◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、珱嗄の策略によって、レティシアから齎された手紙は、十六夜達を思い通りに、狙い通りに動かした。
十六夜達は面白そうだという理由で、問題児三人、火龍誕生祭へと赴く事にした。また、黒ウサギが隠していたという事で、黒ウサギに自分達を捕まえないとコミュニティを抜けるという置き手紙までして出て行ったのだ。本当に思い通りに動いてくれる物である。
そして、珱嗄も問題児達の向かう先へと出向いていた。転移のギフトはその効果を存分に発揮し、ほんの一瞬の瞬き程度で珱嗄をずっと遠くの火龍誕生祭会場へと移動させた。
珱嗄がいない以上、彼らが頼るのは白夜叉だ。となれば、何れ此処にもやって来るだろう。興味は無いが。
「さてさて、俺は工芸品には興味はないけど、随分とまぁ活気のある祭りじゃないか。思わずぶち壊したくなるね」
物騒な事を言いながら明るく彩られたお祭り雰囲気の街を歩くのは、本作の主人公である珱嗄である。一足先に街にやってきたので、一人寂しく散歩しているのだ。
見ればそこらじゅうが工芸品や美術品の展示で彩られており、コミュニティの旗印や名前がそこらじゅうに表示されていた。それこそ、この祭りに参加しているコミュニティの数だけ。
「……そういやギフトゲームもやるって言ってたけ……俺が出たら興醒めか、止めとこう」
この判断は、この祭りを台無しにするかしないかの重要な判断なのだが、そんな物は珱嗄の匙加減。気まぐれ半分悪意半分でこの祭りは壊れていた。今回はそれが壊されない方向に向かっただけ。
「……」
というか、珱嗄の一人歩きの状況だと何も展開が進まない上に会話も続かない。独り言も多すぎれば唯の変な人だ。
「あーあ、本当にこの祭りぶっ壊してやろっかなぁ」
「恐ろしい事を言うでないわ!」
「ん?」
珱嗄は自分の独り言に返事が返ってきたので、後ろを振り向いた。そこには珱嗄よりも随分と背の低い少女が腰に手を当てて不機嫌に佇んでいた。そう白夜叉だ。
「白夜叉ちゃんか。どうしたよ、十六夜ちゃん達はどうした?」
「あ奴等はちゃんとこっちに連れてきておるわ。おんしには少し頼みごとが有るのだ」
「俺に?」
「おんし、というよりはノーネームにじゃな」
「へぇ、言ってみろ」
珱嗄は白夜叉がどんな事を持ちこんでくるか少しだけ期待し、話を促す。すると、白夜叉は一つ頷き、腕を組みながら簡単に話し始めた。
「何、そう難しい事では無い。実は―――」
白夜叉の頼みとは、コミュニティノーネームの方針【打倒魔王】という物を知って、火龍誕生祭の主権者である東のフロアマスターから頼みがあるらしいということ。
今回の大祭は東のフロアマスターが世代交代した事で、そのお披露目も掛かっているのだ。よって、その事もあって祭りを盛り上げてほしいという事。
また別として、サウザンドアイズのメンバーの一人がこの火龍誕生祭で魔王が動きだすという予言をしたので、魔王が動いた際に協力してほしいということらしい。
「ふーん……ちょい待ち」
「む?」
珱嗄はその話を聞いて、少し眼を閉じた。白夜叉はその様子に怪訝な表情を浮かべる物の、何かをするつもりなのか珱嗄がギフトを発動させたのを感じ取ったので黙る。
そして珱嗄が数秒そうしたあと、目を開けた。
「どうした?」
「確かに魔王ちゃんが来るみたいだね。なるほど中々どうして、可愛らしい魔王様だね」
「おんし、どのような魔王が来るのか分かったのか!?」
「まぁね。ヒント位ならあげるけど……欲しい?」
珱嗄のギフトは2000京。その中には当然、未来予知のギフトもある。珱嗄としてはあまり使わないギフトなのだが、魔王が来ると言うのが本当かどうかを確認したのだ。
「まぁ情報は有るに越した事は無いの」
「ふーん。じゃあ……【ハーメルンの笛吹き】とだけ言っておこうか。さて、それで十六夜ちゃん達はどうしたよ?」
「ハーメルンの笛吹き……分かった、心に留めておこう。で、小僧達じゃが、今は黒ウサギと追いかけっこ中じゃよ。耀の奴は既に掴まってしまったし、黒ウサギのスピードは小僧達と比較しても速い。何れ全員捕まるじゃろうよ」
「ふーん……じゃあいいや。じゃあ白夜叉ちゃん、聞きたい事が有るんだけど」
珱嗄は十六夜達の動向を聞いた後、すぐに切り替えて白夜叉に向かい合った。白夜叉はそんな追う嗄の様子に少し身構えた物の、すぐに真剣な表情で珱嗄に視線を送る。
「その依頼の話、十六夜ちゃん達にはまだしてないだろ? なんでわざわざ俺を探してまで最初に俺に話に来たんだ?」
珱嗄はコミュニティこそノーネームに入っている物の、打倒魔王を掲げているのは十六夜達だけだ。実際、珱嗄は打倒魔王など言って無いし、やるなら勝手にやれよというスタンスを持っている。
それなのに、白夜叉は敢えて珱嗄に話に来た。魔王の襲来に対する協力をしてくれ、と。
「……まぁそうじゃの。黒ウサギやレティシアからおんしが打倒魔王に協力的ではない事くらい聞いておる。じゃが、それでも私はおんしに協力してほしいのだ。聞けば、おんしは2000京ものギフトや3兆歳という年齢等々、規格外な
「まぁ否定はしないよ」
「じゃからこそ、おんしに頼みたい。下手すれば私よりも化け物染みているだろうおんしが協力してくれさえすれば、これほど心強い者は無い」
「ふーん」
珱嗄の力を一つ一つ説明していけば、確かに化け物にも程がある。くどい様だが2000京ものギフトにスタイルという力を持っていながら、それらを使わずとも身体一つで十分人外の域に居るのだ。寧ろこの七桁の外門にいる事が既に異常だ。周囲は全員雑魚同然なのだから。
「報酬は?」
「無論、満足いく物を出そう」
「へぇ……それじゃあ襲来してくる魔王の所有権を貰おうか」
「何!?」
「聞こえなかった? 襲来してくる、魔王を俺に隷属させろっていってんだよ」
魔王の隷属。そうでなくとも、魔王を珱嗄の所有物として認めろと言っているのだ。どのような魔王が来るにせよ、そんな事をするのはかのペルセウスのルイオスと同じである。
「まぁおんしが望むのなら、依頼中に現地調達で報酬を手にしてもらう事になるが……許可しよう」
「オッケー。それなら協力してやるよ」
珱嗄はそう言ってゆらりと笑う。そして、踵を返して歩きだす。白夜叉はそんな珱嗄の協力を得られた事に一時安堵し、隣に並んで歩きだした。
珱嗄は隣の白夜叉を一瞥しながら口元を吊り上げた。そして、至極くだらない事を考え始める。
(白夜叉ちゃん、レティシアちゃん、そして今回の魔王ちゃん……並べてお揃いの浴衣メイド着せてアイドルユニット結成しよう……ぷくくっ……! 絶対売れるよコレ)
本当にくだらない事を考えていた。何を考えているのだと思う。
すると、すぐ近くの建造物が大きな音を立てて崩壊していった。視線を向ければ十六夜と黒ウサギがじゃれあっているのが分かった。
「さて、白夜叉ちゃん。十六夜ちゃんも掴まった様だし、合流しようぜ?」
「うむ。耀の奴は既に話の出来る場所に行って貰っておる。案内するぞ、付いて来い」
白夜叉がそう言った後、珱嗄に肩車されて歩きだした。
「はっ! またかコラ! 降ろせ降ろせ降ろさんかい! 子供扱いするなぁ!!」
「わっはっは、白き夜の王と言っても大したことないなぁ!」
「こんの………降ろせえええええええ!!!!!」
白夜叉の悲鳴は、その場に居た通行者の視線を集めたのだった。