喰らって吹き飛ばされてしまう。

 

 聖域(サンクチュアリ)の訓練スペースに於いては、聖闘士に任命された者達が修業で汗を流していた。

 

 フェイトは魔導師だが、修業は決して無駄にはならないし、何より二ヶ月前に終わった【JS事故】で、バルディッシュがアサルトの名前を得てパワーアップしている為、使い熟すという意味合いでも必要な事だという事になったのだ。

 

 修業を始めてから二ヶ月が経って、頃合いだと考えたフェイトがユートに挑んでみたら簡単に吹き飛ばされてしまった訳である。

 

 ユート自身は青銅聖闘士と変わらない能力で相手をしたが、最高速度が亜音速のフェイトでは、音速である青銅聖闘士の速度に追い付けないでいた。

 

 一応、新魔法の【ソニックムーブ】を使えば、最高速度は名前の通りで音速に達する機動も可能とされているが、思考速度まで上がる訳ではないから旋回能力が少し弱い。

 

 それを補うべく、マッハ1の青銅聖闘士の速度に、素でも追い付ける様になる為にも、カートリッジなどを使わずに動いていた。

 

 バリアジャケットを展開していたし、速度は兎も角としても威力そのものは、確り手加減していたからか目立ったダメージは無いみたいだが、未だに音速に到達出来ない事に落ち込んでしまっているみたいだ。

 

 それでも単純な速度なら聖闘士に成りたての星矢と同等程度はある、但し飽く迄も移動速度は……だが。

 

 旧移動魔法のブリッツアクションを使えば可能で、フェイトは流石に1秒間で85発もの攻撃は出来ないだろう。

 

 因みに、単純なパンチを打たせてみたら、1秒間に12発の拳を振るえた。

 

 計算上、マッハ0.12程度の速さである。

 

 これなら鋼鉄聖衣を展開すれば、恐らくは白銀聖闘士並の能力は固い。

 

 これでも修業の成果は出ている様だ。

 

「ねえ、ユート」

 

「どうした?」

 

「あんな風に成れるには、どのくらい掛かる?」

 

 フェイトが唖然となって見遣る方向には、なのはとすずかとアリサを相手取り模擬戦を行うアリシアの姿があった。

 

 【JS事故】から二ヶ月が経つが、未だに身体の慣らし中なアリシアは、それでも3人掛かりで相手にすらなっていない。

 

 今のアリシアは碌に機能しない五感を小宇宙で補っており、戦闘に小宇宙の全てを使えない状態にある。

 

 にも拘らず、3人を完封しているのだから信じ難いフェイト。

 

「現段階でのアリシアで、最大速度がマッハ2.4って処かな? アリシアならそこら辺の青銅聖闘士には負けないだろうね」

 

 尤も、なのはがクロス・アップすれば、簡単に逆転が可能な程度でしかない。

 

 それ処か、カートリッジを使えば普通に勝てる。

 

 所詮、現在のアリシアは拙い戦闘技能しか持たない素人であるし、僅かとはいえなのはは実戦経験を積んでいるのだから。

 

 現段階では……

 

 身体が本格的に治れば、小宇宙をフルパフォーマンスで使える様になる。

 

 未那識に覚醒しているとはいえ、まだ引き出し方も知らないアリシアだから、すぐに黄金聖闘士の力は使えないだろうが、訓練を積んで未那識にまで小宇宙を燃焼が出来る様になれば、【全てを断ち切る閃光の刃】を体現するだろう。

 

「おらぁっ! ぶっ飛べや亀がぁぁぁっ!」

 

「そりゃ、此方の科白や! このお猿!」

 

 仲良く喧嘩するが如く、城島 晶と鳳 蓮飛が戦闘をしていた。

 

 小犬星座(カニスミノル)の青銅聖衣を纏う晶。

 

 龍星座(ドラゴン)の青銅聖衣を纏うレン。

 

 山吹色と翠色に輝く聖衣が幾度と無く交差する。

 

 この2人は謂わばライバルの関係にあり、別に憎み合っている訳ではないが、何と無く相手に従ったら負けかな? とか考えてしまうのか、事ある毎に口喧嘩をしていたし、最終的には手や脚が出ていた。

 

 身体能力では晶に分があったが、戦闘巧者なレンが毎回勝利を納めている。

 

 それは聖衣を纏った状態でも変わらず、バカ正直な闘い方をする晶は技巧派のレンに翻弄され……

 

「廬山龍飛翔!」

 

 龍の様な水の塊を纏い、高速で突っ込んで来るレンの蹴りを受けて、吹き飛ばされていた。

 

「ふんぎゃぁぁぁぁっ!」

 

「おっしゃぁ! ビクトリーや!」

 

 気絶する晶を見下ろし、ピースサインを出しながら勝利宣言をするレン。

 

 それはいつもの日常。

 

 アリサとすずかも模擬戦を行っている。

 

 纏う聖衣は青銅と鋼鉄、お互いに違うモノだけど、階級的には変わり無い。

 

 橙色の聖衣、小獅子星座(ライオネット)を纏っているアリサ。

 

 クールホワイトの聖衣、大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)を纏ったすずか。

 

 片や灼熱の力を宿して、片や氷結の力を宿す。

 

 アリサとすずかには秘めた──なのはが知らないだけで、殆んどの身内がしっている──トラウマを持っており、お互いに強くなりたいという想いがある。

 

 誘拐されて、穢らわしい男の欲棒が盛り上がる下半身を見せ付けられ、恐怖と嫌悪を植え付けられた。

 

 故に、大人の男に対して強い嫌悪感を感じる。

 

 それでも親しい相手ならまだ大丈夫、なのはの家族や自分の家族なら信頼もあるからだろうか、嫌悪感を感じたりはしない。

 

 執事の鮫島もだ。

 

 クラスメイトも〝今〟なら大丈夫だが、成長をして性に興味を覚え始めたら、もう無理だと思うアリサとすずか。

 

 然し、助けて貰ったからだろうか? 唯一、ユートにだけは肌を晒しても触れられても、すずかは大丈夫だった。

 

 そして、恐らくアリサも同じなのだ。

 

 すずかはそう見ている。

 

 強くなりたかった、二度とあんな事にならない様にもっと強く。

 

 幸いにも切っ掛けは獲たのだから、後は自分達次第という訳だ。

 

 アリサもすずかも拳を交えながら、ある程度は同じ事を考えていた。

 

 ユートなら大丈夫、幾ら同級生とはいえ異性に肌を容易く晒せる程にすずかは大胆ではなくて、それでもユートには晒せたから。

 

 一族の血がいずれすずかを苛むのは忍にも判っていたから、異性へトラウマを持ってしまったすずかが、嫌悪感と一族の血に悩まされて、心が壊れかねないと懸念しており、最悪の選択としてまだマシな恭也に頼む事も視野に入れていた。

 

 そんな中、ユートの存在が挙がったのである。

 

 ユートに対するすずかの態度が紅潮する頬、潤んだ瞳と、まるで恋する乙女。

 

 今にして思えば自分自身も惹かれた事を鑑みれば、ユートの血液にも原因があったのだろうが……

 

 あの後に忍が聞いた話によると、ユートの血は吸血種には堪らない逸品なのだという。

 

 好意もあったし、血液への反応もあったのが相乗効果を醸し出して、すずかの中の嫌悪感を打ち消してくれたのだろう。

 

 一方のアリサの場合。

 

 アリサは直接的に何かをされなかったが故に、トラウマはすずか程ではなく、単純な好意だけで嫌悪感を上書き出来ている。

 

 それでも将来を考えれば下手な男は宛がえない。

 

 そんな時にデビット・バニングスは知った。

 

 ユートの存在を。

 

 忍から聞いたらアリサを救ったのがユートなのだという、娘のアリサが誘拐事件で語る事は自身を救った少年の話ばかり。

 

 其処へアレだ。

 

 下手な男を宛がえない、だがユートならば……実際に会ってみて、そう思ったものだった。

 

「征くわよ、すずか!」

 

「負けないよ! アリサちゃん!」

 

 2人が必殺技の体勢へと以降して放つと……

 

「小獅子・灼熱火炎(ライオネット・バーニングファイヤー)!」

 

「光輝氷結(グレンツェン・ゲフリーレン)!」

 

 アリサとすずかのプラスの熱とマイナスの熱の正反対で莫大なエネルギーがぶつかり合って、丁度互いの中央で燻っていた。

 

 そのエネルギーは時間が経過すると……

 

「え?」

 

「なに?」

 

 突如としてスパークし、消滅してしまう。

 

「「何だったの?」」

 

 2人は呆然とエネルギーが消滅した先を見つめた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは訓練の合間を縫って、何人かの使徒を招喚しておく。

 

 いの一番に招喚したのが超 鈴音と葉加瀬聡美。

 

 理由は簡単で、超技術(チャオ・テクノス)の発足を急ぐ為である。

 

 運の良い事に、超 鈴音は基本的に超一味として、纏めて招喚が可能だ。

 

 超一味の内訳は、超本人と葉加瀬聡美とさっちゃんと龍宮真名の4名。

 

 ユートが嘗ての彼是で、超一味をその様に認識していたからだ。

 

 超は緒方鈴音(おがたすずね)として、超技術(チャオ・テクノス)の纏め役をして貰い、葉加瀬聡美には開発や量産に専念させて、龍宮真名には給料を支払って護衛スナイパーとなって貰っている。

 

 また、黄金聖衣の持ち主を全員招喚してあり、今はギリシアの聖域で十二宮に住んでいる。

 

 天秤座の木乃香は、付属品として烏座の刹那が付いてくるのでお得だ。

 

 他にもペルセウス座の桜を招喚、ハルケギニア組の青銅聖闘士も喚んでおり、杯座の裕理、祭壇座の恵那も招喚しておいた。

 

 お陰で聖域は賑わいを見せている。

 

 それは兎も角、ユートが着手したのは魔導衣(マギウス)の量産整備と日本やギリシアなどの国に販売するパワードスーツの量産。

 

 この辺りは超技術(チャオ・テクノス)の本領で、プレシアや忍やユーキまで参戦し、正に混ぜるな危険を地で逝きそうだ。

 

 勿論、技術拡散を防ぐ為の措置も行われている。

 

 何処ぞの大陸には、劣化模造品を濫造させた挙げ句の果てに、マフィアなどに流し捲られても困るから、量産型さえ渡してない。

 

 基本的に量産型だとはいえど、個人認証が必要となるから持ち主以外は起動すら出来ない仕組みであり、無くした場合の責任は重大だとされている。

 

 製品そのものを完全管理しておかねば、人間というやつは何を仕出かすか解らないからだ。

 

 無論、某・大陸は文句を言ってきたが、先ずはその地を根城にするマフィアをどうにかしろと言ってやったものである。

 

 このパワードスーツは、飽く迄もガーディアンとかレスキューの為の物だし、下手に軍事転用はされたくなかった。

 

 まあ、自分達は戦闘用に使っている訳だが……

 

 四葉五月──さっちゃんには超包子の纏め役として此処らは人を雇い、一種のグループとしている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 暫くの時間は準備期間として消費され、その間にも訓練は普通にしていた。

 

 なのはとフェイトも連携訓練など、コンビを組んだ想定で動いている。

 

 なのは&フェイトコンビVSアリサ&すずかコンビの対戦、空を飛ぶ空戦魔導師のなのフェイだったが、すずかも飛べるからアドバンテージ殆んどない。

 

 基本的に陸戦型のアリサも空を飛べない訳でなく、完全に空戦が得意な大空聖衣を使うすずかのサポートを確りと熟していた。

 

「白光吹雪(シュトラール・シュネーシュトゥルム)ッ!」

 

 両手を前の方で組むと、聖衣の腕部に付いたプロペラが回転して、螺旋を描きながら猛吹雪が襲う。

 

「キャァァァァッ!」

 

「な、なのは!」

 

 フェイトは何とか躱したのだが、なのはが諸に喰らって墜ちる。

 

 其処へアリサが炎を拳に纏って殴り付けた。

 

「炎熱無法(フレイム・デスペラード)!」

 

「パチューーン!?」

 

 強力な一撃で、なのはは堪らず気絶してしまう。

 

「ああ、なのはがっ!? は! すずかは何処に?」

 

 動揺していたとはいえ、戦闘中に敵を見失うなどとあってはならない失態。

 

「まだまだだね……」

 

「うっ!」

 

 以前と同じく背後を取られたフェイトは……

 

「ま、参りました」

 

 降参する以外無かった。

 

 穏やかな日々は過ぎて、その最中に運命は既に顕れている。

 

 とある一軒家、其処に住まう少女の元に存在していた一冊の書物の縛鎖は徐々に解かれて、少女は〝夜の天に懸かる雲〟に既に傅かれる運命にあるのだから。

 

 

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