◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
その頃、アンダーウッドでは狩猟祭が終了し、なじみのぶっちぎり一位という結果に多くの観客が湧いていた。
そして、それが終わった後の事。なじみとゲームの約束をしていた耀は飛鳥を連れてなじみの下へとやって来ていた。なじみはまるでずっとそこに居たかのような面持ちで、待ちくたびれた様な雰囲気で、アンダーウッドの一喫茶店のテーブルに着いていた。狩猟祭が終わって、直ぐに姿を消したから何処へ行ったかと思えばこんな所に居たのかと耀と飛鳥は肩を落とす。珱嗄の恋人というだけあって、その行動の突飛さとマイペースな所はそっくりだ。普通マイペースな性格同士ではお互いの我が強過ぎて反発してしまうものなのだが、何がどうなったのかこうしてこの二人は恋人という関係を築いている。ある意味、不思議なコンビだ。
耀と飛鳥がなじみに近づくと、なじみも二人の気配に気がついたようで、手にしていたメロンソーダ入りのコップを一気に飲み干した。そして、何も言わずにいつのまにか用意されていた二つの椅子へと二人を誘った。断る理由も無いので、耀と飛鳥は黙って席に着いた。
「さて、春日部ちゃんとはさっき自己紹介したからいいとして、君は初めましてだよね。僕の名前は安心院なじみ、親しみを込めて安心院さんと呼びなさい。改めて自己紹介させて貰うよ」
「ええ、私は久遠飛鳥、よろしく安心院さん」
「うんうん、素直にそう返してくれるのは僕としても好感が持てるよ。僕が以前いた世界ではまともな自己紹介が少なかったからね。自己紹介する時に中二臭い自己紹介する奴とか、大量殺人の現場の中でへらへら自己紹介する奴とか、どいつもこいつもインパクト重視でまともな奴なんか一人もいなかったからさ」
「どんな殺伐とした世界なのよ……」
苦笑しながら言うなじみに、飛鳥は若干引き気味に弱々しく突っ込んだ。
なじみは店員に二人の分の飲みものを注文すると、テーブルの上に両肘を着き、手を組んでその上に顎を乗せた。にこりと優しく微笑むと、それは見る者全てを魅了しそうなほどに綺麗で、それ以上に可愛かった。誰がどう見ても美人と言い、綺麗と持て囃すであろうなじみには、どこか少女の様な可愛らしさがあった。
「さて、僕のギフトについてだったね」
「あ、はい」
「春日部さんが言うには、瞬間移動の様な力らしいわね」
「厳密に言えば、そう見えているってだけで僕の力の本質は別にあるんだ」
飛鳥と耀はその言葉でまた良く分からなくなる。瞬間移動に見えて、全く別の力。それならば、どんな力だというのだ。
「まぁこの力の理解は客観的に見ることじゃ掴めないからね。基本的に使う本人からの主観でないと良く分からないんだよ」
「な、なるほど……」
「それじゃあ、僕の力のヒントは此処までだね。そろそろゲームの話をしよう」
「あ、はい」
なじみが提案したゲームは、単純で簡単なゲームだった。
飛鳥と耀の勝利条件は、なじみの力の正体を暴くこと。つまり、なじみは力の正体を暴かれなければ勝利という訳だ。そしてその対決方法は、簡単。このアンダーウッドの収穫祭が終了するまでになじみの力を暴くだけ。何かする訳でも、何か賭ける訳でも、何か条件をクリアする訳でもない。ただ単に、どんな事をしてでもなじみの力の正体さえ暴けば勝利。それだけだ。
「どうかな?」
「……それはつまり、安心院さんを攻撃して力を使わせるのもありなのよね?」
「勿論。付け加えると、僕は君達に一切危害を加えない」
「……随分と私達に有利なゲームじゃない?」
「僕はその筋じゃかなり有名な平等な人格者でね、ゲームでもなんでもフェアに行なうのが僕のやり方なんだよ。だからこのゲームもフェアにやろうぜ? これはその為の
なじみの言葉に、二人はむっとなった。問題児でなくとも、プライドの高い二人だ、こうも舐められ挑発されれば気に食わない部分もあるのだろう。なじみはこうも易々と挑発に乗って来る二人に対して、まだまだ青いなぁと血気盛んな若さに苦笑した。
とはいえ、なじみとしてはこれでもハンデが足りない気がしている。大体ヒントは与えたし、どんな手段を使っても良いとし、こちらからは手を出さない、なんて色々言っては見たものの、こちらの力にはなんの伝承も逸話も歴史もありはしないし、なじみは人間が生まれる、もしくは神々が生まれるずっと以前から生きているのだ、そこらへんから遡って調べる事も出来ない。
完全に何も無い所から、なじみの力を探らねばならないとなれば、かなりの難易度だろうと考えていた。
「やるかい?」
「やる」
「当然よ」
「だと思ったよ」
もはややる気満々の二人は、なじみの問いに即答。またもなじみから苦笑が漏れた。
「それじゃ、君達のやる気に免じてこれだけは言っておこうかな」
「?」
「何?」
「僕の力は瞬間移動じゃない。というか、移動系の能力じゃあないよ。それだけは絶対だ」
なじみはそう言って、またにっこりと誰もが身惚れる様な綺麗さで、可愛く笑った。