魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第12話:女神 喩え異世界の貴女(アテナ)でも

 大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)を纏ったすずかは、女の子らしいラインが強調された謂わばレオタードの上に、少しだけ機械っぽさのあるクールホワイトの如く輝きを放っているハイレグアーマーに頬を朱に染めながら、自分の出で立ちを見つめた。

 

 背中の両翼は白鳥らしく静謐だが、これがどうやらスラスターとして機能し、蒼空をも翔べるらしい。

 

「ふわぁぁ……」

 

 感嘆の声を上げたすずかはユートの方へ、何処かしら期待の眼差しを向ける。

 

「うん、まるで誂えたみたいによく似合う。可愛いよすずか」

 

「う、うん……」

 

 顔が熱くなるのを感じながら、すずかは両手で頬を押さえて照れた。

 

 思っていた以上の言葉を貰って嬉しい、それこそがすずかの紛う事なき気持ちである。

 

 忍はユートとすずかのやり取りを見て、少しばかり戦慄を覚えた。

 

 何しろ、ほぼナチュラルに彼処まで誉めたのだ。

 

 ユートは自覚の有る無しに拘わらず、相当な遣り手の女誑しだろうと思う忍であった。そして、それは間違いではない事をいずれ思い知る事になるだろう。

 

「さてと、これで聖闘士が僕を含めて4人。だけど、もう1人喚べるから5人。まだ寂しいものだけれど、一応の体裁は整ったかな。後は象徴だろうか?」

 

「象徴って?」

 

「勿論、アテナの聖闘士の象徴は崇拝すべき女神たるアテナだよ」

 

「ああ、成程ねぇ」

 

 忍はうんうんと頷く。

 

 聖闘士は闘士であるのと同時に、宗教法人みたいな側面があった。

 

 女神であるアテナを崇拝しており、その教敵と闘って【聖戦】等と謳う様は、間違いなく宗教である。

 

 ユート自身は狂信を好むものではないが、アテナが自身に奉じるのを聖闘士達以外に求めないからこそ、やっていられるのだ。

 

「アテナの聖闘士なのに、奉じるべきアテナが居ないというのは片手落ちだね」

 

「けどよ、神様なんて本当に居るってもんでもないだろうに」

 

 ユートの言葉に晶が困った様に言う。

 

「この世界には妖怪が普通に居るし、幽霊だって存在する。魔法や霊能、超能力だって在るんだから、神様だって居ても良いだろう」

 

 内氣功くらいであれば、氣だって存在する世界。

 

 これなら神や神の闘士が居ても不思議ではない。

 

「まあ、無い物ねだりしてもしゃーないやんか」

 

 レンも神の存在に関しては懐疑的の様だ。

 

「無い物ねだり……か」

 

 無い袖は振れない、理解はしているのだが……

 

 忍がふと気が付いた様に提案を出す。

 

「貴方の元居た世界の女神を連れて来るとか?」

 

「沙織お嬢さんは向こうのグラード財団の総帥だし、他所の世界に出向く暇なんて流石に無いよ」

 

 暇を持て余している様に見えて、実際にはグラード財団総帥として、未だ若輩の小娘ながら頑張っているのだから連れてなど来れないだろう。

 

「ダメかぁ」

 

 ガックリ項垂れる忍。

 

「っていうか、財団の総帥なんてしてるの?」

 

「アテナが降誕するのは、聖戦の兆しが見えた時だ。だけど降誕して間も無く、教皇を殺して入れ代わったサガが暗殺しようとして、射手座のアイオロスに止められて失敗。聖域から脱出したアイオロスは、アテナを弑しようとした逆賊として逐われたんだけど偶々、ギリシャへ観光に来ていたグラード財団の総帥の城戸光政と会って、アイオロスは彼に赤子のアテナと射手座の黄金聖衣を託したって訳だよ」

 

「つまり、まだ赤ちゃんだったアテナは、城戸光政に育てられた?」

 

「そう。光政はアテナに全てを捧げたんだ。グラード財団総帥の地位、そして……自身の百人の子供達も」

 

「ひゃ、百人? それは、ツッコミ所なのかしら?」

 

「もう可成りの高齢者っぽかったから、大した絶倫な爺さんだったんだろうね。金に飽かして抱いたのか、それともモテただけか」

 

 一応、百人の中でも同じ母親の兄弟──一輝と瞬──が混じっていた訳だし、そう考えれば本当に百人の女性を抱いたのでは無いとも云えるが、単に妊娠しなかっただけだとしたなら、百人切りを達成していたという可能性は無きにしも非ずだった。

 

「ただ、本当の息子達だってのに財産が全部他所の子に渡ったってのは、どうなのかとも思うよ。一応は、生き残った10人に財産を分与されたけど……」

 

 これは別に遺言があった訳ではなく、沙織が実の子に対して幾らかを渡したというだけだ。

 

 ユートが相談を受けて、お金の問題でもないけれど形だけでもという事で。

 

 『誰か馬になりなさい』なんて言っていた幼少時を思ったら、誰も同一人物だとは気付けないだろう。

 

 それぞれがそれぞれで、お金は使ったらしい。

 

「生き残ったのが10人、それって他の90人は?」

 

「聖闘士の修業に出された100人中90人は死んだか行方不明になった」

 

 本来の聖闘士となる修業がどれだけ過酷か、晶達は改めて知った思いだ。

 

「然し、違う世界のアテナ……か。うん、往けるか」

 

「え? だってさっきは」

 

「嘗て僕が行った世界で、僕が斃したアテナが居る。斃したけど、殺しても滅ぼしてもいない」

 

「は?」

 

 ユートは亜空間ポケットに手を突っ込み、ガサゴソと空間内を探って引っ張り出した。

 

 それは蛇の紋様が刻まれたメダリオン。

 

「それは?」

 

 忍がメダリオンを見て、何か圧迫感を感じるらしく頭を押さえながら訊く。

 

「とある世界に於いては、神話が意味有る形となった神々が存在した。それを、人々は畏怖を籠めてこう呼んだ……【まつろわぬ神】であると」

 

「神話が意味有る形に?」

 

 その世界では超常現象や自然現象、更に人々の歴史などから神々が発生した。

 

 神話という形に括って、奉じる事で封じていたという訳である。

 

 だが、その中から神々が顕現して悪さをする場合も稀にあった。

 

 性質が悪いのは、英霊と呼ばれる者でさえ神に列せられるという事であろう。

 

 それが【まつろわぬ神】という存在。

 

 ユートはとある理由からその世界に行き、パンドラというエピメテウスの妻であり、神々を殺せし存在の支援者と出逢い、羅刹の君だの神殺しの魔王だのと呼ばれる存在へと成った。

 

 ユート自身はその世界の神々を一柱も殺してはいないが、パンドラがユートの真の上司に頼まれ、神殺しの魔王としてその世界にて働く事を条件に、その事を了承したらしい。

 

 それによってユートは、七番目と同時期に八番目の魔王として産声を上げた。

 

 謂わば、双子の羅刹王。

 

 その闘いの中でアテナと出逢い、最終的には降す。

 

 正確にはとある存在との闘いで力を使い果たして、神霊としての意識など喪われようとしていた。

 

 その一部というか、記憶と意識と人格を拾い上げ、依代となるゴルゴネイオンに眠らせたのだ。

 

 勿論、アテナの了承を受けた上で……

 

 その後の事は扨置いて、ユートが沙織からアテナの神力(デュナミス)と血液をゴルゴネイオンに与えて貰う事により、眠るアテナは復活を遂げている。

 

 尤も、活動する必要も無かったが故に、ゴルゴネイオンで眠りっぱなしだ。

 

「そしてコレだ」

 

 更には赤い液体が入った小瓶を出す。

 

「これ、甘くて芳醇な香りがする……血液?」

 

「そう、今代のアテナたる城戸沙織お嬢さんの霊血(イーコール)だよ」

 

「神の……血液」

 

 思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう忍。

 

 アテナは同性であるが、神の血液だからか吸血種としての本能が疼く。

 

「アテナを眠りから醒ますのに必要だからって、貰ったモノだよ」

 

 小瓶の蓋を開け、血液をゴルゴネイオンへ掛けた。

 

 ドックン!

 

 ゴルゴネイオンが脈打つかの如く音が響き、モクモクと煙が上がったかと思ったら、それが密度を増して人の形を執り……

 

「はわわ、これが!」

 

「アテナ?」

 

 銀髪の少女となった。

 

 古の蛇にして夜空を翔るフクロウ、智慧と大地と戦を司る死の使い……

 

 女神アテナ。

 

 アテナはゆっくりと瞼を開き、その空色の瞳を露わにしてユートを見遣る。

 

「久し振りだね、まつろわぬアテナ」

 

「久しいな。我が憎(いとし)き神殺し、緒方優斗」

 

 見た目にはユートが初めて見た時と同じ、小学生……よくても中学生と見紛う少女の姿だったが、忍には理解が出来ていた。

 

 この素っ裸なお子ちゃま女神が、見た目通りの存在では無い事を。

 

 まあ、取り敢えずだ……

 

「ノエル、私のお古で良いから下着と服を見繕って来てくれる?」

 

「判りました、忍お嬢様」

 

 何かを着せなくてはならないだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ノエルが持ってきた服を着ると、アテナはユートから此処に目醒めさせた理由を説明された。

 

「ふむ、相も変わらず厄介な事に首を突っ込む事よ。それで緒方優斗、貴方は要するにまつろわぬアテナである妾に、祀られろと?」

 

「まあね」

 

「しかも、よりにもよって貴方が仕えたアテナの真似事をしろとはな」

 

「嫌かな?」

 

「むう、そんな捨てられた仔犬みたいな表情をするではない。まあ良い、悠久の刻の果てにまつろわぬ妾が祀られるのも悪くはない。何より貴方と妾は、互いに闘い(あいし)合った仲よ。

但し、アテナの聖衣とか言ったか? それを妾に与えるのが条件だ」

 

「アテナの聖衣か」

 

 アテナの聖衣──アテナが自ら纏う聖衣が存在し、聖域はアテナ神殿の巨大なアテナ神像こそ、アテナの聖衣そのものだ。

 

 代々の教皇のみがそれを教えられており、聖戦発動の時にはアテナ自身の霊血(イーコール)を以て、現代に甦るという。

 

 実はそれこそがアテナの神衣ではないかとも云われているが、それは定かではない。

 

 因みに、本来だと霊血(イーコール)の色は青いのだが、アテナは人間に転生して降誕する為に赤い。

 

「確かにアテナの聖衣は造る心算だったし、アテナに上げても構わないだろう」

 

 冥王ハーデスとの聖戦でタップリと視る機会があった為、アテナの聖衣の組成も理解しているユートは、この世界の聖域のアテナの神像として造る心算だ。

 

 このアテナが聖域の象徴となるなら、アテナの聖衣は彼女の物としても問題はあるまい。

 

 ユートとアテナは微笑み合い、ガッシリと互いに固く握手を交わす。

 

 此処に契約は完了した。

 

「じゃあ、次は僕の使徒。牡羊座の黄金聖闘士を担ってくれる、シエスタを招喚するとしようか」

 

 ユートは庭へと出ると、手首を手刀で切って血液を撒き魔方陣を構築する。

 

 魔方陣に小宇宙を通し、咒を唱え始めた。

 

「汝、我が使徒に名を列ねし存在。仕えたる者、優しさを忘れぬ者、歓びを分かち合う者よ……我が言之葉に応えて来よ!」

 

 因みに、『歓びを分かち合う者』の詠唱で喚ばれる者がもう1人居るが、それは扨置いて……

 

 魔方陣が回転を始める。

 

「汝が名はシエスタ!」

 

 魔方陣が輝かしい光を強く放って徐々に収まると、中央に人影が顕現した。

 

 それは黒髪をボブカットにし、メイド服に身を包む可愛らしい少女。

 

 シエスタ・ササキ。

 

 ハルケギニアで与えられたシュヴァリエの名前は、もうこの世界では関係無いから、これが彼女の名。

 

 ゆっくりと目を開いて、シエスタは跪く。

 

「シエスタ・ササキ、御喚びにより参上致しました、ユート様」

 

「ま〜た呼び方が戻ってるんだけど? シエスタ」

 

「これが私の性(サガ)ですから」

 

 苦笑いをしながら指摘するユートに、ニコリと笑顔で言い放つシエスタ。

 

「まったく、前に魔法世界での世話係として喚んだ時もそうだけど、根っからのメイドだよねシエスタは」

 

「はい!」

 

 周囲を置いてきぼりに、通じ合うユートとシエスタを見て、すずかとアテナは少し剥れていたという。

 

 

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