◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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収穫祭流行を作る編
人外という存在


 その後、収穫祭は再度行われる事になった。しかも、巨龍が倒され、脅威が去ったその日の内にだ。平等な人外、安心院なじみの会場修復作業は凄まじく、元通り以上に派手でキラキラした会場を作りあげて見せた。しかもたったの数分でだ。故に、祭の再開は早かった。修復が終われば元通り、魔王によって妨害されたことが無かったようだった。

 

 ノーネームの面々は重要な話をする面子以外、祭を楽しむ事に決めたようで、各々先程までの戦いの疲労を気にも留めず、子供らしく無邪気に飛び出して行った。

 無論珱嗄も祭故に外へと繰り出している。隣には腕を絡めてくるなじみ、従者として一歩後ろを歩くレティシア、その隣にペストがいる。デートだ。子供連れの。

 

「そういえば珱嗄、珱嗄ってどうしてスキル……ああ、今はギフトだっけ……を失ったんだい? あれだけのギフトは簡単に失えるものじゃないと思うんだけど」

「んー……どうやらスキルはこの世界で使える力ではないみたいだ。だから、神様が俺の中にあったスキルを全部持ってった。代わりにギフトを一個くれたからいいかなーって」

「ってことは僕のスキルの数々も何れ使えなくなるって事かな?」

「んー……俺のスキルは結構特殊なルーツだったからなぁ……どうだろう。まぁ多少は弊害があるんじゃないか? でも俺と違って全部のスキルを失うことは無いと思うぜ?」

「……そっか、まぁ全部消えても良いけどね。珱嗄に言われてこの世界の事についてスキルで調べた時、どうやら僕には神格と強力な霊格が備わっている事が分かったからね。どうやら原初の生物というのは結構なレアみたいだ」

 

 なじみはそう言って鼻歌を歌う。珱嗄となじみが進む道、その先を遮る者はいなかった。というか、珱嗄達から溢れ出る圧倒的な存在感が、何者も引き寄せなかったのだ。最早前を通り過ぎる者さえいない。モーゼのようだった。

 

「それに、弊害というのならば既に幾つか問題が起きてるんだよね。この世界に来た時から」

「ん?」

「まず僕の持つスキルの内、おおよそ7割が使えなくなってる。珱嗄から貰ったスキルは勿論、ジャンル的には蘇生系、世界干渉系とか強力な奴ばかりが」

「へぇ……やっぱり世界の違いか」

 

 そう、安心院なじみは人外だ。それも2京もの数のスキルを持つ。しかしその存在は結局『めだかボックス』という世界の住人であり、この世界では本来ありえない存在。故に、世界を移動したことでかなり弊害が出ている。世界の修正力、異物を排除しようとする働きは、人外であろうと防げない。珱嗄でも防げなかったのだから。

 それが、スキルの大幅な使用不可。今の彼女には、傷の治療は出来るにしろ死者の蘇生や不死身の力はない。それに、世界を改変したり、概念に干渉したりとそういった強力な力も使用不可だ。といっても、それでも十分人外なのだから本当に規格外だ。

 

「この際だから使えるスキルから幾つか選んで後全部消せば?」

 

 珱嗄の提案。自ら弱体化したらどうかという提案。後ろで聞いていたレティシアとペストからすれば、自分から戦力を削るということであり、それは安易に呑めるものではない。

 だが、

 

「いいね、そうしよう。珱嗄とおそろいだし」

 

 安心院なじみはそれを簡単に受け入れる。力が腐るほどある者からすれば、多少削った所で問題ないのだ。何故なら、それを使う自分自身が十分強いからである。珱嗄と3兆年過ごしたなじみは、やはり強くなっている。暇潰しに殺し合ってみたり、喧嘩してみたりしたことなんてそれこそ日常的で、ザラだったのだ。武器を持てばすべからく十全に扱えるし、素手であれば徒手空拳で全力の珱嗄相手に5分は戦える。珱嗄に善戦出来る彼女からすれば、スキルが1つであろうが1京であろうか関係無いのだ。

 

 それこそ、スキルなんて手品だと言える様な世界の人外なのだから。

 

「んー……それじゃあ……これと……これかな?」

 

 結果、安心院なじみが選んだのはたった2つ。2京の内の2つのスキル。勿論、世界の修正力から逃れた、つまりはこの世界で使っても良いと認められたスキルだ。内容は、まぁ何れだ、

 

「珱嗄のギフトがどんなものかは知らないけど、きっと役に立つ力だよ」

「なるほど、まぁ期待しとくさ」

「じゃ、後は削除っと……」

 

 安心院なじみは、その二つ以外の全てのスキルを躊躇なく消した。レティシアとペストは、ますます二人が分からない。何故自分の力を、しかも何者をも寄せ付けない最強の力をそう簡単に捨てられるのか。自分達はもっともっと力が欲しいと渇望しているのに、目の前にいる自分達が欲しいモノを持っている怪物達は、こんな雑談交じりにそれを捨てていく。意味が分からない。

 

「マスター……何故貴方達はそんなに簡単に力を捨てられるんだ?」

「分からないか、レティシアちゃん」

「分からない……だってその力は、私達全員が必要としているモノだ」

「だろうなぁ……でもなレティシアちゃん。俺達はそういう人種だ。望まずとも力を手に出来、あたかも全知全能の神のごとく何でも出来てしまう。出来ないことなんて何もない位にぶっとんでしまっているんだよ」

 

 だからこそ、珱嗄はそう語った。分からないことこそ、正解だ。全知全能の気分なんて体感したものでないと分からない。何でも出来るから、力も捨てることが出来る。力に執着しないのだ。何故なら、珱嗄は自分に何の力が無くても面白ければ良いと思う狂った人外であるし、なじみは出来ないことがあるということが逆に嬉しかったりする。この人外達は他の者達が望むものがいらず、他の者達が直視したくない逆境や苦難を渇望する。

 

「力は所詮力でしかない。目的を達成するのに必要なのは心であり、それを達成しようとする強い意志だ。それを貫いた結果死んだ所で、俺達は何の後悔も無い。俺達は随分と長い時間を生きているからね、何時死んだ所で十分生きたと言えるさ」

「ぶっちゃけ体験してみたい気もするんだよね……珱嗄や僕からすれば、僕らが『誰か』に『殺される』っていう展開」

「自分から殺されたいとは思わないけど、それでも俺らからしたら『ありえない』ことが起きたら、それはそれで面白いだろう?」

 

 レティシアとペストは思った。こいつらは自分達の理解の範疇を超えていると。力を捨てられるのは、そうしたところでなんの支障も無く、逆境や苦難が増える事を苦と思っていないから。死ぬことに無頓着なのは、それがありえないものと思っているから。殺される事に恐怖を感じないのは、そうなったらそれはそれで面白いから。

 まさしく異常にして常識外の生き方だ。

 

「さて……まぁ俺らの事は良いとして、そろそろ何か見てみようか。折角の収穫祭だし、ゲリラライブでもやるか?」

「………気になることは多々あるが、まぁマスターがそれで良いのなら良い。とはいえ、サンドラも白夜叉もいないのにやるのか?」

「んー……ま、そりゃそうか。じゃあいいや、とりあえずは何か食べるとしようかな」

 

 珱嗄がそう言うと、4人はまた人々が避けていく道を進むのだった。

 

 

 


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