魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第26話:大団円 生命の煌めきのその先に

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「さあ、始めようか」

 

 時の庭園に来ていた。

 

 プレシアの新しい肉体は完成しており、時間加速を用いて何とか24歳にまで年齢を調整してある。

 

 戸籍上は30歳だが……

 

「積尸気転輪波!」

 

「ぐっ、うう……っ!」

 

 プレシアの肉体から魂魄が抜け出て、プロジェクトFの応用で新しく造り上げた肉体へと転輪させる。

 

 崩れ落ちるプレシア。

 

 そして、新しい肉体を獲たプレシアが起きた。

 

「ほ、本当にこんな事が出来るだなんて……」

 

 ある意味で若返ったとも云えるプレシアは、自分の掌を交互に見つめながら、驚愕している。

 

「じゃあ、次だ」

 

 ユートが見ている其処に存在するのは、フェイトに瓜二つながら多少の幼さを見せる少女の姿だった。

 

 端からはあどけない顔で眠っている様にしか見えないがこの少女──アリシア・テスタロッサの心臓の鼓動は脈打たず、呼吸も全くしていない。

 

 実際、眠っているだけであるなら胸が呼吸で上下している筈、この美しい少女は間違いなく死んでいた。

 

 だが、プレシアが早い内に肉体を保存しておいた事が効を奏し、先程の技でなら未だにこの世に残留しているアリシアの聖霊体を、肉体へと戻す事が可能だ。

 

 プレシアは既に体験しているが故に、もうユートを微塵も疑ってはいない。

 

 愛しい娘が無事に帰ってきて、暖かい身体で抱き締めさせて貰えれば、それで良かった。

 

 この部屋にはアリシアの聖霊体が居り、生き返るのを今か今かと待っている。

 

「それじゃあ、アリシア・テスタロッサ」

 

『はい!』

 

「これから君のお母さんにしたのと同じ技を使う」

 

『うん!』

 

「多少の圧迫感は有るかも知れないけど、少しの間で良いから我慢してくれ」

 

「はーい!」

 

 少し前まで精神崩壊寸前に追い詰められていたとは思えないくらい元気? な声で、右腕を挙げながらも返事をした。

 

 アリシアの聖霊に指差したユートは、再び技を放つべく究極すら越えて小宇宙を高めていく。

 

 第七感の未那識を越え、阿頼耶識の位まで……

 

「積尸気転輪波ぁぁっ!」

 

 真新しいTシャツ服を着せられた少女の肉体へと、ユートは動かした魂魄を入れて定着させる。

 

 パチパチと瞬きをして、アリシアが口を開く。

 

「う、ううん……」

 

「アリシア!」

 

 動いて目を開きいて確かに声を出したアリシアは、感極まったプレシアの声に反応して……

 

「ママ?」

 

 声のする方に顔を向け、ゆっくりと身体を起こす。

 

「ええ、ママよ! 嗚呼、ごめんなさいアリシア! ずっと貴女にツラい思いをさせてしまって!」

 

 フェイトへの虐待、それがアリシアを精神崩壊寸前まで追い詰めていた。

 

 ミッドチルダには、幽霊という概念こそ在ったが、魔法至上主義であるが故に霊能など発展せず、科学が進歩したが故に霊や死後の世界を科学者は否定する。

 

 だから科学者のプレシアはアリシアの霊魂を見ず、新しい器に記憶を張り付けて宿ったアリシアではない魂に絶望したのだ。

 

 全てをアリシアが見ていたとも知らずに……

 

 ユートはアリシアの崩壊し掛かっている精神を持ち直させるべく、プレシアに一つの事をやらせている。

 

 そう、フェイトとアルフとの関係改善を……だ。

 

 26年も存在し続けていたとはいえ、所詮は成長をしない幽霊のアリシアは、ある程度は兎も角としても子供に過ぎない。

 

 妹が母と仲良くし始めれば気になり、直ぐに羨む様になるだろう。

 

 正しく一石二鳥とはこの事だ。

 

 果たして、天岩戸に隠れた天照大御神の如く沈んでいたアリシアであったが、笑顔で食事をしたり風呂に入ったりして、愉しそうにしている家族の姿を見て、心を開いたのである。

 

 プレシアはアリシアを抱き締めて、泣きながら謝るのであった。

 

 その後のテスタロッサ家は家族仲も円満で、最初は少し腑に落ちなかったらしいアルフも、フェイトが幸せなら良いかと考え、今は普通に接している様だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 取り敢えず、今日は時の庭園に御宿泊と相成った。

 

 家族水入らずとさせたかったが、ユートもまだ用事が残っていたし、積尸気の技とはいえ転輪波は凄まじいまでの力を消耗する。

 

 それを二連発したから、疲れ果てていた。

 

 今夜は確りと食べ、睡眠を取ってから翌日に用事を済ませようと考え、お邪魔させて貰ったのだが……

 

「お兄ちゃん、一緒に寝ようよ!」

 

 アリシアとフェイトが、ユートに宛かわれた寝室に突撃して来て、目論見なんて霧散した。

 

 まあ、フェイトは突撃してきたというか、アリシアに引っ張られて来たと言った方が正しそうだ。

 

 26年振りに実体を得たからか、美味しそうにご飯を食べて、フェイトと風呂に入ったアリシア。

 

 眠るというのも26年振りの事、折角だから妹と眠りたいというのは理解も出来たのだが、よもや自分の所に来るとは想定外だ。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

 別に間違ってはないが、26年を眠っていた5歳児だから、アリシアに戸籍が残っていれば31歳。

 

 見た目は兎も角、そんなアリシアにお兄ちゃん呼びをされると、歳を食ったみたいで微妙な気分だった。

 

「わたしもフェイトみたいに魔法を使えるかな?」

 

「難しいかな。アリシアの魔力ランクはEだからね、まるで使えないFよりマシって程度でしかないから。でも、アリシアは死んだのを切っ掛けに、ちょっとだけ特別な力を得ているよ」

 

「特別な力って?」

 

「小宇宙」

 

「コスモ?」

 

「小宇宙は魂の奥より湧いてくる生命の秘蹟。単純な魔力なんかより遥かに強大だし、慣れれば魔力だけを分離して使えるだろう」

 

 第八感である阿頼耶識、それは普通の人間であれば死ぬその刹那のみ目覚めるという、究極の小宇宙とされる未那識すら越えているとされた。

 

 【神に最も近い男】と呼ばれた乙女座のシャカは、この八識に目覚めていたからこそ、そう云われているのだと老師は言う。

 

 ユートが阿頼耶識に目覚めた際、生命の煌めきの先に在ると称したが、それは正に正鵠を射ていたのだ。

 

 死んだ事を切っ掛けに、アリシアは小宇宙に目覚めており、本来なら永らく動かしていない肉体は窶れ細っていた筈なのに、未那識(セブンセンシズ)の小宇宙で無意識に補っている。

 

 それに気が付いた時に、ユートは本当に驚愕をしたものだった。

 

「リニスがフェイトに視た理想の最終形……【全てを断ち切る閃光の刃】に至れるかもな」

 

 フェイトには既に道筋を付けてある。

 

「なぁに?」

 

 ユートの呟きが聞こえたのか、アリシアが無邪気な笑みを浮かべ訊いてきた。

 

 嗚呼、闘いに巻き込むなんてする必要が無いのに、誘惑に勝てない。

 

「アリシア」

 

「うん?」

 

「聖闘士になってみる?」

 

 美しい原石を前にして、ユートはそう訊かずには居られなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、ユートがプレシアに案内されたのは、破棄された研究室みたいな部屋。

 

 其処にはポッドに眠る……否、機能していないから単に横たわったアリシアやフェイトに似た躰が、存在している。

 

「これが用意したモノよ」

 

 今やSAN値が戻っているからか、動かない少女の肉体に少しばかりプレシアの心が痛んでいた。

 

 これが自身の犯した罪だと突き付けられて、それを背負う義務を負っている。

 

「これ、私……?」

 

 この場にはフェイト達も来ていた。

 

 自身の罪の証を見せて、それすらも背負う為に。

 

「フェイト、この子に魂は存在していないんだ」

 

「魂?」

 

「コンピューターで云うならハードは完成したけど、プログラムを動かすOSがインストールされてない。デバイスで例えるのなら、バルディッシュの本体こそ完成したけど、AIが組まれてない状態なんだよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

「この魂無き躰に僕の使徒であるユーキを招喚する」

 

 ユートは血を以て魔方陣を描くと、招喚の為の咒を詠唱し始めた。

 

「汝、我が仮初めたる使徒に名を列ねし存在。造りたる者、虚無の担い手、永遠なる連理の枝・比翼の鳥よ……我が言之葉に応えて来よ!」

 

描かれた魔方陣が、激しく回転しながら輝きを発していく。

 

目も開けていられない程に強い光だが、それも徐々に収まっていった。

 

「汝が名は祐希!」

 

 招喚するべき者の名前を呼ぶと、アリシアに似ている躰が変化する。

 

「こ、これは?」

 

 プレシアは驚愕した。

 

 金髪は青くなり背中まで伸ばして、恐らくは紅玉の如く瞳もマリンブルーに変わり辺りを見回している。

 

「気分はどうだ?」

 

「まあまあだね」

 

 ユートはマントを出し、ユーキに掛けてやった。

 

 ユーキが立ち上がると、プレシア、アリシア、フェイト、アルフを順繰りに見遣って首をコテンと傾げ、ユートを見つめて訊く。

 

「リリカルなのはの無印なのかな? アリシアの生存ルートって訳?」

 

「そういう事だね」

 

 プレシア達には意味が解らないが、きっとその話は何かしら秘密が有るのだとは理解が出来た。

 

「鳳凰星座(フェニックス)の聖衣だ」

 

「サンクス、兄貴」

 

 端から視れば兄妹というより、寧ろ兄弟みたいだがユーキの肉体は女の子。

 

 血縁的にはプレシアの娘であり、アリシアとフェイトの姉妹なのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートはプレシア達に、ユーキについて話す。

 

 ユーキが使徒と呼ばれる存在で、どの世界に廻ろうともその世界の某かの器を用意すれば喚べるのだ。

 

 器は基本的に魂の姿へと変化する。

 

 故に、今のユーキの姿はアリシアやフェイトと似ても似つかない。

 

 そして大事な相棒。

 

「それで兄貴、今は何処で暮らしてるのさ? ひょっとして高町家?」

 

「いや、月村家」

 

「すずかの家か〜。ああ、そう言えば今は何をやってんの?」

 

「戦力の拡充」

 

「は? じゃあ、聖闘士を集めてるんだ」

 

「ああ、後は使徒を何人か喚ぶ予定だよ。組織が肝要なんでね」

 

「そっか……」

 

 ユーキにはユートの考えが何と無く理解でき、唯の一言を返すのみ。

 

「まあ、良いか。えっと、初めましてかな、お母様」

 

「え? あ、ああ! 確かにそうね」

 

 プレシアはユーキが自分の血縁だと理解し、慌てて頷いた。

 

「そして、初めまして……アリシア姉さん、フェイトにアルフ」

 

「うん、初めまして」

 

「は、初めまして……」

 

「何で行き成り名前を知ってんだろ? まあ、初めましてだね」

 

 アリシアと、フェイトにアルフの3人とも挨拶を交わしたユーキは……

 

「僕の名前は、ユーキ・T・緒方って処かな?」

 

「Tってやっぱり、テスタロッサ?」

 

「その通りだよ、アリシア姉さん」

 

 テスタロッサ家に新しい家族が増えた瞬間だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時の庭園はユーキの謹製ASRSを展開し、周囲から隠蔽しておいてテスタロッサ家の面々は取り敢えず月村家へと移動をする。

 

「Anti Sensor and Rader Suffia−Fieldか……助かるね」

 

「鈴音と一緒に開発したんだよ」

 

 何度か共に動いていた際に開発して、遂に完成させたらしい。

 

 テスタロッサ家は月村家に挨拶をし、暫くはお世話になる旨を伝える。

 

「混ぜるな危険……」

 

 ユーキに忍にプレシア、マッドサイエンティストの極致が此処にあり、更にはいずれ招喚する時計座(ホロロギウム)の白銀聖闘士とあの子が加われば……

 

「怖っ!」

 

 フェイトとアリシアは、聖祥大付属小学校にユーキも含めて通う事になる。

 

 フェイトとユーキが二卵性の双子、アリシアは病気で一年留年した姉として、ユート達と同じ学年に。

 

 なのはもアリサもすずかも大喜びだった。

 

 高町家、月村家、テスタロッサ家、バニングス家、そしてジュエルシード捜しに協力してくれた皆さん、全員を集めて事件が解決したパーティーを行う。

 

 無印からA'sへ……

 

 世界は、全ては、事態は推移するのであった。

 

 

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