◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
戦果って単語が多いね!
さて、ようやく
テーブルの上には最近珱嗄のアイドルグッズ店の売上で購入してきたみかんっぽい果実が置いてある。というかまんまみかんなのだが、黒ウサギ曰く、みかんではないらしい。食べ方はみかんと同じでみかんと同じ容姿をしているのにみかんではないとはこれ如何に。
そしてそのみかんを手にとって皮を剥き、食べているのはペスト。どうやら甘酸っぱい味に味を占めた様だ。
「それにしても、まさかゲーム参加を断られるなんてね」
「全くだ、負けるからといって最初から勝負を放棄するなど、情けないにも程がある」
ペストの言葉にレティシアは少し不機嫌な様子だった。
それもそのはず、珱嗄は現在様々な主権者達によってゲームへの参加を拒絶されているのだ。理由はただ一つ、強過ぎるから。
これまで珱嗄達を取り入れてからのノーネームの戦績と言ったら規格外過ぎて眼を剥く程なのだ。まずはフォレス・ガロを潰し、打倒魔王を宣言。そしてその後レティシアを掛けてペルセウスがたった一人の前に全滅、挙句の果てに打倒魔王宣言を全うするかのようにペスト、黒死斑の魔王を打倒してみせた。もっと前から言えば、十六夜なんかは蛇神に喧嘩を売って結果的に水樹を手に入れた。それも、この世界に珱嗄達がやってきてたったの2ヵ月の間でだ。
快進撃を見せるノーネーム、ひいてはその戦闘員である珱嗄や十六夜は圧倒的な実力故に主権者から恐れられ、ゲームの参加を断られているのだ。
「つってもこのまんまじゃなぁ……俺なんの戦果もなく終わるぞコレ」
「そうだ、マスターの2000京……のギフトはもうないのだったな」
「というか、今あるギフトって何なのよ」
「んー……コレ?」
珱嗄はギフトカードを二人に見せた。そこには以前の様に真っ白に染まったカードは無く、ちゃんと中央にギフトネームが表示されていた。
―――ギフトネーム【
「……どういうギフトなのよ」
「天邪鬼が、嘘を吐く……いや元々天邪鬼って嘘を吐いているし……それが嘘……は?」
ペストとレティシアは困惑した。珱嗄のギフトの内容が掴めない。ギフトネームはそのギフトを体言する名前故に、その名前が分かっただけでギフトの内容を大体想像することが可能。
だが、珱嗄のは分からなかった。いや、大体方向性は分かるのだが内容が掴めないのだ。
「ま、後々のお楽しみって事で」
珱嗄はゆらりと笑って、二人の頭を撫でた。
「むぅ……」
「……頭を撫でないでっ!」
レティシアはされるがままになっていたが、ペストは若干頬を紅潮させて恥ずかしそうに珱嗄の手を自分の手で払った。
「ふむ、まぁ俺のギフトは後々もっと盛り上がる時に使おうぜ。それに、ギフトでなんでも解決してたら皆駄目になる」
「ということはそのギフトはこの状況を打破することが出来るってことね?」
「まぁ使い様によっては」
元々、神から渡されたこのギフト。以前のギフトを作るギフト【
また、この状況下で珱嗄がギフトゲームに必ず参加しなければならない理由は無いのだ。
「とはいえ、十六夜ちゃん達がどんな戦果を上げてくるか、見物だね」
「全く、マスターはもっとやる気を出した方が良いと思うのだが……」
「いいじゃない。主がやらないなら、私達が騒いでも意味は無いわ……もきゅもきゅ……」
「おいしい?」
「っ………不味くは無いわ」
珱嗄の問いにみかんモドキをもう一つ取ろうとしていたペストの手が止まったが、ペストはぷいっとそっぽを向きながらみかんモドキを取ってそう言った。どうやら好物になったようだ。
さて、ここまでで彼らがギフトゲームに参加出来ない事を話し合っていた理由を話そう。
それは、数日前に遡る。
◇ ◇ ◇
ペストとの対戦後から一ヵ月。この一ヵ月は珱嗄やペスト達にとってはそこそこ忙しい物だった。サンドラや白夜叉をアイドルに勧誘し、ユニットを結成。グッズを作製して販売。レッスンや体力作り、曲作りをこなし、来るお披露目に備える日々。また、珱嗄のギフトが一つになったり、とんがり帽子の地精メルンとディーンの活躍で土地の4分の1がまた使えるようになったりとかなり忙しなくノーネームは活動していたのだ。
そして、そんな日々を送るノーネームは先程挙げた様にかなりの戦果を上げてきた。その成果は順調に出て来ていた。
まず、土地が使えるようになってきた事。メルンの加入により、土地は今までの比じゃない程使えるようになってきた。これは十六夜の持ってきた水樹と飛鳥の連れてきたメルンとディーンの働きによる物だろう。あとはそこへ植える苗などがあれば直ぐにでも畑や野菜を作る事が出来るだろう。
次に、ギフトゲームへの招待状。珱嗄達はノーネームの一員であり、その責任者はジン・ラッセルだ。それはつまり、珱嗄達の上げてきた戦果は全てジンの名の下に行なわれた事であり、その戦果は全てノーネームの戦果になる。故に、その実力を認めた他のコミュニティからギフトゲームへの招待状がジンの名前宛てに送られてくるようになったのだ。これはまぎれも無く、ちゃんとした成果である。
「そこで今回の本題。復興が進んだ農園区に特殊栽培の特区を設けようと思うのです!」
「特区ねぇ……」
「YES! 有り体に言えば霊草や霊樹を栽培する土地ですね」
ここからが本題。今回、珱嗄がギフトゲームに参加しようと話しあっている理由はこの話にある。
発端は黒ウサギ。先程からの話の通り、戦果をあげたノーネームの土地は着々と復興作業が進んでいる。だから、その復興出来た土地に苗や牧畜を手に入れて栽培したいという事だ。
とどのつまり、土地が出来ても作る物が無いから取って来いということ。
「ふーん……霊草って言ったら、マンドラゴラとか?」
「マンドレイクとか?」
「マンイーターとか?」
「ああ、これだね」
黒ウサギの言葉に珱嗄達は反応する。その中でも珱嗄は何故かその手に実物を持っていた。一つは縛られ、口にガムテープを貼られたマンドラゴラ。一つは青紫の小さな花を咲かせたマンドレイク。そして一つは今にも咬みついて来そうな凶暴性を持った
「どっから取り出したんですかそんなの!?」
「いやー、神様に返上したギフトの中に空間倉庫を作ってた奴があったんだけど、中身は俺の物だからってことで返してくれたんだよ。で、オマケで倉庫自体は残してくれた訳。その中にあったんだ」
「というかマンドラゴラとマンドレイクは違うの?」
「マンドラゴラとマンドレイクは基本同じ物だ。空想上に出てきたのは叫び声を上げて聞いた者を死なせる植物だが、現実じゃその花がマンドレイクと呼ばれてる」
耀の疑問に十六夜が答えた。いつも思うがその無駄な知識は何故取り入れたのだろうか。
「まぁそれは良いとしよう」
珱嗄は三つの植物を後方へ放り投げた。すると、空間が歪み、中へ吸い込まれて行った。
「で、続きは?」
「ああ、はい。えーと、そんなわけで苗や牧畜が欲しい訳です。都合良く、南側の『
黒ウサギが興奮を隠しきれない様子でそう熱弁する。珱嗄はそんな黒ウサギを見てあまり興味もなさそうに眼を細めたが、十六夜達は少し面白そうだと若干身を乗り出していた。
「それで、話はそれだけじゃないだろ?」
十六夜達が口を開こうとした時、珱嗄は先んじて話を進めさせる。いつもどおり、こういう話し合いはあまり好まないので、早く終わらせようとしているのだ。
「……ええ、それで少し問題がありまして」
「問題?」
「この収穫祭は二十日間という長期間に渡って行なわれるイベントで、前夜祭を入れれば二十五日。約一ヵ月にも及ぶのです。この規模のゲームはそうないので最後まで参加したいのですが……コミュニティに主力が長期間いないのは少し不味いのでレティシアさんと誰か二人ほど残って欲しいのですが……」
「「「嫌だ!」」」
やはりというか、十六夜達は拒否った。まぁお祭り好きなのは子供の特権だが、それは組織的にみるとただの我儘。ここは楽しむのもいいが、計画的に行きたい。
「まぁ、俺としては別に残っても良いが……あと一人、ねぇ……」
珱嗄は別に残っても良かった。苗とか興味なかったし、何より火龍誕生祭では全部持っていったので、十六夜達にもこの世界を楽しんでもらわないとという今更ながら大人な思考をしたのだ。
「じゃあとりあえず日数を絞ろう。前夜祭に二人、オープニングセレモニーから一週間に三人、そこから最後までに二人。このプランでどうですか?」
「……そのプランだとこの中で二人だけ全部楽しめるようになるじゃない」
「んなのゲームで決めろや。箱庭はそういう場所だろう?」
「珱嗄さん……ではどんなゲームにするの?」
「ん、今からその祭までに一番戦果をあげた奴が祭を総取りだよ」
これが、珱嗄がギフトゲームを探している理由。つまり、各自でギフトゲームに参加し、コミュニティにとって一番戦果を上げてきた物が祭を総取り出来るという仕組み。
これなら別に三人とも異論は無かったのだ。寧ろ、全員やる気満々でそのゲームに挑む意思を見せたのだった。
◇ ◇ ◇
「お祭りなんてね、皆楽しめればいいんだよ。大事なのは、その祭りでどれだけの事をしたかだ。時間はさして意味を持たない」
「なるほどね……」
「でだ、今回レティシアちゃんは残るらしいけど、ペストちゃんは行って来ても良いんだぜ?」
「ふん……別に良いわよ。レティシアや貴方が残るなら私も残るわ…………一緒に行きたいし」
最後の方はぼそっと言ったペストだが、珱嗄とレティシアにはしっかり聞こえていた。聞こえた上で聞かなかったふりをしたのだった。