◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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フォレス・ガロとのゲームの裏で

 ギフトゲームは恩恵と恩恵の衝突と言っても良い。より強いギフトを持っていれば勝つ、という簡単な物では無いが、如何様なギフトを持ち、どう使いこなし、どの様に戦うかでその勝敗は何時だって変わってくる。

 故に、強力なギフトを持っていようが、大した事のないギフトを持つ者に負ける事もある。

 

 それは単に、どれだけ多くのギフトを持っていようと、たった一つのギフトの前に敗北する事だってあるという事だ。

 ルール次第、制限次第、やる気次第、やり方次第、相性次第、戦い方次第、モチベーション次第、コンディション次第、幾つもの要素を掛け合わせ、そこから様々な手段やギフトを行使して初めて勝利に手が届く。

 

「つまり、この俺に勝つ事も簡単って訳だ」

 

 珱嗄は、そう言った。

 

 珱嗄達が呼び出されてから翌日。現在、久遠飛鳥と春日部耀、ジン・ラッセルは黒ウサギの審判の下フォレス・ガロとのギフトゲームに出払っている。

 コミュニティノーネームの拠点には十六夜と珱嗄、そして獣人の子供達が待機している。

 そんな中珱嗄と十六夜は二人、対峙していた。

 

「それはアレか。俺に対してハンデをくれるって事か?」

「そういうこと。ルールは、これだ」

 

 珱嗄がそう言うと、十六夜にギアスロールを投げた。そこには、どう考えても珱嗄にとって不利なルールが描かれていた。

 

 

 ギアスロール

 

 プレイヤー:泉ヶ仙珱嗄及び逆廻十六夜

 

 ルール:先に一撃当てた方の勝ち

 

 追記:泉ヶ仙珱嗄の禁止事項。泉ヶ仙珱嗄はこの勝負においてギフトを使う事を禁ずる。

 

 

 成程。中々どうして、舐めている。

 だが、十六夜にとってこれだけのハンデを貰わないと勝てないのもまた事実。寧ろ、これでも対等になったと言えるかは不明だ。

 

「オーケー。いいぜ、その条件でやろう」

「なんだ、随分と素直だな」

「俺もそこまでしてもらわねーと勝てない事くらい分かるさ」

 

 ギフトゲーム、異世界人の喧嘩。一撃を入れるだけで勝者が決まる。但し、片方はギフトを使えて、片方はギフトを全面的に使用禁止。圧倒的な条件の差だと思えた。

 

「さぁ始めようぜ。来いよ、少し位なら手加減するのも吝かじゃねーから」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 十六夜side

 

 

 こんな状況になって、久々に高揚している。元々いた世界ではつまらない日常を繰り返すばかりで楽しい事も面白い事も何も無かった。

 だが、この箱庭に来てその日常は変わった。黒ウサギやオチビには高圧的な態度を取るが、内心この世界に呼んでくれた事に関しては大いに感謝しても良い。

 

 この世界に来て出会った問題児(どうるい)達。春日部やお嬢様も俺と同じで強力なギフトを持ってた。そして目の前に佇むコイツ。

 

 泉ヶ仙珱嗄

 

 3兆を超える年齢や2000京を超えるギフトの数、数多く驚かされた奴だ。そして俺はいつも、こんな奴を待ってたんだ。俺の退屈を紛らわせてくれる奴、俺の全力を相手取れる奴、俺以上の問題児(つよいやつ)を。

 その結果現れたのは、想像以上、願い以上の人外だ。

 

 ああ、今俺は楽しい。うずうずする。コイツと一秒でも早く戦いたい。

 

 だから、

 

「良いね良いね良いなぁオイ! 良い感じに盛りあがって来たぞぉ!!」

 

 駆ける。全力で。拳を握る。過去を探っても最高の一撃、最速の一撃。勝利を確信出来る程の、全力の一撃を、コイツにぶつける。

 

「おらああああ!!!」

 

 そして振りかぶった拳に足を地面に踏み込む事で更に力を溜める。そして、そのままゆらゆら笑っている珱嗄の顔に、ぶつけた――――筈だった

 

 

 

「面白い」

 

 

 

 そんな声が聞こえた……背後から。急いで振り返る。そこには先程と同じ様に笑っている珱嗄の姿。躱された、躱せない。珱嗄はその手をデコピンの形に変えて、俺の額に打ち放つ。

 バチンという音が俺の頭に響き、俺の意識は闇に落ちていった。

 

(―――あーあ、やっぱり勝てねぇか……)

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 実際、この勝負が始まった理由こそただの暇潰し代わりだったが、珱嗄としてはそこそこ楽しめるイベントだった。

 十六夜の攻撃は珱嗄にとっても予想以上に速かった。が、それでも珱嗄にとっては遅かった。ギフトを使わずとも光速を超えられる珱嗄としては、人間の範囲内を走る十六夜の速度は人間の中では速いと言っても人外レベルには入って来ない。珱嗄にとってはまだまだ遅い。

 

 故に、珱嗄は十六夜の直進をくるりと回って躱し、背後に回り込み、そのままデコピンを放った。デコピン一つとっても異常な威力。十六夜の意識を刈り取るには十分すぎるほど十分だった。

 

「さて……」

 

 珱嗄は気絶した十六夜の身体を抱えて屋敷の中に入る。そしてゆらりと笑った。

 ギフトゲームとは、勝負のルールを決めるがその勝負の後には賭けた物を勝者が手に入れる事が出来る。

 今回の勝者は珱嗄。十六夜はルールの部分しか見ていなかったから見逃していたが、今回の報酬は大きかった。

 

 十六夜が勝った場合は珱嗄のギフトの中から一つランダムに譲渡、そして珱嗄が勝った場合は、十六夜がメイド服を着てギフトゲームを終えて帰って来た黒ウサギ達を甲斐甲斐しく迎え入れる事。罰ゲームにも程が有る。

 

「とりあえずメイド服だけでも着せとくかな。意識が無いんじゃ仕方ないもんね」

 

 珱嗄はそう言って、十六夜の服をギフトを使ってメイド服に入れ替えた。ギフトの無駄使いとはこの事である。

 

「ホント、ギフトって便利」

 

 そう言って、珱嗄は屋敷を歩いていった。

 

 

 

 その際、十六夜の格好に子供達が呆然としていたのは、印象深かった。

 

 

 


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