第0話:突入 遂にリリカルな世界へ
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【受容世界】
それは【現実世界】や【俯瞰世界】や【観測世界】とも呼ばれる世界である。
つまりは、とある世界を俯瞰して観測した結果を、小説やアニメや漫画などのメディアとして発表されている世界の事だ。
緒方優斗は、そんな世界に誕生した。
優斗の家は所謂、剣術道場を開いており戦国時代より端を発する【緒方逸真流】を伝えてきた。
勿論の事、優斗もそれを祖父の緒方優介より習っており、子供の頃より厳しい訓練に耐えて来たものだ。
だが然し、五歳も年下である妹の緒方白亜に比べ、優斗には才能が無かった。
白亜が十二才の頃に目録を獲たのに対し、優斗は全くモノにならない。
結局は、道場は白亜が継ぐ事となって、優斗は普通のサラリーマンになる。
才能ある妹を優斗は疎むものの、純粋に慕ってくる妹を邪険に出来ずに兄妹の仲は悪くはならなかった。
剣術がモノにならなかった優斗は、趣味として漫画やアニメやライトノベルに嵌まる。
そして、優斗が二十歳の時に事故が起きた。
道路にフラフラと躍り出てしまった巫女服の幼女……那由多椎名を救うべく、優斗は道路に飛び出して、諸共にトラックに轢かれて死んでしまったのである。
そんな優斗の前に現れたのが白い服を着た、栗色の髪の毛をサイドテールに結った女性──高町なのは。
【純白の天魔王】と呼ばれる彼女は、別世界で神化してとある神の従属神──神徒となったという。
話を聞けば、平行世界に於いて【ヴィオーレ】という世界に転生した同位体の緒方優斗と同様に、優斗も転生する事になるらしい。
所謂、神様転生だ。
優斗は転生特典として、魔法に対する親和性を貰って【ゼロの使い魔】の世界へと転生する。
ハルケギニアでの役割と人生を終えたユートだが、再び転生を果たす。
その世界の役割も終え、今度は自らが管理する世界の平行世界に転移した。
【ハイスクールD×D】の世界で、ディオドラとの戦いの最中にとある理由でハイペリオンを名乗る男に転移させられる。
エピメテウスの落とし子となり、その世界で八人目の王者として暴れ回った。
そうして這い寄る混沌の企みを潰したユートは、更に別世界に転移。
それから幾つかの世界を巡って来たが、遂に来るべき時が来てしまう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「またか。なのはさ〜ん、居るんだよね?」
緒方優斗はキョロキョロと辺りを見回し、この空間を創る張本人である【純白の天魔王】高町なのはの姿を探した。
世界は時空を大樹と見立て【時空樹】と呼ばれる。
その時空樹には各々が見守る星神(ワールドオーダー)が居り、世界を星騎士(ワールドガーディアン)達が守護している。
【純白の天魔王】もだしユートも星騎士であって、世界を護る事を一つの旨としていた。
幾つかの世界を巡って、その地に住まう邪悪を討つ……それが【魔を滅する者】であるユートの仕事だ。
そして今回の世界は……
「お久しぶりだね」
「なのはさん。また仕事ですか? 休む暇も無い」
「しょうがないよ。私もだけど、旦那様やフェイトちゃん達も手が回らないし、仕事はユート君の管理している派生世界だよ?」
「うっ!」
昔、ハルケギニアへ最初の転生をした時、カトレアの病を癒す為に地球へと赴いた事がある。
その際【朱翼の天陽神】の差し金で、なのはが別の世界の地球へと送った。
そこは【邪悪】が跳梁跋扈して、【魔を断つ剣】と呼ばれる者が戦う世界。
紆余曲折あって【魔を断つ剣】と共に戦い、超空間での戦闘を経験した。
その時、6500万年前の地球に降り立ったユートが5つの楔を穿つ。
結果としてその場所とその時間を基点として、世界が幾多にも派生する。
それは各々が異なる原典(オリジン・ザ・ワールド)を持つ世界群。
例えば……
【聖闘士星矢】
【ハイスクールD×D】
【マップス】
【マブラヴ】
【IS】
等々、凡そ地球で起こった【物語】が真っ白な世界というキャンバスに、絵を画くが如く上書きしていったものだ。
勿論、異世界もその影響を強く受けている。
そんな派生世界群を星神ガイナスティアは、それを創る切っ掛けのユートに管理を任せた。
ユートは自らが創造したにも等しい世界群を、守護する義務を負った訳だ。
「それで? 今回の世界の原典銘は?」
「うーん、少し言い難いんだけどね。怒らず聞いて」
「ハァ」
「原典銘はね、【魔法少女リリカルなのは】なの」
「ハイ?」
思わず聞き返す。
「今、何と?」
「だから、今回の原典銘は【魔法少女リリカルなのは】なんだってば!」
ユートは頭を抱えた。
いつかは来ると覚悟はしていたが、来るべき時が遂に来たという事だ。
目の前の上司の【なのはさん】を知る身としては、どう接していけば良いのかが解らない。
勿論だが、目の前の上司様と今から行く世界に住まう【なのはちゃん】は同位体ではあっても、決して【同一人物】では有り得ない訳だが……
【同じ名前】
【同じ宿業】
【同じ世界】
これらを共有しているだけの他人に過ぎないのだ。
それに、ユートが意図的に介入すれば変えられる部分も多々在るであろう。
ただ問題が在るとしたら関わり方や時間軸次第で、原典の知識が役に立たなくなる上に、原典での物語を滅茶苦茶にしてしまう可能性も孕んでいるという事。
極端な話が、なのはが魔砲少女に成らないなんて事も有り得るのだ。
「それで、時期は?」
現状、関わる時間軸は割と多いのだが、時期によって立ち位置も変わる。
【無印前】
【無印】
【A’s】
【空白期】
【Strikers】
【Vivid】
【FORCE】
無印の前だと、下手をしたら全てに関わらねばならなくなる。
「無印だよ」
「却下!」
「出来ないから」
「くっ!」
必要だから行けと言っているのに、却下など出来よう筈もない。
「そもそも、その世界に行く理由は何?」
「時空管理局が〝ゲート〟を見付けない内に、何とか護って欲しいの」
「ゲートって、楔の事?」
「そう。君が穿った楔……地球に将来、過剰に管理局が介入してきた場合、アレを発見されて使われたりしたら拙いからね」
「身から出た錆……か」
ゲートを造ったのは確かにユートだし、こればかりは仕方ないと云えよう。
「何処までアリ?」
「余りにもそぐわない事をしなければ、何をしても構わないよ。ぶっちゃければ【私】を犯すなり殺すなりしても良い。但し、そうなると【物語】としての進行が壊れるから、その場合は責任取ってね?」
「原作に深く関わる処か、主人公を殺しても構わないって、それをしてでもやるべき事が在るって事?」
「そういう事だよ。ああ、男女の仲になるのは構わないと思うよ? 公開されてる原典では、私もフェイトちゃん達も結婚とかしてないし、彼氏も居ないから。少なくとも26歳まで」
「ソウデスネー」
自虐的な事を言いながら遠い目をするなのはには、ユートも何と言えば良いのか判らなかった。
仕方なく、話を無理矢理に進める事にする。
「それで、彼方に行く方法って再転生? 転移?」
ユートは特殊能力である【千貌】があるから、転移でも姿を変えて関われる。
再転生だと鍛え直す手間があるが、ステータス値の伸び代が増えるというメリットもあった。
どちらも一長一短。
「小さい頃の【私】に関わって貰う必要は無いしね、それに住む場所も高町家や八神家なんかに居候するなり、ホテルを使うなりすれば良いから転移で」
「そうやって暮らすのは、僕なんだけどな」
余りにも適当過ぎて泣けてくる。
お人好しなヒロイン達やその家族が、簡単にユートを信じて居候させてくれる事を祈るしかない。
「大丈夫だよ。私の旦那様も昔は高町家に居候してたんだから」
「さいですか」
よもや此処で惚気とは、流石に思わず……
だけど確かに、あのお人好し揃いの人達なら子供が1人でホテル暮らしと知れば、居候くらいさせてくれそうではある。
「いかん……何だか容易に想像が出来る」
「あはは」
なのはも否定出来る要素が見出だせないのか、苦笑いをしていた。
「そうそう、使ってもいい使徒はシエスタちゃんだけだよ。A’sに入るまではシェーラと那古人も使っちゃダメ。流石に無印で使徒まで行くと、オーバーキルが過ぎるからね」
シエスタ1人でも、充分過ぎるくらいオーバーキルである。
原典の通りなら兎も角、今のシエスタは魔改造済みだし、他の面子も大概だったりするのだから。
「確か、ミッド式の魔法を教えたんだよね?」
「まあ……ね」
ハルケギニア時代では、ユートがシエスタに力を与えた。最高の武器と防具、そして〝魔法の力〟を。
但し与えた時期が早かったのと、彼女自身の資質故にミッド式の魔法だった。
もう少し後だったなら、【精霊輝石】や量産型である【精霊魔石】で精霊魔法を使える様に出来たが……
尤もあのアイテムは魔法を使えない者にも魔法の力を与えてくれるが、使い方に些か以上の問題がある。
あの石は、内臓に埋め込んで使うのだが、ハルケギニアでは外科手術など無い為に、性交を通じて胎内に埋め込むしかなかった。
勿論、此方では外科手術を以て内臓の何処かに埋め込めば良いが……
「(アレが完成したなら、レジアス・ゲイズに接触してみるかな?)」
彼なら良い値段で、自分を買ってくれそうだ。
「それじゃ、もう質問は無いかな?」
「ん、無いよ」
「なら、送るね。リリカル・マジカル……彼の者を、彼の世界へ!」
子供の頃に使ってた呪文を唱え、ユートをあの世界へと転送する。
ユートは身構えた。
何故なら、転送はスッと消える様に送られる訳ではないからだ。
スッと消えるのは、この空間の地面に当たる部分。
「っ!」
案の定、ユートの足下から地面が消えて落下した。
「慣れちゃったねぇ」
もう何度もやっていれば流石に慣れる。こうして、ユートはいつか在ると思った世界……【リリカルなのは】の世界へと向かうのであった。
「頑張ってね、優斗君」
穴を見つめているなのはの表情は、ヴィヴィオを見つめる母親の時の目と同じモノであったという。
「さって、と! 一仕事も終わった事だし、旦那様に報告をしたら一休みして、またお仕事だねぇ……」
そう言い残して、なのはもこの空間から消えた。
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余り方向性を決めずに書いていたものだったから、少しばかり展開が……