◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄と蛟劉は、書庫の中から聞こえて来た音に目を丸くしながらも次の瞬間には苦笑を浮かべた。中から黒ウサギの十六夜を糾弾する様な声が聞こえてきたからだ。大方、十六夜が黒ウサギをからかっていつも通りに騒いでいるのだろう。
そしてその声からしばらくすると、珱嗄と蛟劉に挟まれている扉が音を立てて開いた。そして中から出て来たのは、先程の騒ぎ声の主である黒ウサギと十六夜。二人は珱嗄と蛟劉の姿に気が付くと、黒ウサギは普通だったが十六夜は少し驚いた様な顔を浮かべた。
「なんだ、珱嗄も来てたのかよ」
「ああ、ウサギちゃんと一緒に居たからね。ついでだから付いてきたんだよ」
「ふーん……で、そっちの奴は誰だ?」
十六夜は納得したとばかりに興味なさげな声を上げると、視線を蛟劉に移動させてそう聞いた。
当の蛟劉にもその問いは聞こえていたようで、珱嗄に目配せをする。そして珱嗄が軽く頷くのを確認した後、社交辞令とばかりに軽く会釈する。
「どうも、僕は蛟劉って言います。どうぞよろしゅう」
「ふーん……胡散臭い笑顔だな」
「ハハハッ! ……さっき珱嗄にもそう言われたわ。まぁそういう性分で、堪忍したってや」
ケラケラと乾いた笑い声をあげて、蛟劉はそう言った。黒ウサギとしては、『
「……お前はギフトゲームに」
「出ないってさ」
「………その実力なら」
「引く手数多どころか
「……………悪いことを聞いたな」
「ちょお待ってくれる? たったの五行で僕貶されすぎやろ」
蛟劉が手を前に出して突っ込んだ。十六夜の問いを先回りして答えつつ、蛟劉の立ち位置をどん底まで叩き落す珱嗄の手腕に、思わず舌を巻く。蛟劉は誤解を解こうとするでもなく、前に出した手を下ろして溜め息を吐いた。
「これはとんだ狸やなぁ……」
「化かす、じゃなくて馬鹿にする、だけどな」
「違いない」
ケラケラと笑う蛟劉に、珱嗄はゆらゆらと笑う。その二人の姿に、黒ウサギは少しだけ驚いた。いつのまにこんな軽口を言う様な関係になったのかとちょっと首を傾げる。
「さて、それじゃ十六夜ちゃんも来た事だし……行きますか」
「せやな」
珱嗄と蛟劉が話を一区切り終えて、停めてある渡し船向かって歩き出す。十六夜はそれに一歩遅れて歩きだし、黒ウサギがその後ろを慌てて付いて行った。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
珱嗄達が地下水路を移動している頃。なじみと飛鳥と耀の女性陣三人組は、自分達が賭けごとの様に始めたギフトゲームのことは一旦置いておいて、収穫祭で出展している様々な屋台や展示物を物色していた。その光景は傍目からすれば姦しく、また美少女揃いの三人組故に、嫌でも周囲の眼を惹いた。また、三人ともそれぞれ美しいのベクトルが違う。飛鳥は気丈で高貴な印象を、耀は寡黙かつどこか温かい印象を、そしてなじみは少女というよりは女性らしさを持ちながらも、可愛らしい少女の様な印象を受けた。
そんな三人が、楽しげに歩いている。
「それにしても、この世界は面白いね。あの珱嗄が思いっきり暴れられる世界なんて思いもしなかったよ」
「といっても、珱嗄さんに暴れられたら困るのは変わらないけどね」
「ああ……飛鳥は珱嗄さんに師事を受けたんだっけ?」
「ええ……死にかけたわ」
「でも死なせはしなかったんだろう?」
「う………まぁそうだけど」
「なら良かったじゃないか」
おかしそうに笑いながらそう言うなじみ。飛鳥も耀も、珱嗄の行動にそこまで寛容でいられるのはアンタだけだと内心思った。といっても表面には出さずに愛想笑いを浮かべるのだが。
「珱嗄は子供っぽいけど、その実結構色々考えているんだ。そういったことをする時に無駄なことはしないさ」
「そう……かしら」
「ま、大いにふざけるのは珱嗄の美点であり、欠点でもあるんだけどさ」
やれやれ、と首を振ってそう言うなじみ。飛鳥と耀は、彼女が珱嗄の恋人であることを知っているが故に、これは惚気なのか? と思った。だとすれば、随分と分かり辛い惚気だ。
「さて……そろそろ僕は珱嗄の所へ行くとするよ」
「え?」
「それじゃ、またね」
そういうと、なじみはふっと姿を消し、その場を離れた。
気が付けば何処かへ行っているなじみのそのギフト。耀と飛鳥はまたしても垣間見たギフトをそれぞれ考える。どういう力で、どういう性質のものなのか。
「飛鳥……分かった?」
「……移動系じゃない、ってことは姿を消すギフトっていうのはどうかしら? 確かペルセウス戦でルイオス達がそういうギフトを持っていたわよね?」
「うん……確かハデスの兜だったかな? でも、安心院さんは何も被って無かったよ?」
「一番最初に生まれた生物って言うんだったらそれくらい生身一つでやってのけそうじゃない?」
「……それもそうかも」
とりあえず、現段階ではその能力が一番筋が通っていると思う二人。さしあたってはこの解答で一度なじみに答え合わせをしてみようと決めたのだった。