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なのはの『ロストロギアって何?』という、基本的な事が理解できてない発言を受け、ユートはユーノ・スクライアを見遣り……
「ユーノ・スクライア」
「は、は、はいぃっ!?」
明らかな威圧を受けて、ビクビクと脅えながら返事をするユーノのド頭に光速でハリセンの一撃を加え、ツッコミを入れた。
「ど・う・し・て、なのはが古代遺失物(ロストロギア)についての知識をまるで持ってないんだ?」
「ヒィッ! すみません! 詳しく教えていませんでしたぁぁぁぁぁっ!」
恐怖からDOGEZAで謝るユーノ。
溜息を吐くと、ユートはなのはの方を向いて説明を始める。
「次元空間の中には幾つもの世界がある。それぞれに生まれ、独自の文化を発展させていく世界。その中に極稀に進化し過ぎる世界があるんだよ。技術や科学、進化し過ぎたそれらが自分達の世界を滅ぼす。その後に取り残され失われた世界の危険な技術の負の遺産。それらを総称して古代遺失物(ロストロギア)と呼ぶ」
「そんなに危険なの?」
一気に説明して渇いてしまった喉を紅茶で潤しているユートに、なのはが若干の怯えを見せながらも訊ねて来た。
「例えばジュエルシードを数個、平行励起させて発動すれば軽く地球がぶっ飛ぶだろうね。次元震に、最悪で次元断層が引き起こる」
「次元震と次元断層?」
「次元震はほら、なのはとフェイトがあの時レイジングハートとバルディッシュでジュエルシードをサンドイッチした際に爆発みたいな現象が起きたろ?」
「う、うん。空気が痛いくらい震えてた」
「小規模だが、あれが次元震ってヤツだよ。次元断層は空間が破壊される現象と考えれば間違いない」
「空間が破壊……」
今更ながら自分の仕出かした事の恐ろしさを実感してしまい、ガタガタと震えるなのは。
「暴走しそうなジュエルシードをシエスタが封印したから、大事にはならなかったんだけど、放っておいたら危険だったね」
まあ、その場合は原作の通りにフェイトが怪我をしてまで封印しただろう。
「管理局はサーチャーを置いていたから、ジュエルシードの事には気付いていた筈だが、ユーノに遅れるて一ヶ月も掛けてやっと到着の重役出勤。若し封印をする人間が居なくて、聖闘士も居なかったなら海鳴市はズタズタになり、死者多数の大惨事だったろうに」
普通の人間ではジュエルシード・モンスターを斃す事も、封印をする事も出来なかったであろうし、他のジュエルシードに触発されて次々と目覚めていた可能性も否めない。
「管理局は監視対象Nが、魔法に目覚める切っ掛けとなる事を期待し、ジュエルシードの事を知らん顔していた可能性が高い。なのはが魔法に目覚めてジュエルシードに関わり、その最中にしれっと管理局が入り込んでしまえば、時空管理局の都合の良い駒とし易い。万が一、管理局の介入前に死ぬ様なら必要がない人材だったと考えれば良い」
どっちにしろ管理外世界での出来事であり、管理局が痛む事は何もない。
正に、ローリスク・ハイリターンという訳だ。
「莫迦な、管理局がそんな事をする筈が……」
「まあ、9歳の少女を盗撮する組織ではあるけどね」
確たる証拠が出てきている以上、決して嘘だと叫べないクロノは項垂れる。
ユートはクロノを嫌っていないが、この頃のクロノは少し管理局の思想に染まり過ぎているきらいがあるから、信頼はしていない。
「ユートさん」
「何かな、リンディ・ハラオウン提督」
「貴方はどうやって管理局の情報を得たのですか?」
リンディは其処が腑に落ちない処。まるでユートが管理局をよく知っているのだと言わんばかりの体で、どうしても訊いておきたい事だった。
一応は原作知識だが……
「サーチャーの運用概念を考えれば解る筈なんだが。こいつから幾らでも情報を得られたよ」
「あ!」
サーチャーは基本的に、幾つかを纏めて運用するものであって、一つのサーチャーから他のサーチャーを中継し、管理局から情報を抜き取る事も容易い。
普通はサーチャーを鹵獲される事など無いし、その辺の情報管理がなっていなかった様だ。
「まあ、サーチャーをバラ撒いて地球の情報を盗んでいたんだし、逆にハックされても文句は言わさない」
ぐうの音も出ない。
「では彼女らが着けている鎧……」
「聖衣がどうかしたか?」
「聖衣だけど、あれはどうしたの?」
「造ったに決まってる」
「「「造った!?」」」
管理局組は驚愕した。
一応は調べて、明らかに未知の金属で出来ており、未知のエネルギーを秘めている鎧、古代遺失物(ロストロギア)の類いだと考えていたのが、よもや現代人が造った物とは思わなかったのである。
「どうせ未知の金属とエネルギーから、古代遺失物(ロストロギア)だと思ったんだろうが、現代の聖衣は僕が本物の聖衣を参考に、再構築した物だよ」
「本物を参考に?」
「この場に存在する本物の聖衣は、僕の纏う双子座の黄金聖衣のみだ。それ以外は僕の造ったレプリカ……と言っても、本物と変わらない金属で造っているし、本物と遜色はない。違いは戦闘初心者でも闘える様、パワーアシストや必殺技の登録が成されている事だ。デバイスと変わらないな」
「出来れば聖衣が欲しいのだけれど……」
「駄目だ、聖衣は聖闘士の象徴だ。それを部外者になんて渡せる筈がないだろ。しかも聖衣は造る為に大量の聖闘士の血液が要るし、量産が利かないんだよ」
鋼鉄聖衣はマシーン故に違うのだが……
「聖闘士の血液、何故?」
「聖衣は生きている。喋ったりはしないが生命の息吹きを確かに持ってるんだ。その息吹きを与えてるのが聖闘士の血液。この場合の聖闘士は小宇宙を持っている真の聖闘士の事。アリサ達の血液では意味が無い」
現状で血液の供給が可能なのは、ユートとシエスタの2人のみだ。
他にも小宇宙を持っている聖闘士は居るが、現在のこの場には居ない。
しかも必要な血液は聖衣一つにつき、半分近い量となっているからユートは、少しずつ製作していた。
大量の血液が必要とあっては無理も言えず、溜息を吐きながらリンディは会談の終了を考える。
「こうなると完全に私達は出番も無いわね」
「かあ……艦長、然し!」
クロノは納得がいかないのか、喰って掛かろうとしたものの、自分でも何を言って良いのか判らない。
少なくとも双子座の黄金聖衣は、時空管理局の定義で云えば古代遺失物(ロストロギア)に当たる。
だが、取り上げようにもその場合には、ユートを敵に回す事になってしまい、再び次元の狭間に跳ばされてしまいかねない。
況してや、エピメテウスの落とし子という訳の解らない力で、クロノの魔法の一切を無効化してしまう。
それに、ルールに基づいてこの地に居る訳でなく、ミッドチルダでも武装をして勝手に入り込めば犯罪だというのに、管理局員たる自分がそれをやったというのはやはり憚られる。
「私達は地球を出ます」
故に、リンディの言葉にこれ以上の反論も無くて、黙って従うしかなかった。
一応、全てのジュエルシードが集まれば、伝えて貰える様に、連絡法をユートに伝えており、事件解決の確認が終わるまでは軌道上での滞在許可をリンディが受けている様だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから数日……
【ジユエルンレーダー】を片手に海鳴市の力在る者達が協力し合い、聖闘士や魔導師が見付けたジュエルシードに封印を施ていた。
例えば……
「父さん、ジュエルンレーダーによればこの辺りなのは間違いない」
「そうか」
高町士郎と高町恭也が、木刀を片手に持って動き回っており……
「む、これだな」
「そうみたいだ」
士郎が発見して、恭也が確かめてみると碧い菱形の宝石が確かに有った。
「じゃあ、すずかちゃん。封印を頼むよ」
「はい、恭也さん」
封印担当は大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)のすずか。
「凍てついて、凍れる柩(フリーレン・サージ)!」
一時的な処置で、ユートが後から厳重に封印を施す訳だが、これでもほぼ絶対零度の氷結封印だ。
ユートの許に運ぶまでの間は大人しいであろう。
更には……
「鮫島、見付かった?」
「はい、アリサお嬢様……此方に御座います」
バニングス家執事の鮫島と組み、アリサはジュエルシードを捜した。
「じゃ、ちゃっちゃと封印しますかね。えっと、始動キーは、コノ・バカ・イヌウルサイ・モフ・モフカリカリ……Signum is.lost famenle o resurrectio vetus universitas(封印せよ旧き遺失物)」
ネギま!系で、始動キーからラテン語の詠唱に入って発動ワードを紡ぐ。
「eminor includo(閉ざす脅威)!」
ジュエルシードは見事に封印されたのだが、アリサはプルプル震えている。
「ねえ、鮫島。この始動キーってさ、若しかして莫迦にされてるのかしら?」
「御答えしかねます」
一礼する初老の執事は、視線を逸らして言う。
「絶対、変えてやる!」
アリサは決意した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ユートはジュエルシードに最早、用はないから封印をした後はどうするか?
実際、ジュエルシードは既に実物も発動の瞬間も、必要なシーケンスは全てを〝視ていた〟ユートなら、複製を造るのも容易い……とまでは言わないが、不可能ではなくなった。
オリジナルのジュエルシードに用はないのだ。
封印匣の中に入っているジュエルシードを見つめ、ユートは思案する。
「ふむ、どうせ解析も使用も出来ない代物だし、管理局に渡しても問題は無い。なら、貸しを作るのも将来的な意味で悪くないか」
ユートの封印を破りたければ、それこそ阿頼耶識の小宇宙を越えた力でぶち破るしか方法は無い。
「まあ、取り敢えず管理局にはさっさとお帰り願いたいし、お土産にジュエルシードを渡せば喜んで帰るだろうからな」
まだ、アリシアの蘇生もやるのに、管理局がうろちょろしていてはやり難い。
因みに、フェイトは原作とは違って連れて行かれる事は無かったりする。
既にプレシアも含めて、日本国籍を月村家やバニングス家を後見人に作ってあるから、管理局法で裁かれる謂れが無い。
何故なら、彼女らのした事は飽く迄も善意の探索。
現地で魔導師となった子と〝誤解〟から戦闘になってしまい、小規模次元震が起きているものの、それも管理外世界での話であり、しかも所属する世界で起こったトラブルに過ぎない。
それで〝無関係〟な管理局が出しゃばるのならば、是非を問うべく管理世界の全てに、今回の〝事故〟の全容をぶっちゃけてやるとリンディに言っておいた。
リンディは涙を流しながら喜んで了承している。
尚、貴重な時間を貸してくれた協力者の方々には、ユートが確りとお礼をしておいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、リンディ・ハラオウン提督」
「はい」
「ジュエルシードの全ては集め終わったよ」
「そうですか……」
本当に数日で終わらせてしまったユートに、呆れるやら何やら。
「で、聖域の総意でこいつを進呈しても良い」
ユートが開いた匣の中には21個のジュエルシードが入っており、リンディとクロノは目を見開く。
「対価は?」
「管理世界への渡航許可を取って貰いたい」
「渡航許可ですか?」
「前にも言ったけれどね、法を犯すのは良くないからきちんと許可が欲しい」
「……成程、判りました」
どうやら、リンディにはユートの言わんとする事が理解出来たらしく、苦笑いをしながらジュエルシードを受け取った。
序でにユーノも、一度はミッドチルダへと帰って、部族の方に報告をしてからもう一度、地球に来たいと言うので地球への旅行ビザを与えておく。
新たに施行された【地球国連法】を守るのならば、旅行者が来るのを拒む事は無いという訳だ。
こうして、時空管理局の一部隊は管理局の本局へと帰還した。
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