魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第13話:サッカー 事件は起きなければ事件に非ず

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 取り敢えずアテナの聖衣に関しては、ダイオラマ魔法球を使ってでも早急に造るとしようと考えて、今後の事を忍と相談をする事になる。

 

「優斗君、貴方はこれからウチで暮らす訳だけれど、アテナさんとシエスタさんも一緒なのよね?」

 

「駄目なら何処か廃棄区画を買って、家でも建てて暮らすけど?」

 

「駄目ではないわ。アテナさんは何をするの?」

 

「見た目には小学生だし、聖祥大付属小学校に転校でもするか?」

 

 ユートの言葉に憮然となったアテナは文句を言う。

 

「貴方は妾を莫迦にしているのか?」

 

「真逆。けど、折角だから一緒に通おうと思っただけだよ」

 

「む、そうか……」

 

 普段は余り感情を表には出さないアテナだったが、何処か照れた表情だ。

 

 だが今度はすずかが剥れている。

 

「すずか様、これくらいで剥れていてはユート様とはやっていけませんよ?」

 

「え?」

 

 その声にすずかが振り返ってみると、シエスタが微笑んで立っていた。

 

「ユート様は世界を転々としながら二千年を生きてきました。その中で、何度か結婚もしてたのですよ?」

 

「そ、それは……」

 

 すずかもそれに関しては聞いている。

 

 年齢が見た目と一致しないという事も、ハルケギニアでは結婚をしていた事も……だ。

 

「因みに、妻となられたのはとてもお綺麗な方です。カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ様、それに、カトレア様も閃姫の御一人なので、条件さえ合えば喚べます。つまり、ユート様の女性関係に煩く言っても無意味。誰かに絞るならカトレア様ですよ」

 

 ガーン! という金槌で殴られたかの如く衝撃を受けるすずか。

 

 ハッキリと言えば解っていた心算で、理解していなかった事に……

 

「それに、憚りながら私もカトレア様と共に御一緒に輿入れもしましたし」

 

「え゛?」

 

 頬を両手で押さえて赤らめながら言うシエスタに、すずかは〝その意味〟を理解して真っ赤になる。

 

 確かにユートは死んでしまったら転生こそするが、とある理由から一六歳以降の肉体的な成長も無ければ老化も無い。

 

 代謝機能は存在するからトイレには行くし、髪の毛や爪等も普通に伸びるが、テロメアが傷付かないというか、精神が磨り切れない限りは生き続ける。

 

「世界を転々と……か……ん? 確か妾の属する世界の巫女が、貴方の聖騎士だったな」

 

「ああ、そうだよ」

 

 ユートは何気無くアテナの問いに答えたが、すずかからすれば看過出来ない様な情報である。

 

「ア、アテナさん!」

 

「む? 何だ?」

 

「アテナさんの世界で優斗君が聖騎士にした人って、いったいどんな人?」

 

「妾もよくは知らぬよ……当人に訊けば良かろう」

 

 すずかがキッとユートに視線を移すと、やれやれと謂わんばかりに右腕を上げて左腕は腰に添え、頭を軽く振った。

 

 結局、興味津々な忍達に圧されて話す事にする。

 

「アテナの所属する世界。其処は神を殺した人間が、殺した神の力──権能を獲て【神殺し】とか【魔王】とか【羅刹の君】とか呼ばれる存在となるシステムが有る世界だ。そのシステムの管理者はパンドラ、神殺しの偉業を成した者達への支援者で、エピメテウスの妻でもある。故に、神殺しの魔王は【エピメテウスの落とし子】とも呼ばれる」

 

「神殺し……」

 

 忍はチラリとアテナの方を見遣る。

 

 神殺しが神と仲好くしているのは、忍には余程奇妙にみえるのであろう。

 

「また、王者──チャンピオン──のイタリア語で、カンピオーネとも称する。あの世界のカンピオーネは僕を含めて八名。その内の一人は僕と同様に日本人、そして同時期にカンピオーネとなった者でもあるよ。彼がカンピオーネになったのはイタリアだったけど、僕は日本に転移させられたんだ。それで僕が神殺しだとソッコーでバレた」

 

「それってつまり、神殺しを探知出来る人が?」

 

 そうでもなければ一般人にバレるとも思えない。

 

 果たして、忍の思っていた通りで……

 

「優秀な霊視能力を持った媛巫女で名は万里谷祐理。身を守る術として、杯座(クラテリス)の白銀聖衣を渡した白銀聖騎士」

 

 杯座(クラテリス)は元々がユートに与えられていた白銀聖衣で、本来なら強化術式を施した物ではなかったのだが、万里谷祐理へと譲る際に陰気と陽気の合一術式と水気を操る力を付与してある。

 

「行き成り土下座でもしかねない勢いだったし、ブルブルと震えていたからね、何事かと思ったよ」

 

「剱の媛巫女には、ハルケギニア時代に義妹のルイズに与えていた白銀聖衣である祭壇座(アルター)を渡してある」

 

 ユートが聖衣を渡したのはこの二人のみだ。

 

 大騎士の二人は七番目の方に付いた為、聖衣を渡す義理も無かったし……

 

 祭壇も杯も神に捧げるべきモノ、媛巫女たる二人の性質に合わせたチョイスの心算である。

 

「まあ、その内に会えるだろう」

 

 その後も、諸々の事柄を決めていった。

 

 特に聖祥大付属小学校に編入する事などは、確りと決めておかねばならないと忍は言う。

 

 ユートも見た目が小学生である以上、小学校に通う必要があるとの事。

 

 小学校……実の処、通ったのは二百年近く前に一回のみ、つまり【受容世界】での義務教育の時だけ。

 

 とはいえ、流石に小学校は今更な気がする。

 

「まあ、デビット・バニングス氏の娘さんも通っているんだったか、すずかとだけ話して同じ誘拐されてた彼女と話さないと、すずかと一緒に責められそうだ」

 

「あうう……アリサちゃんはその辺、煩いだろうな」

 

 親友の性格を考えると、少しだけ鬱になった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 編入の当日……

 

 すずかと同じクラスへと編入を果たす〝二人〟は、教壇の前に立っている。

 

「緒方優斗です」

 

「妾は緒方亞弖那だ」

 

 物凄い宛字に、ユートは苦笑いを浮かべてしまう。

 

 だが、それより前に……

 

「「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 他人の迷惑んも顧みない絶叫が二つばかり、教室の中を谺した。

 

「君は!」

 

「アンタは!」

 

「「へ?」」

 

 その絶叫の主の2人は、思わず顔を見合わせて間抜けな表情を晒す。

 

「何でアリサちゃんが?」

 

「どうしてなのはが?」

 

 これには、事情を知らされているすずかも苦笑いになってしまう。

 

 その後、ユートとアテナはクラスメイトに揉みくちゃにされていた。

 

 主にユートが女の子に、アテナが男子に……

 

 アテナは煩わしいみたいではあるが、まつろわぬ神だった頃に比べて〝人間〟を見ている為、質問に対しても言葉少なにとはいえ、答えていた。

 

 ユートは笑顔を向けて、女子からの質問に明確な答えを返す。

 

 ある少女が訊ねた。

 

「緒方君と緒方さんって、従兄妹なんだよね?」

 

「そうだよ」

 

「髪の毛と瞳の色が違うのは何で?」

 

「アテナはギリシア人だった叔母夫婦の娘で、クォーターなんだよ。僕は日本人と英国人のクォーターなんだけど、日本人の血が濃かったからこんなんだよ」

 

 自分の髪の毛を軽く引っ張りながら言う。

 

 つまりは、そういう設定という訳である。

 

 クォーターという事にしたのは、幾つか複数の血が混じっているとした方が、髪の毛や瞳の色の言い訳に丁度良かったから。

 

 アテナは原典に近しいのだが、ギリシア系にしたのはやはりユートにはアテナはギリシャ神話体系という意識が強かったのだ。

 

 何とか昼休みには落ち着いた為、すずかの案内によって屋上に連れて来られ、なのは、アリサ、すずか、アテナ、ユートの五人組で弁当を食べる事になる。

 

 その際、当然の事ながらアリサに問い詰められて、なのはからも睨まれた。

 

「どういう事? すずかはこいつの事を知ってたの? 何か驚いてないけど」

 

「うん、知っていたよ」

 

「なっ!? アタシだって捜してたの知ってる癖に、黙ってた訳?」

 

「それはゴメン。だけど、知ったのはつい最近だし、私の家に呼んだのも最近の事だったから……」

 

 ピキリ!

 

「家に、呼んだ? 一緒に暮らしてんの?」

 

 凍り付いた表情になり、アリサはすずかに訊ねる。

 

「うん、アテナさんも一緒にね」

 

「そ、そう……」

 

 すずかへの言及が終わると同時に、今度はユートの方を向いて口を開いた。

 

「アンタ、あの時のアレって何なのよ?」

 

「アレ?」

 

「惚けないで! 拳銃の弾を掴んだり、手でテーブルを斬ったりしたやつよ!」

 

 なのはがギョッとなる。

 

「僕は破壊の根元を身に付けているからね」

 

「破壊の根元?」

 

「原子を砕く。だからこそテーブルを斬れた。弾を掴んだのは僕の動きがマッハに達するから」

 

 隠す事も無く、ハッキリと真実を告げてやった。

 

「じゃあ、あの時は何で逃げたのよ?」

 

「あの時点での僕は家なき子状態に近くて、ホテルに住んでたからね。警察から事情聴取は避けたかった」

 

「すずかの家に暮らしてるのは何でよ?」

 

「忍さんの好意」

 

「そ、そう……」

 

 ユートは少し身を乗り出すと、アリサの耳元に口を近付けて、囁く様に言う。

 

「もっと僕の事を深く知りたければ、一人ですずかの家を訪ねると良いよ」

 

 言外になのはを伴うなと言っているのに気が付き、チラリとなのはを見遣る。

 

 少し納得がいかない表情だったが、少し思案するとコクリと首肯した。

 

 なのはを伴ったら教えてくれそうにはなかったし、あの時の事は自分とすずかしか関わっていないから。

 

 今度の日曜日、高町士朗が監督のサッカーチームの試合を観戦するが、後からの用事が済んだら夕方にでもお邪魔すると約束した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 日曜日……

 

 朝の朝っぱらからユートはすずか達と、サッカーの観戦をしている。

 

 目的は勿論、ジュエルシードを手に入れる事。

 

 なのはとユーノは何やら訊きたそうにしているが、ユートは特に話す心算など無い為、完全に無視を決め込んでいた。

 

 それ以外でなら会話もしているのだが……

 

 試合は知っている通りの展開で、翠屋FCの勝利。

 

 その後のお疲れ様会にも参加して観察していたら、なのはがジュエルシードの気配に気付いた感じだが、やはり見逃してしまう。

 

 ユートはゴールキーパーだった少年を追う。

 

「やあ、大活躍だったね」

 

「ああ、確か応援をしてくれていた……何か用?」

 

「少し話せない?」

 

「うん、良いよ」

 

 少年は彼女であろう女の子に謝り、ユートと人気の無い場所に移動する。

 

「君はこれと同じ石を持ってるよね?」

 

 碧い菱形の石──ジュエルシードを見せた。

 

「よく知ってたね」

 

 少年もポケットの中からジュエルシードを出す。

 

「さっきポケットから出したろ? 少し見えたんだ。用件はそれを譲って欲しいって話だよ」

 

「え、それは……」

 

 言い淀む少年。

 

「さっきの女の子にプレゼントしたいから?」

 

「う、うん」

 

 同じ石を持つのならば、自分のこれも彼の物かもと思うと、困ってしまう。

 

「ならこれと交換しよう」

 

「え?」

 

 少年が驚きに目を見開くのだが、それは無理もない事であろう。ユートが出したのは硝子玉だろうけど、ペンダントに加工をされた立派な代物だ。

 

「露店売りで千円程度だけどね、何の加工もしてない石よりはプレゼント向きだと思うよ」

 

「寧ろ、良いのかい?」

 

「趣味で造ってる物だよ。だから問題は無い」

 

「判った」

 

 相互理解による円満解決が出来た。

 

 きっと彼は、女の子へとアレを渡すのだろう。

 

 ユートは小宇宙を用い、ジュエルシードを厳重に封じてしまう。

 

「ジュエルシード……シリアルⅩを封印っと。事件は起きなきゃ事件じゃないからねぇ」

 

 封印した後に独りごち、すずか達と合流してから月村邸へと帰った。すずかは習い事の為に途中で別れたが……

 

 そしてアリサを待つ事、数時間……すずかを連れて訪ねて来た。

 

 

 

【封印されたJS】

ユート=11個

なのは=1個

○○○○=0個

 

残りのJS=9個

 

 

 

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