IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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89話
クアンタ(プラモ)を弄っていたら右腕の関節が折れて肘から先が取れてしまった!



新華に適用しようかな?





嘘です。


学園祭の終わり

 

 

 

 

---side 千冬

 

 

 

 

 

「織斑先生…」

「ああ…。これを、新華が?」

「はい。後で映像の方もお見せしましょうか?」

「ああ」

 

 

 

 

 

夜、新華が切れ暴れ回りサーシェスの惨殺死体があった場所に千冬、山田先生、楯無、虚、その他先生達が居て作業をしていた。

現場には簡易テントが建てられ、ブルーシートと仕切りの幕が貼られて隔離されていた。

 

 

 

 

 

「それで、身元の確認は出来たのか?」

「はい。こちらがその書類となっております」

「どれ………数年前に紛争地帯で死亡扱い、か」

「その時に亡国機業に参加したのでしょう」

「だろうな。それで、青木が破壊したISは?」

「奇跡的にコアを残して完全に大破してました。ですが…」

「どうした?」

「コアが、機能停止したまま動かないんです。外部からのアクセスにも反応せず、まるで閉じ篭っているみたいに」

「…そうか。確か、『アルケー』とか言ったらしいな」

「織斑君にはそう言ったようですが…」

「青木は『ヤークトアルケーガンダム』、と。………ガンダムとは何だ?」

「新華君の創った孤児院のMSの中にそんな名前の機体があったかと。確か、弟君の使っていた機体は『ウィングガンダムゼロカスタム』、動かない機体で『Oガンダム』と『ユニコーンガンダム』。そして」

「『Evolveクアンタガンダム』、か。MSの名称なのか、それとも…」

「本人に聞かないと分からないですね」

 

 

 

 

 

千冬もソレスタルビーイングとMSの事は知っていた。だが行った事など無く、生徒会として楯無が書いた報告書でしか知らなかった。

 

 

 

 

 

「で、その青木は今どうしてる?」

「部屋で大人しくしてくれているようです。あんな事をしたとは思えないくらい静かに」

「…そうか。苦労を掛けるな」

「いえ、新華君については好きでやってるのもあるんで」

「…怖くないのか? 青木は…」

「これでも新華君とは長い付き合いですし、そういう事をしていたという報告もありました。ですけど流石に今回のは堪えましたね…」

「…それでも青木を見捨てない(・・・・・)のか」

「あ、やっぱり見限らない(・・・・・)ではなく見捨てない(・・・・・)なんですね。織斑先生も彼の危うさを分かっているって事ですか」

「…一夏とは別の意味で目が離せなかったからな。そのくらいは分かる。…それで、目撃者は五反田兄妹だけだな?」

「はい」

「やれやれ…運が良いのか悪いのか…」

 

 

 

 

 

IS学園からすれば惨状を新華と一夏の関係者で抑えられた事という意味で運が良かった。厳重に口止めをするだけでいいのだから。しかし本人達にとっては予想だにしていなかった友人による惨殺を見てしまったのだ。運が悪いだろう。

弾は嘔吐で済んだが、蘭は気絶して目が覚めた時に恐怖に身を震わせていた。かなり強烈なトラウマになったのか震えは帰る時になっても収まっていなかった。

 

 

 

 

 

「それで、専用機持ち達は?」

「…皆自室に篭っています。特に織斑君と簪ちゃんは相当ショックだったようで、夕食を全く食べていなかったと」

「…他は大丈夫だったのか?」

「無理にでも食べていました」

「ふむ…青木の弟は?」

「既に帰宅しています。事情を聞きましたが、重大な事が。後で報告書に書きます」

「頼んだ」

 

 

 

 

 

千冬は新華は作った血溜まりの跡を見て顔を顰める。新華が自分の知らない所でどんどん離れていくような感覚があった。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---side 簪

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

簪は自分の部屋で今日の事を振り返る。

 

 

 

 

 

「………うっ」

 

 

 

 

 

新華の凶行を見た後、簪は一夏達と共に嘔吐した。新華の作り出した死体が、ついさっきまで自分達と同じく生きていた人間のものだと思うと、夕食も喉に通らなかった。

何より、それで嗤っていた新華が恐かった。彼女を殺していた時に言っていた言葉は簪には理解出来ない。新華が自分達が想像の出来ない戦争で多くを無くしたとしか漠然にしか分からない。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

簪は確かに新華の事が異性として好きである。だが新華の凶行を見た事でそれが揺らいだ。新華は人を殺せるし、殺した。その1つの事実があれば心を揺るがすのは簡単だった。

特に簪は新華に自分のヒーロー像を見ていた。自分を救ってくれる正義のヒーロー。だがそれは本当に正しかったのか? 新華のした事は確実に正義ではないと簪は思う。どんな理由があれ、人を殺すような事だけはしてはいけないと、そう思ってるから。

自分は新華の事を本当に好きなのか? 新華が助けてくれた事に恩を感じていただけなのではないか? 憧れて居たから緊張していたのを恋と錯覚していたのではないか。簪はそんな思いにとらわれてしまった。

 

 

 

 

 

「…私は、どうしたいんだろう…」

 

 

 

 

 

新華に恩返しはしたい。だけど、恐い。壊れた嗤いが出来る新華が、人を完膚なきまでに殺せてしまう新華が、恐かった。

とそこで、一夏ならいいのかと考えてみる。一夏は正義感が強く新華より爽やかだ。新華の言った通り主人公に相応しく、乗っている機体も主人公に相応しい白色で近接タイプだ。まさに簪が抱くヒーローのピッタリである。

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

 

だが簪には自分が一夏と一緒になるのを想像しても全く心が動かなかった。新華の事に関わると心が動くのに、一夏が関係しても全く反応は無かった。

というか、あの鈍感に呆れる事はあっても惚れる事は無いだろうと、根拠の無い確信があった

 

 

 

 

 

「………うん」

 

 

 

 

 

一夏に全く異性としての興味が無い事を確認して、新華とこれからどう接するか考える簪。そこで相変わらず自分が新華の事を知らないのを思い出した。

 

 

 

 

 

「………聞いてみよう…お姉ちゃんや一夏君、篠ノ之さん、凰さん達に…」

 

 

 

 

 

新華に聞いても答えてくれる事は無いので、自分よりも深い付き合いのある姉の楯無や新華の幼馴染に話を聞こうと決めた簪だった。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---side シャルロット

 

 

 

 

 

寮の自室、自分のベットの上でシャルロットは膝を抱えていた。

シャルロットには簪や一夏達程のショックは無かった。だが恐くなったのは事実だったが、簪とは違い自分の心を疑う事はしなかった。

というのも、シャルロットは以前自分と友人が誘拐された時に新華が誘拐犯のモラルが無い方を殺していたのを、警察に保護された後に聞いたのだ。新華が殺し自体をする事を知ってはいたのだ。だから、覚悟はしていた。

 

 

 

 

 

「でも、あれはなぁ…うっぷ」

 

 

 

 

 

その光景を思い出して顔を青くする。だが一番気になったのは

 

 

 

 

 

「新華、今まで何を見てきたんだろう」

 

 

 

 

 

攻撃している間に新華が口にした単語の数々。分からない事だらけの言葉には、新華の深すぎる悲しみが感じ取れた。

 

 

 

 

 

「ラウラはどう思う?」

「…ようやく独り言を止めたか」

 

 

 

 

 

隣のベットで何やら電子端末を操作しているラウラに声を掛ける。今までの独り言に間もラウラは居たのだが静かにしていた。

 

 

 

 

 

「どう、と言われても、私はIS学園に来た時からと軍内部での噂しか知らないからな。1つ言うとすれば、新華の抱える物が垣間見えたという事だな」

「抱える物…」

「シャルロットも気付いているだろう? 新華が私達では分からない事の中に、何か新華を新華たらしめる物がある事を」

 

 

 

 

 

シャルロットはラウラの言う通り薄々気付いている。新華は何か大きな秘密を抱えていると。

 

 

 

 

 

「今日の新華の叫びはそれらが新華の口から出てきたんだろうと、そう思う。今日の新華は、規模こそ違えどまるで私がセシリアと鈴を痛ぶった時に似ていただろう」

「あ…うん、そういえば」

「私は今日の新華を見て、あの時の事を思い出したよ。そして、一歩間違えていれば私もあのサーシェスとか言う女と同じ事になっていたのかもしれないと思うと、身震いがする」

「………あー…」

 

 

 

 

 

シャルロットは有り得た未来だと思った。どちらも新華の怒り様は凄まじいものであり、P・V・Fを使っていなかった今日の戦闘を考えると、ラウラが惨殺されてしまう事も有り得たと思う。そう考えるとゾッとした。

 

 

 

 

 

「今でこそ円滑にコミュニケーションが取れるが、当時は最悪な関係だったからな…。最も、私が1人意地になって空回りしていたと言えるが」

「………」

「話を戻すと、相手を殺したい程の怒りを持つ核となる経験が新華にはある筈なんだ。それが本来なら本や誰かから教わって『経験』とするんだが…どうやら新華はそれ以上の事を経験しているようだ」

「それ以上っていうと、やっぱり…」

「ああ、戦争だろう。だが」

「僕らの年代じゃあ戦争を経験する事は殆ど無い。特に新華と一夏は…」

「過去の記録上では外国に移動したのは1度だけ。そして新華が言っていたような激しい戦闘のあった戦争は世界大戦くらいで、年齢的に経験出来ない」

「うん。それに…『時間の止まった戦友を見るのが、どれだけ苦しかったか』だっけ?」

「ああ。だが人の時間を止めておく技術などコールドスリープ以外に思い付かん。しかしコールドスリープは1度行うと解凍されるまで直接見る事は出来ん。だが新華の言葉からは、かなりの頻度で直接見に行けたという事が伺えた。そんな事が出来る技術は無い」

「だよね…」

「結論から言えば、未だに分からない事だらけだという事だ。新華の事は」

「…やっぱりそうなっちゃうよね…」

 

 

 

 

 

シャルロットはため息を付いて膝と膝の間に顔を埋める。そんなシャルロットにラウラは提案をする。

 

 

 

 

 

「なら少しでも分かるように聞きに行くか」

「え? 誰に」

「忘れたか? いくら規格外でも新華も人の子。幼馴染である鈴や篠ノ之、そして嫁がいるだろう」

「あ、そっか。でも今一夏は…」

「ああ。だから、今からではなく明日に聞きに行こう。新華相手ではまず話してくれないだろうからな」

「そうだね」

 

 

 

 

 

取り敢えずやる事を決める2人。人間、不安や分からない事が多い時程、やれる事があると落ち着くものである。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

 

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---side 一夏

 

 

 

 

 

一夏もまた、今日の新華の凶行にショックを受けていた。しかし一夏には人が目の前で死んだ以外に思ってしまった事があった。

 

 

 

 

 

「なんで、何で俺は…新華を化け物(・・・)なんて思ったんだ…」

 

 

 

 

 

一夏は呟くが自分で理由は分かっていた。今まで一緒に居た幼馴染が、まるで化けの皮が剥がれたような印象を受けたからだ。確かに新華は一夏達と一緒に居る時は人を殺した事は隠して過ごしていた。そういう意味では化けの皮が剥がれたと言ってもいいだろう。

加えて今日新華はサヤカを奪われて何も出来なかった一夏と同じ状態になったのにP・V・Fを展開して戦闘をした。つまりP・V・FはISとは関係無く新華が使用しているナニカ。その事が新華を化け物と思う一因だった。

 

 

 

 

 

「何で、あそこまで人を殺したのに、笑っていたんだよ…」

 

 

 

 

 

今日の新華の嗤いを思い出す。以前、弾と共に公園で見たのとは壊れ具合のレベルが違った。

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

 

一夏に震えが走る。まるで今まで自分が知っていた新華が全て否定されるようで、なのに自分は笑っていた時の新華を信じていたくて。

 

 

 

 

 

「これから、どうする気なんだ、新華は…」

 

 

 

 

 

人を殺した事は重大な罪だ。新華もそれは理解していると一夏は思っている。ただ一夏は忘れていた。新華にとっては人を殺す事が初めてではないという事を。そして今まで後処理も情報規制もやってきた事を。

 

 

 

 

 

「…くそっ」

 

 

 

 

 

一夏は胸の内にあるモヤモヤを消費出来ずに、白式の待機状態であるガンドレットを握りベットに横になる。眠れない夜になりそうだった。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---side 五反田兄妹

 

 

 

 

 

「…蘭、大丈夫かー?」コンコン

『………』

「…夕食、ちゃんと食べないとじーちゃんが片付けちまうぞ。ちゃんと食べろよ?」

『…いらない』

 

 

 

 

 

五反田家、蘭の部屋の前。

弾は新華の惨殺現場を目撃してしまった後、気絶から回復した蘭を連れて帰宅していた。目が覚めた時の蘭は激しく錯乱していた。

何とかして無事に帰宅したものの、蘭は部屋に閉じ篭って出てこなかった。厳や蓮から心配されたものの、部屋からは一切出ようとしなかった。

 

 

 

 

 

「…いい加減に出てこいよ。じーちゃんもお袋も心配してるんだ。少しくらいは顔を見せろよ」

『………』

「…おい、蘭」

『うるさい…放っておいてよ…』

「………ったく、入るぞ」

 

 

 

 

 

弾は虚と相談した結果、少しビクビクしながら蘭の部屋に入る。虚からは『少し強引でもいいので、部屋から連れ出してあげてください。家族で話し合う事が一番心に優しいですので』と言われ、少しは兄として妹を助けてやろうと気合を入れていた。

 

 

 

 

 

「(あれ、そういえば蘭の部屋に入るのって久しぶりだよな。いつからだったか蘭に追い出されて入らなくなったよな)」

 

 

 

 

 

そう考えて部屋の中に入ると

 

 

 

 

 

「(お、おおぅ…)」

「………お兄、勝手に入ってこないでよ…」

「! …蘭」

 

 

 

 

部屋の中は年頃の女子のようにぬいぐるみや可愛らしいノートが多かった。ベットは可愛らしいピンクの布団で、蘭はその布団の中で蹲っていた。

 

 

 

 

 

「蘭…」

「………」

 

 

 

 

 

蘭は明らかにいつもの覇気無く、声から憔悴している事が伺えた。

 

 

 

 

 

「ほら、いいからメシを食おうぜ。どうせ寝れないだろ? 俺もそうだから」

「お兄…」

「…ここで蹲っててもなんにもならねぇぞ。ほら、飯だけでも食わねぇと」

「………」

「………ああ、くそっ! 今日はいつもの俺じゃねぇからな! 強引にでも連れてくぞ!」

 

 

 

 

 

部屋に入ったのだからと半ばヤケクソになった弾は何も考えずに蘭がくるまっていた布団を引きはがす。そして蘭の姿を見て驚いた。

 

 

 

 

 

「蘭、帰ってきてから、ずっとこのままだったのか…」

「うっさい…。乙女の部屋に勝手に入ってきた挙句に、布団を奪うなんてありえない…。変態なんじゃないの…」

「…いつもの覇気が無いから全然恐くないぞ。ほら、風呂に入れよ。でないと一夏に臭いとか言われるぞ。アイツは意識して気遣いなんて出来ねぇから」

「…う」

「ほら、まずは立てって」

 

 

 

 

 

そう言って弾は蘭の手を掴んで強引に立たせる。蘭は立っても俯いたままで歩こうとはしない。

 

 

 

 

 

「…おい、蘭」

「お兄は」

「ん?」

「お兄は、恐くないの? 新華さんが、恐くないの!?」

「………」

「あんな風に人を、殺してしまえる、新華さんが恐くないの!? 私達の目の前でヘラヘラ笑ってた裏では、あんな風に人を殺していたかもしれないのに!」

 

 

 

 

 

青い顔のまま蘭は叫ぶ。夜中だったがそれを注意出来る程、弾は空気が読めないわけではなかった。

 

 

 

 

 

「…確かにそうかもな」

「ならっ!」

「でもな、そうだったとして、何か変わるか?」

「………は? お兄何言ってんの…?」

「新華はな? ああ見えて色々と普通の男子な所もあるんだよ。確かに今日のアレはやり過ぎだと思うけど、絶対に何か理由があった。新華はいつだって何かをする時には理由を持って動いていた。そうじゃないか?」

「…確かにそうだけど、でも…!」

「それにな、俺と一夏は新華自身の口から人を殺した事があるって聞いたんだ。ほら、前に新華が店で俺らに色々言った時があっただろ? 丁度あの後出かけた時にさ」

「あの時に…?」

「そうだ。その時にな? 新華は確かに俺らの前で『怖い』って言ってたんだ」

「え?」

 

 

 

 

 

蘭は新華が言わなさそうな単語に驚いた。冗談かと思ったが弾の顔は至って真面目な表情だった。

 

 

 

 

 

「『もし自分の大切な人が自分のせいで悲惨な目に遭って壊れてしまうのが怖い』って。アイツ、モテてただろ? でも誰とも付き合ったりしなかった。自分がした事で誰かに被害が行くのを怖がってたんだよ」

「でも、それは新華さんの自業自得じゃない…」

「でもさ、それは新華がちゃんと自分のした事を自覚してるって事の証明じゃねぇか?」

「それは…」

「自覚してるんだったら大丈夫だろ? それに新華の言っていた事を信じるなら新華が殺してきた人っていうのは、口に出せない事を沢山してきて反省していない人達だったんだと。それなら普通に生活していればあの(・・)新華を見る事は無いだろ」

「でもっ、お兄はいいの!? 騙されてるかもしれないのに!」

「新華が、俺らを? もしそうなら新華は俺らにISの危険さを教えてくれねぇよ」

「でも…」

「…なぁ、蘭。怖がってないで少しは新華を信じてやろうぜ? 今まで新華は俺らの為にいろんな事をしてくれた。今度はせめて俺らが新華の良心を信じて、少しでもアイツの心の拠り所ってやつになってやろうぜ。アイツが間違った時は、1発殴れるようにさ」

「新華さんを、殴る…?」

 

 

 

 

 

弾の言葉に蘭は目を瞬かせる。新華を殴るという事もそうだが、普段情けない自分の兄から友人を殴るという言葉が出た事に驚いた。

 

 

 

 

 

「ああ。知ってるか? 新華ってああ見えて繊細らしいんだぜ? だから色んな事を考えて考え過ぎて、限界になっても止まらないんだ。誰かがそれを止めなきゃいけないだろ?」

「止める? お兄が、新華さんを?」

「あ、絶対に無理だとか言うなよ? 『世界に絶対なんて物はありはしない』って新華の言葉だからな? それに俺らって新華の心の拠り所らしい。出来れば女の子(虚さん)からそういう言葉を聞きたいんだが…もし本当にそうなら、俺らの言葉を聞いてくれるかもしれないだろ? 1発殴るくらいなら殺されたりしないだろ」

「………」

「ま、どんなに言った所で新華が聞かなきゃ無理なんだろうけどさ。なんにせよ、次に新華と会った時に怯えてちゃ何も出来ないだろ? ダチを怖がるなんてダチじゃねぇ。馬鹿な事は1発殴って止めてやるのがダチだろ?」

「………」

 

 

 

 

 

弾の言葉に蘭はまた顔を俯かせてしまう。弾はそれを見て失敗したかと思う。しかし直ぐに上がった蘭の顔色はすこし戻っていた。

 

 

 

 

 

「………」

「ら、蘭?」

「…出てって」

「へ?」

「ここは私の部屋だから出てって。ご飯食べる前にお風呂に入ってくるから、おじいちゃんとお母さんに適当に言っておいて」

「お、おい…」

「…いいから出てって。もう少し、1人で考えたいから」

「お、おう…わかった」

 

 

 

 

 

行き成り夕飯を食べると言い出した蘭に戸惑いながら、弾は『食べるって言ったし、まぁいいか』と思って大人しく妹の部屋から出ていく。ドアを締める直前に蘭の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「………お兄…その、あ、ありがと」

「お!? お、おう…」

 

 

 

 

 

完全にドアを閉めて、壁に寄りかかりへたりこむ弾。

 

 

 

 

 

「………はあああ~…無駄に緊張したー…!」

 

 

 

 

 

………色々と台無しである。大きく深呼吸して落ち着ける。

 

 

 

 

 

「まぁ、少しは良くなったから、結果オーライか? あ、じいちゃんに蘭が風呂入ってから飯食う事言っとこ」

 

 

 

 

 

立ち上がり一家で集まる居間に、頭を掻きながら向かう弾。

 

 

 

 

 

「あ、布仏さんにお礼のメールをしとこ…。相談して無かったらどうしていいか分からなかっただろうからな…」

 

 

 

 

 

だが先程蘭に言った『1発殴る』等は弾自身から出た言葉である。弾も色々と成長しているようである。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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新華は楯無の言った通り1050室で大人しくしていた。

 

 

 

 

 

「………」カタカタカタ…

 

 

 

 

 

新華はベットに腰掛け、白いハロ3号機の調整を行なっていた。簡単に終わらせる為に残ったハロ兄弟はコードで3号機とつながっている。サヤカは待機状態でハロ3号機のコネクタに差し込まれ、ユニットFにGN粒子をチャージしていた。

 

 

 

 

 

「………よし、こんな感じか。早速起動させてみるかね」カチッ

 

 

 

 

 

コードとサヤカを外し兄弟をまず起動させる。その後でハロ3号機のPCモードを閉じベットの上に置く。

 

 

 

 

 

「さあ、起きろ」

「………ハロッ!」ピコピコ

『------』

「オキタ、オキタ」

「オトウト、オトウト」

 

 

 

 

 

無事ハロ3号機は起動した。元気に飛び跳ねハロ兄弟と戯れ始める。

 

 

 

 

 

「はは、賑やかになったな。さて、このハロの名称は…三男だとアレだから別のにしなくちゃな。どうせなら兄弟の方も変えるか…」

『------』

「ん? …そうだな。シンプルにいこう。おいハロ達、3機ともこっちに来い」

「「「ハロ?」」」

「これからお前らの名称を変更する」

「「「ハロッ!」」」

 

 

 

 

 

そう新華が指示すると、ハロ達は(1号機)(2号機)(3号機)の順で整列する。

 

 

 

 

 

「まず兄弟の方から。『ハロ兄』は『ハロO(オリジン)』に変更。『ハロ弟』は『ハロα(アルパ)』で、『ハロ3号機』は『ハロF(フォビドゥン)』だ」

「「「ハロッ!」」」

「まだこれから増えるかもしれないが、取り敢えずはこれで決定だ。後はFの中に入ってるユニットFの調整だが、これは明日にやろう。3号機は勿論、Oとαは最適化とヴェーダから最新情報をダウンロード、再起動しておけ」

「「「リョウカイ、リョウカイ」」」

「さて、俺はまだこんな時間だが寝るかね。今日はいつになく疲れた…」

『------』

「あ、今日は済まなかった。サヤカが生まれてから初めての『殺し』だったろ。ショックなら一夏達みたいに俺から離れてもいいんだぞ」

『------』

「冗談だ。今更お前を手放すなんて出来ないからな。お前が無くちゃこれからMSをまた自分用に作らなきゃいかん」

『------』

「…無茶も無理もしなきゃ守れない物があるの、分かるだろ? 俺の記憶を見たなら」

『------』

「サヤカが考える事じゃないさ。それよりも…」

 

 

 

 

 

サヤカとの会話後にP・V・Fを展開する。

 

 

 

 

 

「今日はうっかりサヤカが離れた時に展開しちまったな…。察しのいい会長と一夏の事だ、絶対何か聞いてくるだろうな」

 

 

 

 

 

P・V・Fの傷は更に広がり、表面のざらつきは荒さを増していた。しかし新華は傷が眼中には無かった。

 

 

 

 

 

「さて、どう誤魔化そうか…」

『------』

「分かってるだろ、絶対に説明しちゃいけない理由があるのを。言ったら一夏の変わりにモルモットにされる。サヤカ諸共な。でもそうなったら、ソレスタルビーイングのガキ共はどうなる? 実はどうなる? 今の父さん、母さんはどうなる?」

『------』

「…分かってるなら言うな。確認でも、そんな事を想像すらしたくないんだ。でも、だからこそ俺は自分の意思で生きて責任を全うしなきゃならん。死ぬのなら、モルモットにされるのなら、全て安心出来るようにしてからだ」

『------』

「あのな、いつか言ったけど、俺はまだまだやりたい事は沢山あるし、性的な事以外をやるまでは死ぬ気は無いからな?」

『------』

「…そっとしておけ」

 

 

 

 

 

P・V・Fを解除して待機状態のサヤカをベットの上に投げて仰向けに倒れる。サヤカが人形態になって横になった新華の頭の横に腰掛ける。

 

 

 

 

 

「はぁ…IS学園に来てから、俺まで平和ボケしてたな。俺は、どう言葉を取り繕っても人殺しに変わりないのに」

『------』

「いや、結局俺はアイツらと一緒に居る事は出来ない。もうアイツらと俺の居る場所には雲泥の差があるんだ。俺が文字通り泥の、な」

『------』

「ああ…そう、なっちまうか。俺の短絡的な行動でサヤカも血で染まっちまった…」

『------』

「…後悔、か…。サヤカがしてないって言ってくれるなら有難いが。そういえば『福音』とは今話さなくていいのか?」

『------』

「…サヤカにまで心配掛けるなんて、情けないな俺は」

『------』

「はは、自覚してるから慰めはいらんよ。ほら、福音と話てこい。GN粒子も十分チャージしていたからもうやる事も無いし」

『------』

「俺? 俺は、寝る。今日の事で面倒が増えそうだからな。少しでも睡眠時間を稼いでおかねぇと」

 

 

 

 

 

そう言って新華は目を瞑る。サヤカはそんな新華が痛々しく見えて、しばらくは新華の顔を見つめていた。いくらサヤカが新華を慰めようと言葉を掛けても、新華の心には決定的な癒やしは訪れない。サヤカは新華にとって娘のようなものだと言っても、やはりISである。新華だけの為に作られたとはいえ、自我が発生したといえ、十何年も使っている(・・・・・)物である。だから、新華には届かない。新華の心に言葉を届けるには、新華が大事に思っている人間にしか出来ない。

今回の件で新華の心の崩壊は加速した。でも癒すには、まだ誰も新華を理解出来ておらず、また新華も誰も受け入れようとしなかった。

急がなければ、新華は壊れ全てを壊す。そんな危うさがサヤカには感じられていた。

 

 

 

 

 




弾がカッコよくなってる…?
アルケーのコアは新華にボコられた事で恐怖を感じて停止しました。これがISの弱点だと思います。自我があるのですからロックマンXのように『イレギュラー化』しそうだと…。そんな設定はありませんけど、自己解釈です。あれ? でもこれって新生人類的なサムシングになりかねないような…
簪はヒロインの1人です。そこは変わりませんのでご安心を。具体的には
新華>>>>>>超えられない壁(恋愛的にも実力的にも)>>>>>>一夏
です。

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