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なのはとユーノは部屋で話し合いをしていた。
ユートの行動を興味半分と疑念半分に見ていたら、行き成りおかしな動きを始めた為、コッソリと付けてみたらGKをしていた少年と会話を始めて、少年から何とジュエルシードを受け取ると、代わりにペンダントを渡していたのだ。
会話も聴いていたから、どうしてジュエルシードをGKの少年が持っていたのかの経緯と、それに気付いた理由も知っている。
その事をなのはと話していた。
「つまり、優斗君はあの子がジュエルシードを持っているのを魔力反応から気が付いて、持っていたペンダントと交換したって事?」
「うん、ペンダントに魔力反応は無かったし、趣味で作ったのを偶々持っていたのは本当だろうね。だけどジュエルシードを発見した方法は、彼への説明とは違うと思うんだ」
「そっか、だったらあの時の魔力反応が微かに在ったのって、気のせいじゃなかったんだ……」
なのはも微弱だといえ、魔力反応はキャッチしていたのだが、本当に弱かった上に直ぐ消えてしまった事から、気のせいだと断じてしまったのだ。
「ねぇ、ユーノ君」
「何? なのは」
「若しも……だよ、若しも優斗君がその場に居なかったとしたら、GKの男の子はその侭ジュエルシードを持っていたんだよね?」
「うん……」
言いたい事は解る。
これはきっと告解だ。
「〝その時〟は……どうなっていたのかな?」
慰めに嘘を言っても傷付けるだけ、だからユーノは厳しいとは思いつつ事実のみを告げた。
「魔力反応が微かにでも在ったのなら、きっとあの子を取り込んで大惨事になっただろうね」
「そっ、か……」
なのはの表情は泣きそうになっており、恐らく自分が見逃していた場合に起きたかも知れない惨事に思いを馳せ、責任を感じているのだろう。
「なのは……結果論だけどジュエルシードの暴走は無かった訳なんだし、なのはが責任を感じる必要はないと思うんだ!」
だけどそんな科白が何の慰めにもならない事など、ユーノは百も承知である。
事実、なのはは首を横に振って……
「優斗君が気付いて、適切な処置をしてくれただけ。ユーノ君のお手伝いをしたくって頑張ってたけれど、私は何も出来てない!」
現在、レイジングハートの内部に封印処理を成して仕舞ってあるジュエルシードは1個のみで、それにしてもユーノが何とか独力で封印してあった代物だ。
なのはが封印したジュエルシードは、実は1個も無いのが現状だった。
その癖、草臥れてしまうくらい必死に探し回っていたというのに、それを嘲笑うかの如くユートはジュエルシードを手にしている。
まあ、ユートのは反則というか原作知識が在るからというのが理由だが……
「ユーノ君、私ね決めた」
「何をだい?」
「今まではユーノ君のお手伝いでしかなかったけど、これからは私自身の意思でジュエルシードを捜す!」
決意に満ちたなのはの瞳にはユーノも力強さを感じたものだが、それ人は……
『明日からは本気を出す』
と言っているに等しい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕方、月村邸にやって来たアリサ・バニングスは、ユートが下宿している部屋に案内された。
ユートはアリサとすずかを部屋へと入れはしたが、机に向かって何やら機械を弄っている。
「アンタ、何してんの?」
「悪いけど少し静かにしていてくれる? 今、ちょっと手が放せないから」
「むぅ……」
アリサとしては、こんな美少女(笑)が訪ねて来たというのに、そっちのけにするのはどうかと思う。
というか、アリサも実はすずかと同じ穴の狢というやつで、誘拐騒ぎであわやという所を救われた経緯もあり、ユートが気になって仕方がない。
既にコンタクト済みだという親友に出遅れた分を、何とか取り戻しておきたいのだが、ユートのつれない態度にやきもきしている。
かといって、今のユートを邪魔してしまえば嫌われかねないと考え、大人しく待つしかない。
少し時間が過ぎて……
「よし、取り敢えず完成」
ユートが万歳しながら、懐中時計みたいな物を手に歓声を上げた。
「それ、何よ?」
「うん、これはジュエルンレーダー」
「「ジュエルンレーダァァァーー?」」
「そう、こいつはジュエルシードの微弱な魔力波長をキャッチしてくれて、大方の場所を映すレーダー」
ぶっちゃけるとドラゴンレーダーだった。
「ジュエルシードって何なのよ?」
とはいえ、ジュエルシードを知らないアリサは首を傾げてしまう。
「それじゃ、少しアリサとすずかにも先ずはそこら辺の説明をしないとね」
すずかには聖闘士関連は話してあるが、そもそもの聖域を設立する計画である【プロジェクト・サンクチュアリ】の理由は未だ話していない。
ユートはアリサとすずかとアテナとシエスタの4人に対し、街の有力者や達人に話したのと同じ内容を、詳らかに説明していく。
「先ず大前提として、世界には魔法というのが在る」
「嘘ね」
一言で断じるアリサ。
ユートは右掌を掲げて、漆黒の魔力光を湛えた球を作り出して見せる。
「これが魔力を形にして作った魔力スフィア。漆黒射手(ブラックシューター)。これとはまた違う力なら、聞いた事くらいあると思うんだけど?」
「違う力?」
「HGSの能力者は念力で似た事が出来るし、霊能者なら霊力でやっぱり同じ事が可能だよ」
HGSはフィリス・矢沢などが、背中に羽根を出しながら力を使える。
あの羽根が念力の制御を司るのだろう。
霊能者というのならば、さざなみ寮に在住の巫女っ娘な神咲那美が使えた。
「確かにHGSなら聞いた事はあるわね……」
それに目の前で魔力というのを使われて、それでも信じないなどと頑なに言う心算は無かった。
ユートはデバイスを使わずとも、頭の中で演算をして術式を組む事が可能で、判り易く魔方陣が出てくる事も無いが、古代ベルカ式がユートの魔法。
大魔力と高速演算はコンフリクトすると言われているが、ユートの場合は経験則も含めてそれを可能としているから、バスターの様な魔法を高速演算しつつ、放つ事も可能。
古代ベルカ式とはいえ、砲撃や収束砲や射撃も可能となればチート全開だが、ユートの存在年齢は二百歳を越えると考えれば、欠陥を欠陥の侭にしていなかっただけだと理解出来る。
「他にも暗黒砲撃(ダークネスキャノン)とか、黒太陽炮(ブラック・サン・ブレイカー)なんてのも使えるけどね、此処で使ったらこの辺一帯を破壊し尽くすから」
「く、黒いからって何だか物騒な名前よね……」
「魔力光は魔力の波長によるから、人によって色が異なるんだよ。シエスタだと魔力光は白」
「2人で力を合わせて放つ輝石螺旋(マーブルスクリュー)とか出来ますね」
シエスタが笑顔で言うのだが、アリサは少し小首を傾げていた。
「何でラテン語と英語?」
元々、大理石をマーブルというのだが、これは輝く石をラテン語にしたものが原典となっている。
「というか、美しい心で邪悪な心でも打ち砕く気?」
「その内に、何とかセラピーとかやるのかな?」
アリサとすずかの的確? なツッコミに……
「やらん、やらん」
「しませんよ!」
ユートもシエスタも苦笑いで否定したものだった。
「今の魔法は魔力を純粋に運用するタイプ。他には、精霊に働き掛けるタイプ」
ユートは指を立てると、呪文を詠唱する。
「プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデス・カット)」
「うわっ!」
立てた指に、ライター並の火が本当に灯ったのを見てアリサは驚いた。
「最初の〝プラクテ・ビギ・ナル〟は始動キーと呼ばれている。これは初心者が使う為のキーで、慣れたら自分専用の始動キーを考えるらしい。僕はこの系列の魔法は余り使わないから、初心者用の始動キーの侭なんだけどね。後、魔力制御に普通は杖を使う」
取り出したのは子供が使う初心者用の杖、ずっと昔に幼馴染みの少女から兄共々、貰った物である。
兄のは星が、ユートのは三日月が先に付いていた。
「始動キーねぇ。どんなのがあるのよ?」
「う〜ん、弐十院 光って教師は『ニクマン・ピザマン・フカヒレマン』だったかな? 変えた方が良いって同僚に言われてたけど」
ユートとシエスタ以外、何とアテナでさえもずっこけていた。
「まぁ、韻やインスピレーションで決めるからねぇ。僕の知り合いだと意味的に『我、魔法を使う最後の魔法使い』になるのかな? 『ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル』という、始動キーだったよ」
勿論、それは【OGATA】の超技術(チャオ・テクノス)のトップとなるであろう、超 鈴音の事。
「他には超常存在から力を借りた魔法だね」
「超常って、神様とか?」
「そう、後は魔族だね」
「魔法か、それってアタシにも使えるの?」
「一応は。リンカーコアが不活性だから最初の魔法は無理だけど、精霊との親和性を付けて精神力を消費するタイプなら可能だから。人工的に魔力を集積出来る人造リンカーコアなんてのも有るし」
後付けの人造リンカーコアを使えば、ある程度ではあるが強い魔法も使える。
「じゃあ、アタシも魔法を使いたい!」
「駄目」
「な、何でよ!」
「この世界で魔法を使うと煩い連中が居るんだ」
「誰?」
「時空管理局という組織。地球は連中の尺度で云うと第97管理外世界。管理局は地球を、魔法技術や次元渡航技術を持たない世界と認識している。だからこそ管理局が管理しない世界、〝管理外世界〟と呼んでるんだが、仮にアリサが魔法を使っていれば連中は干渉をしてくるだろうね」
「何で? 管理局と関係無いのに、管理局のルールを押し付けようっての?」
「平然とやるだろうね」
個人なら間違いなく干渉するだろう。
実際に原典で、ジュエルシードに当たっていたのが高町なのはとユーノ・スクライアという個人だから、自分達が後はやると言って干渉してきた。
だから、ユートは組織を設立したのだ。
「ああ、それで聖闘士なんだね?」
「すずか、正解だよ」
流石に小宇宙は使えないとはいえ、魔力と氣を合一した咸卦の氣を聖衣装着で可能となるし、それはもう魔法の範疇ではない。
似たようなナニかだ。
「聖闘士?」
ユートはすずかにもした説明をアリサにもする。
「聖衣を纏うだけで魔法みたいな力がねぇ? すずかも聖衣を貰ったの?」
「うん。大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)っていう鋼鉄聖衣を」
見せびらかすかの如く、すずかは腕時計を見せた。
「すずかは聖域に所属する鋼鉄聖闘士として、訓練をやっている」
ダイオラマ魔法球を用いての訓練で、既にこの一日で八時間……八日間の訓練に臨んでいる。
「アリサが聖域に所属し、聖闘士を目指すなら聖衣を与えるよ?」
「…………良いわ、やってやろうじゃない!」
親友と同じステージに立つ為、ユートと同じ場所に往く為にアリサは決意。
「辞めたくなったら留めはしない。聖衣は返却して貰うけど、経験は何処かで活きるだろうからね」
ユートが差し出した銀色の腕輪には茜色の宝玉が濱っており、アリサが受け取った聖衣とは……
「小獅子星座(ライオネット)の青銅聖衣だ。聖衣の名前にフルセットと叫ぶと使えるよ」
アリサは頷く。
「小獅子星座(ライオネット)……フルセット!」
アリサの声に応じると、聖衣石から茜色な唐獅子のオブジェが顕れ、カシャーンと甲高い音を響かせて、各パーツに分解され聖衣がアリサの美しく白い肢体を鎧っていった。
「アアン……」
うっとりとした表情で、炎を背後に噴き上げながら右脚では回し蹴りを放ち、更には両腕で軽くラッシュを繰り出す。
「小獅子星座(ライオネット)のアリサ見参よ!」
それは、ユートが知っている新世代の聖闘士の1人が纏う灼熱(バーニング)な聖衣であったという。
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