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それはある日の事。
長い金髪を両横に括った黒衣に赤で裏打ちされている黒マントを羽織る、紅玉の如く赤い瞳の少女がビルの上に立っていた。
「形状は菱形の碧い宝石。名称はジュエルシード」
手にした無骨な、長い柄の斧を持つ力を少し強めながら、少女はビルディングの狭間を飛び立つ。
「必ず、手に入れる!」
それに付き従うかの様に橙色の毛並みに赤い宝石を額に持つ狼が、同じくビルの狭間へ飛び立ち消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
月村邸へのお誘いを受けた高町なのはは、同じく誘われた兄の高町恭也と共に邸へとバスで向かう。
恭也は早々に恋人の忍と部屋に引っ込み、なのははすずかとアリサとユートと共にサロンでお茶会だ。
それは特に何が起きるでもなく、恙無く終わりを迎える事が出来、夕方になると恭也を伴い帰宅する。
その後ユート達は二時間──ダイオラマ魔法球内で二日間──を修業をする事に費やしていた。
修業こそしないものの、興味本位と加速時間を使いたいという理由から、忍も一緒に入っている。
【夜の一族】は異性を惑わす為に、若い時分が普通の人間に比べて長いからこそ年を二十四倍で取る事を許容して入っていた。
アリサは小獅子星座聖衣(ライオネットクロス)を纏って、必殺技を放ったり、動いたりの修業だ。
自分に何が出来るのかを把握し、何が出来ないかを理解する事が勝利に繋がるというのがユートの弁。
本来の聖闘士だと修業を完遂し、資格を師匠から与えられて聖衣を授与される訳だが、ユートの聖衣だとその籠められた力を使うのが前提の為、先払いみたいに与えてしまう。
修業相手には事欠かないアリサは、少しずつではあったが着実に強くなる。
それはなのはを除いて、プールに遊びに行く前日に実戦を想定したジュエルシード捕獲にも如実に表れ、さざなみ寮の皆さんに加えて小犬星座の晶、龍星座のレンも含めた結構な人数で戦闘をしているが、何も出来ずに終わるなんて事だけは無かったらしい。
その際、あれだ……
ダミーのモンスターの数が増え、圧し切られてしまった女性陣が脱がされてしまうハプニングがあった。
すずかとアリサは小学生だと思わなければ眼福であったのだが、那美や美由希や愛なんかは本当に御馳走様である。
其処はまあ良いだろう。
少しだけ刻は流れ、五月となって大型連休……謂わばゴールデンウィークが訪れた訳だが、毎年の恒例で高町家、月村家にアリサを含めて温泉旅行に行く。
当然の事ながら、ユートとアテナとシエスタも同行するという話になった。
既にアリサは、なのはがしている事に関しても説明を受けており、何で話してくれないのかと憤慨していたが、ユートから時空管理局のルールに、未開世界の保護条約みたいなモノが存在しており、助言者であるユーノ・スクライアが管理世界の人間故に、それに従って内緒にさせているのだと伝えてある。
まあ、それはそれで再びアリサが憤慨する事になった訳だが……
さて温泉だが、対外的に十歳未満のユートと正真正銘の十歳未満のユーノは、女風呂でも問題が無かったりするが、未だに人間だと話していない──けど全員が知っている──為、下手に一緒に入って後に真実を知られたら怖いし、何より入りたい訳でもないから、ユートに連れられて男風呂に入浴していた。
諄い様だけど、ユーノが人間なのは周知である為、アリサとすずかも特に反対をせず、見送ったという。
男風呂でユーノは、今まで訊きたかった事をぶつけるべく話し掛けた。
「君はジュエルシードを、どうする心算なんだい?」
「封印する心算だが?」
「…………」
「…………」
どうやら訊き方を間違えたらしいと、ユーノは再び質問をする。
「ジュエルシードを集め終わったら、あれをどうしたいんだい?」
「強固な封印場所に仕舞っておくが?」
「…………」
「…………」
どうやらまたも訊き方を間違えたらしい。
ユーノは三度の質問をするべく口を開いた。
「それじゃあ、君は何の為にジュエルシードを集めているんだい?」
「聖域の使命だからだよ」
「さんくちゅあり?」
「聖闘士と呼ばれるこの地の守護者が所属する組織。その使命は地上の愛と平和を妨げる存在や、異世界からの侵略者から護る事」
「異世界からの侵略者」
ユーノは呟く。
これは種蒔きである。
いずれ、ユーノが管理局に接触した際に、聖闘士や聖域についても話す筈。
これで管理局の連中が、聖域と守護者たる聖闘士を認識するであろう。
ユートはさっさと温泉から出てしまった。
原典とは違い、月村邸のジュエルシードは既に回収されていたが故に、なのはとフェイトがぶつかり合う事も無かったから、今回の温泉旅行で初顔合わせだ。
故にこそ、どっかの橙色の毛並みの狼娘がなのはに接触して脅迫をしてくる事もなかった。
ユートはアリサとすずかを連れ、この地のジュエルシード回収に向かう。
2人はそれぞれに聖衣を纏い、すずかが大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)の鋼鉄聖衣を纏い、アリサが小獅子星座(ライオネット)の青銅聖衣を纏っている。
また、聖闘士の女子が着ける仮面も被っていた。
この仮面、別に〝掟〟で身に付けさせたのでなく、軽い認識阻害魔法を仕掛けた物で、被っていたら正体がバレないのである。
具体的には明らかに素顔丸出しの変身ヒロインが、変身後に決して変身する前の正体がバレない感じだ。
ヒロインが目の前で変身をしない限りは。
だから仮令、声や髪の毛の色や髪型を変えていなくても、この仮面を被っているだけで正体がバレない。
これはなのはとユーノへ正体バレの対策だ。
ユートはその手に持った【ジュエルンレーダー】を見ながら、反応を示している方角を目指して進む。
割と狭い範囲しか映せないという欠点が有るから、いまいち使えないレーダーだったりするが、それでも場所が判明している以上、その場所の近くで使えた。
「うん?」
小川の近くに反応が在るのに気付き、よく観察をしてみると菱形の宝石が水に浸かってるのを見付ける。
「有った!」
水に手を浸け、ジュエルシードを確保して小宇宙で封印を掛けた。
プールで見付けて封印したのを含め……
「これで13個目」
なのはの側に、初めからユーノが封印したジュエルシードが有るから、確保された物は14個となる。
つまり、未封印のジュエルシードは残り7個。
「待って!」
声を掛けられ、振り返れば金髪紅目な黒衣の少女が金色に輝く長柄のエネルギー鎌を構えていた。
「それを渡して下さい」
「何? 強盗?」
「ち、違います。兎に角、そのジュエルシードを此方に渡して!」
「何故? 渡す理由が見当たらないな」
「くっ!」
長柄の鎌を振りかぶり、戦闘体勢に入る少女。
「ま、話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと何も変わらないし、伝わらない。だから……」
其処へ背後から雄叫びが響き……
「ごちゃごちゃ言ってないでソイツを渡せぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
橙色の髪の毛の、ラフな格好をした女が拳を揮って襲い掛かってきた。
「奇襲をするなら声を上げるのは無意味であり……」
パチン!
ユートが小さく呟いて、右腕を上げ指を鳴らす。
「伏兵を配置していたのが自分達だけだと思うのは、愚かでしかない」
「なにぃ!?」
女の驚愕を他所に……
「炎熱無法(フレイム・デスペラード)!」
炎の帯が襲って火達磨にしてしまう。
「ウギャァァァァッ!?」
「アルフ!」
叫ぶ金髪少女、アルフと呼ばれた女は炎を消そうと転げ回った。
「動かないで!」
「うっ!?」
いつの間に背後に廻られたのか判らないが、金髪の少女の後ろには誰かが立って武器を突き付けている。
「くそ、フェイトから放れろぉぉぉぉっ!」
何とか火を消し止めて、アルフが飛び出すが……
「行かせるか、莫迦!」
火を放った仮面少女が、アルフのボディを蹴り上げてしまった。
「ゲウッ!」
「ア、アルフ!」
フェイトはアルフの強さを知っているが、目の前と背後に居る3人からは大して魔力を感じない事から、完全に実力を見誤っていたと気付く。
「あ、貴方達は何者?」
「答えても多分、意味がない……」
「っ!?」
驚愕に目を見開いているのは何もフェイトばかりではなく、アルフも、そして連れの2人の……すずかとアリサもそうだ。
ユートの声は、フェイトのそれとそっくりその侭、気味が悪いくらいに似ていたのだから。
しかも機械で音声を変えたとか、声帯模写なんてのではなく完全な生声で。
「君ならそう言うだろ?」
「!?」
まるで見透かした様に言われたが、何と無くではあるがその通りだと思った。
仮に自分が話し掛けられたとしたら、間違いなく同じ様な事を言うであろう。
「さて、引くなら見逃しても良いけど、引かないというのなら……」
笑顔、だけど全く目が笑っていない。
「覚悟を決めろ!」
いっそ清々しいくらいに背筋が凍る殺気を受けて、失禁してヘタリ込みたくなるのを我慢し……
「わ、かりました……今回は引きます」
そう宣言すると、アルフを回収すると翔んでいき、その場にはユート達3人のみが残される。
「ふぃぃ、帰るか」
こうして、フェイトとの初顔合わせは済み、後は何事も無く終わった。
ユートとしては不意討ち気味とはいえ、アリサ達がフェイトとアルフに遅れを取らなかった事にある程度の満足感を得ている。
帰りの最中……
「そういえば、なのはちゃんは来なかったね」
ふと、すずかが言う。
「ああ、そっか! 今回はジュエルシードが発動する前に封印したからな」
原典に於いて、なのはがジュエルシードに気が付く事が出来たのは、発動の際の魔力を感知したから。
発動しなかったからには今頃、ぐっすりと夢の中の住人であろう。
「意外と抜けてるわね」
「まあ、面倒が無くて良いんだけどね」
アリサの嫌味ともつかない科白に、ユートは苦笑をして言ったものだった。
「まあ、残りの期間は温泉を楽しもうか」
「「賛成」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダイオラマ魔法球を持ってきてないから軽く修業こそするが、なのはとユーノの目もあるし飽く迄も不審に思われない程度にだ。
そんな中、必然的に恭也の目に留まっての模擬戦が行われたりする。
元々、機会があるならば戦ってみたいと思っていたらしくて、実に愉しそうに木刀を揮ってきたものだ。
「大地聖衣・大熊(ランドクロス・ベア)ですか」
「私は大地聖衣・小熊(ランドクロス・ウルサミノル)ですね」
温泉地で調整を終わらせた鋼鉄聖衣……大地聖衣(ランドクロス)の二つを、エーアリヒカイト姉妹へと渡しておく。
これで聖闘士の数が二人──二機──増えた。
ノエルとファリンに聖衣を渡したからか、そこはかとなくジト目を向けてくる忍に対し、仕方がないので髪の毛座(コーマ)の青銅聖衣と、研究用に大地聖衣・キリン(ランドクロス・ジラフ)を渡しておく。
元来だと髪の毛座は青銅聖衣(ブロンズ)でないが、流石に盟が纏った髪の毛座(コーマ)の聖衣は見た事がないし、コロナの髪の毛座(コーマ)は竜骨座(カリナ)や山猫座(リンクス)と違って粉々になっており、修復を後回しにしていた為に、今を以て未修復状態。
だから青銅聖衣として、新たに製作した訳だ。
忍は異様に喜んでおり、恭也曰くどうやらすずかを羨んでいたらしい。
その事実には、すずかも苦笑いをしたものだった。
因みにアテナとシエスタは普通に温泉に浸かって、今回は何もせず平和に過ごしていたという。
【封印されたJS】
ユート=13個
なのは=1個
フェイト=0個
残りのJS=7個
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