「これは、ゲームであっても|遊び《うわき》ではない」

桐ヶ谷和人がケットシーにて新規アカウントを作成。
これはそこから始まる物語のプロローグである。

*もう一人の桐ヶ谷和人→セカンドアカウントに改名しました

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*もう一人の桐ヶ谷→セカンドアカウントに改名

注意事項
オリジナル設定多数あり 基本的には原作に忠実にしたいと思っていますが
シナリオ上、新規設定と解釈が含まれているので、どうか許容してもらえると助かります

勢いだけでやった 反省してます でも後悔はしていない

アニメ終わって今後どうなるかわかりませんが、このソードアート・オンライン人気ができるかぎり長く続くことを切に願っています




ソードアート・オンライン セカンドアカウント

「アーくんいっけぇぇぇぇぇ!」

 

背後からケットシーの領主、アリシャ・ルーの声援を受け、1人のケットシーが空中で浮遊しているサラマンダーの集団に向かって跳んだ。

ケットシーとは思えないほどの力強い踏み込みは、最も近くにいたサラマンダーの男の懐に一瞬で届かせる。そして全く状況を理解できなかった男は叫び声も上げることなくエンドフレイムを巻き上げ、この場から退場した。

 

「一撃、だとぉ・・・?!」

 

周囲のサラマンダーは驚きで埋め尽くされ、臨戦態勢を維持できたのはごくわずか。その隙をついて次の獲物に狙いを定め、跳び上がった。

そうして三人まで落とす事に成功すると、ようやくリーダーらしき男が冷静さを取り戻したようで周囲に指示を出し始める。本来ならばリーダーを真っ先に狙うべきだったのかもしれなかったが、そのリーダーの周囲にいたのは先程臨戦態勢を維持できていたごくわずか。相当手練のプレイヤー、もしかするとSAOサバイバーの前線組だったかもしれない。さすがにその中に突入するのはリスクが高すぎた。

 

なにせ一撃でも当たればほぼ即死するのだから。

 

ステータス、装備は速度重視の紙装甲。

 

「相手は紙装甲だ。一撃当たれば終わる!」

 

「早すぎる!それになんだよあの動きは!」

 

ケットシーの特徴の一つである柔らかい身体を駆使し、曲芸師顔負けの動き、そして要所要所でのみ使用される羽による変則的な突撃と回避。

まるで空中でステップを踏んでいるかのような動きは、ダンスを彷彿させる。誰にも捉えることができず、触れることさえできない。

 

「くそったれ、腕がァ!」

 

「マジか、なんで当てられるんだヨォ!」

 

サラマンダーの男の腕が吹き飛び、地面に落ちた腕はポリゴンになって砕け散る。

装備は《ウィンドスライサー》の二刀流。

この武器は短刀の部類に入り、大きさはだいたい25cm程度。特徴としてはとにかく刃が薄く、武器同士で打ち合わせると簡単に武器破壊されてしまう。ここだけ聞くとどうしようもない武器だが、この武器を装備すると風の影響を軽減するという効果と部分欠損に大きなアドヴァンテージがつくという利点があるのだ。

 

先ほどから一撃で倒した男への狙いは首。

つまり一撃の理由は首の部分欠損、首切りというわけだ。ならばなぜ皆はこれを狙っておこなわないかというと、当然当てるのが難しいからである。首はダメージが高く設定されている部位であり、当然備えも万全であることが多い。特に前線のタンクプレイヤーは重鎧によって保護され、関節部の僅かな隙間くらいしかないため、生半可な攻撃では弾かれるのがオチだ。

 

「ありえない!どうしたらこの隙間を!」

 

そしてその隙間を通れる数少ない武器がこの《ウィンドスライサー》である。

振り下ろされる剣や槍、はたまた斧を身体を縮こまって、捻って、飛び越えるようにして躱し相手の懐に潜り込み、斬り捨てると同時に相手を踏み台にして次の敵へと跳ぶ。

集中しなければ見失ってしまうようなスピード、とある動物を想像させるようなアクロバティックな動きですべての攻撃を躱し、一撃離脱のヒットアンドウェイによって部位欠損、あるいはそのままエンドフレイムに包まれる。

 

強い、そう感じるとともに美しさも感じる。

長く艶のある黒髪が風になびき、なめらかな動きがまるでダンスのようである。精密な攻撃と異常な反応速度、そして何より当たれば即死という状態でも常に相手の懐に跳び込む度胸。

 

アーくんと呼ばれたケットシーの参戦から僅か数分。

その場に残っているサラマンダーは誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさ、サクヤったらまだキリト君のこと狙ってるみたいで、時々キリト君と直接交渉させてくれないか、って私に頼んでくるの!」

 

「それ誘惑するつもり満々だわ。サクヤさんって見た目から大和撫子って感じだもんね~。アスナ大丈夫?」

 

「ダメっ、リーファちゃん絶対に会わせちゃダメだからね!」

 

「相変わらずキリトさん、モテモテですねぇ・・・」

 

アスナが一瞬自分の身体を見たあと絶対と念を押す。どちらも方向性が違うだけで美女、美少女には間違いないのだが、自分にないものを求めてしまうアスナはまだまだ修行がたりないのかもしれない。

いつも通り溜まり場となっているログハウスにて他愛のない話を繰り広げていた。

メインはアスナ、リーファ、リズベット、シリカの4人で、キリトはいつもの定位置で昼寝、シノンは我関せずとばかりに本に目を落としている。あまりページがめくられないのと、時々耳がぴくんと動いているのでそれなりにこちらの話にも興味が有るようだ。ただALOに参加してから日が浅く、話の内容になかなかついていけないものだから仕方のない話かもしれないが。

 

「そういえばアクセルって知ってる?」

 

初めて聞く単語がリーファの口から発せられた。

三人はきょとんとした顔をしていたが唯一シノンだけが誰にも気づかれることなく、ぴくりと尻尾を反応させていた。

 

「アクセル?」

 

「うん。サクヤから聞いた話なんだけど、ケットシーで傭兵をやってて、めちゃくちゃ強いらしいの。領主のアリシャさんがわざわざサクヤに組んでたり、膝枕してもらったりとかいちゃいちゃしてるピクチャー見せて自慢してきたんだって。あんなにイライラしてるサクヤは初めて見たわ」

 

決してサクヤが不人気というわけではない。見た目もさることながらデュエル大会でも常に上位に食いこむほどの実力者だ。加えて圧倒的支持率でシルフの領主となっている。ただ領主としての忙しさ、高嶺の花といったイメージによってか特定の恋人がいるという噂を聞いたことがない。できる女ゆえの業といえばいいのだろうか。

 

「サクヤさん、つり合う男がねー」

 

「サラマンダーのユージーン将軍とかは?」

 

「サラマンダーと和解して同盟組むくらいないわー」

 

散々な言われようである。哀れユージーン、良い人ではあるのだが。

 

「そのアクセルって人ね、なんでも物資輸送中に襲ってきたサラマンダー部隊10人を1人でやっちゃったとか」

 

「あれ、似たような話以前聞いたことがあるような・・・?」

 

こめかみに手を当て考えこむアスナだったが、このパターンが当てはまる人は一人しか知らない。そう、直ぐ側で寝息を立てているキリトだけである。それを思い出し、つい視線を向けため息をついてしまった。

 

「あはは、まぁキリト君は一騎打ちで追い払ったんだけどね。こっちのアクセルって人は嘘かホントかはわからないけと10人全員切り捨てたとか」

 

「ええ?!」

 

その言葉に全員の顔に驚愕が浮かび上がる。

サラマンダーの部隊は練度も高く、多くの人が高レベルの武具を装備している。その精鋭部隊の10人全員を切り捨てたとは並の腕ではありえない。ちなみに以前キリトとリーファ二人がかりでサラマンダー部隊12人を壊滅に追い込んでいるが、状況が違うのでいまいち比較しづらい。なぜならリーファは回復に集中し、キリトはALO初心者であったためである。

 

「うはー、そりゃキリトレベルくらいあるんじゃない?」

 

「確かにキリトさんならできちゃうっていうのが否定出来ませんけど・・・よくよく考えるととんでもないことですよね、それ・・・」

 

リズベットもシリカもレベルが低いわけではないが、スキル制であるALOではどうしようもない。本職は鍛冶屋であったりとトッププレイヤーになれるほどのスキルが無いのだ。

対してトーナメントでも上位に食い込むリーファやアスナでも厳しいと言わざる負えない。リーファの本分は一対一であり、集団戦はどちらかといえば苦手な部類になる。アスナもレイピアという武器の特性上、一対多は不利なのだ。

 

「アクセルって名前を名乗るだけあって相当速いみたい。いきなり目の前に現れたりとか、いつの間にか背後にいたりだとか色々逸話があるみたい」

 

「へー。ちょっと見てみたいですね」

 

「一手お手合わせできないかなぁ・・・」

 

「そんなセリフが出るからアスナには『バーサクヒーラー』なんて二つ名がついちゃうのよねー」

 

アスナが顔を真赤にして否定するが、その様子を見てますますリズがからかうという連鎖が日常になりかけている。リーファ&シリカの妹組はこういう時は苦笑いが多い。

 

「も、もうリズっ。私がまるで戦闘狂みたいじゃない!」

 

「大して違わないじゃない。どーせキリトも似たようなこと言うんでしょうね。あーはいはい、暑い暑い」

 

「もうっ、リズったらぁ!」

 

興奮するにつれ声が大きくなるものの、一向にキリトが起き上がることはなかった。何故なら既に目を覚ましていて、額に汗を垂らして聞き耳を立てていたからである。そんな様子を見て、シノンは必死に笑いをこらえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『どう?ケットシーで傭兵のバイトしないかナ?』

 

そうメッセージが届いたのが数週間前。

差出人はケットシー領主こと、アリシャ・ルーであった。

《エクスキャリバー》、《霊刀カグツチ》、《光弓シェキナー》と伝説武器を とるためにダンジョンに行ったために、すっかり金欠となっていた。泣く泣くいくつかのアイテムをエギルに引き取ってもらったが心もとない事この上ない。

 

そんな現状を何処から聞きつけたのかは分からないが接触を図ってきたというわけだ。

 

「ほら前にもいったよネ?三食おやつに昼寝付き♪」

 

「大変魅力的な条件ですけど・・・」

 

脱領者であるキリトにとって一つのところに力を貸すというのはどうにも心苦しいものであった。特にケットシー、シルフ、サラマンダーには戦友、強敵と事欠かない。それに今回の条件ではまるで居付くようなものだった。

 

「そうだネ、じゃあこうゆうのならどうかな?」

 

そういって新たなメッセージが送られてくる。すぐさま新しい条件が出てきたということは既に最初の条件が断られるとわかっていたということだ。読んでみるとなかなか悪い条件ではないかもしれない。

 

・キリトではなくケットシーとして新しいアカウントの取得

 

その中で特に目を引いたのがこの条件だった。

確かに新しいアカウントを取得してケットシーとして戦えば特に問題はない。スキル制のALOであれば数値が高くなくとも戦い用はあるし、装備もアリシャが用意してくれるらしい。問題は副アカウントであるということだが、アリシャもその点は見越して機密に関わることには参加させることは極力無いだろう。

そしてもう一つ、本当にたまたまだがアカウントを一つとってみようとちょうど考えていたのだ。アスナが《エリカ》をアカウントとしてもっているように他のビルド構成の他種族というものを体験してみたかった。

AGI一極、敏捷に優れたケットシーならば何処まで加速できるのだろうか。

 

まぁたまには1人で羽根を伸ばしたいという気持ちもないこともないのだが。

 

交渉は成立、新規アカウント《アクセル》としてケットシーの傭兵となることに決めた。

 

 

そしていざ、アカウント作成である。

スピードを活かすために小柄が理想的、といっても元々ケットシーは小柄な種族であるし、容姿はランダム生成なためどうしようもないのであるが。

そして生成された容姿を見て唖然としてしまったのだ。

 

「ぷっ、にゃははははははははっ」

 

ケットシー領に降り立った俺を出迎えたのは大爆笑したアリシャ・ルーであった。

まぁ理由は大体わかっている。俺の姿がある者にそっくりだからだ。

それはGGOのキリトの姿であった。白い肌に艶のある長い黒髪、線は細く、中性的な服を着ればまず男には見られない。

そしてケットシー特有である猫耳と尻尾が備わっているというわけである。

随意飛行と同じようにイメージを膨らまし、仮想の筋肉と骨が想定して動かそうとしてみるとぴょこぴょこと尻尾が揺れる。触ってみるとよくわからない感覚がある。自分の身体なのに自分の身体ではない、言葉に表すのも難しい。

一応、出現頻度は相当低いはずなのであるが、この姿が生成されるあたり何かしらの意図が絡んでいるのではないかとつい疑ってしまいたくなる。なぁ茅場。

と話を戻すと彼女もGGOの俺の姿を見ていた、というわけだ。

 

「わかってたけど、いきなり大爆笑は失礼じゃないか?」

 

「にゃははっ、ごめんごめん」

 

そういっていきなり組まれた腕に、柔らかい感覚が刻まれる。それが何かと理解した瞬間に心地よさと罪悪感に包まれた。そのアリシャの行動によって何事かと見守っていた周囲は一気に盛り上がる。周囲の視線は妬みといった不快なものはほとんどなく、苦笑いや熱狂といった良い方の感情が多いのはさすがアリシャ・ルーと言ったところか。

いや単に女の子同士がじゃれあっている、位にしか思われていないのかもしれない。

 

「いや、あのちょっと!」

 

「今はケットシーの《アクセル》だヨ?何にも問題ないよネ」

 

傍から見れば恋人が行う行為だと理解し、ドギマギしていた俺は先ほどの周囲の中にある知り合いの視線が含まれていることに気づくことはなかったのだった。

 

 

俺はご機嫌なルーに引きずられるようにして連れて行かれ、ついた先はまさかのルーの自宅だった。ケットシー領最大の大樹に立てられたツリーハウスは領主の家ながら素朴な雰囲気を纏っている。中はケットシー産の工芸品とぬいぐるみがズラリと並べられておりファンシーさをかもしだしていた。

「ここが私のお家だヨ。ほら座って座って」

ルーはいつのまにか手に持っていたクッションを俺の方に放り投げ、ルーは奥に引っ込んでいく。椅子などはなく絨毯の敷かれた場所に腰を下ろすと見計らったように2つのコップを持ったルーが現れた。

 

「これ私のお気に入りだヨ。ケットシーの特産品でもあるから気に入ったらぜひ買ってよネ」

 

そいうって差し出されたコップを見ると緑茶よりも更に濃い緑に染まった液体が注がれており、見た目はほとんど青汁といったところだろうか。

意を決して口に含むと、その見た目とは裏腹にさっぱりとしたミントのような味が口に広がった。

 

「おーさすがアクセルだネ。初見で躊躇いもせずに飲むなんて。私なんて、コレを特産品に!って持ってきたやつを追放しちゃおうかと思ったヨ」

 

にしし、と笑うアリシャだったが、冗談・・・だよな?

あまりにその笑顔は不気味で深く突っ込むことに躊躇い、とりあえずスルーしたほうがよさそうだと心の奥に閉まっておくことに決めた。

 

「それで装備だけどどうすル?ケットシー領で手に入るものならだいたいのものなら揃ってるけど」

 

そう言ってタンスに向けて指を振るとカーソルが出現、装備品の一覧がずらっと並びだした。さっと流してみてみるものの、ぶっちゃけ他種族共用ならばまだしもケットシー専用装備が多く、装備名を見てもさっぱりわからない。

 

「ごめん、わからない」

 

「ま、そうだよネ。コンセプトとかはある?なければ適当に見積もっちゃうヨ」

 

コンセプト。

勿論このアカウントを作った理由である”速さ”だ。とすれば自ずと軽量、できれば追加効果があるものが好ましい。

 

「速さ、かな。防御力とかは無視してかまわない。武器は使いたいものがあるから大丈夫」

 

「おっけー!ちょっとまってねネ」

 

次々と立ち上がるウィンドウ、あれやこれやと呟くアリシャ・ルーはとても楽しそうだ。手慣れた様子といい、こういったコーディネートが好きなのかもしれない。俺は性能、そして色が黒ければ特に気にしないので、いつもアスナから色々とお小言を言われている。いいじゃん黒、何にでも合うし。

 

「そうだネ。純粋にAGIを底上げするようなものと、羽の仕様時間延長、風系の補助魔法の持続タイプ、かな」

 

一覧とビジュアルが届く。

それを見て、思わずうねり声をあげてしまう。何故ならどの装備も可愛らしさ、というものがあるのだ。アスナ達が着ればとても似合うのと思うのだが、自分自身が着ると思うとつい尻込みしてしまいそうになる。

 

「あの、もうちょっと何とかならない?」

 

「いやー、ケットシーといえばキュートな装備が多いからネ。こういうのが着たいからケットシーを選ぶって人もいるくらいだからサ。あ、決して私の趣味が入ってないとは言わないけどネ」

 

言ってるやんか!と思わずツッコミを入れそうになるが納得の行く答えではある。やはり猫耳効果なのか、ケットシーは女性プレイヤーの数が多く、装備類もそれに習っているフシがある。

 

「というかこれ女性用じゃん!一応男型だから装備できないって」

 

「いやーその可愛さだし。無理かナ?」

 

「システム的に無理!」

 

ちぇーとむくれてまたウィンドウを動かし始めたアリシャは一枚のプランをこちらに寄越した。

 

「これは先週出たばかりのやつなんだけどどうかナ?」

 

黒を基調とした、ALOでは珍しい和をモチーフにした装備、通称グラヴィティである。同じ和系統の服を常用しているサクヤとは異なり、どことなく民謡に出てくるような子供っぽさを感じる。補助効果で重力に補正がかかるタイプであり、新装備と先日特集が組まれていたものだった。

 

「これなら今までにない動きができると思うヨ。小柄なアクセルにもよく似合うネ」

 

サムズアップをするアルシャ、いい笑顔である。

 

「効果は面白いと思うんだけど、なんか狙ってない?」

 

「そんなことないヨ。ほらほら、この仮面なんか顔を隠すのにちょうどいいよネ。とりあえず着てみてヨ」

 

有無を言わせずトレードウィンドウを開き、次々と装備を移していく。本当にこの人にコーディネートを任せてよかったのかと心底不安になった。

 

 

「いやーでもアーくんもマゾいよネ。ダメージが欠損主体とかシビアすぎるヨ」

 

アルシャ・ルーは木に備えつけられたブランコに座り、ゆらゆらと身体を揺らす。

ちなみにアーくんとは俺のことである。いつの間にかアーくん、ルーと互いに呼び合う仲にさせられてしまった。こういうところは見た目と言動に相反し、巧みな老練さを感じてしまう。

装備に関しては、やはり領主なだけあってアルシャ・リーの知識量はかなりのものを誇り、いろいろと勉強になったが、結局グラヴィティを押し切られる形となってしまった。確かに効果は面白いと思うが見た目がどうしても抵抗を感じてしまう。こうなればアスナのようにフーデッドケープでも装備をするしかないのかもしれない。

 

「キリトとは全く違うスタイルがよかったし、スピード重視にするとどうしてもダメージが低くなりがちだからな。モンスター相手なら毒とか状態異常武器で攻める予定」

 

庭先で剣の感覚を確かめながらそう答える。ステータスが低いだけあって短刀でもそれなりの重さに感じたのは助かった。キリトの時に持つと軽すぎて手応えがなかったから少し心配していたのだ。

ちなみに武器は自分で用意している。以前にクエストで手に入れたものを使う予定だ。

正直こんな姿をアスナたちに知られるのは御免被りたい。確実にからかわれるのが目に見えている。しかし今更辞めることもできないし、ならば正体がバレるのを避けるために最大限の努力をする他ない。最近ではオリジナルソードスキルのおかげで二刀流もそれなりに広まったから、短刀の二刀流で俺を連想することも難しいだろうし、そもそも普段使っている双剣と使い方が全く異なるため、GGOのように剣筋でバレる恐れもかなり低いだろう。

 

「よしそれじゃ早速肩慣らしにでも行こうカ」

 

ルーはそう言うと、軽快にブランコから降りると、ウィンドウを開き、どこかへとメッセージを飛ばす。

 

「おっけ。実践で慣らしたいしな」

 

と気楽に考えていた時もありました。

 

そして冒頭の戦闘が発生するのである。

 

 

 

 

 

 

「いやーホントにびっくりしたヨ。まさかあんなことになるなんてネ」

 

可愛らしく言っているがこちらとしてはヒヤヒヤものだ。以前の領主キルボーナスは削除されてはいるが、それでも領主が討たれる、というのはそれだけ大事なのだ。恥、といってしまってもいい。それが交易品の輸送任務という大した任務ではない状況であわやという事になってしまったのだ。

 

「時間稼ぎのつもりだったんだけど、まさか観戦してるなんて思ってもみなかったよ。ていうかああいう時は早く逃げろよ!」

 

ということで怒った俺は決して悪くはないのだ。慣らしであんな修羅場に巻き込まれるなんてどういう悪夢なのだろうか。

 

「まぁアーくんを信頼してたからネ。さすがは黒の剣士、だよネ」

 

満足気に微笑むルーである。どうやら色々と知っているらしい。どこから漏れたのだろうか、今度クリスのやろーをとりあえず殴っておいたほうがいいのかもしれない。

 

「でね、早速今度の日曜にある領土戦に出て貰いたいんだけどサ」

 

領土戦。

領主キルが無くなったあと新しくできたクエストである。

週に1回発生するこのイベントは、条件を満たした場所が指定され、勝ったほうにその支配権が手に入る。その条件は、停戦、同盟を組んでいない、戦争状態にある隣接した領地、そして中立地帯であることである。

勝者はその街の税や法を自由に決めることができるため、領土が多ければ多いほど収入等も増えるし、中立地帯を手に入れることが出来れば、遠くへもより安全に交易が可能になる。

しかし中立地帯に居を構える脱領者たちも黙ってはいない。基本は種族同士の戦いになることが多いが、場合によっては中立地帯の脱領者VS国という今までになかった戦いも起きるというわけである。

 

ちなみにキリトたちはアインクラットの方に居を構えているため、基本的にはこの領土戦にはノータッチである。

 

「あーもしかして攻めこむほう?」

 

そうならば正直いって気が重い。他に干渉しないために脱領者になったのだから。

 

「んにゃ、防衛のほうだヨ。アクェルトの森が今回の舞台なんだヨ」

 

アクェルトの森。

中立地帯に存在しているその森は、ライトタイガーの住処として知られている。ライトタイガーは攻撃力、敏捷性に優れ、火力が足りないケットシーにとってテイミングする生命線といえるのだ。

 

「しかも相手はサラマンダーだかラ。奪われちゃうと侵入さえも許してもらえないだろうネ」

 

「そりゃ一大事だな。受けるよその依頼」

 

「さっすがアーくんだね。きちんと予定を開けておいてよネ。それまでに慣らしはいくらでも付き合うヨ」

 

あっさり了承したことに気を良くしたのか、笑顔でルーが抱きついてくる。喜びを抱きついて表現するのがルーの癖らしい。何度言ってもやめないのでもう諦めた。

それに機嫌良さそうにしているルーに水を指すのも正直どうかと思ったのもあるが。

しかしこんな光景をアスナたちに見られたら、と軽く想像し、ため息をついたのだった。

 

そして領土戦。

 

「じゃあアーくんはこっちをよろしくネ。あ、彼女がアーくんのパートナーだから仲良くしてあげてネ」

 

そういって手を振り笑顔で去っていくルー。

残されたのは俺ともう一人。

 

「宜しくね、アクセルさん?」

 

ものすごい笑顔で握手の手を差し出す、孤高のスナイパー、シノンであった。

 




他作品ほっぽり出して何やってるのやら

プロローグと言っていますが続きの予定は今のところありません あしからず
考えていはいたんですが時間が掛かり過ぎてしまい、どうしようもありませんでした
でもここまで色々考えてお蔵入りはどうかと思いまして上げた次第です

こんな中途半端なものを読んでいただきありがとうございました


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