魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第18話:超常 2人の緒方が世界を舞う

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 現在、なのはは呼び出しを受けて屋上に来ている。

 

 これにはユーノも一緒に来ているが、それは呼び出しの相手が相手だからだ。

 

「待たせたね」

 

「優斗君……」

 

 重々しい金属製の扉を開いて現れたのは、なのはを呼び出した張本人であり、恐らくはジュエルシードを最も多く持つ少年。

 

 敢えてなのはに攻撃を加えたりはしないが、決して油断出来る相手ではない。

 

 同じクラスだし、すずかの家で暮らしている事も知っているが、ユーノは勿論の事、なのはもユートについては全く知らなかった。

 

「牡羊座から聞いたけど、昨夜デバイスを壊したらしいね? 言った通り持ってきてくれたかな?」

 

「う、うん」

 

 まだ完全には自己修復が済んでなく、所々に傷が残っている赤い宝玉を出す。

 

「レイジングハートをどうする気なんだ?」

 

 全く警戒を解けない為、ユーノは睨みながら訊く。

 

「なに、ちょっと改造でもしようかと思ってね」

 

「「改造!?」」

 

 インテリジェントデバイスを改造する、そんな事をアッサリ言うユートに驚愕を隠せないユーノ。

 

 デバイス技師とて簡単とは言えない、レイジングハートはユーノが見付けたとはいえ、いまいち解っていない部分も多いのだから。

 

「修復も確りやるさ」

 

 ユートが素材らしき物を何処からともなく出して、待機状態のレイジングハートに何事かを言う。

 

「管理者権限発動コード、********−*******−****」

 

《yes An administrator right is exercised(了解、管理者権限発動します)》

 

「なっ!?」

 

 ユーノは驚愕に目を見開いてしまう。

 

 今のコードはユーノでさえも知らない、謂わば隠しコードと云えた。

 

 機能をフルパフォーマンスで使えていた訳ではなかったが、それでもある程度は調べている。

 

 マスター以外が管理者権限を発動する為のコード、レイジングハートに初めて触れたユートがそれを知る筈も無いというのに。

 

 若しあるというのなら、それはレイジングハートのマスターが、ユートにそれを教えなければならない。

 

 だが、今のレイジングハートのマスターはなのは。

 

 しかもなのは自身が茫然自失となっている現状を鑑みて、彼女も知らなかったという事になる。

 

 ユートを信頼する誰か、その誰かさんが教えた事になる訳だが、今まで持っていたユーノも、正式な持ち主となったなのはも教えてなどいないし、知りもしなかった。

 

 隠しコードは管理者権限をマスター以外が発動出来る性質上、一度教えたら変えるだろうから、さっきのコードは最初期設定。

 

 レイジングハートが造られた時からのコード。

 

 ユーノに考えられる可能性は一つだが、それは流石に有り得ない。

 

 それだと、レイジングハートのマイスターがユートという事になるからだ。

 

 ユーノが考え込んでいる間にも、ユートは予め組む予定だったと言わんばかりの部品を組み込んでいく。

 

「神鍛鋼(オリハルコン)にガマニオン、銀星砂(スターダストサンド)」

 

「は?」

 

 見た事も聞いた事も無い鉱物を使って、レイジングハートのフレームを造り上げてしまう。

 

「い、今のは?」

 

「この世界に存在しているレアメタル。あ、管理局には報告するなよ? 連中、知ったら嬉々として地球を征服して、勝手気儘に採掘しようとするだろうから」

 

「か、管理局はそんな組織じゃないですよ!」

 

「果たしてそうかな?」

 

「え?」

 

 淡々と言うユートに呆けた声を出すユーノ。

 

「確かに末端で頑張ってる連中ならそうだろうけど、組織なんてでっかくなれば腐るもんだ。況してや35の管理世界を抱えた管理局だからな。利権争いなんて日常茶飯事だろう。其処で特殊なレアメタルを見付けたとなれば、上に昇る事に腐心する屑なら、幾らでもやるだろうね」

 

「うっ……」

 

 無いとは言い切れない。

 

 それから一時間は経ったであろうか、レイジングハートは傷一つ付いていない新品同然となっていた。

 

「レイジングハート・エクセリオン+だ」

 

「エクセリオンは兎も角、プラスって何?」

 

「その疑問は置いといて、マガジン式のカートリッジシステムを組み込み、フレームも強化して暴発を防ぐ形にしてある。エクセリオンを使う場合、クロスアップ・パーヴォと〝叫ぶ〟様にしようか」

 

「「何故に?」」

 

 なのはとユーノはハモりながら訊ねる。

 

「まあ、通常モードで倒せない敵に当たってから使えば良いよ。普段はアクセルモードとバスターカノンモードで充分だしね」

 

 ユートはデバイスモードの強化版のアクセルモードと、カノンモードの強化版のバスターカノンモードについて説明を行う。

 

 エクセリオンモードは、本当にヤバいと思った時のみに、レイジングハートが使用を進言する形を執る。

 

「カートリッジシステムも今は使わない様に。序でに附けたけど、頼り切りになると腕が上がらないから」

 

「う、うん……」

 

 ユートがレイジングハートに組み込んだのは、鋼鉄聖衣の一つで大空聖衣・孔雀(スカイクロス・パーヴォ)である。

 

 基本的に科学的な産物のレイジングハートだから、マシーン聖衣は親和性が高かった。

 

《Pot out》

 

「「あ゛!?」」

 

 レイジングハートが勝手にジュエルシードを出し、ユートが受け取る。

 

「レイジングハート、いったい何を?」

 

《Is price of the remodeling(改造の対価です)》

 

「へ?」

 

「レイジングハートも素直だね。改造が気に入ったらジュエルシードを貰うと言っておいたんだけど、気に入らないと言えば良かったのに」

 

《Because it's my pride(それが私の矜持です)》

 

「そうか」

 

「どういう事なの?」

 

 訳が解らないよと言わんばかりのなのはに、ユートは軽く説明をした。

 

「レイジングハートにとっては、この改造は石ころを一つ渡しても惜しくない、それだけの価値が有ったと判断したんだよ」

 

「そうなの? レイジングハート」

 

《Yes my master》

 

 なのはの確認に、レイジングハートは嬉しそうにしながら答える。

 

 元よりジュエルシードの問題は、マスター権限が無かったユーノの問題だし、レイジングハートにとっては割とどうでも良かった。

 

「後は、仮想練習モードで性能を確認しつつ、確りと使い熟せる様になれば良いだろうね。何しろ、普通車からF1に乗り換えたのと同じくらい、今のなのはにはピーキーだから」

 

「う、うん。判ったの」

 

 ユートは既に隠しコードは変更済みで、組み込んだ部品に関してもブラックボックス化してあり、管理局が調べても解らない様にしてある。

 

 ユートはとことんまで、管理局を信じていない。

 

 当然であるが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 同じ頃、フェイトは怯えた表情でマンションの屋上に立って居た。

 

 今日はジュエルシードを集める指示を出した者に、母親に定期報告をする日だったのだが、肝心要となるジュエルシードを一つも手に入れられていないのだ。

 

 きっと〝また〟鞭で叩かれてしまうし、何より母親を悲しませてしまう。

 

 だが、行くしか無い。

 

「よう、フェイト・テスタロッサ」

 

「「っ!?」」

 

 今、正に転移しようとしたその時に、背後から行き成り声を掛けられて、驚愕しながら振り返ると……

 

「あ、アンタ!」

 

 薄ら笑いを浮かべる黒髪黒瞳の少年、ジュエルシードを持って行った3人組の1人──もう1人居る──が立っていた。

 

「悪いが俺も連れていって貰えないか?」

 

「巫山戯んじゃないよ!」

 

「ほう? ジュエルシードを一つも手に入れていないから、鞭でシバかれるんだろうに。俺が防波堤になってやるって言ってんだし、素直に聞いとけや」

 

「ぐっ、ぬけぬけと!」

 

 目の前の少年の所為だと言うのに、まるで悪びれもしない態度に、アルフは腹が立つ。

 

「プレシア・テスタロッサが破滅しても構わないなら拒否して良いが、フェイト・テスタロッサはどうしたいんだ?」

 

「母さんが……破滅?」

 

「狂人の行き着く先なんて破滅しかないさ」

 

 狂人というのに引っ掛かりを感じるが、フェイトは意を決して……

 

「判りました」

 

 頷く事にした。

 

 正直、信用が出来るかは解らないのだが、どっちにしろフェイトでは目の前の少年をどうにも出来ない。

 

「フェイト、本当に良いのかい?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「まあ、アタシはフェイトが良いなら構わないさ」

 

 フェイトは次元転送の為の詠唱に入る。

 

「次元転移、次元座標……876C44193312D6993583D1460779F3125……開け誘いの扉。時の庭園……テスタロッサの主の元へ」

 

 足下には巨大な魔方陣が顕れて、フェイト達をその場から消し去る。

 

 次の瞬間、全くの異空間に浮かんだ庭園に居た。

 

「さてと、ちょっと秘密のOHANASHIをしてくるから、良い子でジッとしていろよ?」

 

「あ……」

 

「ちょっ、アンタ!」

 

 フェイトとアルフが止める間も無く、少年は建物の中へと入って行った。

 

「だ、大丈夫かな?」

 

「別にババァはどうでも良いんだけど、アイツは本気で話をするのかねぇ?」

 

 扉が閉まってしまっては追い掛け様もなく、フェイトもアルフも黙って待つしか無か出来ない。

 

 カツン、カツン、カツンと石造りの床が反響する。

 

 進んだ先には玉座が存在しており、其処には黒衣の女性が気だるそうにしながら座っていた。

 

「誰かしら?」

 

「初めて御目に掛かるな、俺は緒方優雅。フェイトの知り合いって処か」

 

「チッ……」

 

 プレシアは舌打ちする。

 

 秘密の隠れ家に赤の他人を連れて来るなど、とんだ失態を演じたからだろう。

 

「まあ、フェイトを怒ってやるなよ。別に此処を誰かに伝えたりはしないさ」

 

「口を封じた方が簡単だと思うけど?」

 

 杖を手にすると、紫色の魔力光の魔方陣が展開し、紫の雷撃を放つ。

 

 ズガァァァァァンッ!

 

 耳が痛くなるくらい強大な雷が、優雅と名乗る少年を撃ち据えた。

 

 もうもうと上がる土煙が晴れると……

 

「残念、魔法は効かないんだよな」

 

 平然と立つ少年が、相も変わらずの薄ら笑いで立っていた。

 

「真逆?」

 

「俺はエピメテウスの落とし子だ。攻撃だろうが快復だろうがお構い無しに無効化してしまう」

 

「エピメテウスの落とし子ですって? 聞いた事もないわね」

 

「地球の概念だしな」

 

 というより、異世界での地球の概念なのだが……

 

 真偽の程は兎も角としてもだ、魔法が効いていないのは間違いない。

 

「何の用事なの?」

 

「なぁに、俺の弟は俺とは違って博愛主義者でなぁ。出来たらアンタを救ってやりてーってよ」

 

「救う? フッ、アリシアを生き返らせてでもくれるのかしら?」

 

 プレシアはまるで嘲笑うかの如く言う。

 

「クックッ、ただ生き返らせても救いにはならんさ」

 

「どういう意味?」

 

「教えてやる。さあ、お前の罪を数えろ! 天空覇邪魑魅魍魎!」

 

 突如として辺りが暗くなって、この部屋を重苦しい空気が支配する。

 

『シクシク、シクシク』

 

「な、何? この声……」

 

『ゴメンなさい』

 

「アリシア?」

 

 それは愛しいアリシアの声に他ならない。

 

『ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい』

 

「何故? 何故、アリシアが謝っているの?」

 

『死んでしまってゴメンなさい、生まれてきてゴメンなさい、謝るから、謝るからママを誰か止めて』

 

「アリシア? 本当に? アリシアなの?」

 

 混乱するプレシア。

 

『もうフェイトを虐めないで……助けて、誰か私の妹を助けて、ゴメンなさい、生まれてしまってゴメンなさい、死んでしまってゴメンなさい……』

 

 延々と延々と、アリシアの声が謝り続けていた。

 

「死して尚、死んだ事にも最初は気付かなかったが、今は理解している」

 

 指差した方向に、少女の霊が蹲っていた。

 

 

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