◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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神出鬼没

 このゲームの攻略会議は、中々有意義に勧められていた。というより、頭も切れて実力もある十六夜がこれに加わったことで殆ど方向性は決まった様に動いているのだ。故に、珱嗄はここに参加するつもりはなく、この場に珱嗄の姿は無かった。元々、ゲーム攻略に珱嗄は興味が無い。

 

「……珱嗄はどこにいった?」

「あれ? そういえば姿が見られませんね……?」

「マスターなら世界の果てを見に行ってくるとか言って出て行ったわよ?」

「なんかデジャヴ!!」

 

 ペストの言葉は本当だ。珱嗄はそう言いながら吸血鬼の古城へと向かって行った。

 黒ウサギはその言葉にツッコミを入れ、十六夜をじろりと睨みつける。十六夜は苦笑交じりに眼を逸らした。とはいえ、珱嗄の力が借りられないというのは少し心細いが、珱嗄がいなければ何も出来ない。というのも情けない話である。

 十六夜は気を取り直して話を進める。

 

「とりあえず情報が少ない。そこで提案なんだが……巨人達を撃退する部隊と古城に乗り込んでゲームクリアを目指す部隊を作ろう。龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)なら空飛ぶ幻獣くらい用意出来るだろう?」

「……ふむ、確かにな。攫われた者達の同行も気になる……二日で精鋭を募った部隊を編成しよう」

「それじゃ……次に――――」

 

 十六夜は既にこの会議による主導権を握った感触を感じていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 吸血鬼の古城では、王間とでもいえる空間に設置された椅子に気絶したレティシアが座らされていた。彼女はその昔、秩序の乱れた箱庭にやってきた吸血鬼達の一人だ。そして、その中でも最も権力を持っていたのも彼女。吸血鬼の中の頂点、それが彼女だった。

 彼女らは、好き好きに色々暴れ回る箱庭の無秩序な状態を変えようとして、新しい制度を設けた。それが、『階層支配者』制度。それぞれの方角にその場を統治する支配者を設置する制度だ。結果的にそれは今も残っており、ある程度の秩序と安寧を齎した。

 

 そして、その時更にその上の統治者としてレティシアが就いたのが、『全権階層支配者(アンダーエリアマスター)』。現代から考えて、白夜叉とレティシアしかなった前例のない最高権力位である。

 

 詳しいことは分からないが、その後のレティシア以外の吸血鬼達は、修羅神仏のいる上位階層へと戦争をしかけ、『同胞達の手によって』滅んだらしい。

 

「殿下? どこいったんですかー?」

 

 黒髪の少女がそう言って、玉座の空間へと歩いてきた。探している人物は現れない。そもそも無人の筈のこの空間にいる筈もなかった。いるのはただ一人、レティシアだけだ。

 

「殿下殿下でーんーかー?」

「製品?」

「違うよ!?」

 

 後ろから聞こえて来た言葉に、少女はツッコミと同時に振り返った。そこにいたのは、会議を抜け出して一足早く吸血鬼の古城へと乗り込んできた珱嗄。神出鬼没とはこのことだろう。

 

「だ、誰!?」

「珱嗄さんですよー」

「っ!? いやいやいやいや、訳が分からないです! 何しに来たんですか!?」

「いやね、これをお届けに」

 

 珱嗄が取り出したのは、黄金の竪琴。元々はフードの女性が持ちこんできた神格武器である。黒髪の少女はそれを見てあっと声を上げた。

 そして、その背後―――玉座の間から当人であるフードの女性が出て来た。

 

「リン? 何を騒いで………え!?」

「あ、お久しぶりだねフードちゃん。これを返しに来たよ」

「え、あ! っとと……!」

 

 珱嗄は黄金の竪琴を投げ渡す。フードの女性はそれを慌てて両手でキャッチした。落としたりしたら大変だ。だが、それは全く心配いらなかった。既に黄金の竪琴は致命的なまでに壊れていたからだ。外装には罅が入り、弦は二三本切れているし、残りの弦も擦り切れていた。

 

「……何をどうしたらこうなるの?」

「いやね、それでギターソロライブでも出来ないかと思って歯ギターっぽいことやってたらさ……噛みちぎっちゃった。外装の罅はあれだ、龍とやりあった時に落としちゃって……」

「後半は良いけど前半がおかしいわね。なにしてるのよ貴方……」

「悪かったね。まぁ直しておくから許して」

「なにを……!?」

 

 女性は手元の竪琴が無傷の状態に直っていることに気がついた。いつのまに、とフード越しにも分かる様に驚いている。何をしたのかも分からなかったが、とりあえず竪琴が直ったのならいいとしよう。問題は此処に敵である珱嗄がいる事だ。

 

「それで……貴方は何をしにきたのかしら?」

「それを返しに来たんだ。あれ? そこにいるのはレティシアちゃん? じゃあその竪琴とトレードしようぜ」

「子供のカードゲームみたいに言わないでくれない?」

 

 珱嗄の場違いな言動に、二人は疲れた風に肩を落とす。戦意も湧かない。

 

「……じゃあ、まぁ……帰るか」

「え、帰るの?」

「おう。ゲーム自体は俺の仲間がクリアするだろうし……わざわざ俺が出ていくこともないだろう」

 

 珱嗄はそう言って踵を返す。そして、黒髪の少女……リンと呼ばれた少女の頭をぽふっと叩いてから出口を潜り、暗闇の中に紛れてその姿を消して行った。

 

「なんだったんでしょうか……」

「さぁね……でも、竪琴が戻ってきたのは行幸と言えるわ……バロールの死眼もある事だしね」

「あ、そうだ! アウラさん、殿下は?」

「おじさまと一緒に出かけたわ。貴方は私とお留守番」

 

 アウラと呼ばれたフードの女性は、一応『殿下』に珱嗄のことを報告しておこうと考えつつ、黄金の竪琴を一度だけ引いた。

 

 

 ポロロお゛ロロン……♪

 

 

「……ファの音がおかしい」

 

 

 


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