「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」
アリサの大声が教室内に響き渡って、高町なのはの机を強く叩いた。
「この間から何を話しても上の空でボーッとして!」
「あ、う……ご、ゴメンねアリサちゃん」
「ゴメンじゃないわよ! アタシ達と会話してんのがそんなに退屈ってんなら、1人で幾らでもボーッとしてなさいよ!」
その余りの剣幕に圧されてしまうなのは、アリサはプイッとそっぽを向くと、踵を返す。
「行くわよ、すずか」
「あ……アリサちゃん! あのね、なのはちゃん……アリサちゃんも悪気があった訳じゃないんだよ?」
「良いよ、すずかちゃん。さっきのはなのはが悪かったから……」
「う〜ん、そんな事は無いと思うんだけど、取り敢えずアリサちゃんも言い過ぎだよ。少し話してくるね」
「ゴメンね……」
苦笑いをするなのはに、すずかも同じく苦笑を返すとアリサを追いかけるべく教室を出ていく。
「此方こそ、ゴメンね」
教室を出てからすずかは呟いた。尤も、同じゴメンでも少し意味合いが違う。
すずかは廊下を走らない程度に駆け足で、アリサが待つ階段まで急いだ。
「アリサちゃん!」
「あ、すずか」
目的の相手を見付けて、すずかは直ぐに合流する。
「言われた通りしたけど、あんな感じで良かった訳? 何だか理不尽に怒鳴ったみたいで心が痛むわ」
「うん、だと思うよ」
「けど、これって何の意味があるのよ?」
「さぁ?」
この茶番劇、いずれ来るべき日になのはは思い知る事になるのだが、ユートは其処まで詳しく教えてはいなかった。
.
放課後、トボトボと昔を思い出しながらなのはは、帰宅をしている。
父、高町士朗が入院した事故……否、事件の際にはたった独りで留守番をしていた事を。
一昨年の喧嘩。
まだ、アリサともすずかとも友達ではなかった頃、アリサがすずかのカチューシャを取り上げ、涙ながらに『返して』と抗議していたのを見て、なのはが平手打ちにした時の事。
その後、アリサと取っ組み合いになって、一番大人しかったすずかの『やめて』の一言で我に返った事。
両親が仲良くなったのを契機に、アリサとすずかの2人とも友達になり、去年は兄の恭也がすずかの姉の忍と恋人になった事。
色々とあったのだが悪くはない二年間。
そして現在、アリサを怒らせてまでやっている事、ジュエルシードの探索だったけれど、全く上手くいっていなかった。
ジュエルシードの数も、ユーノが予め手に入れていた1個のみで増えてない。
探索しても見付からない上に、自分の判断ミスによってむざむざと取られた。
「私、何をやってんだろ」
なのはの呟きが、誰も居ない路地に空しく響く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うーん、こっちの世界の食事もまぁ中々、悪くないよね。さ〜てウチのお姫様はっと!」
狼を自認するクセして、ドッグフードを頬張っていたアルフは、フェイトの様子を見に行く為に立ち上がると、テーブルの上に置いたドッグフードの箱を持って寝室に向かう。
ベッドに横たわっているフェイト、そして残された食事を見て頭を抱えた。
「あー、また食べてない。フェイトォ、ちゃんと食べなきゃダメじゃないか」
「大丈夫……少しだけど食べたよ」
苦笑いをしながら力無く起き上がって、ベッドから降りつつ言うフェイト。
「それじゃ、そろそろ行こうか。次のジュエルシードの大まかな位置の特定は済んでいるし、余り母さんを待たせたくないしね」
「そりゃまぁ、フェイトは私のご主人様な訳で、私はフェイトの使い魔だから、行こうって言われりゃ行くけどさぁ」
「ああ、それ食べ終わってからで良いから」
手にしたドッグフードを指差され、アルフは慌ててそれを後ろ手に隠すと愛想笑いをする。
「そうじゃないよ、私はねフェイトが心配なの。広域探索は可成りの体力使うのにフェイトは碌に食べないし休まないし。その傷だって軽くはないんだよ!」
背中には傷があり、治す間も無く動いていた。
「平気だよアルフ。私は強いんだから」
漆黒のバリアジャケットを纏うと、手袋を填めて、マントを羽織る。
「フェイト、それにアイツらの事だってあるんだよ」
アルフは思い出す。
あの時、自分を軽く一蹴した〝炎熱変換〟の仮面。
フェイトの背後を取ったもう1人の仮面。
そして、恐らくは指示を出していた少年。
「あれが何者か判らない、若しかしたら同じ探索者なんだろうけど、今度こそは後れは取らないよ。さぁ、行こうかアルフ。母さんが待っているんだから」
そしてフェイトとアルフの2人は、空が薄暗くなった街へと溶けて往く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
喫茶翠屋で洗い物の仕事する恭也と忍は、なのはの事について話しをする。
「なのはちゃんは相変わらずなの? 恭也」
「ああ、少し遅くなる事も屡々あってな。とはいえ、基本的にはユートも居るんだし、大丈夫だと思うが」
「そっか、ウチのすずかも実戦を積む段階になったって喜んでたわ。大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)も使い熟せる様になっていたしね」
「そういえば忍も聖衣を貰っていたな。確か大地聖衣・キリン(ランドクロス・ジラフ)だったか?」
「ええ、あれは面白いわ。開発した麻森博士にお話を伺いたいくらいよ」
完成させたのはユーキと超 鈴音と葉加瀬聡美な訳ではあるが……
ジェットボード形態……
オブジェ形態と聖衣形態だけでなく、大地聖衣なら地を駆けるジェットボード形態になるし、大空聖衣は空を翔るジェットウィング形態に、大海聖衣は海を往くジェットマリン形態へと変化する。
マシーン聖衣の特徴だ。
「良い玩具だな……」
「ん? 恭也、何か言ったかしら」
「いや、何も」
余りなのはを心配していないのは、妹達を信じているからなのか、イチャイチャするのが忙しいのか判断に迷う処だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
なのはとユーノが地面を歩いてジュエルシードを捜している頃に、フェイトとアルフはビルの上で方針を話し合う。
「だいたいこの辺りだと思うんだけど、大まかな位置しか判らないんだ」
「ハァー、確かにこれだけ人や建物が多いと捜すのにも一苦労だぁねぇ……」
溜息を吐きながらアルフは面倒臭そうな口調になって言う。掌サイズのジュエルシードを見付けるには、この街でも広すぎる。
「ちょっと乱暴だけれど、周辺に魔力流を打ち込んで強制的に発動させるよ」
フェイトは長柄の斧たるバルディッシュを、サイズフォームに変換をすると、魔法を撃ち込むべく振り上げるが……
「ああ、待った! それは私がやるよ」
「アルフ、大丈夫かな? これ、結構疲れるよ」
フェイトはアルフを心配そうに気遣うが……
「フフ、この私を一体誰の使い魔だとお思い?」
現在のフェイトには無いナニかを張って、エヘンと自慢気に言うアルフ。
「じゃあ、お願い」
「そんじゃ、往くよ!」
主譲りの魔力、円形となる魔方陣を足元に展開し、橙色の魔力光の輝きを持つ魔力が、電撃変換された力を撃ち込んだ。
その過剰な魔力に反応を示して、光の柱が街中から立ち上る。
魔力は天を突き、街周辺に魔力波が流れて行く。
ソレを感知出来るのは、魔力を持って感じ取る事が可能な者達。
その様子を見たユーノが慌てていた。
「こんな街中で強制発動? いったい誰が? くそ、広域結界……間に合え!」
少なくともユートに魔力が無いと思っているユーノには、彼がやったなどとは思えない。ジュエルシードを封印した力も魔力は感じなかったからだ。
だが然し、今の感じだと明らかに魔力によるもの。
それは兎も角、ユーノは翠に輝ける魔力を放って、円形の魔方陣を形成すると結界を展開した。
その頃、なのはは急いで現場に向かう。
「レイジングハート、お願い!」
赤い宝玉で待機状態たるレイジングハートを天高く投げると、レイジングハートが桜色に輝き、フレームを完成させて魔導師の杖に変形する。
なのはの纏った衣服も、白と青のツートンカラー、金のパーツがアクセントとなったバリアジャケットに換装された。
ジュエルシードが発動した影響で雷雲が発生して、雷が稲光りする。
一方のフェイト達も……
「見付けた!」
「けど、アッチも近くに居るみたいだね。あの3人組かな?」
周囲の景色が幾何学的に変化したのに気が付いて、少なくとも誰か自分達以外の探索者が居る事を知る。
「それじゃあ早く片付けようか。バルディッシュ!」
《Grave form Set up》
フェイトのコールに応え、バルディッシュが変形してポールアームになる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〔なのは、発動したジュエルシードが見える?〕
「うん、直ぐ近くだよ!」
天を突く光を見てなのはは頷く。
「多分、彼以外にも探索者が居るんだよ。その誰かが先を越す前に封印して!」
「判った!」
なのははレイジングハートをカノンモードに換え、砲撃準備をする。
ほぼ同時に、桜色と金色の魔力がジュエルシードを包み込んだ。
なのはが唱える。
「リリカル・マジカル!」
フェイトが叫ぶ。
「ジュエルシード・シリアルⅩⅨ!」
なのはが、フェイトが、ジュエルシードへ放ち……
「「封・印!」」
その一撃は見事に命中。
二条の砲撃がジュエルシードに命中して、大魔力により発動を抑た。
《Device mode》
レイジングハートを元の形態に戻すと、溜息を吐いてなのはは翔ぶ。
それはフェイトも同様。
お互いを知らないが故、なのはもフェイトも相手よりも早くジュエルシードを確保をするべく、なのははデバイスモードのレイジングハートを、フェイトの方はグレイブフォームのバルディッシュを揮い、ジュエルシードへと向けて突進を試みた。
ジュエルシードを間に挟んで、レイジングハートとバルディッシュが強く激突してしまい、なのはの魔力とフェイトの魔力がジュエルシードに共振……
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
空間そのものを揺るがす震動が起き、目を開けていられないくらい余りにも眩い閃光に目を灼かれつつ、2人は後ろへと吹き飛ばされてしまった。
次元震と呼ばれる現象。
その結果、可成り強固に造られた両者のデバイスに罅が入り中破してしまう。
フェイトはバルディッシュを見ると、物悲しそうな表情になった。
自分の迂闊な行動で傷付けてしまったのが悲しく、バルディッシュの罅の入ったコアが明滅しているのを見つめて、フェイトは優しく言う。
「大丈夫……戻って、バルディッシュ?」
《Yes Sir》
三角形の金色の宝石……待機状態に戻り、フェイトの手袋に装着された。
ソレを確認すると、真っ直ぐ前を見据える。
目の前のジュエルシードが今にも発動しそうな不安定な状態で、プカプカと浮いているのが見えた。
フェイトは、意を決してジュエルシードへ飛ぶが、直ぐに停止する。
3人の人間がジュエルシードの前に立つ、だが然しその内の1人は以前に見た少年ではない。
橙色の鎧を纏った金髪の少女、白色の鎧を纏う紫色の髪の少女、そして黄金に煌めく鎧を纏う黒髪の女性の3人組だった。
「アンタ達、こんな都心部で結界張ってるとはいえ、次元震を起こすなんてどういう心算よ!?」
「これが暴発したら街が吹き飛ぶかも知れないよ?」
金髪と紫髪の少女が矢継ぎ早に叫ぶ。
そして、瞑目しながらも黄金の鎧を纏い、マントを羽織る女性がジュエルシードへと近付くと……
「今の貴女達にはジュエルシードは任せられません」
そう言って右掌で包み込む様に握る。
「ジュエルシード、疾く収まりなさい!」
暴走寸前のジュエルシードだったが、女性が魔力とは違うエネルギーを伴って確り握ると、徐々にエネルギーが鎮まっていく。
「封印完了ですね」
踵を返す女性とそれに付いていく少女達、それに待ったを掛けたのは……
「そのジュエルシードは、持っていかせない!」
フェイトだった。
フォトンランサーのスフィアを撃ち放つ。
「フォトンランサー、ファイヤ!」
「結晶障壁(クリスタル・ウォール)!」
パキン!
軽快な音を響かせて跳ね返してしまい……
「うわっ!?」
「フェイト!」
フェイトにぶつかる。
「待って、貴女は……貴女達は何者なんだ!?」
黄金の女性が振り返り、ユーノの質問に答えた。
「既に貴方は教皇より聞いたでしょう? この世界の守護組織たる聖域の人間。アテナの聖闘士ですよ」
そう言って姿を消すのであった。
「教皇?」
ユーノは呆然と呟く。
【封印されたJS】
ユート=14個
なのは=1個
フェイト=0個
残りのJS=6個
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.
文字数が足らず、序盤を前書きに書きました……
因みに、未来を導く天使の際には削った一部を此方では前書きに前半の分を入れる事で、完全版となって入っています。
具体的には、恭也と忍の会話部分。