魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第20話:激突必至 管理局の黒い奴

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 ユートとユーガが各々、なのはとフェイトに接触をしている頃……

 

 それは幾何学的な周囲、次元空間での事。

 

 次元空間はある世界で、各世界を陸に例えて海と呼ばれている。

 

 とある人にして神なら、世界の繋がりを『次元の海に隔てられた並行世界』、『次元の壁に隔てられた平行世界』と評していた。

 

 そんな場所に艦船らしきモノが翔んでいる。

 

 L級八番艦アースラ……

 

 その内部にはアースラのスタッフが働いていた。

 

 そんなブリッジへの扉がスライドし、ミントグリーンの髪の毛をポニーテールに揺った女性が入室する。

 

 座った位置は艦長が座る椅子だった。

 

「皆どうかしら? 今回の旅は順調?」

 

 アースラのスタッフへと話し掛ける女性、それに応える様に男性スタッフが口を開く。

 

「はい。現在第三船速にて航行中です。目標次元には今よりおよそ160ヘクサ後に到着の予定」

 

 次いでもう1人のスタッフが答えた。

 

「前回に起きた小規模次元震以来、特に目立った動きはないようですが、三つ巴の捜索者が再度衝突する危険性は非常に高いですね」

 

 スタッフから報告を受けると満足気に頷く。

 

「失礼します、艦長」

 

 女性の背後から茶色の髪を短く刈った女性が、お茶を持って艦長の机へと持って来た。

 

「ありがとう、エイミィ」

 

 笑顔でお茶を受け取り、香りを楽しむと一杯、また一杯と砂糖を入れる。

 

 それを平然と口に含み、美味しそうに飲み込む女性の名前はリンディ・ハラオウンといい、このアースラの艦長にして時空管理局の提督を務める謂わばキャリアウーマンというヤツだ。

 

「そうね、小規模とはいえ次元震の発生というのは、ちょっと厄介なものだし、危なくなったら急いで行って現場に向かって貰わないと……ね? クロノ?」

 

 リンディがチラッと目を向ける先に居たのは、漆黒の服を纏う黒髪の少年。

 

「大丈夫、分かってますよ艦長。僕はその為に居るんですから」

 

 クロノと呼ばれた少年の瞳には自信に満ち溢れて、その右手には金属のカードが挟まれている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 そして現在……

 

 なのは組、フェイト組、聖闘士組の三つ巴ながらも力を合わせてジュエルシードを鎮める事に同意して、攻撃能力を持つ全員で掛かる事にした。

 

「んじゃ、アタシらで一斉に攻撃するわよ!」

 

 皆が橙色の鎧を纏う仮面の少女の言葉に頷き、それぞれが攻撃の準備をする。

 

「レイジングハート・エクセリオン!」

 

《Yes my Master》

 

「バルディッシュ・アサルト!」

 

《Yes sir Bullova form》

 

 カートリッジシステムは搭載しているが、ユートとユーガに言われた通り使用はしていない。

 

橙色鎧の仮面の少女と白色の鎧の仮面少女も準備し、咸卦の氣を籠めていく。

 

 また、樹木の怪物からの邪魔が入らない様にユーノとアルフがチェーンバインドを仕掛けた。

 

「征くよ! 全力全開……ディバインバスター!」

 

「貫け轟雷! トライデントスマッシャー!」

 

「燃え上がりなさいっ! 炎熱無法(フレイムデスペラード)!」

 

「白光吹雪(シュトラール・シュネーシュトゥルム)ッ!」

 

 展開されていたバリアを桜色の砲撃と、黄金の三叉砲撃が削っていき、火炎の帯が本体を燃やして、最後には吹雪が怪物を凍結させてしまった。

 

 パキィィィンッ!

 

 砕け散った樹木の怪物、その中から碧い輝きを放つ菱形の宝石が浮かぶ。

 

「リリカル・マジカル!」

 

「ジュエルシード」

 

「シリアルⅦ」

 

「封印!」

 

 なのはが、フェイトが、アリサが、すずかが……

 

 それぞれに封印術式を撃ち放ち、ジュエルシードがそれを受けて完全に沈黙、問題は誰が持っていくか。

 

「黒衣の子、アンタはまだジュエルシードが必要?」

 

「いえ、私は単にジュエルシードが発動したら危険だから封印に参加しただけ。必要ではありません」

 

 橙色の鎧の仮面少女──アリサに言われ、フェイトは静かに答える。

 

「それじゃあ、白服の貴女の方は?」

 

「私は……ユーノ君の手伝いでやっていただけだし、私自身は必要じゃないよ。でも、元々はユーノ君の物だから返して上げたい」

 

 白色の鎧の仮面少女──すずかから問われたなのはが質問に答えた。

 

「ユーノ? それで、そのユーノというのはジュエルシードをどうしたい訳? 使うの? それとも研究をしたいのかしら? 管理局に引き渡すなら交渉の余地も無いけどね」

 

「僕は、事故とはいえバラ撒いた責任を果たしたい。それが僕の望みです」

 

 アリサの言葉にユーノは確固たる意志を以て答え、それを聞いたアリサは取り敢えずは良いかと頷く。

 

「じゃあ、アタシ達が持っていっても構わないわね? 教皇がキチンと封印してくれるから、二度と暴れる事も無いでしょうよ」

 

 正直に言うと時空管理局に渡してしまいたいと思っているが、彼女らが使うという目的ではないのなら、いっそ託すのも有りかも知れないと考えた。

 

 実際、封印後に暴れたという事も今の処無いし。

 

「あ、あの!」

 

 浮かぶジュエルシードへと手を掛けようとすると、なのはが近付いて話し掛けてきた。

 

「何かしら?」

 

「あ、貴女達がジュエルシードを集める理由って何なんですか?」

 

「……封印して二度と表に出さない為と、今も覗き見して介入の機会を窺ってる覗き魔(ピーピングトム)に渡さない為よ」

 

「覗き魔?」

 

「そう、この世界を管理外世界と見下していながら、今も覗き魔法で此方を観ている連中、現在は虎視眈々とジュエルシードを狙ってるんでしょう。時空管理局とかいう胡乱な組織は」

 

 これは事実である。

 

 現在、時空管理局の艦船アースラがこの状況を覗いており、暴走するジュエルシードを放ったらかしに、なのは達が封印しているのを〝観察〟して、バトルを開始したならば転移魔法で介入する心算なのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 数分前……

 

「現地では既に、三つ巴による戦闘が開始されている模様です」

 

「中心となっている遺失物(ロストロギア)の等級は、A+クラス。動作不安定ですが無差別攻撃の特性を見せています」

 

 男性オペレーターであるアレックスとランディが、艦長のリンディ・ハラオウンと執務官のクロノ・ハラオウンに報告をする。

 

 リンディとて、何も手を拱いている訳ではない。

 

「次元干渉型の禁忌物品、回収を急がないといけないわね。クロノ・ハラオウン執務官、出られる?」

 

「転移座標の特定は出来てますから、命令さえ有ればいつでも!」

 

「それじゃクロノ。これより現地の者への戦闘行動の停止と、古代遺失物(ロストロギア)の回収、それと彼女らから事情聴取を!」

 

「了解です、艦長!」

 

 己れの仕事に自信と意義と誇りを持ち、あの戦闘に介入をするべく転移魔方陣に入った。

 

「気を付けてね〜♪」

 

「はい、行ってきます」

 

 何故か白いハンカチを、ピラピラと振るリンディの姿に、クロノは苦笑いをしながら現場へ向かう為に、転移魔方陣を起動してその場から消える。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 現在……海鳴臨海公園。

 

「ストップだ! 此処での戦闘は危険過ぎる。時空管理局の執務官……クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせて貰おうか!」

 

 アリサがジュエルシードを手にした瞬間、行き成り転移をしてきたクロノに、なのはは二重の意味合いで驚愕した。

 

 一つは行き成りの転移により純粋に吃驚した事。

 

 今一つは、アリサ──といってもなのはは正体に気付いていない──の言葉が本当だったという事だ。

 

「それと、君はそのジュエルシードを此方に渡せ!」

 

「断るわ」

 

「なにぃ?」

 

「封印作業にも加わらず、今更出て来て何を偉そうにジュエルシードを求めてるのよ? アンタにはこれを手にする資格も権利も一切無いわよ!」

 

 アリサはそう言ってジュエルシードを投げる。

 

 受け取ったのはユート。

 

「ジュエルシード・シリアルⅦ……封印!」

 

 完全封印をすると、匣に仕舞って亜空間ポケットに突っ込んだ。

 

 これにより、ユート以外が取り出す事は事実上で、不可能となった。

 

「おい、ジュエルシードを此方に渡せ!」

 

「小獅子星座が言っていただろう? 傍観していたお前達にはジュエルシードを得る権利が無い!」

 

「巫山戯るな! 僕は時空管理局の執務官だ! 古代遺失物(ロストロギア)は、僕ら時空管理局が回収し、管理しなければならない。然もなくば公務執行妨害と古代遺失物(ロストロギア)不法所持、及び管理外世界での無断魔法使用の現行犯で逮捕する! 今ならまだ罪は軽くて済むぞ!」

 

 自身のデバイスのS2Uを突き付けると、ユートに対して恫喝をする。

 

「お前の言う罪とやらは、此方が従う法的根拠が全く無い! 故にそんなでっち上げの罪には問われない」

 

「な、何だと!?」

 

「お前は……否、お前らは此処を何処だと思ってる」

 

「ハァ? 第97管理外世界だろうが。当該惑星名は地球! それがどうしたと言うんだ!?」

 

「まあ、数字に関してはどうでも良いよ。僕が言いたいのはその後、管理外世界という部分だからな」

 

「どういう意味だ?」

 

「つまり、此処はお前らの〝支配領域〟じゃないって事だよ!」

 

「支配じゃない、管理だ」

 

「ハァー!」

 

 ユートは、あからさまに溜息を吐いてやった。

 

「な、何だ? そのダメな人間を見た様な溜息は!」

 

「支配の前に管理は無し、管理の後に支配無しだよ。管理されるのは、何らかの理由で自由を奪われ支配されているからこそだ」

 

「なっ!?」

 

「お前らの管理する世界、それの定義上は魔法文明の発達と、次元世界への自力での進出。それらの世界に管理局の武力を見せ付け、管理世界への加入を強制、管理局法の徹底を行う……だったか? ユーノ」

 

「へ? はい……」

 

 訊ねられたユーノは思わず肯定してしまう。

 

「然るにこの地球は、文明レベルBと定義付けられ、管理局の管理する世界ではない【97番目の管理外】世界であるとされている。そうだったな?」

 

「そ、そうです」

 

「即ち、この地球出身である僕らが地球内で起こした事柄に関して、司法権限を持つのは地球の司法組織に他ならない。故に、地球でお前への公務執行妨害も、古代遺失物(ロストロギア)不法所持も、地球に於ける無断での魔法使用禁止にしても、異次元人であるお前らに裁く権限は無い!」

 

「な、な、な……っっ!」

 

 クロノは余りの言葉に、顔を真っ赤にしている。

 

 ユートの言葉の意味が解らないのか、なのはが首を傾げてアリサ──まだ知らないが──に訊ねた。

 

「えっと、どういう意味なのかな?」

 

「管理世界とか管理外世界とかだと解らないならこう考えなさいよ。日本人であるなのはが日本内で、米国にとって犯罪行為をしたとするわよ?」

 

「う、うん」

 

「日本でそれは法的に犯罪ではないけど、米国の法律では違反。それをなのはが行ったら、米国のポリスがズカズカ勝手に日本の国土に侵入して、なのはを米国の国法に違反したから逮捕すると言って連れ去るの。アイツらがしようとしてるのはそういう事よ。勿論、国際法に違反していても、日本で罪を犯したなら日本で裁くのが普通。米国が連れ去って良い訳じゃない」

 

「成程……あれ? じゃああの人が言ってるのは?」

 

「自分達の法律に違反するから、地球の法律なんて丸っと無視して連れ去ろうって魂胆ね。つまりは、言い掛かりよ」

 

 凄く極端な言い方ではあるが、アリサの言っている事は容赦なく正しい。

 

「当たり前だけど、アイツらの支配領域で同じ事をしたら、その時は向こうの法に従わなければならない。郷に入っては郷に従えって言うでしょ?」

 

「うん……」

 

 アリサの説明に、クロノは額に血管を浮かせながらピクピクと引き攣る。

 

 そしてユートは言う。

 

「その逆もまた然りだな」

 

「ど、どういう意味だ?」

 

「地球で罪を犯したなら、時空管理局の、余所の世界の人間を此方の法で裁く事が出来るという事だ」

 

 

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