◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
その後、十六夜達、蛟劉、フェイス・レスの三竦みの勝負は十六夜達の勝利で終わった。中でも飛び抜けて強かった筈の蛟劉がなぜ負けたかというと、十六夜とタイマンで勝負して諭されたからだ。元々優勝すれば斉天大聖と会えるから参加していたのだが、『枯れ木の流木』とまで落ちぶれた蛟劉が、姉貴分にどの面下げて会いに行くんだと。ちなみにその時蛟劉が覆海大聖だと知った十六夜は眼を丸くし、それを映像で見ていた珱嗄の笑いを誘った。
まぁそんな事もあり、たしかにそうだと思った蛟劉は敗北を宣言。リタイヤした。その後、十六夜達のチームとフェイス・レスの接戦の末、十六夜達が勝った。終了。
といってもまぁ、その大接戦と迫力ある戦いのおかげで会場のボルテージは上がりに上がりまくっている。そんな中で、珱嗄達は更なるエンターテイメントと開始する。白夜叉の協力によって作りあげられた豪華なステージと、なじみや珱嗄を始めとする化け物達のセッティングしたライブ。そして、育てに育てて来たアイドル達(一部除外)のお披露目である。
司会は勿論、その手の業務に着手している黒ウサギ。ヒッポカンプの騎手にて審判を務めていたのだが、その際白夜叉の暴走により水着着用を余儀なくされている。それは今も変わらない、着替える暇も無く珱嗄にステージ上へと叩き込まれた。
「えー、皆様! ヒッポカンプの騎手の優勝者も決まった所で! エンディングセレモニーを用意いたしました! 不肖この黒ウサギも所属いたしますコミュニティ、ノーネームの出し物として―――我がコミュニティのアイドル達のライブを開演致します!!」
その言葉と同時、ステージ上のスポットライトが点灯した。そこに居たのは、三人の水着を改造した衣装を着た美少女達。
一人は、黒い上下の別れた水着を着た、黒死斑の魔王―――ペスト
一人は、ピンクのワンピース型の水着を着た、ノーネームのお姉ちゃん―――リリ
そして最後に、青色のセパレートを着た、純血の吸血姫―――レティシア
会場はレティシアの姿を見て騒然とする。何せ、彼女は巨龍騒動の首謀者とも言える存在だからだ。しかし、黒ウサギに代わって珱嗄が説明をした。
「はい皆様、此処に居るレティシアちゃんですが、巨龍云々騒動起こした本人でありますが、最早ただのアイドルなのでライブが終わった後に文句が言えるようなら文句足れてくださいませ」
巨龍騒動を起こした張本人を、解決した張本人が庇ったので観客はもう何も言えなかった。どころか、寧ろそう言うんだったら見てろうじゃないかと更に湧きあがる。
「では、ミュージック―――スタート!」
珱嗄の言葉と共に、音響役のなじみが一斉に機材を操作する。音楽が流れ始めた。
リリを中心として立っていた三人が息を吸い―――唄う
湧きあがる歓声が、止まった
一番最初のフレーズを歌っただけで、観客は三人に魅せられた。ライトに照らされた髪を揺らし、まだ未成熟な肢体を華麗に、まるで演武を想わせるように動かす、歌声は観客の心の中へ直接響くように美しく、三人の少女が舞踏の最中に視線を交わす姿は、まるで三人が三人とも心が通じ合っているかのような絆を感じさせる。
ふと浮かべる微笑みは幼さの中に何処か大人びた妖艶さを見出し、観客の心を一気に惹き付ける。水着故に見える白く張りのある肌を伝い落ちる汗の一つ一つも、少女達の周囲にある空気の音ですら、彼女達を惹き立てるようにも思えた。
―――光り、輝いている
スポットライトに照らされているから、という訳ではない。まるで、少女達一人一人が輝いて見えた。満天の空に輝く星のように、深い闇の中で道を示す月のように、煌々と全てを照らす絶対の太陽のように、美しく光り輝いていた。
それはまさしく、壮大で美しく穢れの一点も無い奇跡の光景を見た様な感動を齎した。踊り歌う少女達には、それだけの感動があった。会場にいたどんな存在も、彼女達に魅了された。
自然と肌に浮かぶ鳥肌、瞬きすら出来ない存在感。しかし圧倒的な強者に出会った時の威圧感ではない、これは圧倒的な魅力に魅せられたからこその威圧感。まるで、自分達の存在が酷く小さなものに見えるほどだった。
そして、曲は終わりを迎える。紡がれる音が段々と小さくなり、華麗に繰り広げられた舞踏が終わり、曲の終了と共に―――少女達は静かに静止した。
だが、観客はそんな彼女達にすら美を感じた。たったの数分の中で魅せられた。
しかし、観客たちはこの後、全員が更に魅せられる。
「えへっ♪」
先程までリリが踊りの中で見せた微笑みとは違う、彼女はその幼い外見に似合う可愛らしい笑顔を浮かべた。
先程までの美しさの中から咲いた、一輪の花のような可憐さに―――これ以上なく、心を打ち抜かれた。
それは、感動ではない。恐怖でもない。畏怖でもない。知能のある生物全てが必ず何処かで持っている、好きという感情を超越した、時に生物の理性を破壊し、本能のままに行動させてしまうもの。狂気を加速させ、生物が手を出してはいけないと分かっているのに触れてしまう甘い毒。
そしてそれは、リリの見せた幼く純粋な笑顔によって此処に生まれてしまった。だが彼女達はそれを加速させる。
踊り終えた、やりきった、達成感に包まれたレティシアとペストは、自然と歓喜の表情でリリと中心に三人で抱きあった。目尻に嬉し涙を浮かべ、スポットライトに照らされる中で、もみくちゃになる三人。その姿は、見た目相応に微笑ましく、また魅力的だった。
そこで、観客の心の中に生まれた毒が―――臨界点を超えた。
『う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
ヒッポカンプの騎手の競技中以上に、観客の一人一人がその胸の中に生まれた抑えきれない毒による症状で叫ぶ。悶え苦しみ、その毒によって失神する者も現れた。身体を捩じらせる者もいれば、何かを堪えるように自身の身体を抱き締める者もいる。そこには、人間も、獣人も、幻獣も、権力も、ない。全ての生物に平等に与えられた毒による作用が働いていた。
そう、その毒とは所謂、
――――『萌え』と呼ばれる感情である。
それからリリ達が二曲目を歌い始める。
一時間後、ライブが終了した時……会場にいた全ての生物が、許容量を超えた『萌え』による精神攻撃によって、幸せそうな表情で倒れ伏していたのだった。
「えーそれでは、これにてヒッポカンプの騎手エンディングセレモニーを終了いたしまーす」
そんな中、ステージ上で最後の曲をやりきって喜ぶ三人を余所に、珱嗄が誰も聞いていない締めの言葉を言ったのだった。