次の日。休日だ。
俺は待ち合わせ場所である駅近くのコンビニの前にいた。
いまになって思うが姫島は俺なんかとデートして何が面白いのだろう?昨日からそのことが疑問に思う。
周囲に目を配らせてみる。街路樹も多少秋の様相を見せてきているが、まだ少し夏の陽気は残っている。服装は長袖だ。特別暑くは感じないが半袖でも良かったくらいだな。
待ち合わせ時間である午前十時になろうとしたとき、フリル付きのワンピースを着た姫島が俺の眼前に来た
「来たか姫島」
「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」
「いや、時間通りだし待ったと言っても五分くらいだ」
俺にはよくわからないがたぶん姫島は年相応の服装なのだろう。いつもよりかわいいと思う。俺がじっと姫島を見ていると
「そ、そんなに見られていると恥ずかしいわ。……今日の私、変?」
そう不安そうに訊かれる
「いや、そんなことはないぞ。正直いつもよりかわいいと思ったくらいだ」
俺が自分の意見を言うと姫島は恥ずかしそうになりながらも嬉しそうだった。
「今日一誠くんは一日私の彼氏ですわ。……一誠、って呼んでも良い」
そう恥ずかしそうに上目使いで訊いてくる姫島
「ああ、好きに呼べばいいさ」
俺がそう言うと姫島は嬉しそうに顔をぱぁと明るくさせた。
「やったぁ。ありがとう、一誠」
俺がそんな姫島を見ていると何か殺意めいたものが向けられる。それに心当たりがある俺は周囲を見渡す。すると―――。
……はぁ、やっぱりな。ため息をつく俺の視界に紅が映った。
よくよく見れば、少し離れた電柱の陰に紅髪の悪魔がサングラスと帽子を被って、こちらをうかがっている。……あ、メガネをかけた金髪の方は涙目だ。それとレスラーの覆面から猫耳を出している小柄な少女。紙袋を被った怪しい吸血鬼。そして普段の格好の木場がこちらへ頭を下げて謝っていた。
……はぁ、小猫はあとあと修行を追加だな。せっかく仙術が使えるんだからもう少し気配をどうにかしろよ。
……それにしてもこいつら、俺と姫島のデートを盗み見する気だったのか?暇人どもめ
「あらあら、浮気調査にしては人数多すぎね」
姫島も気がついたのか、小さく笑んでいた。
そして、見せつけるかのように俺に身を寄せてくる。
バキッ。
鈍い音が後方からする。振り返ると怒りに震えている様子のリアスが電柱にヒビを入れていた。
……おいおい、器物破損だぞ、それ。
「行くか」
俺はそんなリアス達を無視して姫島にそう言う
「ええ」
こうして、俺と姫島は町へと繰り出したのだった。
デートを始めて三時間ほどが経過した。
その間、姫島は普段のおとなしさを忘れたようにはしゃいでいた。服のブランドショップに行っては『ねえ、一誠。これ、似合う?』『それともこっちかしら?』って洋服を比べては俺へ訊いてくる。正直俺に訊かれてもどうすればいいのかわからん。クレープを食べている時とか手を繋いで幸せそうにしている姫島を見てこういうのもいいかと思える。
「姫島。水族館とゲーセンにでも行くか?今日はおまえの好きな所に付き合ってやるよ」
俺がそう言うときょとんとしたようだがすぐに笑顔になり応じる
「うん」
そうして俺と姫島は歩き始める。
「深海魚って変な顔の子が多いわね」
水族館から出たばかりの姫島は楽しそうにそう言った。
俺と姫島はゲーセンでひと遊びしたあと、水族館に入ったのだ。町中にある水族館なのでそこまで大きくはないが姫島が楽しそうなのでよしとしよう。たぶん傍から見たら俺たちは恋人に見えたのだろう。
そんな俺たちを陰から紅髪の追跡者ご一行が迫ってきているわけだが……。なぜかしらんが俺にプレッシャーを放っている。なぜだ?
リアスたちが水族館から出てきたところで、姫島がそれを認識していた。俺に悪戯を思いついた子供のような笑みを作ると、俺の手を引っ張って走りだした。そして振り向き様、姫島は楽しそうに言った。
「リアス達を撒いちゃいましょう」
俺は特に反抗することなく走りだす。リアス達は俺たちが走りだすと慌てて追いかけ始めた。姫島に引かれるまま、町中を右に左にの走りまわり、リアス達を撒こうとする。
数分走ったところで、小道に入り、そこで身を潜める。
物陰からリアスたちが通り過ぎていくのを確認してから、一泊開けたあとで俺と姫島は通路へ出ていく。
「うふふ、リアスたちを撒けたみたい」
姫島はそう言って舌をぺろっと出して楽しげに笑う。まぁ、姫島が楽しければそれでいいか。などと思いつつ周囲を見回してみると……。俺の視界には「休憩○円」「宿泊○円」の文字があちらこちらにある。そう辺り一面はラブホテルばかりだったのだ。
「行くぞ、姫島。誰かに見られたら誤解されそうだ」
俺は早足にその場を離れようとしたときだった。いきなり姫島に服の端を掴まれる
「……姫島?」
俺は訝しげに思い振り返ると、顔を真っ赤にした姫島がもじもじしながら、つぶやく。
「……いいよ」
……は?いいよ?何がだ?
どう返答していいかわからない俺に姫島は意を決したように真正面から言ってくる。
「……一誠が入りたいなら、私、いいよ。……だいじょうぶだから」
その言葉に俺はくらっときた。こいつは何を言っているかわかっているのだろうか?俺はあくまでアザゼルに頼まれたから今回姫島とデートしているだけであって邪な考えは一切ない。それにこんな行き当たりばったりでやるのは俺の本意でもない。ここは断るべきだ。そう思って俺は姫島に話しかけようとした時だ。後ろから見知った気配が近づいてくる。……はぁ、なんでここにエロジジイがいるんだ?俺は後ろにいる奴に話しかける
「……はぁ、なんのようだ?オーディン」
「なんじゃ、気づいておったのか。それにしても、まったく、昼間っから、女を抱こうなどとやりおるわい。のう、兵藤?」
そこに現れたのは帽子を被ったラフな格好のジジィ。その後ろには見覚えのある堕天使と前に一度だけ見たことのあるヴァルキリー。
「ほっほっほ、久しいの。ワシじゃ。北の国から遠路はるばる来たぞい」
眼帯姿のジジイは楽しげにいやらしく笑っていた。後ろで驚く気配を感じる。
「オーディンさま!」
姫島が驚いたように声を上げる。
「ほっほっほ」
「ど、どうして、ここに?」
あまりの展開にわずかながらに戸惑いながらもオーディンに話しかける姫島。確かにテロが活発な時期にこんなところに来るなんて不用心だと思うだろう。
「オーディンさま!こ、このような場所をうろうろとされては困ります!か、神様なのですから、キチンとなさってください!」
オーディンのお付きであるヴァルキリーがオーディンを叱るが当の本人はどこ吹く風だ。
「よいではないか、ロスヴァイセ。お主、勇者をもてなすヴァルキリーなんじゃから、こういう風景もよく見て覚えるんじゃな」
「どうせ、私は色気のないヴァルキリーですよ。あなたたちもお昼からこんなところにいちゃだめよ。ハイスクールの生徒でしょ?お家に戻って勉強しなさい勉強」
……うぜぇ。このヴァルキリー殺してやろうか?などと思いつつ横を見ると姫島がもう一人のがっちりとした大男に詰め寄られている。
「……あ、あなたは」
姫島は目を見開いて、驚いている。……まぁそうだよな
「朱乃、これはどういうことだ?それに兵藤、貴様もだ」
男の方はキレ気味で、声音に怒気が含まれている。
「……か、関係ないでしょ!そ、それよりもどうしてあなたがここにいるのよ!」
姫島は目つきを鋭くして、にらみ付けていた。そこには先ほどの楽しそうな姫島の雰囲気は微塵もない。
「それはいまはどうでもいい!とにかく、ここを離れろ。おまえにはまだ早い」
姫島の腕を掴み、強引に何処かへ連れて行こうとする
「いや!離して!」
姫島は必死に抵抗していた。……はぁ、しかたねぇな。
「おい、一回その手を離して落ち着け」
俺がそう言うと先ほどより怒気の含まれた大声が返ってくる。
「黙れ!これは俺達親子の問題だ!そもそもなぜ貴様が朱乃とこんなところにいるんだ!」
俺は耳に手を当てながら言いかえす。
「姫島に誘われたからデートに来てたんだよ」
「デート!?朱乃とか!なぜ断らなかった!貴様は普段物事に対して関心が無かっただろうが!」
一々大声をあげてくる大男―――バラキエルは姫島の腕を掴んだまま俺に詰め寄ってくる。
「前にアザゼルに頼まれたんだよ。ダチの娘だから気にかけてやってくれって。だからこうしてデートにもつきあったんじゃねぇか」
俺がそう言うとバラキエルよりも早く姫島が動いた。
「……なによ、それ。アザゼルに頼まれたからしかたなく私とデートしたってこと?」
バラキエルの手から逃れた姫島はそう言って俺に近づいてくる。
「……ばか!!!」
そう言ってビンタを放ってくる姫島。俺はそれを半歩下がることで回避する。
「バカバカバカバカ!!!」
そう言ってその場から逃げるように走りだす姫島。……なにかあいつを怒らせるようなことをしたか?
「朱乃!」
姫島を追いかけようとしているバラキエルの腕を掴む。
「離せ!」
「おまえはとりあえず落ち着け」
そう言って俺はバラキエルの腹を一発殴る。それに耐えられなかったようでその場に崩れ落ちる。
「……ガハッ、いきなりなにをする」
片手で殴られたところを抑えながら俺にそう言ってくる。
「落ち着けって何度も言ってんだろ」
俺がそう言うとさらに苦悶の表情を浮かべるバラキエル。その瞳にはなにか諦めが張り付いていた。
「…………なぁ、兵藤。俺におまえ程の強さがあったら朱乃を守れたのだろうか?」
「……そんなの知るか」
俺はそう言ってその場をあとにする。どうせあとで会うことになるだろうし
「ほっほっほ、というわけで訪日したぞい」
リアスが勝手に改装したせいで我が兵藤家の最上階にあるVIPルームでオーディンのクソ爺は楽しそうに笑っている。
今、我が家にはグレモリー眷属全員とアザゼル、バラキエルとクソジジイの護衛であるヴァルキリーがいる。
結局姫島とのデートは中断。いつもの笑顔はなく俺やバラキエルと視線すら交わさない。……はぁ、めんどくせぇな。
「どうぞ、お茶です」
リアスがクソジジイに笑顔で茶を出す。
「あー出すな出すな、んなもん。このクソジジイをもてなす意味なんてないからな」
「ちょっと一誠」
俺がそう言うとリアスは俺を咎めるような視線を向けてくる。―――ここは俺の家だぞ?いっぺんこいつ追い出してやろうか?
「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。そっちもデカいのぅ」
このクソジジイはリアスと姫島の胸を交互にいやらしい目で見ている。こんなのが世界で名高い主神なのだから世も末だ。
「もう!オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです!こちらは魔王ルシファーさまの妹君なのですよ!」
護衛のヴァルキリーがオーディンの頭をハリセンで叩いていた。
クソジジイは頭をさすりながら半眼になっていた。護衛にハリセンで叩かれる神なんてこいつくらいだろう。
「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんさんでグラマーじゃからな、それりゃ、わしだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはワシのお付きヴァルキリー。名は―――」
「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」
ジジイの紹介でヴァルキリー―――ロスヴァイセがあいさつする。前はあんまり興味がなかったからほんの少し見た程度だが改めて見ると若いな。年齢は同じくらいか?
「彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」
ジジイがいやらしい表情でそう言う。するとロスヴァイセは酷く狼狽しだした。
「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁっ!わ、私だって、好きで今まで彼氏ができなかったわけじゃないんですからね!好きで処女なわけじゃないじゃなぁぁぁぁぁいっ!うぅぅっ!」
ロスヴァイセはその場に崩れ、床を叩きだした。うるせぇな。あんまり騒ぐようならクソジジイもろとも外に追い出すか。
「まあ、戦乙女の業界も厳しいんじゃよ。器量よしでもなかなか芽吹かない者も多いからのぉ。最近では英雄や勇者の数も減ったもんでな、経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向での、こやつもワシのお付きになるまでは職場の隅にいたのじゃよ」
ジジイはうんうんうなずきながらそう言う。世知辛ぇな北欧。
アザゼルがやり取りに苦笑しながらも口を開く。
「爺さんが日本にいる間、俺達で護衛することになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要因だ。俺も最近忙しくて、ここにいられるのも限られているからな。その間、俺の代わりにバラキエルが見てくれるだろう」
「よろしく頼む」
と、言葉少なめにバラキエルがリアス達にあいさつをする。
「爺さん、来日するのにはちょっと早すぎたんじゃないか?俺が聞いていた日程はもう少し先だったはずだが。今回来日の主目的は日本の神々と話しをつけたいからだろう?ミカエルとサーゼクスが仲介で、俺が会議に同席―――と」
アザゼルが茶を飲みつつ訊いた。
「まあの。それと我が国の内情で少々厄介事……というよりも厄介なもんにわしのやり方を非難されておってな。事を起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ。日本の神々といくつか話しをしておきたいんじゃよ。いままで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」
ジジイは長い白ひげをさすりながら嘆息していた。
「厄介事って、ヴァン神族にでも狙われたクチか?お願いだから『神々の黄昏』を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」
アザゼルは皮肉げに笑っていた。まぁ、俺に迷惑かけねぇならジジイが死のうがラグナロクが起ころうが俺は知ったこっちゃねぇけどな。
「ヴァン神族はどうでもいいんじゃがな……。ま、この話をしていても仕方ないの。それよりもアザゼル坊。どうも『禍の団』は禁手化できる使い手を増やしているようじゃな。怖いのぉ。あれは稀有な現象と聞いていたんじゃが?」
リアス達グレモリー眷属は皆驚いた表情をして顔を見合わせていた。
「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカがてっとり早く、それでいて怖ろしくわかりやすい強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。それは神器に詳しい者なら一度は思いつくが、実行するとなると各方面から批判されるためにやれなかったことだ。成功しても失敗しても大批判は確定だからな」
「それってやっぱり……」
木場のその言葉にアザゼルはうなずく。
「リアスの報告書でおおむね合っている。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦だよ。まず、世界中から神器を持つ人間を無理矢理かき集める。ほとんど拉致だ。そして、洗脳。次に強者が集う場所―――超常の存在が住まう重要拠点に神器を持つ者を送る。それを禁手に至る者が出るまで続けることさ。至ったら、強制的に魔法陣で帰還させる。」
アザゼルは一度茶を飲み話しを続ける。
「これらのことはどの勢力も、思いついたとしても実際にはやれはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向かって同じことをすれば批判を受けると共に戦争開始の秒読み段階に発展する。自分達はそれを望んでいなかった。だが、奴らはテロリストだからこそそれをやりやがったのさ。人間をそんな方法で拉致、洗脳して禁手にさせるってのはテロリスト集団『禍の団』ならではの行動ってわけだ」
「それをやっている連中はどういう輩なんですか?」
木場の問いにアザゼルは話しを続ける。
「英雄派のメンバーは伝説の勇者や英雄さまの子孫が集まっていらっしゃる。身体能力は天使や悪魔にひけを取らないだろう。さらに神器や伝説の武具を所有。その上、神器が禁手に至っている上に、神をも倒せる力を持つ神滅具だと倍プッシュなんてものじゃすまなくなるわけだ。報告では、英雄派はオーフィスの蛇に手を出さない傾向が強いようだから、底上げにかんしてはまだわからんが」
「……っは」
俺はアザゼルの話しを聞き、それを笑い飛ばす。
「どうした兵藤?」
「くだらねぇいいわけをしてんじゃねぇよアザゼル」
俺がそう言うと怪訝そうな表情をするアザゼル。アザゼルだけではない。此処にいる全員が同じ表情をしている。
「おまえら堕天使は危険だと判断している神器所有者を拉致か殺していただろ。悪魔は強ければ無理矢理に眷属にしている奴らもいる。他の勢力だって似たり寄ったりだ。あいつら神器所有者たちは洗脳なんかされちゃいない、自分たちの意思でおまえらを滅ぼそうとしてんだよ。それはアザゼル、おまえも気づいてんだろ?」
俺がそう言うと表情に影を落とすアザゼル。
「……ああ、確かにそうだ。俺たちは自分達に危害が加わる可能性がある神器所有者を拉致または殺害してきた。それは組織として当然のことだろう?将来外敵になるかもしれない者を事前に察知して始末出来れば、始末しておきたい。将来厄介な敵として現れないように弱い状態で始末するのは当たり前のことだ」
「ああ、だがそれはおまえたちの都合だ。おまえたちは英雄派を極悪非道の悪として扱っているが俺からしたらどっちもどっちだ」
「俺達が『禍の団』と変わらないと言いたいのか?」
アザゼルとバラキエルの顔に怒気が含まれる。
「そう言ったんだよ。たとえ神器所有者に殺されようがおまえたちには恨む権利すらない。散々おまえたちがしてきた事なんだ。当然だろう?」
「だが、あいつ等はまったく関係ない一般人も巻き込もうとしているんだぞ!戦う力もない幼い者たちでさえあいつ等は殺そうとしているんだぞ!!」
バラキエルが俺に怒鳴ってくる。
「おまえらも危険と判断した神器所有者はたとえ幼くったって殺してただろ?因果応報、自業自得だな」
俺が鼻で笑いながらそう言うとバラキエルは沈黙する。
「まさか、おまえ『禍の団』に強力するつもりか?」
アザゼルが俺に警戒しながら俺にそう問いかけてくる
「そんなつもりはねぇよ。ただ英雄派がおまえたちを殺そうが俺は関与しねぇって言ってんだよ。まぁ、俺を狙ってくるってんだったら話しは別だけどな。アーシアは守るがリアスや姫島たちは助けねぇからな。もしリアスたちが死んだらそんときはサーゼクス達を恨めよ、おまえら」
俺がそう言うと愕然とした表情になるリアス達。
「一誠」
「俺はサーゼクスに頼まれたから今まで何かあれば手を貸してやったが今回はなしだ。リアス、おまえは自分が常に正しいと疑わねえだろう?自分の眼で見て世界ってのを知ると良い」
「一誠、どうしてそういうことを言うの?」
リアスは今にも泣きそうな表情で俺にそう言ってくる。
「英雄派が思っていることになんとなく共感できるからだ。あいつらはおまえら人外に散々酷い目にあわされてきた奴らだ。なら、今回連中がしようとしてきていることは力による報復だ。今までおまえら人外が力で酷い目に合わせてきた事への復讐だ。だったら俺が手を出すべきことじゃない。おまえらが今までしてきた事ってのはそういうことだろ?」
「……確かにそうなのだろうな。俺たちは今まで殺されても仕方のないことをしてきた。英雄派の中には俺達堕天使を殺したほど恨んでいる奴らもいるだろう。だが、それも俺たちがしたことで関係ない者もいるんだ!たとえ俺たちへの復讐だとしてもそれを受け入れるわけにはいかないんだ!だからもしもの時はそいつらだけでも守ってやってくれ!頼む!」
そう言って俺に土下座してくるバラキエル。
「……はぁ、いいだろう。ただし条件付きだ」
俺がそう言うとアザゼルが条件を訊いてくる。
「条件?なんだ?俺たちに用意できる物なら極力用意する」
「物とかじゃねぇよ。もし英雄派の連中の中にただ単に力に溺れているだけってのがいたらそいつは俺がぶち殺す。もし復讐とかだったらてめぇらでどうにかしろ」
「……なあ、どうしてこんなこといいだしたんだ?」
アザゼルが俺にそう訊いてくる
「昨日の神器所有者な。俺のことを裏切り者呼ばわりしたんだよ。人外だから無条件で恨んでいるんじゃなくて理由が有って恨んでいたんだ。ようは英雄派とおまえたちの意思のぶつけ合いだろ?なら、俺が手を出すなんて無粋じゃねぇか」
「今までそんなこと気にもしなかったじゃねぇか」
「ああ、俺は今まで自分に襲い掛かってくる奴らは全員ぶちのめしてきた。貫き通したい意思があるなら、覚悟があるなら、自分の力で通せばいい。いつの世も最後に物を言うのは『力』だ」
「強者の台詞だな」
「だが、世界の真理でもある。それにおまえも世界から見たら十分な強者だろ?自分の守りたい物のために力を振るってきたんだろ?だったら今回もそうすればいい。弱い者の意思を踏みいじり自分の意思を貫けばいい。それだけの話しだろ?」
「……ああ、そうだな。確かにそうだ。相手がどうかなんて関係ない!俺は俺の守りたい物のために戦うだけだ」
そう言うアザゼル。その瞳には苦笑が映っている。やっぱりわかっていて乗ってきやがったな。
「俺は自分の部屋に戻るからな。部屋の設備は好きに使えばいい。ただし、あまりにうるせぇようだったら家から追い出すからな」
俺はそう言ってその場をあとにする。やれやれ、バラキエルがあまりにもふぬけているもんだら挑発と発破をかけてみたがあれでよかったのか?あと、リアスたちがいつ誰に逆恨みされ襲われるかわかったもんじゃないからああは言ったが……。まぁ、あとはアザゼルがどうにかするだろう。オーディンのクソジジイもあの茶番に気づいていたようだし。
リアスたちは悪魔の中でも酷い事をしている連中がいることを知っているし実際に対峙もした。だが、その連中の所為で今まで理不尽な目に遭い、死ぬほど悪魔を恨んでいる連中と戦ったことはあまりない。そう言った連中はなにをしでかすかわかったもんじゃない。リアスたちは優しい。だからこそ悪魔を恨んでいる連中の気持ちを知ったときに自分たちが殺されても仕方がないと思うかもしれない。あいつらはサーゼクスたちと違って覚悟ができていない。だからこそ、いざって時のために心構えをしておかなければならない。その辺りをサーゼクスたちに頼まれた。
(随分やさしくなったじゃないか。相棒)
(そうか?)
(昔の相棒だったらそんなこと気にもしなかった。確かに相棒は確固たる信念を持っている相手にはある程度の尊重をしていた。だが、あいつらのようにそう言ったものが特にない者は気にもかけなかったじゃないか)
(確かにそうだ。でも、あいつ等には強くなってもらいたいと思ったんだよ)
(それはまたどうして?)
(さあな、俺にもわからん。だが、だからこそ今回のことはいい薬になるはずだ。『王』であるリアスは頭はいいが考え方が純粋だ。世の中が善と悪だけじゃないことは分かっているがそこ等辺を割りきれていない。あるていどそこ等辺をふっ切れさせることが必要だ)
(だからアーシア・アルジェントが攻撃された時守らなかったんだな?)
(ああ、もしリアスたちだけでも助けられるんだったらそれでもよかった。まぁ、俺も油断していたがな。―――リアスはどんな時でも冷静にアーシア達を指揮しなければならない。だからこそ仲間を失ったという状況を作り出した。確かにアーシアは大事だがずっと守ってやれるわけじゃない。俺とあいつらでは寿命が違うからな。だからこそ強くなってほしい。俺が守れなくても大丈夫なくらいに)
(とかなんとか言いつつ神滅具や英雄の子孫たちが来たら自分で戦うつもりなのだろう?)
(まあな。今回の英雄派は神滅具や神器所有者が大体だ。だからこそ、俺を楽しませてくれるかもしれない)
(おまえは歴代の中で最もドラゴンに近い気質の相棒だ。なによりも戦いを優先する。あまりに強すぎるから周りは誤解しているがおまえはヴァーリ・ルシファーよりも凶悪なドラゴンだよ。―――相棒。お前が満足する戦場があることを俺は願うよ)
そう言ってドライグは神器の奥底に引きこもる。
今回の話はいろいろとめちゃくちゃです。正直その場の勢いとノリだけで書いているので作者自身なんだこれって話になってしまいました。
なのはは三話目がもうすぐ書き終わります。なのはたちとの模擬戦の話を書いたけど……うん、まぁ所詮は主人公最強系だしね。
最近の悩みは一誠が強すぎるため戦闘描写が短すぎる事。酷いと1000字いかない時もあるし。そこら辺はこれから頑張りたいと思います。
あと、この作品は原作の11~12巻あたりで完結の予定です。(たぶんだけど)