◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、ゲームがクリアされた。という事実はゲームに参加している全員に伝達された。
そしてその原因は十六夜だ。春日部耀らが蛇遣い座以外の全ての星座の欠片を集めて、ゲームクリアに近づいたから強制的にゲームが再開された後、十六夜は偽レティシアを倒して吸血鬼の古城に単身乗り込んだのだ。そしてその途中、なんと幸運にも蛇遣い座の欠片を拾った。
そしてその時、春日部耀は珱嗄を襲ったリンの仲間であり、『龍角を持つ鷲獅子』のトップだったドラコ=グライフの弟、グライア=グライフと戦っていた。彼の目的は、耀の持つギフト、『
その後十六夜はレティシア達のいる玉座へ到着、蛇遣い座の正しい配置にその欠片を嵌めこみ、正式に第三勝利条件を達成。ゲームクリアとなった訳だ。
さて、此処で問題が発生する。このゲームの開始と同時に現れた巨龍の対処だ。この巨龍は吸血鬼の古城を支えていた者であり、ゲームで古城が出現したことで、同じく出現した訳だ。故に、この巨龍はゲームがクリアされた所で消える訳ではない。巨龍をこの場から消滅させる方法は二つある。
一つは第四勝利条件である、巨龍の心臓を撃つ事。もう一つはゲームクリア後の後始末として蛇遣い座の太陽の主権により、開かれる大天幕から注がれる、本物の太陽の光によって宇宙の正しい軌道上へと戻すこと。
つまりは放っておいてもゲーム自体の後始末によって巨龍は消失するわけだが、問題はそうなると本物の太陽の光は『吸血鬼』であるレティシア=ドラクレアも同時に消滅させてしまうことだ。
故に、十六夜達はレティシアを救う為に巨龍の心臓を撃たねばならない。勿論巨龍は抵抗するだろう。大人しくしていてくれる相手では無い。大天幕が開かれるまではそう時間も掛からない。レティシア自身も、最早死にゆく運命だと諦めていた。
しかし
ここで諦めるほど、
故に十六夜は余裕淡々と言って見せた。
「自己犠牲の出来る聖者よりも、物分かりの悪い勇者になる。完膚なきまでに救って見せる!」
故に春日部耀は決意と共に言って見せた。
「私は友達を助けるだけだよ。一緒に居られる場所を、護りに行くんだ」
そんな無理なことを言う二人の問題児に対して、レティシアは何故だと疑問を抱く。訳が分からない。何故無理なことに、不可能に立ち向かっていくのだ。そうすれば、死んでしまうことは分かっている筈なのに。
◇ ◇ ◇
春日部耀は、覚醒した『生命の目録』の力を『幾千万の生命の系譜の系統樹の結晶化』ととっていた。『生命の目録』の持つ、生命の系譜の中から幾つかの系譜を抽出し、合成させ、新たな生命の奇跡を顕現させる力。それが耀の考える『生命の目録』の力。
故に、彼女はレティシアを助ける為に再度その力を振るう。この力は上手く使えれば今まで出会った事のない幻獣の力も再現する事が出来るのだ。その力で耀は、空を飛翔する幻獣……
ペンダントはまた杖へと変貌し、ブーツには飛行能力の付与によって白く輝く翼生えた白銀の装甲が顕現した。これで、耀は空を飛ぶことが出来る。今まで行使してきた己のギフトを、もう一段階覚醒させた結果だ。今まで以上に強力な力を発揮させるだろう。
「これで十六夜を巨龍の所まで運べるよ」
「やっべめっちゃくちゃカッコいいじゃねぇか!」
「そ、そう?」
「ああ、そんなにカッコイイの出されちゃ俺も負けてらんねーな」
どうやら、耀の覚醒した力は十六夜を興奮させたようだ。勿論性的な意味では無い。
「さて、行くか!」
「うん」
十六夜は拳をパンッと手の平に叩き付け、歯を剥いて笑う。耀も、やる気十分だ。絶対にレティシアを助ける。それだけの為に、巨龍を撃つ。仲間を護る、理由なんでそれだけで十分だろう。
文句は言わせない。何故なら自分達は、どうしようもなく
問題児なのだから
◇
その頃、飛鳥は巨龍を前にディーンの肩の上で佇んでいた。
目の前では、巨人や幻獣達を相手にペスト達が奮闘している。バロールの死眼を持って現れたフードの女性……アウラ。彼女の存在が此方の戦況を悪くしている。攻めあぐねる此方に対して、巨人達の勢いは衰えない。
そんな中で、飛鳥はディーンの肩の上で十字剣を握りながらその光景を見つめていた。静かに、無表情に、何の感情も感じさせず、傍目から見れば呆然としているような様子で、見つめていた。
ディーンはそんな飛鳥を不思議に思い、巨人を相手にしながらも気に掛けていた。
「DEEN?」
「――――ディーン」
声を掛けると、飛鳥は小さく……しかし良く通る声でディーンの名を呼ぶ。それは、命令を下す為の呼び掛け。ディーンはそれを理解し、次の言葉を待つ。どのような命令であろうと、主人である飛鳥の為ならば、粉骨砕身、己の身体を削ってでも果たしてみせよう。
さぁ下せ。我が主、その口から王としての命令を
「あのフードの女の所まで、私を運べ」
―――極めて了解
ディーンはその巨体で、駆けた。立ち塞がる巨人は全てその深紅の拳で薙ぎ払い、叩き伏せ。粉砕する。そして、足は止めず、その勢いのままに、主人を敵の下へと運ぶ。
飛鳥はそんなディーンの肩の上で、ゆらゆらと十字剣の先を揺らしていた。フードの女性のもっと奥、そこには珱嗄が抑えている巨龍の頭があった。
「搔っ捌いてやる。全て、この刃で」
飛鳥はそう呟き、上品に笑みを浮かべる。そして、ディーンがフードの女性に一歩、近づいた所で飛鳥はディーンの肩を蹴った。前に進む。ディーンの勢いがプラスして、飛鳥の身体が前へと投げ出される。だが、それでいい。
「―――なっ……!?」
「その眼、貰ったぁ!!」
飛鳥は刃を煌めかせ、アウラへと斬り掛かる。その速度に反応しきれなかったアウラは、驚愕と共に動きが硬直し、そしてその手に持っていたバロールの死眼を腕毎斬り落とされた。
「ペスト!」
「分かってるわよ!」
そうすると同時、ペストがバロールの死眼を奪った。元々死の概念として近しい存在同士、バロールの死眼と黒死病のペストは相性が良かった。故に、その死眼の所有権をペストは己の霊格を持って乗っ取る。そして今まで自分達に襲い掛かっていたバロールの死眼による脅威を、今度は乗っ取ることで敵へと向けた。
「今度は貴方達がバロールの死眼に貫かれると良いわ」
ペストはそう言ってその死の力を存分に発揮する。巨人族が次々と死んでいく。アウラはその光景を見て、ギリッと歯を食いしばりながら撤退して行った。
「飛鳥―――!?」
そして、撤退したアウラを見送ったペストが見たのは、なお突撃の速度を緩めないディーンが、宙に投げ出された飛鳥をキャッチして、そのまま巨龍へと向かっていく場面だった。
「まさか、巨龍を撃つつもり……?」
ペストは信じられないという表情で、そう呟いた。
三人の問題児が、総じて巨龍の下へと集まって行く。