魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

24 / 84
第23話:映像記録 時空管理局の行った事?

.

 嘗て無い程の緊張感に、エイミィ・リミエッタの胃には穴が空きそうだ。

 

「貴方が教皇……なの?」

 

「そうだよ」

 

 教皇の法衣を身に纏ったユートに、意識を回復したリンディが訊ねた。

 

 ユートはそれを肯定。

 

 更に重苦しい雰囲気になってしまう。

 

 エイミィは何処か現実なら逃避する様に教皇の間を見回すと、他の十二宮など及びもつかないくらい豪奢なのが判った。

 

 敷き詰められた赤い絨毯だけでなく、天井から垂れ掛かっている絹飾り、それに趣味が良いとも云えない黄金の像。

 

「あ、あの〜」

 

「何かな? えっと……」

 

「あ、エイミィ・リミエッタです」

 

「エイミィね。で?」

 

「いえ、少し気になったんだけど……周囲の像って、何なのかなって」

 

 玉座に続く花道を護るかの如く置かれた黄金の像、それに色とりどりの五つの像が玉座の周りに侍る。

 

 エイミィの質問に、少し誇らしく答えた。

 

「英雄像って処かな」

 

「英雄像?」

 

「そう、最終聖戦に於いて特に活躍した青銅聖闘士と黄金聖闘士の像だよ」

 

 嘆きの壁を打ち破るべく文字通り生命を賭した黄金聖闘士、神聖衣を纏い最後まで闘った青銅聖闘士。

 

 即ち、星矢達の像だ。

 

 教皇の間に飾り気が無いのもアレだったし、折角だから今は亡きムウ達十二人の黄金聖闘士と、星矢達の像を造って飾っておいた。

 

 因みに、アテナ神殿の方には偉大な先代教皇シオンの像が置かれている。

 

 更に言うと、彼方側──ユートの再転生地の聖域では天秤座の紫龍が教皇の座を引き継いでいた。

 

 星矢で良くないか? という意見も有ったのだが、常にアテナを護る位置に居るのなら、黄金聖闘士として在った方が何かと都合が良いので、仁義に厚い紫龍という事に……

 

 少し異例だが春麗を聖域に住まわせ、教皇として働きながらも同時に義息子の翔龍を育てていた。

 

 また、天秤座に関しては老師の最後の弟子の玄武に引き継がせる事になる。

 

 玄武は翔龍が聖闘士になった場合、翔龍が継ぐならと天秤座を襲名した。

 

 更に紫龍と春麗の間に、実の息子の龍峰が誕生。

 

 いずれは龍星座の聖衣を継ぐだろうと目される。

 

 ユートは一応、彼方側で双子座として双児宮を守護する黄金聖闘士として認められており、普段は権能で分かたれた優雅が双子座の任に就いていた。

 

 兄と弟が逆転してるが、サガとカノンみたいな感じになっている。

 

 優雅に否は無いが……

 

 閑話休題……

 

「それで、クロノはどうなったのかお訊きしたいのですが?」

 

 子供とはいえ、この世界の組織のトップだ。

 

 口調は丁寧にユートへとクロノの事を訊ねる。

 

「双子座の聖闘士の特技、その中に空間操作というのがある。それを応用したのが【異界次元(アナザーディメンション)】だ。これを用いれば、対象を遥かな次元の果てへ追放出来る。更に次元を連結し、凄まじいエネルギーを取りだしたりも可能で、他には次元と次元を渡り歩く事も簡単に出来てしまうんだ。双子座の黄金聖闘士が最強なんて云われる所以だね」

 

 代々の双子座の聖闘士でも出来なかった次元連結、やれなくはないが人間の躰がそれに耐えられない。

 

 だが、エピメテウスの落とし子となったユートは、肉体の強度が半端なく上がっており、次元エネルギーさえ扱える。

 

 平たく言えば、次元震を起こすも停めるも自由自在であり、素で【メイオウ】が可能という事だ。

 

 勿論、言わないが……

 

 とはいえ、それがどれだけ無茶苦茶かリンディにも理解は出来た。

 

 正に比喩無しで【人間ロストロギア】である。

 

 当然、時空管理局がそう言ってユートを捕まえようとすれば、何の呵責もなく本局を墜とすだろう。

 

 そしてそれだけの力を揮っての封印は、普通の人間の魔導師では解けない。

 

 ジュエルシードは最早、ただの石ころと変わらない代物と成り果てていた。

 

 それは兎も角、リンディは考え込むとユートに頭を下げて頼む。

 

「お願いです。クロノを、息子を助けて下さい」

 

 それはアースラの艦長ではなく、1人の母親としての顔だった。

 

 そして、ユートなら聖域の結界を抜いてクロノを呼び寄せる事も可能だ。

 

 何故なら、本物の聖域でも出来る事なのだから。

 

 アテナの結界の中でも、サガの異界次元(アナザーディメンション)で十二宮間を移動可能なのは、氷河の双児宮から天秤宮の移動でも明らかだし、瞬の星雲鎖(ネビュラチェーン)とて双子座の聖衣を通じ、教皇の間へ攻撃を仕掛けた。

 

 NDでも、蟹座のデストールが積尸気を通じて獅子宮に抜けたし、LCの方でも暗黒祭壇座のアヴィドが積尸気を使い、魂のみだが教皇の間まで入り込んだ。

 

 積尸気使いと空間使いが素通りとか、どうやら普通のテレポーテーションが不可能というだけで、存外と穴だらけな結界らしい。

 

「襲われると解っていて、解放する訳無いだろうに」

 

「私が必ず止めます」

 

「ふう。アテナ、宜しいでしょうか?」

 

 ユートがアテナに確認を取ると……

 

「善きに計らえ」

 

 頷いて許可を出す。

 

 ユートがパチンと指を鳴らすと、一瞬の間に黒い穴が開いたかと思うとクロノが落ちてきた。

 

「クロノ!」

 

「クロノ君!」

 

 意識は無いが、気絶をしているだけらしく脈拍も確りしているし、呼吸も普通にしている。

 

 ややあって……

 

「うっ、僕は?」

 

 クロノが目を覚ます。

 

 案の定、クロノが攻撃を仕掛けようとしてきたが、約束通りにリンディがそれを止めた。

 

 取り敢えず、話を聞いて落ち着いたクロノは、話し合いに参加する事となる。

 

「聖域とはギリシア神話の女神アテナを奉じる組織、聖闘士とは異界からの侵攻や人々を苦しめる怪物との闘いを、牙無き人の代わりに牙となり盾となり行っている希望の闘士。例えば、時空管理局が地球に対して管理世界認定したと言い、侵攻をしてくればそれを討ち滅ぼすのも役目となる」

 

「「「なっ!?」」」

 

「何を驚く? 聖闘士とは邪悪が蔓延る時、必ずや現れる希望の闘士だ。侵略者の好きにさせる訳もない」

 

「その場合、話し合いが成される筈です!」

 

 リンディが言うが、寧ろ嘲笑を込めて首を振る。

 

「地球は基本的にお前らで言う質量兵器に頼っているんだ。管理世界になるにはそれを棄てろと管理局は命じるだろう。地球側がそれを出来る筈が無いな」

 

 基本方針が真逆な為に、地球は管理世界とは馴染めないのだ。一部の魔法能力者以外は……

 

「だからこそ、とある理由から異次元人に対する法が整備された。あの時に言ったのがその一部だ」

 

 3人はユートが言っていた国際法を思い出す。

 

 狙い澄ましたかの如く、異次元人と謳う法律に辟易とした。

 

「理由とは?」

 

「そうだね。茶々拾号」

 

「はい」

 

「例のモノを」

 

「イエス、マスター」

 

 女官の姿をした茶々拾号に命令を出すと、一礼をして空中に顕れたコンソールを操作し始める。

 

 管理世界では普通に採用されているが、よもや地球でも使われているとは思わなかったのか、リンディ達管理局組とユーノは驚く。

 

 だが、本当に驚くべきはそんなものではなかった。

 

 それは記録映像。

 

『行ってきまーす!』

 

 栗色の髪の毛をツインテールに結った、眩く輝いている白い制服に身を包み、元気よく玄関から出る少女の姿は、何処にでも在るであろう日常の登校風景。

 

 バスに乗り、友達とお喋りをしながら学校に通い、授業を受けて放課後になったら家に帰る。

 

 家族で夕飯を摂った後、入浴して一日の汚れを洗い流して……

 

「うにゃぁぁぁぁぁっ! み、見ないでぇぇぇぇ!」

 

 その場面を見せ付けられてしまい、何処ぞの魔砲少女が真っ赤な顔で空中に浮かぶモニターを、両腕を振りながら消そうと頑張る。

 

「何、何なのこの映像?」

 

 涙ぐみながら未だに赤い顔で怒鳴るなのは。

 

 それはなのはの映像記録だった。

 

「それはなのはが魔砲少女になる前に録られた記録。その証拠に、その映像にはユーノもレイジングハートも映ってはいない」

 

 確かに、それらしき存在は何処にも映っていない。

 

「そして、これは管理局で制式採用されたサーチャーを鹵獲したモノだよ」

 

「え? 管理局……なの? へ〜?」

 

 ユラ〜リと、空恐ろしい表情──StrikersTV版の少し頭、冷やそうか的な──でクロノを見遣った。

 

 ゾワリ!

 

 冷たいナニかが背筋を奔り抜けるのを感じたクロノは、ブンブンと首を横に振って青褪める。

 

「ま、待て! それが本当に管理局のサーチャーだなんて何故言える?」

 

「お前らがバラ撒いていたサーチャーと全く同じで、製造番号も通しでこそないけど同じだと判る」

 

「うっ!」

 

 ユートが摘まんでいるのはあの時に鹵獲した物で、確かに同じ代物だった。

 

「勿論、入浴シーンを撮るのが目的じゃないだろう。まあ、需要はあるから連中が売るかも知れないけど」

 

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 なのは、涙ぐみ絶叫。

 

「ええと、それじゃあそのサーチャーを配置した人は何の目的で?」

 

「地球には時折、突然変異的に高魔力の持ち主が誕生する事がある。そういった高い魔力資質を持つ人間を監視し、魔力が目覚めたら管理局法を持ち出て管理局入りさせ、戦力とする為だろうね」

 

「ば、莫迦な!?」

 

 クロノが激昂するのは、当然の反応だった。

 

 それではまるで、管理局を人浚いと言うに等しい。

 

「半世紀前、英国人の少年が傷付き倒れた男を助けたらしい。その男は明らかに武装していたが、手にしていたのは銃とかではなく、杖だったとか。それ以降、少年は姿を消して、時折は帰って来るけど殆んど音沙汰無し、帰って来る時には双子らしき女性を侍らせ、お父様と呼ばせてる様だ」

 

 然も、記録された事のように話すが、それは原典の知識によるもの。

 

 そして、ハラオウン親子には心当たりがあった。

 

 ギル・グレアム提督。

 

「時空管理局はそれによってその事実を知り、高い魔力資質を持つ人間をサーチャーで捜して、見付けたら監視する様にしてたんだ。それがなのはだった」

 

 クロノは項垂れる。

 

「そんな……莫迦な……」

 

 ユートがこのサーチャーを発見したのは、高町恭也と初めて出会った時だ。

 

 原作を観ていた時、明らかにおかしな部分が在り、真逆と思って確認したのだがビンゴだった。

 

 あのStrikersの高町なのは教の布教行為の際に使われた映像記録は、どう考えてもおかしい。

 

 レイジングハートさえ持たないなのはの姿、ユーノを拾った際の第三者視線の映像に……

 

「これ、なのはと黒衣の子が戦った時の!」

 

 小規模次元震が起きた時の映像がある。

 

「それは別に見付けたサーチャーの映像だよ。こんな映像が在るなら、どうしてこんなに来るのが遅くなったのかな?」

 

「そ、それは……」

 

 リンディもクロノも何も言えずにいる。

 

 これをアニメ的に視たならば、単純に無印やA’sの映像を使い回しただけ、そう言っても良い。

 

 でも、これが現実だったらどう視るべきか?

 

 明らかに魔法に出逢う前のなのはの映像は、いったい誰がいつ撮ったのか?

 

 そういう話になる。

 

 況してや、小規模次元震が起きる原因の映像が有るのに、管理局がこの事件を知らなかったなど、果たして有り得るのか?

 

 理由付けをするならば、ギル・グレアムの例から見て魔力資質の高い人間を、管理局がマークしていたなら理解も出来る。

 

「こんな事を平然としてる組織、時空管理局。そんな犯罪予備軍が好き勝手しているのだと知った国連は、異次元人に対する法整備を急いだんだよ」

 

「なんて事なの……」

 

「更に、海鳴市に住んでいる高い戦闘能力を持つ者、彼らが協力してくれる運びとなっている。高町士郎、高町恭也、高町美由希に、そして……」

 

 ユートが2人へと振り向くと、待ってましたとばかりに仮面を外す。

 

「あっ!?」

 

 その素顔を見て、なのはは驚愕するしか無かった。

 

 

.


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。