◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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この世界の幼女はなァ!

 珱嗄による制裁―――いや仲裁が入ってから、状況は少しだけ落ちついた。荒々しく憤慨していたヒッポグリフ達も、下手に動けば珱嗄による粛清が入ると理解したらしく、今は耀達を睨みつけるだけにとどまっている。珱嗄がストッパーになったことで、話し合いが出来るくらいには両陣共落ちついたようだ。

 そうなれば、後は制裁でなく本当の意味で仲裁を行なえば良い。ここで前に出たのは蛟劉だ。覆海大聖である高位の魔王ならば、この状況を上手く収める事も出来るだろう。

 

「で、何が原因なんや?」

 

 まず彼が聞いたのはそれだ。原因を探らねば解決のしようも無い。

 そしてその問いに、お互いが牽制し合いながらも両陣営から大体の事情が説明される。珱嗄からみて、第三者的な観点からその光景はまるで、自分が知ってる、と話したくて仕方が無い幼児達のようだった。もしくは自分の知識をひけらかしたいちょっと陰険な性格のオタクか。

 とりあえずそれらの話を纏めると、事の顛末は要約してこうだ。

 

 ノーネームのメンバー……主に耀が大食いゲーム的な催しで物凄い勢いの喰らい付きを見せていたところに、ヒッポグリフの二人がやってきて陰口を叩いた。だがそれを売り子をやっていたリリが聞いてしまい、その発言に怒ったリリがその言葉の訂正を要求したのだ。

 だがノーネームに下げる頭など無いと大声でその要求を一蹴した。それにカチンときた耀が参戦。更に、どうやらそのヒッポグリフ達がノーネームだけでなくサラを侮辱したらしく、怒りを募らせた耀が訂正を要求し、拒否したヒッポグリフを上空200mまで殴り飛ばしたとのこと。これは珱嗄達も遠目で見たから知っている。

 

 そして地面に降り立ったヒッポグリフが怒り、耀もなんら怒りが収まらず、まさしく一触即発といった様子で衝突する―――瞬間で珱嗄の制裁……仲裁が入ったというわけだ。

 

「ふむ……そらまぁ、色々考えなあかん要素はあるけど……とりあえずヒッポグリフの二人は行き過ぎた侮辱ではあるものの、名無しの君らは過剰防衛や」

「だろうな」

「なっ……なんでよ!?」

「ええか、確かにコイツらの君らへの侮辱は許されへん、正式な場でちゃんした謝罪をするべきところや。が、それでも決闘でも何でもない状況で相手に拳を振るうのはあかん。それはただの暴力や」

 

 蛟劉の言い分は、正しかった。故に、耀達は反論も出来なかった。納得は出来なかったが、理解する事は出来るからだ。

 対して、ヒッポグリフ達はその意見に調子づく。

 

「そうだ! 貴様のやったことは重罪だ!」

「せやけど」

「っ!?」

 

 だが、その言葉は蛟劉の冷たい刃物の様な視線で遮られる。

 

「元々は君らの不用意な侮辱発言が原因や。そこは反省して貰わなあかんで?」

「なっ……この方をどなたと心得るか! 『二翼』の長にして、幻獣ヒッポグリフのグリフィス様だぞ!」

 

 だが、断固として頭を下げる―――そうでなくとも発言の訂正を拒否するヒッポグリフ達。分不相応な権威は、人に傲慢さを与えるようだ。とはいえ、このままでは堂々巡りである。

 どうしたものか、と蛟劉が困り顔で頬を掻く。このままこの状況が続けば珱嗄という抑止力があるとはいえ、だんだんと両陣営のフラストレーションが溜まり、いつか絶対に均衡状態は崩れるだろう。

 

「おい、黙って聞いてりゃめんどくさい口上をペラペラペラペラと喧しいぞマスタード臭ぇんだよお前」

「いやマスタード臭いの珱嗄のせいやん」

「それじゃ仕方ない、白夜叉ちゃんは後で力づくで黙らせるとしよう。おい馬共、ちょっとこっちこい証拠隠滅するから」

「は?」

「加害者……いや被害者、か? まぁどちらにせよどっちかが消えれば証拠なんてなくなるだろ。塵も残さず消し飛ばすからちょっとこっち来い」

「嫌だよ!? 何言ってるんだ貴様!?」

 

 珱嗄がちょいちょいと手招きするが、ヒッポグリフ達は逆に距離を取ってしまった。巨龍を一撃で消し飛ばした珱嗄のことは、『龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟』であれば誰しもが知っていることなのだろう。ノーネームがどれ程のものか知らないが、珱嗄の事だけは知っていた。

 

「だったらここでそのやっすい頭下げてチャラにしようぜ? 面倒臭いのはそっちもいやだろう?」

「やすっ……!?」

「まぁ―――俺と事を構えるつもりなら、相手になるけどな。リリちゃんが」

「え!?」

「馬鹿にしてるのか貴様!!」

 

 珱嗄がぐいっと可愛らしいピンクの水着を着た売り子のリリの背中を押して、前に出す。リリは予想外という表情を浮かべ、ヒッポグリフ達は顔を真っ赤にして憤慨した。

 

「馬鹿だなお前ら、お前らはこのリリちゃんにすら勝てない小物なんだよ。宣言してやるよ、お前はこの子に一瞬で敗北する」

「ぐ……ならば決闘だ! この場で、その娘と私が一対一で決闘し、負けた方がこの場で土下座でもすればいい!」

「いいだろう、格の違いを見せてつけてやれリリちゃん!! ファイト!!」

「え? え? ええええええええええええええええ!!!!!?」

 

 こうして、リリとグリフィスの一対一の決闘が決定した。珱嗄はいつも通りゆらりと笑い、蛟劉や耀達、周囲のギャラリーは引き攣った表情で固まった。

 

 

 

 

 


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