◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

14 / 107
これで安心!珱嗄さんの強化訓練鬼畜式!

 現在、白夜叉達が十六夜達と翌日の耀の出るギフトゲームの審判を黒ウサギに頼むという話をしている最中、珱嗄と飛鳥……ついでに群体妖精は夜の冷たく心地いい風が吹く中庭に出て対峙していた。

 その理由は、飛鳥の頼みである実力の底上げである。

 

 珱嗄がいつも通りにゆらゆらと自然体で佇む反面、飛鳥はフォレス・ガロのリーダー、ガルド・ガスパーとの勝負の中で手に入れた銀の剣をギフトカードから顕現し、威光のギフトで強化する。そしてその剣先を珱嗄に向けて素人同然の隙だらけな構えを取った。

 その剣は女性にも持てる様な軽い剣で、所謂十字剣と呼ばれる品物。別名で言えば、レイピアとも呼べる。達人が扱えば神速の突きと連撃が可能になる速度と切れ味に特化した細い剣だ。

 だが、素人が扱えば途端に脆く細い唯の鈍器になる。最早刀剣も言えない代物になってしまうのだ。

 

 今の飛鳥がまさしくそれ。珱嗄から見ればいつでも何処からでも圧し折って殺せる様な脆弱な素人だ。ギフトが無ければ最早戦場に立つことすらおこがましい。

 

「さて、まずは格の差と自分の脆弱さを知ってもらおうか」

「あら。私だって馬鹿じゃないわ。貴方と戦えば次の瞬間にでも気を失っててもおかしくない事くらい理解してるわ」

「いや、お前は理解して無い。自分の弱さを」

「どういうことかしら?」

 

 珱嗄は飛鳥がそう問い返すのに対して、十字剣を無刀取りで奪い取る事で答えた。飛鳥は何の感触も無く剣を奪い取られた事に驚愕し、珱嗄に眼を丸くして視線を送る。

 珱嗄は飛鳥のそんな視線に対して、十字剣をひゅんっと一振り。そして一つ問いかけた。

 

「なぁ飛鳥ちゃん。お前、自分がどれくらいの実力を持ってると思ってるんだ?」

「……どういうことかしら?」

「例えば、例のニャンコと君が一対一で戦った場合、どっちが強いと思う?」

「……そりゃあ私よ。実際、勝ったもの」

「じゃあ、俺が叩きのめしたルイオス君と戦ったら?」

「……ルイオスの方が強い、かな?」

 

 珱嗄はその答えを聞いて、溜め息を吐く。そして前髪をくしゃっと弄りながら視線を飛鳥に送った。

 

「いいか、良く聞け。お前の強さははっきり言ってノーネームの戦闘要員の中じゃ最弱だ。ウサギちゃんよりも、レティシアちゃんよりも、耀ちゃんよりも、十六夜ちゃんよりもな。そして、今言ったガルドとルイオス。この二人もはっきり言ってお前より上だよ」

「なっ……!?」

 

 飛鳥は言葉に詰まった。ノーネームの中で最弱と言うのは分かる。ルイオスよりも下と言うのも分かる。でも、かつて勝利したガルドよりしたとはどういう事か。

 

「お前の威光のギフトは相手に命令しなければならないよな? ということはだ。命令する前に倒してしまえば良い。それこそ、一言言い終わるまでに1,2秒は掛かる。それだけあれば虎の脚力でどうにでもなる。それに、お前はこの剣をニャンコの喉に突き立てる事で勝利を得たらしいが、この剣だって向こう側が用意したものだろう? 元々は無手だった筈だ。それなのに、お前はあのニャンコに勝てると言えるのか?」

「うぐ………」

 

 飛鳥は何も言えない。言っている事が全て正論だからだ、自分のギフトは現在、命令を言葉にしないと効果を発揮しない上に、命令を出す自身は酷く脆い。

 事実、ガルド戦は飛鳥よりも実力は上の春日部耀がやられたのだ。飛鳥が勝てたのは単に、状況と相手の状態が飛鳥にとって都合の良いものだっただけ。

 

 例えば、ガルドが剣を用意していなかったら? 例えば、ガルドが理性を持って冷静に戦って来ていたら? 一対一の制限がある中で、飛鳥が勝利することはほぼ不可能だ。何故なら、向こうは野生の鋭い感覚と、一体化した爪や牙と言う武器が有るのに対し、彼女は斬れば赤い鮮血を噴き出す様な柔らかな肌に、武器に出来そうなものすら持たないギフト便りの少女だ。実力差は歴然である。

 

「お前はお前が思っている以上に、弱いよ」

「………じゃあどうすれば……」

「だが、だからこそ、俺がその欠点を補正してやる。矯正してやる。修正してやる。俺のギフトや今までの経験を使って、最低でもガルドを瞬殺する位に鍛え上げてやるよ」

 

 その為に使う時間は、一晩だ。かつての完璧超人の兄は、子猫を一晩で虎へと変貌させる事が出来たし、かつての平等な人外は四ヵ月で普通の人間を非凡な人物達と並び立てるほどに成長させた。

 ならば、この最低の人外は、一晩で良いトコのお嬢様を最前線で戦い舞う戦乙女へと変貌させて見せよう。それくらい、簡単な事なのだから。

 

「それじゃあ始めようか。まず、お前にはギフト云々は使わせない。ただその剣を使って戦って貰うぞ」

「え」

「さぁて、長い長い夜の始まりだ」

 

 珱嗄はそう言って、両手を広げてゆらりと黒い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 かくして、時間は翌日へと進んで行く。少女はどのように変化するのか、それはまだ人外の彼しか知りえない。

 

 

 

 

「あ、そうだ。修行中に変な所に触っても不可抗力だから」

「ふざけんな!」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。