武神フクロにしたった~僕らの川神逃走記~   作:ふらんすぱん

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初顔合わせの因縁 1

「ああん、姉ちゃん。もう一度言ってくれるかい? たぶん、あたしの聞き違いだと思うんだけどねえ!」

 

 伊予も不良女と同じで、聞き違いであって欲しいと願う。

 威嚇の言葉と一緒に委員長の肩に伸ばした手は、意外に素早い身のこなしで躱され、不良女の顔が増々強張っていく。

 委員長の持つ暴力的な空気への鈍感さ、一概に欠点とはいえないが、伊予の知る限りでは役に立っている場面を見たことがない。

 伊予は、懐から財布を取り出し、紙幣を全て抜き取った。

 金はたしかに大事だが、友人に代えられるものではない。

 

「ああ、アンタはもういい。あたしはこの姉ちゃんにジュースをご馳走してもらうことに決めたよ。ねえ、一杯、奢ってくれるかい?」

 

 伊予の行動を察した不良はそれを制止し、睨めつけるように委員長に顔を近づける。

 不良女の威嚇に怯えたのか、存外素直に委員長は財布を出した。

 そこから数枚の硬貨を摘むと、不良の目の前に差し出す。

 悪に屈することは正しくはないのだが、それでも委員長の行動に伊予は胸を撫で下ろした。

 だが差し出された手を不良女は払いのけ、地面から硬貨が転がる軽い音が響いた。

 

「あれれ、アンタは賢そうな顔して計算も出来ないのかい。差し出すのは小銭じゃなくてお札に決まってるだろ」

 

 缶ジュース一本の値段を正しく把握出来ていない不良には今更驚かない。

 伊予が驚いたのは、不良女の指摘が的中していたこと。

 たしかに床に落ちた三枚のアルミニウム硬貨では、ジュース一本の代金には足りない。

 数学の成績が高いはずの委員長が間違えてしまったのだろうか。

 睨まれてなお、委員長の顔に焦りや怯えといった反応は出てこない。

 涼しい顔で、払われた手を戻し硬貨を指さした。

 伊予は不良女が硬貨の価値に気付いたらと背中が寒くなる。

 

「うん、人の厚意を無下にしてはいけないと教わらなかったんですか? 早く拾い集めてジュースを買いなさい」

 

 ――買えません。

 

 伊予は喉元にまできた言葉を抑えこむ。

 力関係でいえば、下位にいる委員長が命令する。

 不良女が従うはずもなく、それを挑発と認識し委員長の胸ぐらを掴もうとするが、またも空を掴む。

 伊予は委員長のスカートの裾を掴み強めに引っ張る。

 諌める意味があったのだが、鈍い友人には通じていないようで、彼女の行動に対して何の枷にもならなかった。

 額に青筋を浮かべる不良女は、胸ポケットから鈍く光る物を取り出した。

 それが刃物でなかったのは喜んでいい。

 しかし拳を鉄で覆うメリケンサックだったことを伊予は悲しく思う。 

 殴られたことはないが、とても痛いのだろう。

 こうなったら最後の手段、二人一緒に土下座するしかないと、委員長の背中を畳むため、抱きつく。

 だが、不良だけでなく友人よりも伊予は非力なようで一向に姿勢は変わらない。

 抱きついた必死な伊予に首を傾げるけで、委員長に意図は全く伝わらなかった。

 伊予を無視し、委員長は携帯を取り出して、不良女の撮影を始めた。

 

「なんだ? 自分がボコボコにされるところを撮影して、後で警察にでも届けるつもりか? 言っとくがあたしは警察なんかに怯んだりしないから、そんなことしてもアンタの入院日数が長引くだけなんだよなあ」

 

 不良女は拳に凶器を嵌め、感触を確かめるように握りこむ。

 その姿から話し合いでの解決が無理と判断した伊予は、不良女の足が遅いことに期待し、委員長の耳にそっと逃げるよと囁いた。

 だけど友人は頷くこともなく、レンズを不良女からはずさない。

 

「まったく、あなたはなんでそう悪意を持った解釈しかできないんですか? 私はただ、この貴重な映像を逃したくないだけです。――だってそうでしょう。『猿』が自動販売機を使用するなんて前代未聞のことですから。ああ、そういった単純な道具を使うのは珍しくないのでどうでもいいです」

 

 凶器をポイして、早く一円玉を拾えと委員長は急かす。

 薄々は気付いていたのだ。

 この時になってようやく、伊予は委員長が意思を持って挑発しているのだと確信する。

 残念なことに、今になって気付いても、真っ赤な顔で殴りかかってくる不良女には何の意味もないこと。

 そして更に残念なことは、始めらからそれに気付いていても、伊予の力では大して状況を好転させることは出来なかっただろうということ。

 恨みがましく思ったりしたが、伊予は迫ってくる拳から救うため、委員長の胸に全力で体当たりした。

 

 ●

 

 悲しいことに、伊予の体当たりでは委員長を仰け反らせることすら出来なかった。

 迫ってくる恐怖に、伊予は目をぎゅっと瞑る。

 覚悟らしい覚悟をする時間はなかった。

 伊予に、そして友人に来るであろう衝撃を予想したのだが、一向に痛みはない。

 恐る恐る薄目を開き確認する。

 拳を振り下ろす姿勢の不良女が目に入り、伊予の身体が強張る。

 それでも、何も変化がないことを不思議に思いよく観察してみれば、不良女がその姿勢から動いていないとわかる。

 そしていつの間にか不良女の視線が伊予達から逸れていることも。

 

「おい、今日は奴らの偵察だけで、問題は起こすなって言ったよな――たしかに俺は言ったはずだよなあ? ならその振り上げた腕は何だ?」

 

 不良女は焦ったように腕を下ろした。

 視線の先、声の主は、川神学院の制服を着ている。

 スラっとした鼻梁、軽い癖のある茶髪。顔立ちは整っており、女生徒には人気ありそうだ。

 事実、人気はあるのだろう。

 伊予に見覚えがある。

 それは教室の移動で三年生の廊下を通った時、女生徒に囲われている姿。

 もっとも、伊予の好みからは外れており、気にも留めていなかったので思い出すのに時間を要した。

 

「いや、霧夜さん、これはちがうんだよ。別にあたしが絡んでいたわけじゃなくて」

 

 霧夜と呼ばれた男は、不良女の言い訳を無視し、伊予達の顔を見た。

 その瞳には怯えている伊予達を気遣うものが感じられず、伊予に嫌悪感が湧く。

 ブランドマークのはいった高そうな財布を取り出し、紙幣を一枚取り出し突き付ける。

 

「迷惑料だ、受け取れ。これで今日のことは忘れろ、いいな?」

 

 それで十分だと、一万円札を押し付けてきた。

 伊予は増々、目の前の男が嫌いになる。

 伊予にもプライドがあるので受け取る気はない。

 実質的な被害はまだ受けていないし、この男の差し出すそれは、詫びなどではなく、施しに思えたのだ。

 

『あたしをここまで馬鹿にしてくれた女はアンタで二人目だ。その汚え顔は覚えたぞ。次、会う時を楽しみにしておけ』

 

 霧夜に聞こえない声量で不良女が委員長に囁く。

 聞こえていない筈がないので、委員長は無視しているのだろう。

 委員長の反応に不良女はなにか言いたげであったが、霧夜に急かされて言葉を飲み込む。

 伊予達への謝罪はないようで、客席に向かい歩いていった。

 この広い川神市、再会するのは困難だろうと、伊予は楽観することにした。

 逃避する伊予に無視され、苛立った霧夜が差し出した紙幣を押し付ける。

 そして不良女の歩いて行った方向に続く。

 つい受け取ってしまった紙幣を返そうと、伊予が追おうとするのだが、それより先に委員長が走って行く。

 

「あの、私の分の迷惑料はないんですか?」

 

 ――見事に一万円をせしめて帰ってきた委員長は、これで美味しいご飯でも食べに行きましょうね、と満足気だった。

 

 ●

 

 財布に紙幣を仕舞い、委員長は伊予に笑顔を向ける。

 笑顔と言っても、満面のものではなく、多少目尻が下がっただけだ。

 危機が去って、彼女も安心したのだろうか。

 冷静になって考えると、危機が起こる前も後も、委員長の顔に変化はなかったなと、深い溜息を付く。

 

「――なんであんなことしたの?」

 

 そして反省を促すように低い声音で委員長に問いかける。

 彼女の迂闊さを叱ったつもりでもあったのだが、それは汲みとってもらえない。

 命知らずは得意気に鼻を鳴らし、期待するように伊予を見た。

 

「もう、助けてもらったからっていいんですよ、そんなお礼なんて。でも大和田さんは危機感がなさすぎです。これからは不良に絡まれないように注意して下さいね――なんですか、別に褒めたければ、好きなように褒めてくれていいんですよ?」

 

 すまし顔とは裏腹に、露骨に賞賛を要求する子供っぽい友人に、伊予は力が抜けていく。

 伊予の認識では、引っ掻き回し、火に油を注いだだけなのだが、彼女の中では違うらしい。

 

 ――悪い子ではないんだけどね。

 伊予は行き場を失った感情を手のひらに込める。

 

「本当に委員長は羨ましいほどに、素晴らしく鈍感だね! 助けてくれて、どうも、あ・り・が・と・う・ね!」

 

「あの、大和田さん。そのように頬を引っ張られたままだと、あまり褒められている気がしないんですが?」

 

 彼女の頬は餅肌で触り心地がよく、伊予は気が済むまで挟み潰したり引っ張ったりした。

 

 ●

 少年は、己の無力を噛み締めていた。

 その事実を受け止めてなお、皆の視線が集まるリングの上で、直江大和は頼りない腕力を振り絞る。

 そもそも、軍師を自称する大和にとって、向き不向きでいえば、明らかに不向き。

 殴り合いの才能は持ち合わせていないし、それを補う努力もしたことはない。

 そんな大和で構わないと、大会の相棒に選んでくれた松永燕は、予選、一回戦とめざましい活躍を見せる。

 それを妬んでいるわけではないが、男として歯がゆく思うのは仕方がないことだ。

 もちろん、燕が不甲斐ないと大和を責めることはない。

 だからこそ、相棒である大和が体を張れる場面ではそれを惜しむつもりはなかった。

 その時が今、訪れている。 

 大和は歯を食いしばり、全身に力を込める。

 両腕を相手に巻きつけて、脚を踏ん張っていた。

 だが大和の力及ばず、足は滑り前進を止めることは出来ない。

 己の非力は分かっていたことだが、とても情けない。

 観客席では子供達が指差して大和を笑っている。

 絵面の滑稽さは否めないし、大和が子供達の立場でも失笑していることだろう。

 無責任に煽り立てている観客達は無視する。

 大和の努力が伝わったわけではないが、歩みが止まった。

 目的地にたどり着いてしまったのだ。

 女性特有の甘い体臭が、抱きついた大和の鼻腔をくすぐる。

 

 ――大和に羽交い締めにされながらも、それを物ともせず、松永燕はリング中央、敵と対峙していた。

 

「ねえ、その恥ずかしいお面、さっさと脱いだらどうかな! ああ、そうか、お面以上に素顔が恥ずかしいから、隠しているんだっけ?」

 

「ああ、あまり顔を近づけて喋らないでくれないか。息が納豆臭いし、そのうえ発酵したツラを見せられて不愉快なんだよ!」

 

 怒り心頭の燕は、敵であるアシュラと顔を突き合わせている。

 間にお面を挟んでいるので、唇が近づくなどの色っぽい事にはなっていない。

 ただ、互いに一歩も引く気はないらしく、何度も額を打ち合わせる音が聞こえてくる。

 まだ、試合開始の合図は出されていなかった。

 

 ●

 そもそもなぜこのような事態になっているのか。

 二回戦の対戦相手なので敵視するのは不思議ではないが、鼻息の荒い燕を見るとそれだけだとは到底思えない。

 開会式で遠くから、アシュラを窺っている時はまともだった。

 そして選手入場ゲートをくぐる時も、いつもの平常心の燕だったと思う。

 正体不明のハグレ地獄コンビに対しては策らしい策はたてられず、柔軟に対応するしかない。

 警戒はしていたが、それも参加者の一組として以上のものではなかった。

 なのに、歓声に応え手を振る燕と一緒にリングに上がり、敵と対峙した時に変化が起こった。

 燕は最初、相手を確認して、不思議そうに首を傾げている。

 頬に指を当て、考え事をしているようにも、呆けているようにも見えた。

 面で表情こそわからないものの、ハグレ地獄コンビのアシュラも燕を見て、思いふけっているようだった。

 

『燕先輩ー! 頑張ってくれー! 義経が応援しているぞ!』

 

 観客席からは、九鬼の関係で燕と交流のある義経の応援が響いた。

 燕が何の気もなしにそれを確認し、大和も視線を追った。

 

 ――近くからは歯ぎしりの音と、少し離れたところで何かが砕ける音が聞こえた。

 音が気になり、手を振る義経から視線を戻すと、燕の瞳がなぜかつり上がっていた。

 何の脈絡もない変化に大和が首を傾げ、苛立つ燕の拳が硬く握りこまれていく。

 アシュラはその場で、リングの敷石を踏み抜いて破壊していた。

 義経の声援が届く間に、両者の心を乱すようなことはなにもなかった。 

 知らぬ間にヒートアップしている状況に、危機感よりも困惑の方が大きい。

 いつも平常心といった燕も感情を露わにすることがあるんだなと呑気な感想を浮かべられていたのは、彼女が足を一歩踏み出すまで。

 燕が拳を固めたまま向かう先を考え、彼女の背に抱きつく。

 

「燕先輩! 一体何をするつもりですか!」

 

「うーん、挨拶?」

 

 ちなみに、答えている時も、燕は大和の方を一切振り返りはしない。

 自分の行動を疑問で確認する辺り、燕はまともな状態ではないように思う。

 

「と、とにかく一度落ち着いて! まだ開始の合図は――」

 

「ああ! わかったよ。『拳』で挨拶!」

 

 先ほどの質問の正しい答えが見つかったと燕は笑みを浮かべる。

 別に答えてくれなくても良かったし、そしてそれは大和の望むものではない。 

 女性特有の柔らかさをもった肢体からは想像できない力強さで大和は引きずられていく。

 

「だいたい先輩は何をそんなに怒っているんですか?」

 

「私が? 何を言っているのかな。――だって私が怒る理由なんてなにもないじゃない、そうでしょ?」 

 

 そう確認されても、大和に返せる答えはない。

 怒っていないとのことだが、それとは裏腹に、燕の歩みは止まることがない。

 足を開いてみたり、揃えてみたりと、足を地面に引っ掛けようと姿勢を変え抵抗するが、大和の情けなさが大きくなるだけだった。 

 

『おい、女! ここであったが百年目! きっちり落とし前をつけてやる!』

 

「そっちこそ、あの時の借りは、利子をたっぷり付けて返させてもらうからね!」

 

 ジリジリと近寄っているが、拳が届く距離ではないので、言葉で罵り合う。

 大和に拘束される燕と同じように、アシュラは相棒である日光に後ろ襟を掴まれ、抑えられている。 

 

「――燕先輩。あの時ってなんですか?」

 

『おい、アシュラ。あの女と知り合いなんか?』

 

 両者の看過できない言葉に、それぞれの相棒が尋ねる。

 

「大和くん。あんな正体不明の相手と私に、繋がりなんてあるわけないでしょう。意味不明なこと言って、私を苛つかせないでくれる?」

 

 

『――初対面だ。なんか文句あるのか?』

 

 意味不明な事を言っている女に、大和は冷めた口調で怒られた。

 明確な恨みでもあるかのように、燕とアシュラは罵詈雑言を浴びせ合う。

 試合開始の前に攻撃をし、反則にならないかと大和は全力で見守っていた。

 その間、拘束され手が届かないアシュラの苦心の結果は、脱いだ靴を投げつけること。

 襟を拘束されたまま不安定な状態で投げられた靴を、燕は難なく避ける。

 それは後ろにいた大和の顔に命中し、お返しに燕が投げた靴は日光の胸に当たった。

 

 ――大和としてはこれを審判が攻撃と判断し、反則負けにしてくれても構わないと本気で思い始めていた。

 

 大和を引きずったまま密接距離での数分の悪口合戦の後、語彙が尽きたのか二人の勢いが弱まっていく。

 それを大和は見計らう。

 

「燕先輩! 一旦整理させて下さい! 先輩と、こいつは知り合い何ですか?」

 

「――ううん、こんな三つも顔がある知り合いはいないかな?」

 

 いくらか落ち着いた燕を敵から引き離し、特に効果はなかった羽交い締めを解いて、大和は質問を続けた。

 

「じゃあ『あの時』って一体何なんですか?」

 

「――な、何なんだろうね、一体?」

 

 自分でもおかしな事を言っていると気付いたのか、燕の声が小さくなっていく。

 

「じゃあ、あいつを恨むようなことも、争う理由もありませんよね?」

 

「――そ、そうだね、私は人を恨むような暗い性格じゃないし、まして人から恨みを買うことなんてありえないでしょう? で、でもね」

 

 社会に生きていれば、人から恨みを買わない人間なんていないと思うのだが、確かに燕は良い性格をしている。

 両人差し指を、くるくると胸の前で回し、燕は悩む。

 何か理由があって隠しているのかとも思ったが、渋面を作り悩む燕の姿は演技には見えない。

 

 ――答えが見つかったのか、燕の顔が明るくなり、人差し指を立てる。

 

 自信満々の燕に、大和は背筋が伸びる。

 

「――きっと、前世の因縁とかだよ。絶対。間違いない!」

 

 苦し紛れにでた突飛な答えなのか、もしくは本気でそう思っているのか。

 肩から力が抜け、深い溜息が出た。

 だが意外なことに、燕に賛同する者がいた。

 彼は燕の立てた指にそれだとばかりに、己の指を突き付け支持する。

 大和のものではない溜息が聞こえる。

 それは、大和と同じように相棒を問い詰め疲れた日光のものだ。

 

 ――苦心した答えに同意してくれたことが余程嬉しいのか、アシュラと燕は手を高く打ち合わせていた。

 だが意気投合した相手を確認すると、すぐに距離をとった。

 

 余計な気遣いで、開始時間を遅らせていた審判が、腕時計を確認した後、試合開始を宣言した。

 大和は疲れ果てていた。

 

 ――開始直後に飛び出そうとしたのは、松永燕。

 先制攻撃を試みたのではなく、一本足で飛び跳ねながら、己の靴を取りに行っただけ。

 そしてそれに気付いたアシュラは近くに落ちている燕の靴を振りかぶって場外に投げ捨てた。

 どこか満足気なアシュラに大和はため息を吐く。

 当然、青筋を立てた燕は踵を返し、大和の傍に戻ってくる。

 ――そして近くに落ちていたアシュラの靴をこれまた場外に投げ飛ばした。

 片足飛びの少女と、片足飛びの面が互いにリング中央に。

 ――そしてすれ違う。

 大和は間抜けな光景に先程より深い溜息をついた。 

 

「ああ、とりあえず攻撃しても良いのかのう?」

 

 日光の巨体を前に、大和は出来れば遠慮してもらいたかった。

 審判が数えるカウントがあと十を過ぎれば、場外負けになる。

 

 相棒が帰って来るまで二人はその場から動かなかった。


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