IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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91話。
色々と端折ります。


新華の拒絶

 

 

 

 

IS学園、1050室。

一夏達が食堂で夕食を取っていた頃、新華は自室で立ったままハロ3機を同時に稼働させいくつもの作業を並行して行なっていた。

 

 

 

 

 

「………ガードシェル60機、配置完了か…。後は、ガナーウィザードとシールドの正式配備も完了。他に何かする事はあったか…?」

 

 

 

 

 

空中に多くのディスプレイが浮いている中、新華はソレスタルビーイングの現在情報を見ると同時に世界各国の情勢を見ていた。新華とヴェーダにかかれば、セキュリティなど有って無いようなものだった。

学園祭から日が経ち、新華は亡国機業からの襲撃を警戒してソレスタルビーイングの防衛機構を強化していた。

 

 

 

 

 

『------』

「ん? どうしたサヤカ。ってこれは…」

 

 

 

 

 

サヤカが慌てた様子で1つのディスプレイを新華の目の前にもっていく。そこに映っていたのは、亡国機業による『銀の福音』強奪未遂の情報だった。

 

 

 

 

 

「これ、時間的についさっきじゃ…ああ、当事者(福音)から直接聞いたのか」

『------』

「防衛は成功、亡国機業のISを退けたものの目立ったダメージは与えられず…待て。これ、福音からの情報、だよな」

『------』

「いや、精密すぎないか? 確か、凍結処理された筈だったろ」

『------』

「ハッキングって、福音がやったのか? 凍結は?」

『------』

「…自力で何とか、出来たのかよ…。まぁ、別にいいか。あ、福音のセキュリティを強化しておいてあげて」

『------』

 

 

 

 

 

福音からの情報、行動に驚き呆れる新華。間違い無く新華とサヤカの影響なのだが新華は目を逸らした。

 

 

 

 

 

「さて、襲撃したのは『サイレント・ゼフィルス』か…。この羽、蝶みたいだけど全く美しさを感じないな。何でだ? 月光蝶の映像を前世で見すぎたか? まぁいいか。亡国機業の次のターゲットは、かなりの確立でソレスタルビーイングだろうな。アメリカを先に襲ったのは、恐れていたか舐めプのどっちか…」

 

 

 

 

 

新華は次の亡国機業のターゲットを予想するが直ぐにやめる。

 

 

 

 

 

「ま、防衛機構の構築は順調だ。今襲撃されても訓練は十分してあるから問題無いだろう。………しまったな、やる事が無くなった」

 

 

 

 

 

新華は頭を掻いてベットに座る。それと同時に空中に大量に浮いていたディスプレイは消え、ハロ3機が通常モードで部屋を転がり回る。

 

 

 

 

 

「はぁ…ここのところ一夏達からの視線がうっとおしいからなぁ…。サボリがいつまで出来るか」

 

 

 

 

 

ベットに横になり呟く。

学園祭以降一夏は副会長として各部活に出向いたり専用機持ち達とトレーニングをしていたが、対して新華は最低限の仕事を生徒会室で行う以外は授業をサボっていた。

理由は、学園祭の時に新華がサーシェスを惨殺して嗤った事で、一夏達が新華の事を変に意識し空気が重くなるからだ。一夏達と新華の間に溝があるのを感じ取った女生徒達からの追求や、箒への虐めを見て見ぬ振りをするのがいい加減辛くなってきた新華は、教室に居る事すら嫌になり授業をサボるようになっていた。

通常は屋上で昼寝をしているが千冬や楯無がしつこく授業に出るよう言ってくる。それを適当にあしらい『自分の存在はもう情操教育上いい影響を与えない』などと自論を並べ撃退していた。

 

 

 

 

 

「授業も出る価値は無いし…。新型の設計をしておくか。『キャノンボール・ファスト』もそろそろだし、高機動パックを…いらね。今のままで十分速いわ。というかトランザムがあるしクアンタは粒子転移出来るし。それにまた俺は除け者なんだろうな。まぁ当然っちゃ当然なんだが、つまらん」

 

 

 

 

 

ブツブツと不安を垂れ流す新華。人間、1人で居れば居る程、独り言が増えるものだ。一兎もそうだった。

 

 

 

 

 

「はぁ、少し腹減ったな。何か食いに行くか。ハロ達はどうする?」

「ハロッ、ツイテク、ツイテク」

「ミンナデ、イッショ、ミンナデ、イッショ」

「タノシム、タノシム」

「んじゃついてこい。サヤカはどうする?」

『------』

「耳元で怒鳴るな。まぁ脳量子波だから怒鳴るのは関係ないけど、あんまムキになるなよ」

『------』

「当たり前でも一応聞いて置く方がいいだろ。さて、行くか」

 

 

 

 

 

新華はサヤカを頭に乗せハロ3機を連れて部屋を出る。廊下には女子が何人か居たが、新華を見ると道を譲るか新華に一夏達と何があったのか聞いてこようとした。

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ青木君、織斑君達と何があったの?」

「………」

「あ、ちょ、ちょっと…」

 

 

 

 

 

無視して女子達の前を通常の速度で歩き抜ける。後に残された女子は呆然とするか無視する新華に戸惑っていた。

新華がそうして女生徒達をあしらって食堂に着く。

 

 

 

 

 

「さて、今日は何にするか…」

「あ、新華君。ご飯を食べに来たの?」

「「「「「!!」」」」」」

「…もう時間が時間ですからね。やる事も一通り終えましたし」

 

 

 

 

 

楯無が新華に声を掛けると、一夏達専用機チームは体を堅くする。

セシリアを含め一夏達専用機チームは楯無を覗き学園祭以降、新華から一定の距離を取っていた。あの新華の殺しと嗤いで怯えた者としては当然の事だが、新華は心底がっかりしていた。まぁラウラは一夏達に合わせていたようだったから新華の中で評価が上方修正されたが。

 

 

 

 

 

「ところで会長達も一夏ハーレム入りですか? 面倒なんで俺に迷惑が掛からないようにしてくださいね」

「冗談でもそういう事言わないでくれるかしら? …すっごく不愉快になったんだけど」

「どうでもいいです。今日はサバ味噌煮定食にするか…。ご飯大盛りでっと」

 

 

 

 

 

一夏達と一緒に居る生徒会チーム(虚除く)を見て、本当にどうでもよさそうに、新華は食券を買い定食を受け取り人が居ないテーブルに座る。

 

 

 

 

 

「ほら、ハロ達は大人しくしてろ。頂きます」

「「「イタダキマス、イタダキマス」」」

「お前らは言わなくていいんだよ。あむっ。うん、旨い」

『------』

「………はぁ~~~~~~」

 

 

 

 

 

楯無はその場の空気を完全に無視して定食を食べ始める新華の態度に深いため息を吐いて、新華の所に向かう。

 

 

 

 

 

「…新華君」

「…何ですか」

「そんなに意地張ってて辛くないの?」

「………無いですよ。それより、いいんですか? 一夏達がオドオドしてますけど」

「いいのよ。そこまで重要な話じゃなかったし」

「そうですか」

「………」

「………はぁ」

「「「「「「………」」」」」」

 

 

 

 

 

新華が黙々と定食を食べるのを見て再びため息を吐く楯無。そして

 

 

 

 

 

「よいしょっと」

「「「「「「!?」」」」」」

「………なんのつもりですか、会長」

「んー、ちょっとしたアピールよ。そうカッカしないで」

 

 

 

 

 

楯無は新華の横に座り新華に密着する。その行為に一夏達は驚くと同時に、簪とシャルロットは焦りを大いに感じる。しかし未だに新華に対する恐怖で動けなかった。

新華はその楯無の行動に顔を顰める。

 

 

 

 

 

「離れてください。食べにくいんで」

「そうやって何でも溜め込むと、壊れちゃうわよ?」

「!!」

「…今更です。それより、簪さんが心配してますよ」

「それで、キャノンボール・ファストの事なんだけど…」

「聞けよおい」

 

 

 

 

 

新華の言葉を無視して楯無は話し出す。そして、楯無の『壊れる』という単語に一夏は反応した。そして、思い出した。新華が公園で言っていた言葉を。その時の新華の様子を。

 

 

 

 

 

『自分でやっててふと我に帰る時があるんだよ。俺、何やってんだろって。思った所で罪が消える訳じゃないけどな』

「………」

『だけど一番許せなかったのは時々研究所の要請で出てきたISの操縦者達だった! あいつら政府の命令で俺ごと研究所を抹消する時、無差別に破壊して回っていた。だがそこはいいんだ。まだ命令で研究者達にも非はあるから。だが、アイツ等の破壊や殺戮をしている時の表情と会話が淡々とゴミ処理してるものだった! しかも仲間と話しているとき何て言っていたと思う?』

「………」

「…一夏?」

『でも未来の希望の象徴である子供達を道具の様に扱ったり人を人と思わないクズを俺は認めない。生かす気も無い。例え罪がこれ以上増えようと、止めない、止める訳にはいかない。ソイツらを野放しにすれば取り返しのつかない事になる。誰もやらないのなら俺が殺る。どんな扱いを受けようと』

「………」

「一夏、一夏ってば!」

「! あ、ああ。何だ?」

「何だじゃないわよ。どうしたのよ急に黙り込んじゃって」

「いや、ちょっと思い出した事があってな…」

「思い出した事?」

 

 

 

 

 

一夏は新華の言葉を思い出すと、少し新華への恐怖が薄くなったように思った。そして新華に向ける視線から剣呑な物が薄くなった。

本音が新華の所に歩いていく。

 

 

 

 

 

「そういえばあおきー、おりむーの誕生日が近いようだけど何か用意してるの~??」

「もう用意してある」

「「「「「「………はっ?」」」」」」

「………いつ用意したの?」

「用意したというか、作ってあります。この間の夏休みに家で。そうそう、ソレスタルビーイング関係で用があるので近いうちに休みますね。申請出しておきます」

「出して、帰れると思う?」

「強引にでも帰ります。重要な事なんで俺が確認しないといけないですし」

「んー…じゃあ私も着いて行っちゃおうかしらね」

「「!?」」

 

 

 

 

 

楯無の言葉に新華は淡々と返事をするが、簪とシャルロットは更に焦る。この後に及んで楯無にリードさせると勝ち目が無くなるかもしれないと思ったからだ。

 

 

 

 

 

「来なくていいです。っていうか来んな。アンタは生徒会で仕事しててください」

「つれないわねぇ」

「…というか、会長は俺が恐くないんで? 自分で言うのもアレですけど、俺、相当狂ってますよ」

「更識を舐めないでちょうだい。それに、私がその程度で新華君を手放すと思ってるの?」

「むしろ手放すというか排除する理由の方が多いと思うんですが。あとそろそろ手放してくれると非常に有難いですね。俺はそこまで人に想われる資格はありませんよ」

『怖いんだ。誰かと付き合うという事が。自分の大切な誰かが俺のせいで悲惨な目に遭って壊れてしまうのが。俺の、せいで、消えてしまうのが』

「………あ…」

「そんな事言わないの。私にとってはすっごく魅力的なんだから。その情報収集能力と戦闘能力、若くして持ったカリスマに技術力。そして、新華君という1人の人間が、ね」

「最後以外が、でしょう。俺にそんな魅力はありませんよ。一夏でもあるまいし」

「え?」

「そんな事無いわ。私のこの感情は本物よ」

「ふん、裏の人間の言う『感情』ほど信じられない物はありませんよ。ごちそうさまでした」

 

 

 

 

 

新華は定食を片付け楯無を冷たくあしらい、席を立つ。そしてそんな新華にマイペースな本音が尋ねる。

 

 

 

 

 

「あ、ねーねーあおきー。あおきーの誕生日っていつ~?」

「あ? そこの会長にでも」

 

 

 

 

 

聞け、と言おうとしたとき

 

 

 

 

 

「聞k「11ガツ、11ガツ」」

「ハロッ、23ニチ、23ニチ」

「ゲツヨウビ、ゲツヨウビ」

「………」

「「「「「………」」」」」」

 

 

 

 

 

ハロ3機が言ってしまい、食堂に沈黙が降りる。変えられる顔ではないのだが、新華にはどうしても足元に転がっているハロ達がドヤ顔しているようにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

「………、…ハロ達」

「「「ハロッ?」」」

「黙ってろ」ゴッゴッゴッ

「「「ハロッ!?」」」

「ったく…ま、そういう事だ。だけど無理して覚えてなくていいからな」

「え~なんで~?」

「…怯える対象と一緒に居たいか?」

 

 

 

 

 

そう言って新華は食堂を後にする。新華の拒絶は一夏達にとって憂鬱にさせられるものだった。

 

 

 

 

 

「…やっぱり新華は、僕達が怖がってるのに気付いてたね」

「そりゃ、あれだけやって私らもあからさまに避けちゃってたからね…。一夏より鋭い新華だったら当然気付くでしょ」

「そうだな…。だが、どうしてだろうか。私には新華が危うく感じられたな。今の篠ノ之のように」

「…私と?」

「ああ。はっきり言うが、今の篠ノ之の状況と新華の状況は似ている。『自分の行動で、それまでの日常が悪い方向に傾いた』という状況にな」

「………」

 

 

 

 

 

箒は専用機メンバーからの説明で自分の虐めの原因を既に理解していた。故に今は虐めを受けても現在は受け入れて我慢している。『自業自得』だと。そして、同時にそれでも以前と同じように接してくれている他の専用機持ち達に感謝し、自分がどれだけ馬鹿な事をしていたかを思い知らされるようで、心を削っていた。

 

 

 

 

 

「だが先程の拒絶が新華の本当の姿とは思えない。我々が新華を恐れたというのも原因だろうが…」

「それだけじゃないわ」

「お姉ちゃん…」

「あなた達も知っていると思うけど、一般には知らされていない新華君自身の行為とあなた達の身の潔白さが新華君にあの態度をさせるのよ」

「新華自身の、行為?」

「ええ。私は家柄上知っているわ。ラウラちゃんも立場上、そうでしょう?」

「…ああ。だが、そんな事を言ってしまえば新華は…」

「ええ。だから敢えてあんなに頑なに拒絶の態度を押し通しているのよ」

「「「「??」」」」

「そう、か…。新華の言っていた事って、そういう事だったのか…」

「…一夏?」

 

 

 

 

 

一夏の中ではパズルのピースがピタリとはまる感覚があった。あの時、公園から出る時の新華の自分達に対する感謝の意味がようやく分かった。しかし同時に、自分達がもう新華にとって『拠り所』ではなくなってしまった事も漠然と理解してしまった。

 

 

 

 

 

「俺達はもう、新華の『拠り所』じゃなくなってしまったって、事なんですかね…」

「え…?」

「かも、しれないわね。…新華君は多くの罪を背負って、その罪を意識しすぎちゃっているの。それに対して、あなた達は新華君の言う『罪』は背負っていない。だから自分にはあなた達と一緒に居る資格は無い。そう思っちゃってるのよ、新華君は」

「…そんな…」

「でも、そんなの悲し過ぎますよ。新華だって、俺達と同じ人間なのに…」

「「「「「「………」」」」」」

 

 

 

 

 

一夏達は再び沈黙してしまう。シャルロットはどうやって新華への恐怖心を無くして接するかを考える。そして簪は焦る気持ちを抑えて新華への自分の本当の気持ちを探していた。

 

 

 

 

 

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週末。新華は1人で朝から第3アリーナにてユニットFとユニットαの同時使用テストを行なっていた。第3アリーナには他にもIS操縦訓練をしてい()生徒達の姿が。しかし新華とクアンタの異形の姿に驚くと同時に、あからさまに複雑な操縦をする新華にため息を漏らしていた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

ファンネルを射出しながら特殊兵装『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』の作用で曲がる誘導プラズマ砲『フレスベルグ』を撃ち修正していく。時にはファンネルによる偏向射撃や重刎首鎌(じゅうふんしゅれん)『ニーズヘグ』による近接戦闘も織り交ぜていく。

 

 

 

 

 

「………」

『------』

「…ん」

 

 

 

 

 

更にαユニットによって巨大になったシルエットからは予測出来ない機動で移動し、時には足のプロペラントタンクでターゲットを翻弄、破壊していく。

 

 

 

 

 

「………今日はこのくらいにしておこう」

『------』

 

 

 

 

 

ファンネルがユニットαに戻り新華の頭にあったユニットFが回転、背中に逆さに固定される。新華はそのままピットへ移動しクアンタを解除した。

ハロ3機を出してユニットの現在状況と今の戦闘を振り返る。

 

 

 

 

 

「………ふむ(誤差は修正完了。フレスベルグの曲げ角度も調整済で試合用としては文句無し。αとの並列起動も大丈夫だな。ただやはり粒子の消費が激し過ぎる。試合では出来ないな。それにαでのAMBACで関節に掛かる負荷に異常値が出てる。質量の問題ならプロペラントを切り離すしかないか…)」

「…あの、新華さん? ちょっとよろしいですの?」

「………」

「えっと…」

「…ちょっと新華、返事くらいしなさいよ」

「………なんだ、鈴、セシリア。わざわざ勇気を出して」

 

 

 

 

 

新華は話しかけてきた2人をうっとおしそうに見る。新華の視線に2人はたじろぐが、セシリアはそれでも新華と話す事を選んだ。

 

 

 

 

 

「んんっ! 今の新華さんの訓練見させて頂きました。…新華さん、偏向射撃(フレキシブル)を使ってましたわね?」

「…ああ」

「…よろしければわたくしに偏向射撃をご教授願いたいのですが」

「…何?」

「セシリア、アンタ…」

 

 

 

 

 

新華と鈴はセシリアの申し出に驚いた。セシリアは普段自力で努力を重ね、誰かに教えを乞うような事はしない。特訓の成果を一夏などに見せる事はあっても、誰かに教えを乞う事などまず無かった。

なのにセシリアは恐怖の対象である新華に偏向射撃を教えてくれと頼んだ。いくら新華が偏向射撃を完全に物にしていたとしても、普段のセシリアなら無理してでも自分1人でなんとかしようとしていただろう。だが新華にはセシリアの行動理由が分かった。

 

 

 

 

 

「………BT2号機『サイレント・ゼフィルス』」

「っ!」

「…確かに偏向射撃位は出来ないと奪還出来ないだろうな。何しろ相手は強奪したうえで、堂々と1号機である『ブルー・ティアーズ』の目の前に出てくるんだ。セシリアに勝てるだけの確固たる自身があったと見て間違い無いだろう」

 

 

 

 

 

学園祭の時に現れたBT2号機『サイレント・ゼフィルス』。その登場に最も取り乱していたのはセシリアだった。当然だろう、自分の機体をベースに作られた兄弟機が強奪された挙句、敵として自分の目の前に出てきた。新華の言った通り相手は自分より強い可能性が高かった。

 

 

 

 

 

「加えて恐らく所属は『亡国機業』。…一筋縄では行かないぞ」

「百も承知ですわ。それでも、わたくしはやり遂げなければなりませんの」

「………だが敵は恐らく俺と同類だ。生半可な覚悟じゃ、殺されてブルー・ティアーズすらも奪われる」

「っ、それでも! わたくしがやらなくてはならないのですわ! ブルー・ティアーズはわたくしの誇り! その誇りと仲間を傷付けるような事を兄弟機にやらせるわけにはいきませんの!」

「………………」

「セシリア…」

 

 

 

 

 

セシリアの叫びに新華も鈴も何も言えない。新華はセシリアの覚悟と強い意思を受け止め、鈴は自分の甲龍(愛機)でも同じ事が言えただろうと思って。

 

 

 

 

 

 

「………俺の特訓は実戦に近いやり方だ。強く死を意識する事もあるかもしれん」

「…」

「それでも、やるか?」

「…無論ですわ。わたくしは、負けられないのですから」

「………鈴はどうする?」

「わ、私?」

「ああ」

 

 

 

 

 

新華はセシリアの隣に居る鈴に問う。鈴は自分が問われた事に戸惑うが

 

 

 

 

 

「……そうねぇ、あたしにとって偏向射撃の対策は必要だし、今は新装備のテストもしなきゃだし、あたしもやろうかしら」

「………簡単に言うな。お前ら、俺が怖いんじゃなかったのか?」

「「そ、それは…」」

 

 

 

 

 

セシリアと鈴は言葉に詰まる。だがセシリアはすぐに返す。

 

 

 

 

 

「わたくしはそんな事言ってられませんし、新華さんのような存在が敵なのなら、尚更やらなくてはなりませんわ」

「………鈴は?」

「…そうね。あたしも怖くないって言えば嘘になるわ。でも代表候補生がいつまでも怖がってらんないのよ。セシリアが言ったように、新華のようなのが来たら戦えるようになってないと笑われるからね」

「………そうか」

「そうよ」

「そうですわ」

「………お前らは強いな」

「「え?」」

 

 

 

 

 

新華は2人が眩しく見えた。自分という具体的な恐怖を前に怯んでも歩みを止めない2人が、羨ましかった。自分は虐めという恐怖に対して、歩み(考えること)を止めてしまった。かつての両親からの虐待に対して、歩みを止めて(殺して)しまった。だから、恐怖を超えようとする2人が眩しく、羨ましかった。

 

 

 

 

 

「…今から出来るが、どうする。やるか?」

「無論ですわ。早く習得して、最低でもキャノンボール・ファストには間に合わせたいですもの」

「あたしもセシリアだけが腕を上げているのを黙って見ている訳にはいかないしね。一夏も強くなってるし、置いてかれるのはゴメンだし」

「…そうか。分かった。纏めて面倒見てやる。覚悟しておけ」

 

 

 

 

 

そう言って新華はハロ3機を収納してクアンタを展開する。

 

 

 

 

 

「…ついてこい。早速始めるぞ」

「わかりましたわ」

「おっけー」

 

 

 

 

 

セシリアと鈴がそれに続く。新華との対話で、2人の視線からは新華に対する恐怖が薄くなっていた。

 

 

 

 

 




ソレスタルビーイングの防御が鉄壁に…どうしてこうなった…。
授業をサボって屋上で昼寝とか、これも青春の1つなんですが…新華がやると…。
簪さん、焦ってるって事は新華が好きなんですよアナタ…。まぁ恋愛経験とか皆無でしょうから大いに戸惑ってください。

セシリアと鈴に言った『纏めて面倒見る』はヒロイン3人に意味深で言わせたいですねぇ(ゲス顔

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