◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、グリフォンと耀達が空を踏んで駆けて行く速度はやはり群を抜いていた。一歩踏み込むごとにその身体は空気を切り裂いて前へ前へと進んで行く。グリフォンは全力の半分ほどでしかないが、その速度にギフトで付いてくる耀も速い事には変わりない。グリフォンの背にしがみ付いている黒ウサギや飛鳥、ジンらはその速度の空気抵抗に重圧に顔を歪めていた。
そしてそんな二人の走者はふと背後を振り向き残してきた珱嗄を心配する。珱嗄はあの膨大な量のギフトを失っているのは周知の事で、耀も知っている。それ故に珱嗄はこの速度に付いてこれず、置いてけぼりになったのではないかと少し不安なのだ。だがここで、耀達問題児が共通して勘違いしている事がある。それは、珱嗄の馬鹿げた身体能力が、ギフトによる物だと思っている所だ。
元々、珱嗄の身体能力は素であり、ギフトの関わる点は一切ない。故に、人外なのだ。
「うーん……珱嗄さん大丈夫かな」
『大丈夫だろう。自分で付いて来れると豪語したのだ、何かしらの考えは有る筈だ』
耀の言葉にグリフォンはそう答える。が、それでも耀は少し心配だった。
「……そうかな。まぁ珱嗄さんの事だから心配はしてないけど……」
「そうそう、心配いらないって」
「……うん」
耀の不安そうな表情にゆらゆらと笑いながら珱嗄は言う。そしてその言葉に耀は視線を前へ向けた。
そしてそこで異変に気付く。
「って珱嗄さん!?」
「そうだよ。珱嗄さんだよ」
耀の隣を並走する珱嗄。耀やグリフォンと同じ様に空を蹴り、空を駆けていた。その速度にはまだまだ余裕があるようで、おそらく現在全速力の耀では追い付けそうにはなかった。
「珱嗄さん……なんで」
「ん、それ聞くことかな。お前と同じ事をしてるんだけど」
「……珱嗄さんのギフト?」
「ギフトは使ってねぇよ。これは素だ」
珱嗄の言葉に耀とグリフォンは眼を丸くした。珱嗄はギフトを使っていない。いないのにもかかわらずこの速度で、しかもまだ余裕があると来た。驚愕するのも当然だ。
「元々俺の身体能力は人間の限界をとうに超えてんだよ。悪いけど、ギフトを持ってるだけの人間には負ける気がしないね」
「な、なるほど……凄いね」
『ふ、ここまで驚かされた人間は初めてだぞ。珱嗄だったか、私は私の騎手よりグリーと呼ばれている。よろしく頼む』
「これで俺も立派な友人かい?」
『ああ、以後お見知りおきを。我が友よ』
珱嗄とグリフォンのグリーの友情は、こうして結ばれた。耀はその姿をふっと微笑みながら眺めているのだった。
『お嬢ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! この旦那にも少し速度を落としてって伝えてぇええ!!』
とはいえ、グリフォンの背に乗るメンバーはそんな会話に参加する余裕も無く迫る重圧に耐え続けているのだった。
◇ ◇ ◇
その後、グリフォンは別の用事で別離。そして逆に火龍誕生祭の時に出会ったウィル・オ・ウィスプのアーシャ・イグニファトゥスとジャック・オー・ランタンの二人と再会した。彼女達もこの収穫祭に参加するべくやって来ていたのだ。この収穫祭は中々大規模なイベント、当然火龍誕生祭に参加してきたコミュニティの一部は同様に参加してくるだろう。
そして、彼女と面識のある耀は彼女と仲良く会話し、ライバルとして同じギフトゲームで勝負しようと週刊少年ジャンプにでもありそうなライバル同士のやり取りを繰り広げたりしていた。だが、そこから彼女が珱嗄を見つけた時の反応は、実に楽しかった。
「お、お前誰だよ!? 耀みたいに空中を走ってるし……どういうことだ!? ギフトか?」
「違うよ。珱嗄さんは素で空を走ってるんだよ」
「そうだよ、分かったかゴスロリツインテール」
「ぐっ……う、うっせぇな……お、お前なんなんだよ!」
アーシャはそう言って珱嗄に若干気圧されながら強きに返した。何か珱嗄に感じる所でもあるのか、少し恐怖心を抱いているのか、はたまたただ単にあまりの貫録と自分以上の実力を感じ取った故に気後れしてるのかは知らないが、珱嗄とアーシャは少しばかり気が合わないようだ。
「ただの人外だよ。なんなら勝負でもする? 今なら特別サービスで瞬殺してやるけど」
「い、いいよ別に。幾らなんでも勝てねぇ事が分からないくらい実力が低い訳じゃねぇし」
「懸命な判断だね」
珱嗄とアーシャはそんな話をしつつ進む。その後、珱嗄は会話すること無く収穫祭の会場へと辿り着いたのだった。