◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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愛ある再会

 地上、巨人掃討戦の好調具合に対して、十六夜達が向かった『空』ではそうもいかなかった。

 幻獣に騎乗し、風吹き荒ぶ空へと飛翔した十六夜達は、吸血鬼の古城を間近にした所で――――

 

 

 

 

 ――――金色の吸血鬼に襲撃を受けた。

 

 

 

 

 浮かぶ雲は雷雲となり、幾多数多の轟雷を響かせ、人々の不安を煽る色を醸し出す。その手を伸ばせば届きそうな程、古城は目の前だった。だが、届かなかった。

 その金色の吸血鬼―――魔王ドラキュラ、純血の吸血姫……レティシア・ドラクレアが行く手を遮ったから。

 

 その手より伸ばされた長槍は、正確無比にただ一人……サラ=ドルトレイクの胸にその刃を突き立てる。突き刺さればその刃は誰もが思う結末通りに、サラの命を抉っただろう。

 しかし、それは十六夜によって阻止される。彼は長槍とサラの間にその左腕を滑り込ませ、長槍からサラを護る為に、その左手を吸血鬼の牙へと差し出したのだ。

 

「あぐっ……ぅう゛……!!」

 

 左手を貫通する痛みに、顔を歪めて呻き声をあげる十六夜。サラは自らの顔に飛んできた十六夜の血に眼を見開く。そして、そこでようやく彼が自分を庇ってくれたことを理解した。

 

「さっさと部隊を後退させろ! 此処は危険だ!」

 

 本来の物語ならば、十六夜は左の肩をその槍で破壊され、左腕そのものを使い物にならなくされていた。しかし、今回は左手の掌でその槍を受け入れ、そして掴む事で槍からサラを守った。つまり、左手はまだ使えるということだ。拳を握ることは出来ないだろうが、それでも本来よりは少ない被害。

 言ってしまえば、これは飛鳥の成長が原因だ。十六夜は飛鳥との戦いで、自分に匹敵する実力者は少なくないことを知った。故に、彼も飛鳥との戦いで学んだのだ。刃との戦い方を。

 

「っ……すまない、全員退けぇぇぇぇぇ!!!!」

「チッ……ったく面倒臭ぇ……だが、お嬢様の方が速くて鋭かったぜレティシアもどきが!」

 

 十六夜の左手を貫いていた槍は影となり、消えた。そして、後退していく全隊を見たレティシアは、殲滅するべく数百もの影で同じ槍を精製する。

 しかし、十六夜はそれを食い止めるべく動きだす。自分を乗せているグリフォン、耀の友人でもあるグリーの手綱をその左手で握る。痛みが走ったが、堪えた。

 

「何か長い獲物は無いか!?」

「あ、ああ!」

 

 後退を指示するサラに十六夜は怒鳴る様にそう言った。最早数百の槍が放たれるまで時間の猶予は無い。サラは己がギフトカードを取り出し、そこから三叉の槍を引き出し十六夜に手渡した。

 

「悪いなグリー、無茶言うがあのレティシアの所まで飛んでくれ、出来る限り速攻でだ!」

『承知した―――行くぞ!』

 

 十六夜はくるっと槍を回して、右手で握る。数百の影の槍は今にも放たれようとしている。風を踏んで、駆けろ。偽物の吸血鬼の影を、倒す為に――――

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 東の下層――――ノーネームの拠点の土地、仲間達によって命を吹き返し、耕された領土の上で、珱嗄は仰向けに倒れていた。いや、倒れていたというよりは倒されていたというのが正しいだろう。

 恐らく、珱嗄という人外の背中を地に付けられる者など、この世界においては一人もいない。にも拘らず、彼はたった一人の襲撃者によってその背中を土で汚していた。これがどういうことを意味するのか、それはつまり―――珱嗄以上の実力者か、珱嗄の信頼を得ている者でなければならないということだ。

 

「――――はぁ……」

 

 珱嗄は目の前に広がる青い空を見ながら、重く想い溜め息を吐いた。その原因は、珱嗄の上に跨るようにして座るその存在にあった。その存在は、強大で静かな全知全能の威圧感を放っており、そして何より……可憐で美しい容姿をしていた。

 長い艶のあるブラウンの髪は、使い込まれたことが一目で分かる山吹色のリボンによって括られていた。深く紅い瞳は色っぽく潤んでおり、紅潮した頬は白い肌を際立たせている。そして、薄い桃色の唇は優しく、それでいて怖いくらいに笑みを浮かべている。その表情はどこまでも、恋する乙女のようだった。

 服装は珱嗄と似て和服。所謂巫女服と呼ばれるもので、垢抜けて魅力的な少女をお淑やかに着飾っていた。

 

「重いぞ、降りろ」

「重いだなんて、女の子に対して失礼だよ? 珱嗄」

「人一人の体重は十分重いさ」

「君の身体能力は知ってる。僕程度の重量なら、羽より軽いだろう?」

 

 少女は珱嗄の上に座りながら、にこやかに笑う。今現在において、珱嗄よりも強い実力を持っているだろう少女が、狂やかに笑う。珱嗄はそんな少女の笑顔を見て、少しだけ冷や汗を掻いた。

 

「君がいきなり消えちゃったから、ずぅっと探していたんだよ? 無限よりも広大な真っ暗い宇宙の中を、ずぅっと」

「そいつはお疲れさん」

「でも見つからなかった……宇宙の端から端まで、本当に隅々まで隈なく、隙間なく、躊躇なく探し抜いたっていうのに、見つからなかった」

「だろうね」

「だから、今度は世界を探した。珱嗄が存在する世界を探した。無限よりも数多く存在する世界を一つ一つ調べ抜いたよ」

 

 少女は語る。

 世界を探したと。時には英霊同士が凌ぎを削る聖杯の世界を、時には魔法少女が希望と絶望の中を進んでいく世界を、時にはキセキの世代と呼ばれる天才が戦うバスケの世界を、時には宇宙人や未来人や超能力者、そして一人の一般人と共に遊ぶ、神と呼ばれる少女のいる世界を、時には巨人が人類を絶望に追いやった残酷な世界を、時には死神達が悪霊と戦う剣戟の世界を、時にはマフィアの十代目が望まぬ世界で成長していく世界を、時には少女達が麻雀で全国を目指す世界を、時にはテストと召喚獣で学園生活を過ごす馬鹿達の世界を、挙げれば切りがない程に数多くの世界を見て回った。

 

 そして、とうとう見つけた。珱嗄が存在するこの世界を。見つけた時には動きだしていた。時空を駆け抜け、空間を破壊し、世界の壁をも突破して、こうして会いに来た。愛に来た。

 

「やっと見つけた、やっと触れられた、やっと話が出来た。大好きだよ、珱嗄」

 

 全ては3兆もの年月を共に過ごした想いの力。愛し、愛された人外達の間にあった鎖よりも硬い絆が引き起こした結果だ。

 珱嗄はそんな少女の星よりも重い愛を見せつけられて、ゆらりと笑う。そして、上体を起こし、少女の頬にその手を添えた。

 

「全く、お前はこれだから嫌なんだ」

「僕の愛は君が思っているよりも重いぜ?」

「知ってるよ」

「そして君の愛は君が思っているより分かりにくい」

「知ってるだろう?」

「勿論」

 

 珱嗄と少女はにっこりと笑いあう。見つめた先にはお互いの視線のみ。

 

「さて、立てるかな? 珱嗄」

「誰に言ってんだよ」

 

 珱嗄の上から立ち上がった少女は、珱嗄に手を伸ばしながらそう言い、珱嗄はその手を掴んで立ち上がる。

 そして、珱嗄を見つめる少女は次の瞬間冷酷な瞳で珱嗄を睨む。

 

「さぁ、覚悟は良いかい?」

「はいはい……いつでもどうぞ?」

 

 珱嗄は両手を後ろに回して溜め息を吐いた。そして、少女は珱嗄に向かってにこりと笑った直後――――

 

 

 

 

「寂しかったぜこの大馬鹿野郎!」

 

 

 

 

 ――――その綺麗な平手を珱嗄の頬へと叩き込んだ。高く鋭い音が空気を震わせた。

 

 そして、そのまま珱嗄の身体に腕を回して抱きしめた。

 

 

「愛してるよ、珱嗄」

「わはは……俺もだよ―――」

 

 

 そして、珱嗄はその少女の名前を、愛を囁きながら溢した。紡ぐ音色は三つのみ、

 

 

なじみ(・・・)

 

 

 こうして、人外の少女―――安心院なじみと同じく人外、泉ヶ仙珱嗄は再会したのだった。

 

 

 

 


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