魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第19話:顕現 新しいフォーム

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「ア、アリシア……なの? 本当に?」

 

 ブルブルと手を痙攣させながらプレシアは手を伸ばすのだが、そもそも霊体のアリシアに三次元に属するプレシアが触れられる筈もなく、すり抜けてしまう。

 

「アリシア! 何故?」

 

「アリシア・テスタロッサは謂わば幽霊だ。アンタの世界でも幽霊くらい概念としては在っただろう?」

 

「在るけど……」

 

「地球では悪霊を徐霊する巫女さんなんてのも居たりするからな、況してや俺は積尸気使いだ。霊は居るのが当たり前ってヤツさ」

 

「それよりも、アリシアはどうして泣いてるの?」

 

 人の説明を〝それより〟の一言で済ましてくれて、プレシアは訊きたい事だけを訊ねてきた。

 

「ハァー、んなもん決まってんだろ? 大好きな母親が妹(フェイト)を鞭でシバきあげてんのを見せ付けられてんだぜ? やめてと言っても聴いて貰えないし、止めようにも触れない……気が狂いそうになるくらい嘆いたんだろうな」

 

「全部……視てた? 私がフェイトを虐待している所を全て……?」

 

 ヨロヨロとショックから後退り、頭を抱えながらもアリシアを見遣る。

 

「苦しみもなく、一瞬で死んだから死んだという自覚もなかった。話し掛けてもアンタは視えないから無視した形になり、寂しさを抱えていて、いつしか自分が死んでいるのに気が付き、アンタが苦しんでいるのに何も出来ないと嘆き、成仏も出来ずに在り続けた」

 

 というのは予測に過ぎないが、あらましはそんな処だと考えている。

 

「アリシア、アリシア……嗚呼、嗚呼、嗚呼!」

 

 自分の仕出かした事こそアリシアを傷付け、哀しませたのだと覚ったプレシアは頭を抱え、慟哭しながら叫んだ。

 

「さっき、アリシアを生き返らせてくれるのかと訊いてきたな? 魂と保存された肉体が在るのなら、蘇生は可能だ」

 

「ほ、本当に!?」

 

「だけど、今のアリシアが肉体に戻っても、精神崩壊してしまうぞ」

 

「そんな……」

 

 愕然となるプレシア。

 

 自らの行いに後悔などは無かったろうが、アリシアを壊しかねない事をしていたとなれば話は別だ。

 

「フェイトと仲良くすれば良い」

 

「え?」

 

「フェイトと仲良くして、アリシアに妹の幸せな顔を見せてやれ。そうすれば、蘇生に際して精神崩壊を防げるし、アリシアも笑ってくれる様になるだろうよ」

 

 それで満足されて成仏をしなければ……だが。

 

「妹?」

 

「クローンってのは、そもそも本人を創る行為じゃないんだ。フェイトはアリシアの娘であり妹。それが、同じ細胞から生み出されたフェイトという存在だぜ。代わりになどそれが仮令、本人のクローンでも務まる訳がねえよ」

 

「そういう、ものなのね」

 

 何処か憑き物でも落ちた様な、サッパリとした表情で受け答えるプレシア。

 

「アリシアが笑える様になったら、アリシアの魂を身体に入れ蘇生させてやる」

 

「その対価に、貴方は何を望むのかしら?」

 

「話が早くて助かるな……アリシアのクローンを用立ててくれ」

 

「? クローンを? 嫁が欲しいのならアリシアでもフェイトでも上げるわよ」

 

「いや、嫁じゃねーから。欲しいのは嫁じゃねー!」

 

 大事な事だから二度言う優雅。

 

「まあ、良いわ。研究用に造ってある素体を上げる」

 

 生きた肉体だが、魂すら宿らなかった為に置いてあるモノで、流石にアリシアとそっくりだから破棄まで出来なかったのだ。

 

「それと、病を治すってのは難しいから、自分の複製を造っておけ。魂を入れ換えれば若くてボロの無い身体になるからな」

 

「……解ったわ」

 

 アリシアが蘇生可能だというなら、プレシアも生きたいという欲が出た。

 

 故に、言う通りにしようと考えたのである。

 

 あれだけの力を見せ付けられては、優雅を信じるしかないのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 重苦しい音と共にゆっくりと扉が開いて、其処から人影──優雅が出てきた。

 

「あっ!」

 

「フェイト、話は終わったからアルフを連れて行くと良い。それと、デバイスを置いていけ」

 

「バルディッシュを?」

 

「ああ、少し改造をする」

 

 優雅の言葉に、不審そうな目でアルフが睨む。

 

「改造? アンタなんかにそんな事出来るのかい?」

 

「当然だ。言っておくが、前回に出逢った白い魔導師のデバイスも改造しているからな、此処で改造を受けなけりゃ突き放される事になるぜ?」

 

「あの子のデバイスも? ……判った」

 

 少し考えたが、嘘を言っているとも思えず……

 

「バルディッシュの事を宜しく」

 

「ああ、任せな」

 

 フェイトは、待機状態のバルディッシュを優雅へと手渡す。

 

「じゃあ、報告に行ってくるんだな。その間にコイツの改造を終わらせておく」

 

「う、うん……」

 

 フェイトは何処か心配気にバルディッシュを見て、母親──プレシアの許へと向かった。

 

「じゃあ、改造を始めようかバルディッシュ?」

 

《Hand softly please》

 

 きっと人間なら大粒の汗を流していたであろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 フェイトはアルフを連れ立って廊下を進む。

 

 広間に出て、玉座の如く設置された椅子に座っているプレシアを見ると、唯の一個もジュエルシードを手に入れられなかったという現実に、脹らみ掛けの──年齢の割には大きめな胸が張り裂けそうになった。

 

「た、ただいま帰りました……母さん」

 

「ジュエルシードは?」

 

「ま、まだ手に入って……いません……」

 

 ビクビクと怯えながら、事実として報告をする。

 

「そう。まあ、彼が対抗馬じゃあ無理よね」

 

「え?」

 

「運が無かったわ。でも、どうやら彼が私の願いを叶えてくれそうだし、彼と出会ったのがお手柄と言えばお手柄ね」

 

 何故か最近では珍しくもなくなった激昂しない母親の姿に、叩かれないで済むみたいな言い方に、多少の違和感を感じた。

 

「うん? フェイト、それは何かしら?」

 

「あ、これは……母さんにお土産をと思って」

 

「そう。なら、お茶にでもしましょうか」

 

「は? はい! じゅ、準備をしてきます」

 

「あ! フェイト、アタシも手伝うよ」

 

 パタパタと厨房に向かうフェイトを見遣り、やはりアリシアとは違うと犇々と思ったが成程、アリシアと違うならあの子はフェイトという個人。

 

 アリシアの娘であり妹。

 

 何故だろう、今更ながらそれが胸の奥にストンと入ってきた。

 

 脳裏に浮かぶのは、2人でピクニック行った時の事である。アリシアに誕生日は何が欲しいのかと訊いた際に、〝妹〟が欲しいと答えたのではなかったか?

 

「(ああ、そうか。私は……あの子の願いを叶えていたのね)」

 

 我知らず涙を零しつつ、椅子の背凭れに寄り掛かり瞑目するプレシア。

 

 それはフェイトとアルフが戻るまで続いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 小一時間も経ったであろうか、重々しい扉が開かれてフェイトとアルフが外に出て来る。

 

「フェイトか。どうした? 話はできたのか?」

 

「うん。あのね、母さんがジュエルシードを欲しがる訳を聞いたの」

 

「なに?」

 

 よもや話したのか? と優雅は訝しむ。

 

「私に実は姉さんが居て、姉さんは現代医療では治せない病に臥しているから、今は眠っているって。だから母さんはジュエルシードを欲しかったんだって言ってたんだ。けれど、貴方が治療の目処を立たせてくれたから、ジュエルシードは必要無くなったんだって、笑顔で言ってくれたんだ。だから、今後は貴方の手伝いをしなさいって」

 

「そうか。バルディッシュの改造は終わったぞ」

 

 優雅はフェイトにバルディッシュを手渡す。

 

 先程まではまだ、小さな罅が残っていた筈だけど、既に新品なのも同然の美しい光沢を放っていた。

 

「起きてバルディッシュ」

 

《Get set》

 

 一瞬、煌めくと長柄が顕れて部品がそれぞれにドッキングしていき、フェイトのバリアジャケットを魔力により構築する。

 

《Barrier jacket Lightnig form》

 

 漆黒のバリアジャケットを纏い、マントを羽織ったその姿は元のモノとは若干だが変わっていた。

 

「ブローヴァフォームだ。バルディッシュの基本形、カートリッジシステムという魔力増幅の機構を積んだから少し大型化したけど、まあ問題は無いだろうな。サイズフォームの強化形態がクレッセントフォーム。物理フレームが大型になったから、魔力刃が無くても鎌って感じだ。ザンバーフォーム。新形態で、大型の魔力刃を持つ大剣となる。この形態はバルディッシュが必要と感じたら解放される事になる。ザンバーにするには……クロスアップ・エイパスと叫べ」

 

「「叫ぶの!?」」

 

 主従でハモる。

 

「何を驚く? セットアップでいつも『バルディッシュ・セットアップ!』とか叫んでんだろ? 変身魔法少女の如く」

 

「あう……」

 

 急に恥ずかしくなったのだろう、顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。

 

 バルディッシュの方には大空聖衣・風鳥(スカイクロス・エイパス)が組み込まれており、フルドライブであるザンバーフォームにする際は、これを起動せねばならない。

 

「スピードが欲しいなら、『エイパス・セットアップ』と叫べ。パーツが装着されスピードも上がるから」

 

「は、はぁ……」

 

 勿論、フルセットした方がより速度も上がるが……

 

「俺は戻る。ジュエルシードを集めるなら、フェイトも降りた方が良いぞ」

 

「あ、はい!」

 

 優雅はその侭、ユートの中へと還った。

 

 優雅が消えた場所を暫く眺めると、フェイトはふとアルフの方を見て……

 

「行こうか、アルフ」

 

「はいよ、フェイト」

 

 笑顔で転移した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 放課後も完全に過ぎて、夕方となった逢魔が刻に、ジュエルシードの海鳴臨海公園に反応が出る。

 

 なのはとユーノの組と、フェイトとアルフの組。

 

 双方が現場に辿り着き、ジュエルシード・モンスターとなった樹木の怪物を見付けた。

 

「結界を張るから、なのははアレを止めて!」

 

「うん、ユーノ君。レイジングハート、セェェェーットアーップ!」

 

《Stand by Ready Setup》

 

 桜色の魔力光に包まれ、なのはの幼い肢体をバリアジャケットが覆う。

 

《Barrier jacket Sacred form》

 

 セットアップを完了し、なのはがレイジングハートを構えると、背後から金色の閃光が飛来する。

 

 それは樹木の怪物に命中して爆ぜた。

 

「あ、黒衣の子!」

 

「君は……」

 

 原典とは異なり、まともな会話はこれが初めてとなるなのはとフェイト。

 

 アルフは特に気にする事もなく、樹木の怪物を見て右拳を左掌に打ち付け……

 

「生意気にバリアを張るのかい!」

 

 不敵に笑っていた。

 

「今までのより強い、それに昨日の子も居る」

 

「あ、あの……」

 

 なのはがフェイトに話し掛けるが……

 

「今はアレを止めるのが先だよ。話したい事があるのなら後にして」

 

 にべもなく言う。

 

「う、うん……あれ?」

 

 なのははバルディッシュを見て、以前に打ち合った時と形状が異なるのに気が付いた。

 

 フェイトがバルディッシュにコールする。

 

「バルディッシュ、クレッセントフォーム」

 

《Yes sir Crescent form get set》

 

 バルディッシュが大鎌に変換された。

 

「レイジングハート!」

 

《Buster cannon mode》

 

 なのはもレイジングハートをバスターカノンモードへと変換し、樹木の怪物へ構えを執る。

 

「今日は喧嘩しないんだ」

 

「「あっ!」」

 

 其処に居たのは、クールホワイトの鎧を身に付けた仮面少女に、茜色の鎧を身に付けた仮面少女。

 

「待って、私はもう君達と争う心算は無い!」

 

「うん、教皇から話は聞いてるよ」

 

 フェイトの言葉に、白い鎧の少女が答えた。

 

「で? そっちのアンタはどうするのよ?」

 

「わ、私も争いたい訳じゃ無いから!」

 

 茜色の鎧の少女の問い掛けに、なのはも困った表情で答える。

 

「なら、先ずは怪物を殺っちゃうわよ!」

 

 茜色の鎧の少女が音頭を執り、他の3人も頷く。

 

 

 

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